団長に話を聞いても記憶はないが、離婚決定…
翌日フィン公爵邸へ赴いた。団長とその妻ジュディ夫人も出迎えてくれた。夫人からは深く深くお礼を言われた、が、若干冷たい気がするのは気のせいだろうか。
「今日はよく来てくれた。申し訳ないが私の執務室で話そう。来てもらってもいいかな」
「はい」
入室し、ソファに向かい合って腰掛ける。
お茶とお菓子の用意もしてくれた。さすが公爵邸だ、どれもこれも美味しそうだ。私は甘党である。
「まず記憶の件はまだ誰にも言っていない。しかし、知られるのは時間の問題だろう。早速だが、本題にはいる。ミナミ聖女のことについて説明する」
聖女ミナミは約3年半ほど前異世界に紛れ込んでしまい森をさまよっていたところ、私が保護したらしい。…記憶がないが。
わが国では異世界に迷い込む者が時々現れる。そのほとんどが何かしらの異能を持っているというため、大切に保護される。過去には王妃となったももいる。能力は治癒魔法で、国のため民のために貢献し聖女と称えられた。ミナミも同じ治癒魔法が使えることが分かり、聖女の再来と言われ、第二王子のもと王宮での保護が決まった。しかし、ミナミは戦場での救護を依頼するも、危ない、汚い、臭い、気持ち悪いと同行することを拒否した。なんとか王都での救護活動は同意してくれたが、確かに危険は伴うものの国のために戦ってけがを負った戦士たちを臭い、汚い、気持ち悪いと罵ったことで、国民からの反感を買った。国民の反感を買うミナミを保護し続けることは、王にとっても不都合であり正直言うとミナミはもはや不要な存在と言っていいのだが、第二王子を筆頭に、治癒魔法の貴重性、他国に渡ってしまう危険性を訴え、国としても保護し続けるしかなかった。
「団長、そもそも最初私はなぜ森にいたのですか?」
「そこもか」
「…しんがりを務めたのは覚えているのですが…」
「その時は戦で形勢が悪く、いったん引いて軍を立て直すために、君は最後尾で応戦してくれていた。その時に深い傷を負い、森で倒れていたところを聖女が助けた、と聞いている」
「聞いている、とは、私がそう言った、ということですか」
「そうだ。君は聖女と一緒に帰国し、そう言った。それ以来、君は聖女を崇拝していたと言ってもいい」
…それでミナミに操を立てて白い結婚。それじゃあ傷を負って倒れていた私はミナミと…というか、今回の怪我での治療も…!?え、私はミナミとなにをしたんだ。もしかしたら、もしかしなくても私は最低なのでは…いや、最低で決定だ。
「…カレンはなぜ私と結婚してくれたんでしょうか。カレンは私のことを嫌いでしょうね…」
「政略結婚だから仕方がない。ある程度割り切っていたんだろう。ただ、彼女は献身的に君に、侯爵家に尽くしていたよ」
「…」
「第二王子殿下は聖女を盲目的に支持していた。聖女が今まで無事に守られていたのは王子のおかげだ。正直殿下は何かにとりつかれていると言っていい状態だった。まぁ、君もだが。異能が治癒能力だけではなく他者の精神になにかしらの影響をもたらすのであれば、無理やり離すと第二王子に危険が及ぶ。そのため対処できない状態が続いていた。が、第二王子がついに正気に戻った。今までの行動を反省し、隣国への婿入りを了承した。再び戦が始まり私は以後のことは分からなかったが、君が保護していたんだな。そしてちょうどよく君の命を救った。そして、この国の英雄となった『私』を救った『君』を救った『聖女』を無下にはできなくなったのが現状だ。君と彼女の間には子がいない。国としてはおそらく、君と彼女の離縁を指示する可能性が高い。また、褒賞として、ずっと恋い慕っていた聖女を娶るようにとも。」
「そんな…」
このままではカレンとの離婚がほぼ決定だなんて。
***
ミナミはベットの上で考えていた。
「魔法かけるにしてもまずは、レイドとキス以上のことしないとだけれど…。早くカレンと離婚して、あたしと結婚すればいいだけなのに、離婚保留ってなんでぇ。ほんとカレン邪魔!!結婚契約してたなんて知らなかったわよ。触るだけって治すのすっごい疲れたんだから。あ~もうっなんでここにきてうまくいかないのっ」
(第二王子は女たらしだったからあっちから勝手にキスしてきて勝手に魔法かかったけど効果切れちゃったし。レイドへの魔法は最初に完璧にかかったはずなのに切れちゃうし、離婚しないし。あたしにはレイドしかいないのに…)
「レイドのバカ…」枕に顔をうずめながらミナミはつぶやいた。