第10話 二学期突入!新聞部にも突入!? ~ひと思いに殺してくれ!~
夏休みが終わっても暑い夏は終わらない。
部屋のエアコンは休みなく働かされキーキーと静かに怪しい音をたてて稼働し、外へ出れば白いハンディ扇風機を使用し、残暑に耐える日々が続く中登校するのは憂鬱である。
朝そんな事を思いながら、祖母が作ってくれた弁当を持参し登校しようとすると、台所から「気をつけてねー」と大きく元気な声をかけられるので私も「うん、行ってくるね!」とその声に負けないくらい声を張り上げ返事をする。
これが私、月島 桜子の日常である。
◇
あまり自宅を知られたくないので少し早めに登校し、学校前で色々な生徒から挨拶をされる。
彼らは私を慕ってくれており、中にはファンクラブもあるとかないとか……それにしても彼らからの視線が眩しい、私みたいに皆なりたいのはわかるのだがそんなに見てくれるな、と心の中で思っていると目の前に"奴"がいた。
あいつを見ると脇腹をつついたり、関節技を決めたくなったりしてしまう。
他の人にはそんな事しようとは思わないのだが奴だけは別、今日はラリアットを決めたくなってしまったが皆いるのだから我慢。私は皆の前では完璧でいなければならないのだから……
「おはようございます良雄さん、ご機嫌うるわしゅう」
「おはよう月島さん、今日"は"機嫌よさそうだね」
「あら、私はいつでも機嫌は宜しくてよ、ホホホ……」
最近ヤツは私をからかったり、小馬鹿にしたりと調子に乗っている。
さっきの会話だってわざわざ『今日は』の"は"を強調して発言しているし「いつも裏では不機嫌なのに表では猫かぶってご機嫌そうだね」と言いたいんだろうなと勘ぐってしまう。
後で本心を聞こう、そう決心した時、ある男子生徒に後ろから声をかけられた。
◇
時間は放課後の生徒会長室まで飛び、早朝声をかけられた生徒と話をし終わり、彼が退出するのと同時に”下僕君”が入れ替わりで入室してきたので笑顔から険しい表情へ変える。
「今日は何の用事で……」
「お前さっきすれ違った奴、だれだか知ってるか?」
「どっかで見た顔だなーとは思ってるんだけど思い出せなくて……」
「ったくお前はボーっとして生きてんな。あの人は新聞部部長で3年の戌亥 義隆先輩、部活紹介とか新聞貼り出したりしてるの見たことあるだろ?んでその人が新聞部の部員が病欠で人手不足だからこっちに何とかならないかって来たわけよ」
アホ面で私の話を聞いているので「お前が行くんだよ!」と強めの口調で言うと、ビクッと反応してからまたアホ面しながら自分で自分を指さして俺ですか?みたいな反応をしているので、さっさと行くよう指示を飛ばす。
「いやでも生徒会の仕事が……」
「そんなの水谷の変態に任せとけばいいだろ!ほら、さっさといけ!」
奴の背中を押して会長室を出ていかせ、数日間は手伝ってくるよう言い放つと、扉の向こうから覇気のない返事が返ってきて奴は新聞部の部室へ向かったようだった。
◇
それから数日後、水谷が奴の分も仕事しているので頭を撫でて褒めてやると「もっと出来ます!」と素早く仕事を片していたのでここは大丈夫かと思い奴の様子を見に行くことに。
生徒会室の向かい側の教室が新聞部の部室で、その扉の窓から様子を見ると部長に指示されキビキビと働いている奴がいる。
サボらずちゃんと仕事しているなと確認できたので下校しようとした時だった。下駄箱の前で話していた女子生徒2人組から最近盗撮の被害があったかもと報告があったので詳しく聞いてみることに。
「盗撮ですか...犯人とかは見ましたか?」
「いえ、私達バレー部なんですけど練習中にカメラのシャッター音みたいなの聞こえて、その時は新聞部さんが取材しに来てただけで、他に怪しい人もいなかったし聞き間違いかもしれなかったので……」
何か嫌な予感がした。最初はイヤイヤだったのにあんなキビキビ働く奴、そして新聞部がいた時……念の為他の部活の子達にも聞いてみることにした。
それから2日後……
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「いやー、取材って言えば普段見られないようなユニフォーム姿の子達もいっぱい撮れるからねー。新聞部で女の子の部員がいるとそっちに取材割り振られるから、女子部員が休みの今がチャンスなんですよ良雄氏」
「凄いですね、僕も最初止めてましたけどこんな良い思いをできるとは……あと数日お願いしますよ、先輩?」
「もちろん!我々は"戦友"ですからな、ぐふふ……」
体育館で練習中の女子バスケ部を取材すると言って体育館端に座り、今まさにカメラを構え"盗撮"しようという彼らの前に立ち塞がる。
私に気が付いたのか一瞬どちらも動かなくなっていたが、構えていたカメラをゆっくりと下げこちらを見あげていた。
「女子生徒から盗撮されたかも、と報告があって来てみたらやはりお前たちか……覚悟はできてるな?」
私の表情を見て血の気が引いていたが、一瞬の隙をついて戌亥は逃げていったがこいつだけはと思い後を追おうとした"犯人"を後ろから羽交い締めにし取り押さえた。
「ま、待って戌亥先輩! 僕達戦友じゃなかったんですか!?」
「戦場では仲間を見捨てる事もある、君の犠牲はむだにしないぞー!」
ダッシュで逃げたもう1人の犯人は共犯者に向け、無情な台詞を吐きながら体育館を後にしていた。
残された方は諦めたのかぐったりしていたが顔だけこちらを向ける、その顔は”覚悟を決めた顔”だった。
「……くっ殺せ! ひと思いに殺してくれ!」
「そうはいかん。女の子達がどれだけ怖かったのかその身で味わいながら死んでゆけ。水谷の事変態と言ったが、お前は更にその上をいく"変態"だったようだな!」
制裁としてキャメル・クラッチを掛けると床をバンバンとタップしていたが私にはそんな音聞こえないし聞きたくもない。ぐったりしている犯人に続けてジャイアントスイングをお見舞いすると悲鳴をあげていたのでトドメにぶん投げるとそのままうつ伏せになり動かなくなった。
悪は"成敗"されたのだった。
◇
翌日奴を会長室へ呼び出し説教をする。
新聞部は女子部員が病欠から戻ってきたので再犯のリスクは少なくなったが、部長がこれ以上やらかさないよう部員皆で監視するよう伝え、今回の件はそれで手を打つことにした。
そしてここにいる"変態2号"には今回の件が正式に先生達に伝わっていたら大変な事になっていたか、女子生徒が盗撮された"かも"で終わったのであまり大事にはしないがバレていたらどんな事になったかなど説教をして2度目は無いことを伝えた。
「まったくお前と来たら……もう悪さするなよ?」
「つい出来心で、すいませんでした……」
「次はないぞ次は! ったく……んで話は変わるんだがお前ユニフォーム姿の女子とか好きなのか?」
「最初はそうじゃなかったけど、部長さんに勧められるうちにハマってって……」
「とんだ変態だな! ……変態! 帰れ変態!」
罵声を浴びせられ、とぼとぼと反省した様子で部屋を去っていった。奴が居なくなってしばしの沈黙が流れ私は(ユニフォームか...あいつが喜ぶなら今度着てみようかな?)とほんの、ほんの少しだけ考えてしまった。
再始動です。
よろしくお願いします。




