第27話 修学旅行パート2 桜子の告白~良雄君と離れたくなくって~
【前回の修学旅行あらすじ(14話、15話)】
10月に行われる修学旅行。
前回は宮城に1泊2日での旅行だったが、バスの中では観光案内の映像を視聴させられ、団体行動も工場の見学等楽しみがひとつも無いものであった。
唯一の希望は、団体行動後に事前に決めた班ごとに別れての自由時間で、田中の頼みで良雄と桜子は一緒の班になる。
だが田中は早弁をしており、それが見事あたってしまい無念の離脱。残された2人は遊園地へ行く事となる。
些細な事で喧嘩をした2人は険悪なムードの中、宿泊先へ。夜に抜け出した桜子に誘われ良雄は夜の海で仲直りをするのであった。
「私は大学生になったら男性と付き合おうと思う」
観覧車に乗って頂上付近で言われたその一言……彼女は外の景色を眺めながらそう呟く。
その時思った。
僕は彼女に釣り合っていなかったのだな、と……
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今年もこのつまらない1泊2日の修学旅行の季節がやってきた。
誰向けに行われているのかわからない工場見学、二年連続同じ宮城を舞台にするというセンスのなさ、移動中も観光案内のビデオを見せられ睡眠は許されない。
……文字にするだけでも楽しくない……こんな退屈な修学旅行を計画できた人物を"ある意味"尊敬してしまう。
唯一の救いは団体行動後に班ごとに別れ行う観光くらいか。しかしこれも前年と同じ場所で、やる意味があるのか疑問に思うし、これに我々のバイト代や親御さんが出したお金が使用されているのだから暴動が起きてもおかしくないレベルだ。
しかし四の五の言っても内容が変わるわけでもないし素直に従うしかない……皆死んだような顔を浮かべ修学旅行を楽しむ……そして班行動まで耐える……耐えた先に"自由"があるのだから───
◇
「行きましょうか良雄さん」
仙台駅でバスが止まり、ここから班ごとに別れての自由行動なのだが、皆がまだいるので桜子は"表"モードでニコニコしている。
「前回は4人1組だったけど今回は2人なんだね」
「そうですわよ。それぞれレポートを提出する時、同じ班の人のレポートを丸写しする人物が多くて問題になったのですわ。今年はその対策として2人1組なんですわよ、オホホ……」
最近、表の桜子のキャラが定まっていないと思ってはいたが今回はお嬢様か……とにかくコミュニケーションを取りにくいので、ため息を一つ付いて皆から離れる事にした。
◇
仙台駅前のアーケードを歩いているが、去年もここを通ったし新鮮味がなく、自然と会話は少なくなる。
しかし桜子はスキップするほど楽しそうにしている。その理由は、この後行く予定である場所と関係していた。
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「えっ!?去年と同じ遊園地に行きたい!?」
修学旅行1ヶ月前、同じ班になろうと事前に決めていた桜子からそんな電話があったのだ。
『だって去年行って楽しかったじゃん、今年も行こうぜ!』
「えっ、去年って観覧車の中で喧嘩した記憶が……」
『そ、それまでは楽しかっただろ!てか去年の"アレ"まだ持ってるか?』
「アレ……ああ、あの"呪いのアイテム"ね……」
彼女が言う"アレ"とは、仙台にある有名遊園地で売っていた上下セットの服で、遊園地の名前がデカデカとプリントされた青のTシャツと安っぽい素材で出来たパンツ……捨てることもあげることできずクローゼットの奥深くに封印していたが、アレを着て今年も行こうと言う事か。
「あのさ桜子、今年は別の服で……」
『却下、それじゃ』
◇
気が付けば今年も遊園地前でこの格好をしており、桜子は笑顔でこちらを見てくる。
「あはは!似合ってるよ良雄!」
「そりゃどーも……」
園内へ入ると人がたくさんいて、油断すると見失いそうになるので桜子の手をギュッと掴むと、向こうもそれに負けじと力を入れてくる……そしてこっちも……それに更に強く握る……
「痛いから!なんでそんな強く握るの!?」
「だって私良雄君と離れたくなくって~ギュッて握っちゃった、えへ♡」
上目遣いで媚びたような笑顔を浮かべているが、実際の所、思った以上に強く握られたからイラッときて握り返してきたのがわかる……その表情を見てこちらもイラッときたので無言で彼女を置きアトラクションを楽しむことにした。
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はぐれてしまったが、それぞれ色々なアトラクションに乗り楽しんでいた。
しばらくして彼女から『お化け屋敷前に集合!』とお化け屋敷を背景に笑顔の自撮りが送られてきた。そういえばお化け屋敷ダメなんじゃ……と思いながらもその場所へ。
メッセージを貰ってから歩いてすぐの場所に彼女はいたので、手を振って合図すると向こうも答えてくれた。
「桜子おまたせ。そういえばお化け屋敷大丈夫なの?」
「ああ、最近は電気も消して寝られるようになったし大丈夫かなって。それに……まぁなんでもない、早く中行こうぜ!」
彼女は自信満々にお化け屋敷の中へ入っていくのであった……
◇
「うぅ……暗いよぉ、怖いよぉ……今なんか向こう居た!!」
入る前は胸を張り入場したのだが、いざお化け屋敷特有の暗闇となるとさすがにまだ怖いそうで、僕の手を握って産まれたての子鹿のように震えている。
「桜子ビビりすぎだって」
「オ、オマエハコワクナイノカ?」
「いや、ビビりすぎて片言になってるし……だって作り物でしょ?向こうに見えたのも何かの仕掛け……」
そう目の前を指さした瞬間であった!
ギャアァァァァァ!!!!!─────
壁から大音量の女性の叫び声と血まみれの女性が下からライトアップされる。チープだがそこそこびっくりした……そして横にいる桜子を見た。
その瞬間であった!
ぎゃああああああ!!!!!!─────
お化け側の音量よりも大きな声で桜子が涙目で叫び、猛ダッシュで先に進んでしまう。
その場に取り残され、思わずお化け役の人と目が合い(お互い大変ですね)みたいな表情をとっていた……
◇
「ひっぐ……怖かっだ……ごわがっだよぉ……ひぐっ……」
お化け屋敷を出て彼女はしゃがんで号泣しているので、頭を撫でて慰めていた。
「頑張ったね、よしよし」
「うぅ……なんで……おいでぐの……!?」
「いやそっちが先に行ったんでしょうが!てか瞬足すぎてお化け側の人が困ってたよ」
「そうなんだ……ごめん、楽しくなかったよね……?」
少し落ち着いてきた桜子が涙を流して上目遣いで聞いてくるので「君と一緒ならどこでも楽しいよ」なんて少し"くさい"セリフを言うと、たちまち笑顔になり「それじゃ次は地獄だな!」と物騒な事を口にしてきた。
「あ、天国行けないの確定してるのね……」
◇
最後に夕焼けが差し込む観覧車に向かい合わせに座って、彼女は外をジッとみて軽く微笑んでいる。
「楽しかった……お前の言う通り、一緒なら何でも楽しいな」
「そうだね」
そんな彼女を見ていると不安になる事がある。僕は彼女に相応しくないのではないか、と……
彼女は容姿端麗、才色兼備……褒めるところがいくつもあるが、僕など努力しか彼女に褒められてないし、身長があるわけでも顔もいいわけではない。
彼女にはもっと素晴らしい人がいる。僕は彼女の過去におった傷を治す絆創膏のような物で、その傷が治れば捨てられる……いつの日かそう思うようになってしまい、桜子が近くにいても遠く感じる日が多くなったのだ。
そんな事を考えていると、彼女がふと呟く。
「なあ良雄、私は大学生になったら男性と付き合おうと思う」
急に言われて衝撃をうける。
「……へぇ、そうなんだ」
冷静を装い返事をするが足の震えが止まらない……
「お前は前に、私と違う大学に行っても私を支えてくれる、みたいな事言ってくれたけどその必要はない。同じ大学で彼氏を作り、その人に支えてもらおうと思ってるんだ」
今の気分は観覧車の床が自分の所だけ抜け落ちて下へ沈んでいく……そんな気分だ。
「そ、そっか。その彼と幸せになれると……」
「だからな……」
言葉を遮られ、ふと彼女を見ると、こちらの目をジッと見て少し微笑むような自信に満ちた表情をしている。
「だからな、違う大学なんか行くなよ。言いたい事わかるよな?もう一度だけ言うからな、"私は大学生になったら彼氏を作ってその人に支えてもらう"……もしお前と違う大学へ行くのなら彼氏なんていらない……」
気が付けば観覧車は頂上に辿り着いていた。
夕日に照らされた彼女を見ているとなぜか涙が溢れてくる……そっか、遠くにいた気がしたけど、ずっと近くにいてくれたんだね……
「桜子……」
「泣くなよ良雄、男だろ?」
「うん……必ず……君と同じ道を行くよ……」
いつの間にか隣に来ていた桜子に背中をさすってもらい、やっと涙が収まった頃には観覧車は下へ到着。
そして僕達は手を繋ぎ遊園地を後にするのであった……




