外伝4(特別編).惑星(plANeT♪☆♡)へと繋がる道
高校生になりバイトを始め、お小遣いにも余裕が出来たので、秋葉原へ”お兄ちゃん監視用カメラ”を新調するため足を運んだのだが、その途中小柄で学生の制服を身にまとった子がいた。
後ろ姿だけ見えていたのだが確実に顔面偏差値は高いと予想できるほどで、背中まで伸びた赤い髪は作り物だったが下に着ている制服とマッチしており、スカートから伸びる脚は細すぎず健康的な美脚で、腕も白のロングのグローブを着用しているが露出している二の腕は白く美しささえ感じた。
何か既視感を感じスマホでSNSサイトのYutterで"MARS♪"のプロフィール画像と目の前にいる彼女のシルエットを見比べ確信する。"彼"はコスプレイヤーのMARS♪だと。
お兄ちゃんが前に部屋で見ていたのを、プレゼントした人形に仕込んだカメラで確認したのが彼を知った最初だった。
彼は男性ながら小柄な体型と女性のような容姿を併せ持ち、更に声まで女性のようで一部界隈で人気があり、私も例外ではなく彼の虜になり、いつか撮影会にも参加したいと思っていたのだ。
これは僥倖か、いてもたってもいられず彼に声を掛け顔を確認するとMARS♪とは化粧の仕方が違う。
MARS♪はもうちょい目元をキリッとし小悪魔系のメイクをしているが、目の前の彼女は正統派という感じのメイクで別人では?と疑問を持ちながらも、確認すると彼女は自分を"悠亜"と名乗り、今してるコスプレもMARS♪に憧れて自分もしているだけでYutterでは"Mars♪"として活動しているそうだ。
人違いで少しショックを受け帰宅しようとした時、彼女からある"お願い"をされた。
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「はーい! 地元密着型非公認アイドル【plANeT♪☆♡】でーす♪ 今日は埼玉と言ったらやっぱりこれ☆【十万石まんじゅう】を食べてレポートしていきたいと思いまーす♪ 今日もみんなのハートにBIGBANG! させちゃうぞ♡」
彼女がウインクし決めポーズをとったのでスマホの録画停止ボタンを押し、先程の映像を確認してもらうと「バッチリだよ♪」とアイドルスマイルをこちらに向けてくれた。
悠亜さんはお祭りでステージを行うそうで、他の人達とユニット【plANeT♪☆♡】を結成しており、本番を迎える前に少しでも知名度をあげようと色々なコスプレをして埼玉に縁のあるのお土産や飲食店を巡っては画像や動画を撮ってYutterに上げているそうだ。
先程お願いされた件とは女性ならではの感性で動画撮影してもらいたいというのと、私が動画編集を少し出来ると伝えると、その力を借りたいと言われ現在彼女を撮影しているのだ。
普段使用している動画アプリを彼女のスマホに入れ、字幕やエフェクトなど入れて試しに彼女に見せると目を輝かせて感動していた。
「ありがとう! えっと……火音ちゃんだよね?プロが編集したみたいで凄い仕上がりだよ♪ 私達女の子のファンとか協力者いないから君みたいな可愛くて頼りになる子いると頼もしい♡ ……ってこれ聞いたら”プロデューサー”絶対怒るだろうなぁ……」
どこの事務所にも所属していないのにプロデューサーがいるのかと驚いていたが、バイト先である駄菓子屋の人の妹さんが彼女達をサポートしてプロデューサー的な業務を請け負っているらしい。
「【plANeT♪☆♡】さんって何人グループなんですか?」
店の中で買い物しながら彼女に質問すると、指で"3"と表すと店員さんがバラで3個購入すると思いそれを袋に入れていたが、彼女は気が付いておらず会計を済ませたのでちょっと抜けた人だなという印象をうけた。
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「あれ、3つ入ってる!1個だけだと思ったら……まあいいか♪お礼は別の所で……と思ってたけど残り2つは火音ちゃんへプレゼント♪私の想い受け取って♡」
店の前のベンチに座り、レジ袋に入れられたそれを満面の笑みで台詞付きで渡されたが、半分嬉しく半分ちょっとウザいなと感じながら受け取り、引き続き彼女の食レポを撮影する事に。
「みんな見て見てー♪ 正面に"十万石"って書いてある! 意味は江戸時代の藩……つまり領地がどれだけ凄いか表す数値で十万って言ったら凄い! って意味だよ☆それじゃいただきまーす! ぱくっ♡ ……ん! あんこがぎっしり入ってて外はもちもち~♪」
撮っていて改めて感じるのだが、外見は申し分ないが媚びすぎて少しウザい感じがやはりする。
しかし世の男共はバカなもので、先程と同じく編集しネットへあげると『Mars♪たん可愛いー!』『Mars♪は俺の嫁』『アーンしてあげたくなる』など、まだ数はそれほどいない男性フォロワーからコメントがバンバン来ていた。
「男ウケくらいした方いいんでしょうか?」
これを見ているとお兄ちゃんもこれくらいあざとくされた方が嬉しいのでは?と感じ不安になって少しだけ暗い表情をしてしまっていると、「好きな人いるの?」と彼女が私の目をまっすぐと見て質問してくるので照れ隠しに「別に……」とまんじゅうの封を開け食べ始める。
「ふふっ、火音ちゃんってわかりやすいね♪ 誰が好きかはわからないけど、火音ちゃんには火音ちゃんのいい所があるはずだよ? 私は今日会ったばかりで深くは君の事知らないけど、動画編集して相手を可愛く見せれるって事は相手の長所とか理解して、それを生かせるところとか私は凄いって感心するし好きだよ♡」
確かにどう頑張っても悠亜さんみたいに可愛くは出来ないし、仮に出来たとしても彼女には劣るだろう。
ならば人より秀でた部分を活かしていけば、それが私自身の"魅力"になるのではないか……自然とそう思えてならなかった。
「アイドルって見てる人に元気を与えるのが仕事ってどこかで見た事ありますけど……悠亜さんと一緒にいると楽しくなれて元気になれるような気がします。
だから"Mars♪"さんは立派なアイドルで、今は駆け出しで有名ではないかもしれないですけど、いつかこの埼玉を代表するようなアイドルになる気がします……いやなりますよ!」
私が自信満々に語っていると「ありがとう!」と笑みを浮かべその目にはうっすら涙が浮かんでいた。
「嬉しい……そんな事言われたの初めて! 『他のアイドルの方が可愛い』とか『すぐ辞めそう』とか言われてキズついた時もあったけど……火音ちゃんみたいな"ファン"がいるなら私、いつまでも頑張れるよ!」
いつの間にかファン認定されていたが、さっきまで彼女に抱いていた負の気持ちが消え、いつの間にか好きに……つまり"ファン"になっていたので、否定せず何時でも力になれるよう私の連絡先を教え、本名が彼女のスマホに表示されると悠亜さんが硬直していた。
「鼈……もしかして……お兄さんとかいたり……?」
「よく分かりますね。良雄っていうカッコよくて優しくて頼りになって勉強も最近出来てきて、まだ彼女はいないけどもうすぐ"私"という彼女ができる予定で……」
話しの途中だったが「用事思い出した!お礼はまた今度!」と彼女は急いで立ち上がると、私に小さいカバンから取り出した紙を渡すとどこかへ走り去ってしまった。
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取り残された私はしばらく呆然としていたが、紙を開いて見ると【第59回 鴻巣市民まつり】と大きく印字されており、そのポスターに書いてあるプログラムの閉会式前に"plANeT♪☆♡ライブ"と表記されていた。
彼女が言っていたのはこれかと納得した。
今が7月に入ったばかりだから本番の8月末まで約2ヶ月……Mars♪さんがどれだけ有名になり、どんなライブをしてくれるのか"1ファン"としては気になるところだ。
お兄ちゃんにも"plANeT♪☆♡"の事を薦めて一緒に見に行こうと誘おう。
そう心に決め、手土産のまんじゅうを持って帰路に着くのだった。
【最新作予告】
地元の高校を卒業し実家の駄菓子屋を継いだ"女装が趣味"の小鳥遊 悠斗は、中学校で【第59回 鴻巣市民まつり】イベントスタッフの一員に抜擢された妹の水樹から"女性"枠としてお祭りのイベントに参加して欲しいと要請される。
それから2人の"おとこの娘"をメンバーに加え、【plANeT♪☆♡】を結成し本番へ向け練習をしていくのであった。
そんなplANeT♪☆♡に課せられた条件…それは家族以外に男とバレてはいけない事!(例外あり)
果たして"彼女達"は無事ステージに上がりライブを成功させられるのか!?
【女装×アイドル】ここに誕生!
《地元密着型非公認(女装)アイドル【plANeT♪☆♡】~完璧美少女、月島さんスピンオフ~》
コメディ要素多めの作品となっておりますので乞うご期待!




