第1話 完璧美少女の秘密~気安く話しかけるな!~
5月の風が時折強く吹いていた日だった。
高校2年生の僕、鼈 良雄は密かに想いを寄せている女性に告白しようとしていた。
その女性の名前は月島 桜子さん。容姿端麗、文武両道、高校2年生にて生徒会長の彼女は全生徒の憧れの的だ。
容姿にも自信が無いし、勉強もそこそこで運動神経があるわけでもない。ましてまともに話したことのない僕が告白した所で成功するわけがない。
でも、この気持ちだけでも伝えたい!
そう思い、昨日ラブレターを書いてきた。
彼女は昼休みに校舎裏にあるベンチに腰掛け読書するのが日課になっており、そこで僕が素敵な言葉と共にラブレターを渡す……
よし、完璧な計画だ!
そう思っていると昼休みを告げるチャイムがなる。
僕は急いで彼女のいる校舎裏まで急ぐ……今の僕はあの完璧美少女に告白出来ると思えるだけで幸せだった。
彼女を見つけた。
肩ほどまである黒く美しい髪が時折吹く風に揺れ、スラッとした長い脚が制服のスカートからのびている。スタイルがとてもいい……姿勢もよく、校舎裏のベンチに腰掛け、本を読んでいるだけなのに絵になっていた。
見とれていたが、息を整え……いざ!
と思った矢先に男子生徒が彼女に話しかけ、校舎裏でもさらに人気のない場所へ一緒に消えていく。
僕はある予感がした……彼は同じクラスの田中君で僕と同じく彼女に好意をよせている。
しまった、先を越される!
彼らの後を追い、物陰に潜みながら様子を見ることにした。
遠いのと風が強く吹いていて声までは聞こえないが、田中君が何か言っている……ポケットから何か紙を取り出して……あれは!ラブレター!ピンクのラブレターではないか!
静かに悔しがる僕……ラブレターを渡した彼は、こちらへ走りながら彼女へ手を振っていたので、急いで物陰に隠れ彼が完全に立ち去るのを待っていた。
風が止み、彼女もしばらく彼に笑顔で右手で手を振っていたが、曲がり角を曲がり彼が見えなくなると、笑みを浮かべたまま片手に持っていたラブレターを前に出し両手で持った瞬間の出来事だった。
ビリッ!ビリッ!
さっきまでラブレター"だった"ものが音をたてて縦に、横に引き裂かれバラバラになった。
その紙をポケットにしまいながら般若のような顔になった彼女は、普段からは想像のつかないような罵声が出ていた。
「この三下が、気安く私に話しかけてんじゃねぇよ!誰があんな個性も何も無いような奴と付き合わなきゃならねぇんだよ!ボケが!」
よく、開いた口が塞がらないと言うが本当だった。
呆気にとられ物陰に潜むことを忘れ、ポカンと口が開いた僕と彼女の目があう。
一瞬時が止まった……次の瞬間、彼女は勢いよく走ってきた。
陸上部に引けをとらない走りを見せた彼女は息を切らしながら僕の両肩をがっちりと掴み、俯きながら小声で「見たか……」とつぶやいた。
「今の……見たか!?私がラブレター破いたところ!?」
怖かった、恐怖で首を縦にブンブンと何回も振る。
「そうか……ククク……」そう悪人面みたいに笑いながら呟き、風が強く吹いた直後、僕の両肩をより一層強く掴み彼女は僕の目を見て言い放った。
「今見た事、誰かに話せば殺す!いいな!?」
また恐怖が僕を襲う。
言いません!言いません!
何度そう発言したかは覚えていないが、その返答を聞いて安心したのか、手を離し教室へ彼女は向かっていく……そう思った時、彼女は立ち止まり、
「明日1階にある生徒会長室に昼休みこい、かならず1人でだ。もし1人で来なかったり、誰かに話したら……わかってるな?」
そう言うとこちらを見て中指をたてていた。
ああ、怖いよ……助けて、神様……
心の中で命乞いと弱音が響き渡る中、この日1番の強風が吹き、ポケットに忍ばせていたラブレターがポロリと落ち、どこかへ飛んで行った。
僕の恋心と共に……