外伝3 奇人達と女装の遭遇
暇だ……暇すぎて女装して店番している。
会長に正体がバレ人生終了したと思ったが、翌日学校に行っても特に変化がなく事情を聞いた所「デリケートな問題故黙っていた」と他の生徒には誰にも言っておらず俺の人生はまだ"続く"のだった。
しかし良雄君にバレそうになった感覚や、いざバレてどうしようとなってしまった感覚などが忘れられず店で女装などと言う愚行を犯しているのだ。
ただ学校が終わってから親が用事を済ませ帰ってくる午後8時頃までは人は滅多に来ない。
来るなら休日、平日の小学校が終わって子供達が遊びに来る夕方の5時までだが今は午後6時、店番はよくするがこの時間にお客さんが来た事は数回ほどだった。
こんなので店潰れるのでは?そんな声が聞こえてきそうだが店頭での販売はそれほどでもなく、地域のイベントや学校行事にお菓子などを下ろしている事、店舗兼住宅の為家賃がかからない事、ネット販売など創意工夫があり我々は生き残っている。
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そんな事を黒髪ロングのウィッグ、ブラウスにロングスカートを合わせたクラシックロリータ風の衣装を着ながらレジ横で頬ずえをつきながら考えていると暇すぎてあくびが出てしまう。早く親帰ってこないかな、そんな事を思った瞬間であった。
「もう練習付き合ってくれるのは嬉しいけど何も考えず走るのやめてよね、こんな遠くまで来ちゃったじゃない」
「ごめんって。ちょい疲れたから栄養補給でも……お、こんな所に駄菓子屋が、懐かしいなー」
「わー私よく昔行ってたよ、ちょっと見ていこう!」
女性の方の声は聞いた事がなかったが男性の方は知っている、同じ高校の後輩、鷲尾君だ!
一度ならず二度までも女装している時に知っている人が現れるとは……いや、向こうはSNSサイトの私の名前MARS♪とかここが私の実家など知らないから声をちょっと変えれば大丈夫だろう、バレはしない!そして彼らは入店してきた。
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「いらっしゃいませー♡」
営業スマイルを決め入店してきた彼らに挨拶をすると鷲尾君がこちらを凝視して指さしてきている。もしやもうバレたのでは……背中に汗がじんわりと出てくる。
「おいあの店員さん……めっちゃ可愛いくね?」
「指さすの失礼だよ! ……確かに可愛いね、ここでバイトしてる人かな?」
良かったバレてない……第一関門を突破し一安心していると、彼らは店に並んであるお菓子を見ては懐かしんでいた。
「懐かしい!これ子供の頃食べてた!瑞希は何食ってた?」
「私はこれだな。このベビースターのもっと細かくした感じのヤツ、それに当たりで最大100円まで出るからめっちゃ食べてた!懐かしいなぁ……」
わかる、子供の頃少ないお小遣いを握りしめどれにしようかと必死に考えて買ったお菓子は一生記憶に残ってて、成長してまたそれを見るとその時の記憶が蘇ってくる……誰でもそうなるのでは、と女装しながら考える私。
「すいません、結構久々駄菓子屋来たんスけど今売れてるのってどんなのスか?」
鷲尾君が聞いてきたのでレジの所から移動し彼らの近くで何が今売れているのかなど丁寧に説明していると女の子の方が何かに気が付き私に質問してきた。
「あの、失礼な事聞きますけど男性ですか?」
「おいおい、こんな可愛いのにそんな事……」
「そうですよ☆普段は普通に学校行ってて暇な時とかは女装してるんです♪私の事は悠亜って呼んでくださいね♡」
こんな事もあろうかとこの格好の時の名前も決めてあるのだ。
本名をちょっといじっただけだが……そんな事を思っている時だった。外に見覚えのある影が歩いているのが見えた。
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「どれにしようかな……って水谷じゃん! おーい水谷! 水谷ー!」
「……大声で呼ばなくても聞こえてるよ。あれ?そちらにいるのは例の"彼女"さん?」
「うん! えっと水谷さんって透と同じ生徒会の人だよね?私木下 瑞希って言うんでよろしく!」
「私は水谷 ミキです、私の事は下の名前でいいよ。鷲尾君の言う通り可愛いね」
「全然!ミキこそ凄い可愛いよ!」
そんな会話が店内で展開される中私は人生最大の危機に陥っていた。同じ部活の子が2人……バレるのは時間の問題かと思っていると水谷ちゃんがこちらを見てきた。
「店員さん……ですよね? どこかで会ったことないですか?知ってる人に似てるような……」
「えー? 私はわからないなぁ♪私こんな可愛い子いたら絶対覚えてるからなぁ☆」
「水谷この人女の子だと思ってるだろうが、この人男の人で学生だから違うんじゃないか?」
何故そんなヒントを出してしまうのか、内心焦りまくりで逃げ出したい。
でも店番もしないといけないし店員が逃げ出す訳には行かない……バレないでくれ、この時ばかりは神に祈るばかりであった。
「そっか……すいません人違いでした。凄く可愛いですね、似合ってます」
「あ……ありがとう♡水谷……? ちゃんもすっごく可愛いよー♡」
今のありがとうは神様へ言った言葉でもある。改めてありがとう神様……そして彼らは駄菓子を買って店を後にした。
◇
レジ横の椅子に力無く倒れるようにして座る。
助かった……バレなかったのは奇跡かそれとも持って生まれた強運か。強運の方なら今度宝くじでも買うかと一安心しウィッグを外したその瞬間であった。
「ナビ通り来たけどめっちゃ遠く来ちゃったよ……こいつ使えねーなー……ここどこだ?あの駄菓子屋の人に道聞くか。あのすいませー……」
会長だ。一度ならず二度までも、しかもどっちもウィッグを外し誤魔化せない所なのも前回と一緒だ。
「えっと……小鳥遊先輩……何してるんですか?」
「……私、悠亜だよ♪」
「いや無理ですよ先輩……」
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悪あがきも通用せず、会長には正直に全て話し今日あった事を話すと大爆笑していた。
「会長、私……俺の事黙っててくれて感謝してます」
「秘密だって誰でもあるんですから大丈夫ですよ。それにしてもここ先輩の実家なんですね、駄菓子なんて子供の頃買えなかったからなー……皆食べてるの羨ましかったんですよ」
「そうなんだ、会長の所は親とか厳しかったの?」
「……その話はあんまり……えっと小鳥遊先輩良ければオススメの駄菓子とか教えてください!ここの店の事勧めたい奴いるんでその時にこれ美味しかったとか話題作りたいので」
その目は輝いていて恋をしているような目だった。
会長に恥はかかせられないと思い私が思う”オールスター選手”をオススメし、彼女はそれらを購入し帰っていった。
◇
そして数日後、また懲りずに暇だったので女装して店番をしていた。今度こそ人は来ないだろう、そう思っていた時だった。
「ここだよ、小鳥遊先輩のやってる駄菓子屋。美味しかったから勧めたくてよ」
「そんなグイグイ引っ張んなくても行くから……って駄菓子懐かしい!小鳥遊先輩いるかな?すいませー……」
会長が勧めたいと言っていたのは良雄君だったのか。ど、どうしよう……良雄君は私を見て特になんとも思ってはいないようだが会長は唖然とした顔でこちらを見て動きが止まっている。
「可愛い人だね、バイトの人かな?」
「……そ、そうだね……え、えへへ……」
お菓子を選びながら良雄君は会長にそう言うと会長は明らかに引きつった笑顔をして返事をしていた。
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またもや危機を脱した……これは強運だ、間違いない!
そう思い後日、宝くじを買ったら外れたので強運ではなくただの偶然だったのだと思い、しばらくは店番する時は女装しないでおこうと肝に銘じたのだった。




