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第20話 サクラサク、そしてヤツガクル! ~鼈 良雄・どっちがより知ってるか杯~

 入学式……4月を迎え新入生が入学してきた。


 皆購入したばかりの制服に身を包み、鴻巣第一高校の門をくぐる。



 今年の1年生は150人ほどで前回より人数は少なくなっており、入学式で全校生徒が集まると前回のようにギチギチに席は詰められておらず、少子高齢化を嫌でも実感してしまう。


 在校生挨拶として桜子はいつも通りの凛とした生徒の模範になるような姿をしており、新入生の中には目がハートのようになって釘付けになっている生徒もいて、昔の自分も最初こんな感じに惚れて本性見たんだった……と嫌な思い出が蘇る。


 そういえば僕のラブレターは風に飛ばされどこへ行ったのだろうか……校長の退屈で長すぎる話を聞き流しながらそのような事を考えていると、何やら新入生の中からこちらをじっ……と見つめるような視線を感じ鳥肌が立った。



 ◇


 そしてしばらくして小鳥遊先輩の穴を埋めるため新入生が生徒会に入った。


 名前は(かめ) 火音(かのん)……僕の妹だ。



「お兄ちゃん会いたかったー!」


 生徒会室の扉をガラガラッ! と勢いよく開けると、火音はこちらに抱きついてきて、他の生徒会メンバーは唖然としていた。


「会いたかったって……一緒に登校してきただろ。てかお前登校してきた時は髪結んでなかったのに、いつのまにポニーテールにしたんだ?」


「さっきここに入る前にね! ロングの黒髪だと"誰かさん"と被るからイメチェン! 似合う、ねえ似合う!?」


 グイグイとこちらに迫って聞いてくるので適当に流していると、椅子に座っていた桜子が立ち上がり火音の前に手を出した。


「初めまして……ではないですが、私、生徒会長をしております月島 桜子と申します。慣れない事も多いかと思いますが、その時は力になりますので声をかけてください、よろしくお願いいたします」


 その丁寧な挨拶に「あぁ、どもー」と軽く返事をし手をバチンッと叩くように合わせると、今度は水谷さんの方へ駆け寄り、硬い握手を交わして盛り上がっている。



 これはまずい……ふと桜子を見ると、手を差し伸べたまま引きつった笑顔をしてプルプルと体を震わせ明らかに怒っており、僕と目が合うと手招きされ会長室へ呼ばれた……



 ◇


「おいお前の妹クッッッソ生意気じゃねーか! どんな教育してんだ、あぁ!?」


「落ち着いて落ち着いて……火音の事は代わりに謝るよ、ごめん。だから落ち着いて……」


 彼女が罵詈雑言を繰り返すのでなだめていると、ノックもせず扉が開いたと思ったら、火音が入室し扉をピシャッ! と勢いよく閉めると、座っている桜子へ向かって行き、机をバンッ! と叩いた。


「今まで好き勝手してくれたようね"月島"! 私が生徒会に入ったからにはお兄ちゃんは私のモノよ!」


「……上級生に対して口の利き方がなっておりませんね火音さん。とりあえず冷静に……」


「猫かぶっちゃって……アンタの本性知ってんだからね! 正体を表わせ、この"猫かぶり腹黒暴力女"!」



 火音がそう言い放つと、軽くチッ……と舌打ちし桜子が"いつもの表情"をして立ち上がり、火音の胸ぐらを掴んでガンを飛ばし、2人は目を逸らさず睨み合っていた……のをカーテンの隙間から、いつ移動したかわからないが、外から水谷さんが茂みに身を隠しながらスマホを構え、撮影しているのが見えた。


「ふっ……このままでは埒が明かんな、こうなったら勝負だ! お前が好きなのを選べ、私はなんでも受けて立つぞ!」


 とりあえず手は出さなそうだなと、胸を張って腕組みをしながら言い放つ彼女に火音は、"お兄ちゃんをどっちが知り着くしてるか"を提案、桜子は頭にハテナマークを浮かべている。


「ルールは簡単、お兄ちゃんに関する問題を出し合って答えられなかったら負け。これで勝負よ!まさか逃げないわよね?」



 この勝負はどちらが勝っても負けても僕に得はなさそうだ……そう感じていると、桜子は戸惑いながらも勝負を受けることに。


 ここに【鼈 良雄・どっちがより知ってるか杯】が開催された……



 ◇


「第1問! お兄ちゃんの今履いているブリーフの柄は何!?」


 1問目から嫌な問題だ……桜子も赤面し顔を覆っている。


「しっ、知らないけど……白……?」


 自信なさげにそう答えるとしばらく沈黙した後、チッと軽く舌打ちして正解を告げ、次に桜子の番が回ってきた。



「えっと、良雄の好きな食べ物は? ……私も知らないけど」


「簡単よ、油淋鶏ね! あとは中華全般! あ、最近だと甘い卵焼きがマイブームだって言ってたわね!」


 またも赤面しながら「……そうなの、良雄……?」と聞かれたので頷くと、更に顔が赤くなる……そして外では影に隠れながら盗撮犯が一眼レフに持ち替え、その赤面した表情を撮影していた。


 ───────


「第2問! お兄ちゃんが好きな本は成瀬シリーズですが……好きな人はだれ!?」


「えっ!? そんなの知らない……だ、誰なの良雄!?」


 もうわけがわからない……出題されてるのに本人に聞いてるし、こんなの僕が嘘をついてもわからないじゃないか……そんな事を考えていると火音は自信満々に「ぶっぶー時間切れ!」と胸を張り、満面の笑みをうかべている。


「正解は"私"こと火音ちゃんでした~!残念でしたー!」と自信満々にまた言うので、首を横に振って否定すると火音は沈黙し、僕の肩を掴みブンブンと前後に揺らして抗議してくる。


「お兄ちゃん、嘘つかなくていいの! 本当の事言ってよ!ねぇ!」


「確かにお前の事好きだけど、それはあくまで妹として好きなだけであって……」


「誤魔化さなくていいのよ!? 正直に、正直に……!」



 何回かそんなやり取りをして火音がふと窓の方を向くと、草木に紛れた水谷さんが大きく、そしてゆっくりと首を横に振る。


 そうすると変態同士でテレパシーみたいなものがあるのか知らないが何かが伝わったようで、火音は力なく僕の肩から手を離すと数秒沈黙した後、桜子を指差す。


「い、いいこと!? 今回は引き下がってやるわ。だけどお兄ちゃんが本当に好きなのは私……そう、私なの! 他の誰でもないこの私!! それを忘れないで! それじゃまた"月島会長"!」


 捨て台詞を言い妹は立ち去って行った。


 ───────


 沈黙とカーテンから漏れる陽の光、呆然とし立ち尽くす僕ら、いつの間にか消えていた盗撮犯、そして火音から挨拶もされる事なく無視された鷲尾君……


 今日は凄い一日だった、そう言い表す他なかった。

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