第16話 文化祭で愛の告白!彼女の答えと加減方式~桜子、僕と付き合ってくれ!~
修学旅行が終わり文化祭へ。
鴻巣第一高校の文化祭は一般公開はされず1日のみ、保護者や卒業生が見に来るだけでクラスでの出し物は小規模な物ばかりでこれならやらない方がいいのでは?と意見が出るほど盛り上がりに欠けている。
しかし体育館で行われる企画だけは違う。そこでは生徒達の漫才やバンド演奏などで盛り上がり、ミスコンやミスターコン、更には今年から"女装コンテスト"も開設される事になった。
そしてここで行われる"告白コーナー"、これが1番盛り上がるのだ。
告白したい人は手をあげ告白したい人を指名し告白する。無論相手には内緒で行われるので相手の反応や告白の成否で盛り上がりを見せているのだ。
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体育館脇で鷲尾君とそんな話をしていると小鳥遊さんがこちらに来て手伝うよう指示してきた。
文化祭は実行委員がおらず生徒会が準備等をしなければならない。そのためここ数日は遅くまで体育館に篭もり飾り付けなどをしていたのだ。
「小鳥遊先輩すいません、すぐ行きます」
立ち上がって皆が座るためのパイプ椅子を3人で並べていると鷲尾君が何か思い出したようで小鳥遊先輩に質問していた。
「そういえば小鳥遊先輩"女装コン"出るってマジっスか!?」
「ああ……優勝するとプロ野球の観戦チケットが貰えるらしく会長から頼まれてね……」
「頑張ってください!……でもなんで先輩なんスかね?」
小鳥遊先輩が少し焦っているようにも見えたが、小柄で童顔の先輩が女装したら案外似合いそうだなと想像しながら文化祭の準備を続けていた。
◇
そんなある日の事、月島さんと鳳君が廊下や下校時など仲良く話しているのを目撃する事が多くなった気がする。
鳳君は前回の異性からの好感度ランキング3位の実力派で、早い話"月島さん(表)"の男性版と言えば良いのだろうか、とりあえずその2人が話している姿を見ると美男美女でお似合いだなと正直思ってしまう。
そしてどこ情報だかわからないが、噂によると2人は付き合っていて将来を約束した仲だ、と耳にした事がある。それを裏付ける証拠等はないのだが言いようのない不安が押し寄せてくる。こんな気持ちになったのは田中君が月島さんにラブレターを渡した時に似ている。いや、あるいはそれ以上か……
月島さんに直接聞けばいいのだろうがデリケートな問題故聞くに聞けない、いや聞く勇気がないだけ……そして本人に鳳君との関係を聞けないまま文化祭当日を迎えた。
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当日の学校前は保護者の人達や卒業生で混みあっており、受付は1年生コンビ2人で、水谷さんが手際よく人を捌いていたが、鷲尾君は関係者かどうかの確認に手間取っていて時折水谷さんに手伝ってもらっていた。
受付は2人に任せるとして体育館へ向かうと月島さんが生徒会全員が座るため用意された長テーブルの【生徒会長】の看板が表記されている席に座っていたのでその隣に座る。
「おはよう、人結構いるね。そういえば小鳥遊先輩は?」
「ああ、教室で着替えているそうだ。女装コン……悪いが生徒会が貰ったようなもんだな」
そう答える彼女は自信満々でニコニコしていた。
「凄い自信だね、勝算あるの?」
「ある。前に街で……じゃない、さっき女装してる所チラッと見てきたんだがめっちゃ可愛かったぞ」
「そっか、本番楽しみだね。もう少しで文化祭始まるから見回りと皆の様子見てくるね」
「おう、任せたぞ"良雄君"」
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そして開始を告げる放送がなり文化祭はスタートし、それぞれ自分の思い入れのある場所や自分の子供達が企画している出し物へ向かい盛り上がっていた。
そんな様子を見回りのついでに確認していると廊下で前から来た可愛い子に声をかけられる。
「やっほー☆良雄君調子どう?」
「えっどなたですか……?」
「わからない?小鳥遊だよー♪似合ってるー?」
金髪のウィッグをつけて黒のゴスロリ衣装を着用した人は小鳥遊先輩で、月島さんが太鼓判を押すのも納得の出来で人形みたいな可愛さだ。
「めっちゃ可愛いです! SNSサイトで話題になってるMARS♪さんにそっくりです!」
「え、えへへー♪ 嬉しいなぁ♡ それじゃお仕事頑張ってねー♡」
軽く手を振り立ち去っていく先輩からいい匂いがする……本当に女の子なのではと思ってしまうほどであった。
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大きな問題もなく保護者や卒業生達の見学時間が終わり体育館でのイベントの時間がやってきた。
僕達は体育館横に用意してある所定の場所に並んで座り、水谷さんが司会で企画の開始をアナウンスすると生徒達から歓声と拍手があがる。
最初は部活の発表でダンス部の演技。その発表では黄色い声援が飛び交い、毎年のように全国へ行く吹奏楽の演奏では皆聞き入っており生徒達のテンションも上がっていった。
そして事前に参加表明した生徒達の発表へと移り、漫才やバンドなどが披露され笑いや拍手などが飛び交いまたも盛り上がる結果になり、次はミスコンとミスターコンなのだが今更になり、気が付いた事があるので隣に座っている月島さんへ聞いてみた。
「そういえばミスコン出ないの?」
「ああ、クラスの皆が出そうとしたんだが出ると優勝してしまうからと審査員を務める子から"出禁"を言い渡されたよ」
「そうなんだ。ま、月島さん美人だしね」
「!? ……うっさいボケ!」
脇腹を「うっ」と不意に声が出てしまうほど強く指で押され彼女の顔は赤くなっている。
そして僕のもう片方の隣にいる水谷さんも深く頷きながら月島さんがどれだけ美人で聡明なのかをベラベラと語っていたので、それを聞いていた生徒会の皆は困惑し鷲尾君ですら引いていた。
「ミスコンは5人だけなんだね月島さん、もっといるかと思ったよ」
「審査が厳しいみたいでな。ミスターコンはそれほどじゃないみたいだがミスコンはレベルが高いみたいで厳選しまくってこうなったみたいだな。てか私は断られたが水谷は出なかったのか?お前なら優勝できるかもしれないのに」
「私は表に出るとかそう言うのは……影でこっそりとかそっちの方似合いますから……ってあれ、ミスコンに鷲尾君の彼女が……」
「彼女って……事実だけど、なんやかんやあって出たみたいだな。昨日とかメールで『緊張するけど応援してね』って来てたから……」
その言葉を聞き皆で『お熱いね~』みたいな目線を鷲尾君へ送ると少し恥ずかしそうにしていたが、彼女の番が回ってくると「頑張れー!すげー可愛いぞー!」と誰よりも声を張り上げ応援し、それを聞いた木下さんは恥ずかしそうにはにかみながらも彼に軽く手を振って答えている。
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優勝は木下さんで鷲尾君は皆が引くほど喜んでおり、席を立って勝手にステージの上に上がりこんで彼女を祝福すると会場からヒューヒューと茶化す音などが鳴らされ僕達もそれを見て拍手していた。
そしてミスターコンはミスコンに比べ盛り上がりに欠けていたが鳳君が優勝。こんな出来レースやらなくてもいいのでは?と皆も思っていたようでこれなら来年から時間を削りミスコンや女装の方へ時間を割いた方がいいと思うくらいだ。
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ミスターコンの次は"女装コン"。審査員から名前を呼ばれたらステージ脇から登場し何かアピールするという形式で、参加人数は初回で女装というハードル故、3人しかいなかった。
最初は新聞部の戌亥先輩だ。戌亥先輩は背が高い方で顔立ちも男性ぽいので女子の制服を着て軽くメイクはしていたがどこからどう見ても男性という感じであまり可愛いくはなかったが、生徒達ならず先生達も笑ったり「可愛い!」など声援があり盛り上がりを見せていた。
「次は誰だろう……って田中君!?」
田中君の名前がコールされびっくりしてしまい声をあげてしまう。
「田中って誰だ?」
「いや月島さん告白もされたし修学旅行も班一緒だったじゃん……」
そんな悲しいやりとりが影で行われるとも知らずに田中君が登場、その姿は誰かの私服を借りたのか白のロングワンピースを着て恥ずかしそうにしており少しだけだけど可愛い、と不覚にも思ってしまう出来で皆からも「可愛い!」と声援が飛ぶと言うより「あんな可愛い子いたっけ?」みたいな反応でザワザワしていた。
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そして最後の3人目がコールされる。
「最後の3人目、『絶対優勝いただきます!そしてあなたのハートもいただきます♡』とメッセージをくれたこの方、3年生の小鳥遊 悠斗さん改め"EARTH♪"ちゃんだー!」
そう紹介されるとステージ脇から黒のゴスロリ衣装を着た先輩が手を挙げ満面の笑みで登場した。
その姿は女の子にしか見えず、所作もそうだが声も男性の低さなど感じられないほどで会場はどよめいている。
「みんなこんにちはー☆ みんなのアイドル、”EARTH♪”でーす! ”あーちゃん”とか”アースたん”とか好きに呼んでね♡ 私生徒会に入ってて、会長さんから出て欲しい! って言われた時は戸惑っちゃった……でも出るなら優勝したい! そう思って今日は来ました! えへへ♡」
「す、すげぇ……あれが小鳥遊先輩だなんて……女の私でも可愛いと思って一瞬心奪われてしまった……」
滅多に他人を褒めない月島さんも驚いた表情を浮かべ、彼……彼女を見ている。
そしてアピールタイムに入り先輩が作詞作曲したオリジナル曲が流れEARTH♪ちゃんは歌いながらダンスまで披露していた。
「す、すげぇ……あれが小鳥遊先輩だなんて……すげぇ……すげぇ……」
あまりの完成度に月島さんは語彙力を無くし、生徒会の皆も曲に合わせ各自用意したペンライトを振って応援していた。
「声援ありがとー♪みんなの心ゲットしちゃった♡それではEARTH♪に投票よろしくねー♡」
最後まで完璧に演じ優勝は満票一致でアー……小鳥遊先輩に決まり先輩も嬉しくてぴょんぴょん跳ねている。そして今更気が付いたのだが、体育館脇で先生の隣に数名ここの制服ではない人たちがいた。
あれは確か中学校の制服で特別に見学を許されたのであろうか、彼らの小鳥遊先輩へ向けるまなざしは何か熱いものを感じてしまう。
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「はい会長☆ 優勝商品の野球観戦チケットだよ♪」
「あ、ありがとうございます……その、先輩もう女装コン終わったんで着替えてきていいですよ……」
「文化祭終わるまでEARTH♪としているからこのままでいるね♡ えへへ♡」
会長へそう伝え自分の名前が書かれてある席に小鳥遊先輩が座ると、隣にいた鷲尾君が「めっちゃ可愛いっス」と連呼しており遠くの方から木下さんからの冷たい目線が飛んでいたのを覚えている。
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そして最後の告白タイム、司会の水谷さんが「この中で誰かに想いを伝えたい人はいますか?」とアナウンスすると数十名挙手しており、その中に鳳君も……田中君もいた。
「好きです!」「私も好きでした!」
カップルが成立する中、月島さんは何人もの人から告白されてはキッパリとお断りの言葉を返し田中君も撃沈していた。
そして最後に本命とも言われる鳳君が残され水谷さんから名前を呼ばれるとその場に立ち上がりマイクを受け取る。
「えー、僕が想いを寄せているのは"月島 桜子"さんです」
名前を呼ばれ月島さんは立ち上がる。
「月島さん、僕は入学してからあなたに惚れていました、一目惚れと言うやつです。2年で同じクラスになってチャンスだと思った僕はあなたへ積極的に話しかけに行き、あなたのその笑顔を見る度もっと好意を寄せるようになっていきました。ですので"桜子"、僕と付き合ってくれ!」
黄色い歓声が上がり皆が月島さんの方を向いて返事を待っていた。
隣にいた僕はこれで美男美女カップルが噂止まりではなく正式に決まる……そう思っていたが現実は違った。
「ごめんなさい、私その気持ちにはお答えする事はできません」
皆……先生さえも困惑しガヤガヤと色々な会話が飛び交う中で月島さんは続けた。
「私には好き……今はなんと言っていいかわかりませんが別に気になる人がいます。その人は鳳君みたいにイケメンでも運動神経や”今は”勉強を出来る人ではありません……ですが、その人から想いを告げられたらいつでも答えられるようにしたい。それがイエスでもノーでも返事をしたい……そう思っているので今は誰とも付き合う気はないのです、本当にごめんなさい」
一礼し席に座る月島さんは真っ直ぐどこかを見つめている。まさか断るとは……隣にいた僕も含めて予想していなかった結末にこれまで盛り上がりを見せていた文化祭は困惑や戸惑いなど残したまま閉幕した。
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生徒達が帰り、会場の後片付けを先生と生徒会の皆でしている時、用具室で1人荷物を片付けていた月島さんに告白の件を聞いてみることにした。
「月島さんがまさか告白断るとは思わなかったよ」
「あれか、私は彼を"減点方式"で見てしまったから断ったんだよ 」
「減点方式……?」
「ああ、減点方式は満点から点数を引いていく事だ。あいつはイケメンとかでスタートの点は良かったんだが、ある時道端にポイ捨てした所を見てしまってな……それで断った」
「それだけで断ったの?」
「口より手を動かせ」
彼女に怒られ片付けをしながら話を続けた。
「不良とか普段悪いやつが野良猫とかに餌やってたりするの見るとこいつ良い奴だなと思う事あるだろ?あれってマイナスだったのが1ついい事をしてプラス域まで印象が良くなって、逆に普段真面目なやつが悪さするとこいつ悪い奴だったのかとなる。まとめるとあいつともし付き合ったら悪い所が見えて嫌いになっていくと私は考えて断ったんだ」
「そうなんだ……それで月島さんが気になってる人はマイナススタートでいい所が見えていったって事?」
「そうだな。普段はどうしようもない、最初見た時は某漫画に出てくるモヒカンの雑魚ぐらいのどうでもいい奴みたいな印象だったな。でも色々あっていい所も見えてきて、いつの間にかそいつの事考える時間が増えてな……まあそんな感じ」
「その人って誰なの?」
僕のその質問には彼女は答えず黙々と作業をしていたので僕も黙って作業する事にした。
「……なあ、前に約束したテスト、必ず目標点まで取れよ」
「……うん……」
忘れかけていたテストの事を思い出し憂鬱になる。
そして翌日からテストへ向けての対策が始まるのであった。




