いびつな才能
「かゆいところはないか?」
目の前の少女の髪をわしゃわしゃと洗いながらそんなことを問う俺。
「大丈夫」
その返答を受けた俺はゆっくりとシャワーを髪に当てシャンプーを流す。そしてゆっくりと湯船につかる。
「はぁ…」
二人で湯船につかりつつ小さなため息をこぼす。理由は目の前の12歳の少女と言えるのだが本人に悪意はないので仕方がない。
「この傷どうしたの?」
少女は俺の左腕をさしてまたその質問をした。俺はあと何回この少女に同じ答えを返せばいいのか…
「これは切り傷だよ…一番深い傷以外は自分で切ったんだ。」
そう言って自分の腕を眺める。
「ふ~ん」
そんな返事を返した少女は何を考えているか分からない。 そもそも少女はここがどこだか理解しているのだろうか…
「私はここがどこか理解してるよ?」
その言葉に少し驚きつつも俺は「そうか」とこぼす。
ここは元々は俺が作った意見交換の場であり才能の発掘場所であった。だが、その才能の中でも特に秀でた才能を持った者 そしてそれと同時に何かしらが足りない物。そのいびつな才能を持った5人が集まるのがこの場である。そして目の前の少女は1日ごとに記憶が完全に消去される。ゆえに本来は何も覚えることができないのだが、ここに集まっている4人の名前は覚られている。
それぞれの足りない部分をそれぞれが補う。そのため集まる5人の距離は限りなく近くなっている。そのお互いのいびつな形がうまくはまってしまった5人はそれぞれの得意な部分を請け負いこの組織を運営している。
「今日もクイズするの?」
少女は俺の膝の上に移動しながら言う。
「ああ。また悪い人と良い人を当てるクイズをやろう」
その言葉に笑顔を浮かべる少女はこの組織の人事部最高責任者。記憶がないゆえにコネなど一切通用せず、純粋な価値観のみで人を判断する。それに加え飛びぬけた分析力を持っているため人の才能を一瞬にして読み取ることができるのが目の前の自らの名前を覚えることのできない少女だ。
「そろそろ出るか」
「あんまりあいつらを待たせるの悪いし」と付け加えると納得したように少女は湯船から上がる。それに続き、俺達は風呂場を出るのであった。
「出たぞ」
あの後少女の髪と自分の髪をドライヤーで乾かし終えた後すでに夜食を食べ終えたカツとセナの2人に声をかける。そこでふと一人いないことに気づいた。
「スズリは?」
「彼氏さんのとこに帰った…なんでも近くに迎えに来てるらしい」
興味もなさそうにセナは言うとカツに言う
「最近たまってるからちょっと付き合ってよ」
「あ~了解」
セナはそんな会話を残しあくびをしながら風呂場へカツを連れて消えていく。
「相変わらずだな…セナは」
「×××は…って聞く必要ないよね…」
少女は俺の方をじっと見つめているがその表情が何を表しているのかは俺にはわからない。わかるはずもない。
「何か食うか?」
分かりやすく話題を変える俺だが少女がそれを指摘することはない。小さく「うん」とうなずいたのを確認し俺たち夜食をあさるのであった。