30 まるで夢みたい②
「君が、本当はヒューバードを思っていたとしても……俺は君がそばにいてくれるだけで構わない」
「えっ!? 私が、ヒューバード様を!? ありません!!」
ヴァイオレットは想定外の言葉に激しく首を横に振る。
「だって、私……ユリシーズのことが好きで……白モジャの頃から好きだったのに、気付くのが遅くて、今更好きなんて言っても顔に惚れたとしか思われないのが嫌で。ユリシーズこそ、モニカ様みたいな明るくて素敵な女性がいいんじゃないかって」
ヒューバードが好きだと誤解されたくない一心で、ヴァイオレットは心に秘めていたユリシーズへの気持ちを全て口にしてしまっていた。
「ひゃあ! い、今のは……!」
ヴァイオレットは顔を真っ赤に染めて、しどろもどろになった。取り繕うとするが出来るはずない。恥ずかしさに熱い頬を手で押さえた。
「ヴァイオレット……」
「は、はいっ」
「そ、その言葉は真実だろうか」
ヴァイオレットは真っ赤な顔のまま頷く。
そうか、とユリシーズは呟いた。精霊のような美貌だが、頬がほんのり染まっていた。
「……俺も君のことが好きだ。モニカには友情の気持ちしかない。俺は、いつも一生懸命で弱者に優しく、そして清廉な君が好きなんだ。俺は何度もヴァイオレットに助けられた。この髪の呪いを……いや、俺の心を蝕んでいた呪いをヴァイオレットが解いてくれたのだ。そんな君がとても愛しいと思う。俺のことが好きだと言うのなら、婚約を、そして後々には結婚をしてほしい。俺のこの体質はたくさんの苦労をかけるだろう。それでも、俺は君と共に人生を歩みたい」
「ユリシーズ……」
夢みたいだ。
ヴァイオレットはユリシーズの月の色をした瞳を見つめた。
パチパチと拍手をする音が聞こえる。
振り向けば国王陛下が満足そうな笑顔で拍手をしていた。
それを見て、釣られたようにヴァイオレットの両親も拍手をする。さらに謁見の間にいた国王陛下の護衛や侍従──全ての人がユリシーズとヴァイオレットに祝福を惜しみなく贈ってくれたのだった。
「ヴァイオレット嬢、我が甥、ユリシーズをよろしく頼む」
「は、はい!」
「婚約指輪はアンヌ=マリーのものを使うといい。サイズ直しをさせよう。ユリシーズ、それで構わぬか」
「親愛なる伯父上、このような呪われた身を甥として扱ってくださったこと、亡き母の形見をいただけること、本当に感謝の念が絶えません。そして、蔑ろにするわけではありませんが、亡き母の形見はもちろんのこと、それ以外の婚約の証として、私が作成した腕輪もヴァイオレットに差し上げたいのですが」
「おお、用意していたのだな。腕輪であれば指輪と被らずに良い判断だ。しかもそなたが作ったのか」
「はい」
ユリシーズは再度跪き、魔術でどこからか取り出した白い箱を開ける。ベルベットの上に紫色の石で出来た腕輪が乗せられていた。
「これは複合魔石で作った腕輪です。いくつかの効果を付与してあります」
ユリシーズは国王陛下にそう言った後、ヴァイオレットに向けた。見覚えのある紫色。
「……この魔石って!」
「ああ。ヴァイオレットが受け止めてくれたおかげで無事だった魔石だ。ヒューバードに頼まれてあの魔石を素材にした魔術具を作ったのだが、大きな魔石だったから、腕輪に出来るほど余りが出たのだ。……余りで作ったというのは失礼だったか」
ヴァイオレットは首を横に振る。
「いいえ、そんなことありません! 私、とても嬉しいです」
「この腕輪にはいくつかの魔術効果が込めてある。使い方については後ほど教える。一つだけ言うと、実は櫛に変形するんだ」
「え?」
思いがけない機能にヴァイオレットは目を瞬かせた。
「こう、櫛になれと思いながら、軽く叩く」
ユリシーズはヴァイオレットの手を取り、腕輪をトントンと軽く叩いた。
すると、腕輪を構成している魔石がしゅるりと解け、ヴァイオレットの手のひらに、魔石で出来た櫛が収まった。
「腕輪に戻す時は、腕に当てて戻れと思うだけでいい。……以前、ヴァイオレットが俺に櫛をくれただろう。今も使っている。その、お返しに」
「──約束、覚えていてくれたのですね」
あげた櫛の代わりに櫛をプレゼントしてくれるという約束。まさか、こんな大掛かりなものになるとは思わなかったけれど、嬉しくないはずがない。
「受け取ってもらえるだろうか」
「はい、もちろん!」
紫色の魔石で作られた腕輪は、細身だが繊細な模様が彫り込まれている。色や質感は紫水晶で作った腕輪のようにも見えるが、じっと見つめると魔石特有のゆらゆらとしたものが石の中に見える。
ユリシーズはヴァイオレットの手を取り、腕輪を左手首に嵌めた。大きいと思ったのに、瞬時にヴァイオレットの手首のサイズぴったりになった。
「綺麗……」
重さすら感じず、着けている感覚もほとんどない。
「あ、そういえばこの魔石って、とても壊れやすいのでは……」
「いや、耐衝撃、耐刃、耐水……とにかく頑丈であるように魔術を施してある。もしヴァイオレットが攻撃されたとしても、自動でヴァイオレットを守り、反撃するようになっているから安心してほしい」
「す……すごい……」
ヴァイオレットは腕輪の嵌った手首を翳す。装飾品としても綺麗なのに、想像以上の性能のようだ。
「うむ、良い品だ。ユリシーズよ、そなたはそれほどまでにヴァイオレット嬢を大切に思っているのだな」
「……はい」
臆面なく頷くユリシーズに、ヴァイオレットは頬を真っ赤に染めた。




