第15話 修学旅行(後編)ホントウノキモチ~【子き】~
前回のあらすじ
~宮城へ1泊2日の修学旅行に行くことになった良雄達。月島と2人で遊園地で良いムードになるが、ひょんな事から喧嘩をしてしまう~
宿泊場所は海の近くにある木造の民宿で部屋数は4部屋ほどで、ここに僕達と別の班も合わせた10人ほどで宿泊する事になっている。
同室は体調がすっかり良くなっていた田中君で、月島さんの同室は天内さん。
宿についた後、部屋に荷物を置いて学校指定のジャージへ着替え露天風呂へ。
結構広く雰囲気がありとてもいい所だ。男子達は隣の女湯を覗こうと計画していたりワイワイ騒いだりしているが僕はそんな気持ちにはなれなかった。
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観覧車で月島さんと喧嘩してから楽しい気持ちになれない。
でも僕から謝ったりしたくない、正直な気持ちを伝えてくれない彼女が悪いのであって、こちらは少しも悪くないからだ。謝るなら彼女から、そう思いながら露天風呂に浸かり女湯の方をチラッと見る。
向こうで月島さんはどんな気持ちで入浴しているのか、僕と同じ気持ちでいるのかなと少し考えてしまう。
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風呂の後は大広間で夕食。海産物が多く、沈んでいたテンションも少し上がって隣にいた田中君と談笑しながら食事していると端の方で食事している彼女が視界に入る。
無表情で静かに食事している所を見ると僕が悪い事をしたように思えてならない。悪いのは向こう、また心の中でそう割り切り食事を再開する。
夕食を済ませ部屋に戻ると窓から月明かりが差し込んでおり、そこから海岸が見えて絶景だが、潮風とかで住むには少し不便かなと邪心してしまう。
海無し県に住む者の性なのか、海を見て同室の彼ははしゃいでいる。しかし僕は同じように思えない、さっさと寝て気分をリセットしようと用意した布団に入ると田中君は民宿で用意してくれている茶色の浴衣に着替えていた。
「それに着替えていいの?」
「いいんじゃないの。先生と一緒の所泊ってる班あるみたいだけど、こっちはいないし自由にしようぜ」
「そう……僕はこのままでいいかな。そういえば今何時?」
「夜の10時……良雄君、そろそろ寝る?」
もうそんな時間か、外を見ると部屋に入った時よりも若干暗くなっており、はしゃいでいた田中君も僕の横に用意した布団に入るとすぐ就寝した。僕はなかなか寝付けず布団に入りながら窓の外の景色をなんとなく見つめていた……その時だった。
窓の左側から女性の顔がこちらを覗いていた。一瞬声が出そうになったが覗いてきた人が人差し指を口にあて『しーっ』とジェスチャーしていたので口に手を当て『うんうん』と頷くと今度は『こい』と手招きしていた。
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部屋を無断で抜け出すのは禁止行為だったが僕は月島さんに呼び出され浜辺へ。彼女は田中君と同じ旅館が用意していた浴衣姿で立って波打ち際におり、僕は座って彼女を見ている。
月明かりに照らされたその姿は凄く絵になる……思わず写真を撮ってしまいたくなるくらいだ。
しばらくお互い何も話さなかったが、ウロウロしながら彼女が「……面白くない」と独り言のように呟いたので何が面白くないのか聞き返すとまた波打ち際を行ったり来たりしながら答えてくれた。
「露天風呂も凄く良かったし夕食も美味しかった。でも面白くないし楽しくなかった……お前はどうだった?」
「……僕もそう……てかもう話さないんじゃなかったの?部屋も抜け出してきて浴衣まで着てルール違反してるし……それでも生徒会長なの?」
「うるさいなー!部屋は天内が彼氏連れ込んでイチャイチャしてて気まずくて、それにここまで来て学校指定のジャージで寝るとか……浴衣用意してくれてるなら着たくなるだろ!……それとも似合ってない……?」
「……似合ってる、凄く綺麗」
「良かった……ね、遊園地での事ごめんね。私正直になれなくて……前嫌な事あったら言えって私から言ったのに良雄君がいざ嫌って言ったら怒ったりして本当にごめん。それだけ言いたくて部屋抜け出しちゃった」
立ち止まり、今度は海を見ながら謝罪された。
謝るだけならメールとかでもいいのにと思ってしまうが直接来てくれて嬉しかったのは正直な所あった。
「こっちこそ変に怒ったりしてごめん。なんかいい感じだったのに茶化されてイラッときたんだよね……本当は僕の事どう思ってるの?」
「……内緒。厳密に言えばわからないってのが正しいのかも。一言で表せない感じ……」
「嫌われてないならいいかな」
「うん、嫌いになるはずないよ……話は変わるけど良雄君は将来の夢とかある?」
こちらを向きながらどこかで拾った木の棒を手に取り何か砂浜へ書きながら質問された。
「明確にこれになりたい!みたいなのはないけどあるにはあるよ、月島さんは?」
「あるよ。でも言わない……言ったら笑われるから」
「笑わないよ、言ってみてよ」
「どうしても聞きたい?」
「うん、聞きたい」
「……じゃ条件がある。文化祭からしばらくした後テストあるけどそれで五教科合計400点を取る事!これが条件」
僕は勉強が苦手でいつも赤点ギリギリ、最高でも300点いかないくらいなのにそんなの無理だ……諦めようとした時彼女は真剣な顔になり時間が許す限り僕に勉強を教えてくれると提案してくれた。
普段生徒会長の業務や学校生活でも忙しいのにバイトもして、それに加えて僕に勉強を教えるなんて負担が大きすぎるのではと思っていると「お前なら出来る」と声を掛けてくれた。
「月島さん忙しいから僕に構う時間なんて……」
「作ればいいだけだ、それに自分じゃ気が付いてないだろうけどお前にはいい所もある。だからやってみないか?」
「……わかった、やってみるよ。もし目標点数取れなかったら罰とかある?」
「ないよ。お前なら出来るって信じてるから」
◇
彼女と話して時間が経つのを忘れていたがもう日付が変わっていた。それを伝えると最後に写真を撮ってくれとお願いされた。
僕のスマホの方が新しく綺麗に写真を撮れるからと言う理由で僕が撮る事になり、海をバックに撮影ボタンを押そうとした時彼女から「待て!」と言われた。
「どうせなら2人並んで撮ろうぜ!」
「いいの?」
「うん、暗くなってきて怖いから傍にいてほしいし……とにかく! こっち来いよー!」
立ち上がり、波打ち際の彼女の左側に立ちシャッターを押した。スマホの画面には海をバックに笑顔で映る2人がスマホの画面に表示されていた。
これで満足したのか月島さんは部屋に戻ろうと提案してきたので、僕も戻ろうとした時ある事に気が付いた。
撮った写真、2人の足元に月島さんが書いたであろう文字が写っていた。ハッキリと見えず波で文字の一部が消えていて、読めたのは【子き】という文字で子の漢字の隣には月島さんがいる。
なんて書いてあるか解読しようとしていたら早く戻るよう急かされたので急いで部屋に戻る事にした。
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翌日になり皆を乗せたバスは学校へと向かっていた。
ほとんどの生徒が疲れからか熟睡しており、隣にいる田中君も眠っていたので前日撮影した画像を月島さんへ送信すると、メッセージを確認したことを表す【既読】が付いた。
月島さんは離れた席にいて直接聞けなかったのでメッセージで【下にある文字ってなんて書いてあるの?】と質問すると、既読マークはついたものの返事はない。
果たしてこの文字が意味するものとはいったい……小さな謎が残る中、バスは無事学校へ到着し修学旅行は終わりを告げた。




