第13話 熱血漢にラブレター!? ~今度は逃げないから~
放課後にいつもの"呼び出し"。しかし今回は呼び出される相手が違う、僕を呼び出したのは同じ生徒会の1年生で会計の鷲尾 透君だ。
彼とは部活以外で話す事は少ないのだが、あの暑苦しい性格上友人が少ないようで部活対抗リレー以降僕を慕ってくれているようで何か悩みがあると相談してきていたのだが今回は部室ではなく校舎裏に来て欲しいとの事で彼が待つ場所へ。
◇
彼はベンチに座り僕を待っていたので、隣に座り何があったか聞く事にした。
「鷲尾君今日はどうしたのこんな所に呼び出して」
「実は先輩に見せたいものがありまして……これ!」
坊主頭を下げ彼から赤い便箋を渡される。
「……ごめん鷲尾君、僕はそういう趣味なくて……」
「違うっスよ! これ朝登校してきたら自分の下駄箱の中に入ってたんス」
「ふーん、で中は見たの?」
「はい。差出人は木下 瑞希って言う俺の中学からのダチで陸上部なんスけど、まさか俺と……俺と……」
女性からの手紙でわざわざ下駄箱に入れるなんてこれは"ラブレター"以外の何物でもない、友達と思ってた子からいきなり告白されて鷲尾君も戸惑っているのだろうと思っていたがその予想は外れてしまう。
「俺と"朝練したい"って内容だったんス……まさかあいつが俺と一緒に練習したいなんて……感動ものっス……」
「泣く要素ある? ちょっと説明して欲しいんだけど……」
泣いている彼を落ち着かせ話を聞くと、中学時代彼と木下さんは同じ陸上部でお互い切磋琢磨した仲で部活外でも一緒に自主練をしていたようだったが、ある時鷲尾君が車に轢かれそうになった子供を守る際に足の骨を折る怪我をしてしまったのだ。
それから鷲尾君は陸上部を辞めて木下さんとの練習もしなくなり、次第に話す事もなくなったそうなのだ。
「でも急に練習しようなんて言い出してきたんだろうね?」
「それがわかんないんスよ。また一緒に練習したいって言ってくれるのはすげー嬉しいんスけど今更どんな顔して会えばいいかわかんないんスよ……不安だから何かあった時助けてもらいたいんで隠れて見ててくれないッスか?先輩だけが頼りなんスよ!」
熱血派で物事を考えるより体が先に動いてしまうような彼が不安そうになって僕にここまで頼みこむなんて昔彼女と何かあったのだろうか。翌日から僕も早起きして彼らの様子を観察する事にした。
◇
日も登り始めるような時間に鷲尾君は学校から少し離れた河川敷でジャージを着て木下さんを待っていると、鷲尾君と同じような赤い上下のジャージを着た短髪の女性が姿を表し軽く挨拶していた。
「久しぶりだな透、足の調子どうだ?」
「もうそれは完治してる。それよりもお前なんで急に俺と朝練なんて……」
「中学の時よくやってたろ? 1人で早朝走ってたんだけどなんか身が入んなくてな、んでお前誘ったわけよ。嫌だったか?」
「いや別に……なら久々本気で走っかな!遅れんなよ?」
「オッケー! お前こそなまってたら承知しねーからな!」
2人はそう言うと物凄い勢いで走り抜けていくので隠れてみていた僕も見失わないよう後を追いかけたがついて行くので手一杯で早々と息が上がり彼らを見失ってしまった。
しばらくその場で休んで道なりに歩いて探したのだがどこにもいない。困っていると鷲尾君から【先輩、校門前で待ってます!】とメッセージがあった。
◇
「先輩遅いっスよ!」
「いや君たちが早すぎるだけだって……んで何か話した?」
「大会までもうちょいだからそれまで朝練付き合ってくれって事でした。ですので先輩も是非一緒に!」
「いや僕はもういいや……」
しかし彼は聞き入れてくれず僕は毎日早起きしては彼らを遠くから監視する日々が続いた。
彼らはかなり速く、最初は置いていかれていたが段々と見失わないようになり、最終的には目的地である学校までついて行けるようになっていた。
◇
そんな日が続いていたある日、彼女は軽度の疲労骨折になっていた事が明らかになる。いつも通り走ろうとした時にほんのちょっとした違和感に鷲尾君が気付き病院へ連れて行って判明したのだ。
そのまま放置すれば骨折までする可能性があるため大会への出場は辞退、もちろん早朝の練習もなくなり鷲尾君は生徒会室で落ち込んでいた。
「俺がもうちょい早く異変に気が付いていたら大会には出られたかもしれないのに……それなのに俺はアイツに無理させて症状を悪化させる所だったんスよ……俺自分が情けないです」
「自分を責めないで、僕もそばに居たのに何も出来なかったから僕にも責任はあるよ。それで彼女はどうしてるの?」
「今は部活を休んで家にいるそうです」
「会いに行ってあげないの? 君が励ましてあげれば彼女も喜ぶと思うよ?」
「……そうですかね……あいつ俺の事恨んでるかもしれないし、このままずっと会わない方が……」
座ったまま俯いて黙っている彼の元へ月島さんが近付いていき一言「また逃げるのか?」と言い放った。
「良雄さんから話は大体聞いてます。中学の時怪我をして何も言わず陸上部も辞めたのも、今もなんて言っていいのかわからないから逃げているだけ。何か言われるのが怖いからか? それとも合わす顔が無いとか思っているのか? ……少なくとも私の知っている鷲尾君はそんな事思わない強い人間だ。何があっても猪突猛進、考える事なんてしない。それがお前の悪い所でもあり、いい所なんじゃないのか?」
「……俺は……」
「行きなさい、もう逃げずに彼女と向き合いなさい。後から私達も行くから」
「……すいません会長、俺また言い訳してアイツから目背けて"逃げる"所でした。ちょっと行ってきます!」
そう言うと彼は勢いよく立ち上がり生徒会室を後にする。取り残された僕達は顔を見合わせるとどちらも少し得意げな表情を浮かべていた。
「月島さん、さっきのかっこよかったよ」
「まあな」
◇
僕達が鷲尾君の姿を発見したのはしばらく後の事だった。
木下さんの家の近くにある公園のベンチに彼らは座っており、黙り込んだままで僕と月島さんは木の影に隠れ様子を見ることにした。
「……足、どうなんだ?」
沈黙を破ったのは鷲尾君だった。
「大丈夫、ちょっと痛いけど骨折まではしてないから」
「……なんで無理してたんだよ、お前俺が足を大怪我してそのまま部活辞めたの見てただろ。なのになんで……」
「引っ越すかもしれなかったから」
木下さんは話を遮りハッキリとした口調で顔をあげ答えている。
「両親の都合で引っ越すかもって言われてて、今もどうなるかわかってないんだけど、そう言われてここからいなくなる前にやりたい事したかったんだ。足もその時から違和感があって大会には元々出ないつもりだったんだけど"練習"って事にしてその人とまた一緒に走りたかったんだ」
「それが俺なのか?」
「そうだよ、中学時代性別は違くてもライバルだと思ってお前の事追い越そうとしたり、一緒に練習したりして……凄く楽しかった。でもお前は別れの言葉も言わずいなくなった……それでいなくなって初めてわかったんだ、お前の事好きなんだって。
声掛ける勇気なかったから手紙出して、それで朝来てくれた時本当に嬉しかったよ。大会なんて本当はどうでもいい、陸上がもう出来なくなってもいい……私はお前と少しでも長くいたかったんだよ」
「俺のどこがいいんだよ……俺なんて熱くなりやすくて周りから煙たがられてるのわかってる。友達も数える程しかいない俺の何がいいんだよ!俺なんかと一緒にいようなんて思わないで足の具合治して引っ越し先でも陸上続けた方がお前の為だ、俺の事忘れて……」
「嫌いな所なんてないよ。だから忘れる事なんて出来ない……忘れてやるもんか……お前と居られなきゃ走る意味なんてないから。なあ、もし足が完治してまた走れるようになったらまた一緒に走ってくれるか?」
彼女が鷲尾君の方を向いて真剣な表情で質問すると彼も同じような表情を浮かべながら軽く頷き「今度は逃げないから」と彼女の目を見て答えていた。
「……約束だからね、また黙ってどっか行くのなら今度は追っかけてく。だからどこにもいかないで」
「お前速いから今の俺じゃ追いつかれそうだしな!……それによ……もうどこにも行かねーから」
気が付くと彼らの距離が0になっていた。
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「ほう、こんな引き止め方もあったとは……」
「僕の時は月島さん突き放したよね」
「いやあれはお前がどっちつかずでイラつかせるから! てかお前も勝手にどっか行ったりするなよ?」
木の影に隠れ彼らを見ながらコソコソ話していたが、もう大丈夫だろうと思い僕達は彼らを残しその場を後にした。
そしてしばらくして登校前に鷲尾君と木下さんが一緒に早朝ランニングをする姿を目撃したのはその数ヶ月後だった。




