永久機関は悪魔の発明、生物災害は明晰夢によって起こされる、立ち上がる4人。
貴方やめて!
踏み潰される猫のような叫び声が水蒸気を吐き出すパイプによく響いた。
化学の発展は人類の発展だ。永久のエネルギーはお前から生まれるんだ!
父さん!父さん!
永久反射炉の反射が開始され、母親が悲鳴をあげる。その悲鳴が永久に反射する。
父さん!ああ!
目の前で母親の悲鳴が永久に反射していく様子があまりにも恐ろしく、たまらず何処へ行くでもなく走り出す。
街を出てからどれほど走っただろうか、いつの間にか森に着いていた。
すると、朝露がまだ残っているほど緑豊かな、後ろの川面がよく輝いている、居心地の良い、森であったことにようやく気がついた。
君達は…
そこには3人の人影、原住民かと思ったが、近代文明には触れている様だった。
俺の名前はシペト、君達は?
俺は惑星リリリリから来た、オノ・レト。手足がない代わりに弱いサイコキネシスで暮らしてる。
人型とかろうじて言える程歪んでいる…顔が二つの色で分かれていて…まんまるい口からはカッターナイフのようなギザギザした歯がこちらを睨んでいる…
惑星リリリリ…?聞いたことがない…
何回も大量絶滅があって天敵がいないから変な生物ばっかり生き残って生態系がこっちと比べて少しおかしいんだ。
か、な、り、な?なぁシペト、コイツ人間だぜ?
そうなの!?
奇形のな。奇形でも生き残れるぐらい変な惑星だよ。
なんでピシャンに?
リリリリが地球から侵略されたんだよ。
んでその地球から来たのが、僕、キンカノ・ラ・テリブル。
気さくな話し方をする。マスク越しの彼の声は少しがらついていて、喉がやられているように思えた。
後ろにタンクのようなシグナル付き機械を背負っている。惑星ピシャンの大気が合わなかったのだろう。
地球から侵略?あの?地球?
「タペチチハイタラモノス」だよ。核っていう激ヤバ兵器があってね数発打てば国が滅亡するぐらいの威力があるんだけど、それよりも凄い兵器が完成しちゃって、案の定戦争だよ。
そんでたまらず個人用ポッドに乗って冬眠してたら起きてピシャンに着いた。
タペチチハイタラモノスの威力はどのくらいなの?
1発で惑星滅亡がありうるね。地球がもう少し小さかったらヤバかった。
身振り手振りで伝えようとしているキンカノは少し滑稽だ。
他の惑星の話、さっぱり分からないや。僕はサリニヲ。よろしく。
他の2人に比べて丁寧な物腰、顔と同じくらいに延びて丸くなっている山羊のような角、彼が着けている仮面は機械のようで、いや、動物を型どっているような形だ。首から下には深い緑色のローブを着て、森の葉っぱで作られているのか、しゃらしゃらと鳴っている。
よろしく。なんで森に住んでるの?
この森の精霊だから。森から離れたくないかな。
皆さんご存知、と言うようにサリニヲが発言した。
ええー!?知らなかった!そうなの!?
オノレトとキンカノが2人揃って声を出した。
そうだよ。言ってなかった?
そんなハーフだよ、みたいな感じなんだ…
数ヶ月後
森で暮らしている4人、何をするでもなくただ過ごしている。
ねぇ!久々に街に行ってみないか?
お、いいかもしれない!ちょうど鍋とかナイフ欲しいところだった!
4人での暮らしは良いことばかりだった。サリニヲもキンカノもオノレトも、シペトと同じく、発展しすぎた近代文明に縛られているようだった。時々はホームシックになったが、ぐっと堪えた。
街へ行く4人、すると街の雰囲気がおかしい。町一帯がドームに包まれている。ドームの中では色んな人が注射器やガーゼを持って倒れているのだ。
おい!大丈夫か!
ああ〜、おいおい、起こすなよ、いい夢見てんだからよー
しわがれた声で見た目は50、60、くらいだろうか、未来の無さそうな老人が起床する。
ゆ、夢って…
これかしてやっからさ、
注射器を渡される。
注射器!や、薬物!?
ちげーよ麻酔だ麻酔!これで寝るんだよ!麻酔でも夢見れっから。
夢って…なんのことだ…
おいっ!周りもみんな寝ているぞ!
町中が眠り転けている人で溢れている。その異常さとはシュールレアリスム絵画の「それ」だ。
ホームセンターにもスーパーにも起きている人はいない。
どうなってるんだ…
ニュース番組が流れる。
(ナナフシのウツツからおよそ3ヶ月経ちました。ドーム内では眠り続ける人達でごった返しています。人命保護ロボットの供給も追いついていますが労働源が足りないことから過剰労働が問題となっています。)
ナナフシのウツツ、このドームの事か…
必要なもの取ったらもう帰ろうか、店員さん!
キンカノが店員を呼ぶが、誰も来ない。店員が寝ている。非常事態だから、と言い訳をした。
森に帰る途中、身に覚えのない神殿があった。藁にすがる思いで中に入る。
入口には大きな字で「擬態の技」と書かれている…
すいませーん!誰かいませんかー!
なんでしょう。
いたっ!やっと人に会えた!
関節がぐにゃぐにゃとした、同じ人間とは思いたくない外見をしている…しかし、人間は人間だ、安堵する。
黒子衣装のような顔を隠した人間は特に珍しいとは思っていないようだ。街があんな状況になっているのに…
ここは「擬態の技」の神殿です。中では信者たちが…
崇拝とか修業…ですか?
UNOです。
ええ…
ドンジャラです。
えええ…
僕達森で暮らしてて久しぶりに街に出てきたんですけど一体何が起きてるんですか?ナナフシのウツツって一体何なんですか!
神殿からでてきた人間がまたか、というようにちょっと面倒くさそうに話し出す。
研究者が、永久機関を発明しましてね、それからエネルギー問題をまるっと解決しちゃったもんですから消費電力の制限が無くなったんですよ。つまりもーっともっと高性能な機械が作れたりする訳です。今まで開発されなかった機械が急に生まれ始める訳です。人々の生活は一変。すべてお手伝いロボがなんとかしてくれます。家事も育児も仕事ですらロボットがやるもんです。
そんな…それじゃ、人間は何を…
何もしないんです。いやぁ何も出来ないんです。もう何もしたくないでしょうねぇ…。ナナフシのウツツは3ヶ月前に起きた災害の事です。詳しい事は私には分からないけどドームの中に入り睡眠をすると全ての夢が明晰夢になるんです。夢の中では何もかもが出来ますから現実よりも居心地が良いのでしょう…。
じゃああの中にいる人達って、
現実を捨てた人達…ですね。ここ、「擬態の技」ではそんな現実から逃げるための集まりです。
擬態の技は、近代文明から逃れるという現実逃避を集団で行っていただけの宗教だった。
シペト達も同じような境遇だ。何も出来ず、森に帰る。
一体どうして…
災害なのは仕方ない、でもこれは!あんまりじゃないか!
俺たちで、何か出来ないかな…この世界を救うなんて大それたこと…
出来るよ!この現状はどうしようも無いかもしれないけど!ここから立ち上がる選択はあるはずだ!まだそこまで人類は落ちぶれていない!
4人が結託する。この世界を変えなくてはならない。
その裏で、とある「計画」が始まろうとしている。
頭がブラウン管の、白衣を着た研究者が、なにか異様な雰囲気をした機械の中で実験を行っている。
機械には型番号と共に名前が掘られている。「マザーボディモデルルーム」と。
ブラウン管に夢の映像が映し出された。惑星ピシャンがとある霧に包まれているのを遠くから眺めている。
ほう…この世界は…2層構造なんだね…
そう呟いた彼女の名前はテロテロという名前の人間だ。