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第14話 修学旅行(前編)デートの後は…絶交!?~もう月島さんとは話したくない!~

 気温も落ち着きを見せてきた10月、学生なら大体の人が待ち望んでいるであろう修学旅行の季節がやってきた。


 我々2年生が向かうのは宮城県で期間は1泊2日、バスで様々な観光地を周る予定なのだが、ここの学校はお固く観光とは言っても楽しさ要素をマイナスしたようなもので、行った先々で感想ならレポートみたいなものを書かされたり、興味の無い工場などを見学したりと生徒達から不評なのだ。



 自由があるとすれば団体行動後にある自由行動。いくつかの班に別れ好きな場所を巡り、泊まる場所も彼らと同じ場所に泊まれるので大体は仲良しグループで固まるのが多いのだが、僕と自由行動を共にする事になった後ろの席の田中君はそうしたくないらしい。


「なあ頼むよ、自由行動どうしても月島さんと同じ班になりたいんだ! お願い!」


「いいけど月島さん別のクラスだし他の人と行動するって決めてるんじゃない? てか月島さんの事諦めてなかったんだね」


「もちろん! ラブレター渡した後は返事無いけどまだ脈アリだと思ってる。だからお願いだ、彼女へ一緒に行動できるよう頼んできてくれ!」



 田中君のラブレターは粉々になって風に乗せられどこか遠くへ行ったのに……本人には言わないようにしダメ元で月島さんのクラスへ行くと、彼女の周りには何人もの人がおり、皆修学旅行で自分と行動を共にしないかと誘っていたのだ。


 これは無理かと思いながらも教室の外で待って、彼女が出て来たのを見計らい話しかけた。


「月島さん、修学旅行での自由行動の時なんだけど一緒の班になってくれない?」


「よろしいですよ、楽しみにしております」


 あっさり了承をもらえ、しばらく呆然としてどこかへ向かう月島さんを見つめていたが、とりあえずこれで目的は達成した。田中君に報告したら引くほど喜ばれたのを覚えている。



 ◇


 そして旅行当日、学校前に制服で皆集まりバスへ乗車した。


 この修学旅行期間中は私服は許されず、制服と寝る時は学校指定のジャージ、そして2日目も予備で渡されている2着目の制服を着て帰ると言う服をチョイスする楽しみさえ奪われているのだ。


 そしてバスの中では騒ぐ事は禁止、前方にあるテレビに映し出される宮城の歴史などを見せられる。途中サービスエリアで休憩後は宮城にゆかりのある人達の曲を流されるのだが全て古い。"青葉城恋唄"など何時ぶりに聞いた事か……



 そしてバスは飲料関係の工場、お寺などを周りそこで担当者の方からありがたーい話を聞かされ各自感想文とちゃんと聞いていたかの小テストみたいなものをやらされ、得点が低いと自由行動が減らされると言う"地獄の修学旅行"が展開されていた。


 2年生皆の表情が死んでいる……修学旅行は勉強の為にあるのだからこの形が正解なのだろうが、わざわざ県外まで来てやる事なのかとは少し疑問に思う所ではある。


 しかしこの地獄を皆耐えた、その後にある"天国"を体験するために。



 ◇


 バスは仙台駅に止まり、これから各自事前に決められた班に別れ行動することに。


 僕の班は男子の田中君、女子は月島さんと席が近いからと言う理由で先生から一緒にさせられたギャルの天内(あまない)さんの4人で行動する事になった。



 そしてこの4人で仙台駅周辺を適当に歩き気になった所を写真に収め、ここは歴史のある~など適当に書くのが目的だったのだが、班に別れて早々に天内さんがスマホで誰かと話していると思ったら、別の班になっているはずのチャラい男子生徒が来た。


「月島さんごめーん!彼ピが一緒いたーいって言うから彼ピと2人でまわるねー!宿泊先へは時間までには着くから、じゃねー☆」


 月島さんが口を挟む暇なくそう言い残すと彼らはどこかへ消えていった。



 残すは田中君だが彼の様子がおかしい、どうやらバスの中で隠れて食べたおにぎりが当たったようで先生と宿泊先に一足早く運ばれて行った。その時の田中君の表情は腹痛と月島さんと居られなくなる事のダブルパンチで絶望していたのを僕は忘れないだろう。



「全く……結局こうなるのか……」


 ため息をついてやれやれとした態度を月島さんがとっていたので少し頭に来て言い返すことにした。


「僕と一緒だと嫌なんだね。僕だって田中君に頼まれたから"仕方なく"こうして一緒にまわって"あげよう"としてるのに」


「なんだと!? お前如きが私と一緒にいられるんだから少しは感謝しろよな!全くお前は最近反抗的になりやがって可愛くない!そういえば前あったあれ……」


「うるさいな !いつまでも言われっぱなしじゃないし、その時だって月島さんが~……」



 ──────────────


 ───────


 歩きながらこんな中身のない小競り合いを続けていると結構歩いてしまっていて、気が付けば仙台では有名な遊園地前に着いていた。


「……ここ遊園地だよな。てかどれくらい歩いた?」


「約1時間だね」


「いや歩きすぎだろ! もう疲れた~」


「僕も疲れたよ……ね、休憩がてら遊園地の中見ていかない?」


「いやいや無理だろ、自由行動の中ではこういった娯楽施設は禁止されてるし第一制服じゃ目立つだろ」


「んじゃあれどう?」



 僕は遊園地の売店で売られてあったオリジナルの上下セットの服を指さし、あれに着替えれば目立たないのではと提案したが月島さんは少し嫌そうにしている。


 入るのが嫌ではなくデザインが絶妙にダサいのだ。その証拠としてこれでもかとその服の在庫が重ねられていた。


 少しの間月島さんは考えていたようだが小さくため息をつき「仕方ない」と呟き一緒に売店へと向かうのだった。



 ◇


「よく似合ってるよ月島さん」


「そりゃどーも……」


 胸の所に遊園地の名前がデカデカとプリントされた青のTシャツと安っぽいパンツにトイレで着替えた僕達は互いの格好を見て複雑な気持ちになった。


 本当に言葉にしにくい感じのダサさがそうさせるのであろう。



 何はともあれ2人で遊園地内へ。中はそこそこ人がいてアトラクションにはすぐ乗れそうだった。


「ルール違反を犯して遊園地に来てしまうとは生徒会長失格だな……」


「まあまあ、来ちゃったものはしょうがないし楽しもうよ」


「お前なぁ……しゃーない、最初ジェットコースター乗ろうぜ!」


 彼女も乗り気になりジェットコースターなど色々な乗り物に乗ってはしゃいでいた。隣で見ていると子供のような笑顔で、見ているだけでこちらも笑顔になってしまうほどだった。


 ───────


 色々回った所で次はお化け屋敷に入ろうとすると月島さんがその場から動かなくなり首を横に振っていたのでからかう事にした。


「どうしたの月島さん……あ!もしかして怖いの?」


「うん、怖い……」


 やけに素直に答えられたので立ち止まっている月島さんのそばに近寄ると手を握られた。


 その手は恐怖で震えている。


「暗いとこ怖くて嫌……昔、母さんに押し入れとかに閉じ込められた事思い出して……で、しばらくして開いたと思ったら目の前には知らない男達がいて……それ以来寝る時も真っ暗とか無理になって……」


「ごめん月島さん、昔の事思い出させて……もういい時間だし最後に観覧車乗らない?」


「観覧車?……うん、いいよ……」



 泣きそうになっていた彼女を落ち着かせるためそう提案すると手を繋ぎながら2人で観覧車へ行く事になった。



 ◇


 外から景色が一望できて、それを見た彼女は機嫌が良くなったようで、あれは仙台駅とかあれは見学した工場とかなど指さして説明してくれていた。


「月島さんにはやっぱり笑顔が似合うよ」


「どうした急に?」


「月島さんって美人だしどんな表情してても似合ってるけど、笑ってる月島さんって本当に美人で可愛いくて僕は良いと思うよ……」


「良雄……君……」



 観覧車はもう少しで頂上へ……夕焼けが差し込み僕達は黙ったまま俯いていたが、しびれを切らし月島さんに話しかける事にした。


「あのさ……色々あったけど今は月島さんの事、友人……それ以上に大切な存在だと思ってる。何でも話せて一緒にいて凄く楽しい。月島さんはどう思ってるの」


「私は……その……」


 俯いて手をモジモジとさせていたが、顔をあげ無邪気に笑顔でなりながら茶化してきた。


「お前は奴隷とか下僕なわけだし調子乗るなよ?あくまで一緒にいて"あげてる"だけだからな!まあお前がそう言う気持ちなら私も……」



 その言葉を聞いて、よくわからないが怒りが込み上げてくる。


 月島さんはもう本心でそんな事思っていないことなんて知っている……結構長い間いたから大体は分かる。


 正直な気持ちを聞きたかったのに茶化してくるなんて……そう思うといてもたってもいられなくなった。


「そう……あくまでそんな事言うんだね……もう月島さんとは話したくない!正直な気持ち聞きたいだけだったのに茶化しやがって!」


 僕が本気で怒ったので驚いた表情を浮かべていたがすぐに彼女も眉間に皺を寄せ「こちらも口を聞きたくない、絶交だ!」と力強く言い放った。



 ◇


 観覧車が下に着くまで沈黙が続き、扉が開いた瞬間2人とも飛び出して別々に別れ制服へ着替え海辺近くの宿泊先へ向かう事となった……

(後編へ続く)

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月島さんは酷いけど、龜くんも十分酷い! しかもちゃっかり二人で遊園地に行くなんて…… これはそう、田中君の呪いだ!
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