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25 惨劇①

 騎士たちに囲まれたエイドリアンとフリージアは真っ青になりながら、醜く罪の擦りつけ合いをしていた。


「どうしてこんなことに……。ぼ、僕は第二王子なんだぞっ!」

「エ、エイドリアン様が大丈夫って言ったじゃないですか!」

「だ、だがあれはフリージアの……」


 広間から去ろうとする客人たちは、そんな二人を見てクスクスと笑っていた。


「ふふ、まだら模様のドレスがよくお似合いですこと」

「ズボンのお尻だけ赤いのが今年の流行りになることでしょうね」

「ええ、お猿さんみたいで、とってもセンスがよろしいこと……」


 言わずもがな、赤ワインとオレンジジュースでドレスをまだらに汚したフリージアと、零した赤ワインの水溜まりに尻餅突いてズボンの尻を赤く染めたエイドリアンへの皮肉だった。

 クスクスと笑いが聞こえるたびに、エイドリアンとフリージアは怒りで震えている。


「それに引き換え、シアーズ公爵家のご令嬢はご立派でしたわね。凛とされて、恫喝されても怯まないとは、なんて気高いのかしら」

「それから、パロウ様……とても素敵。まさかあんなに綺麗な方だったなんて」

「本当! ご出身も全て謎に包まれていましたが、あんな美しい顔まで隠されていたとは。まるで物語から出てきたかのようでしたわ」


 ヴァイオレットやユリシーズへの言葉もあった。

 ヴァイオレットは恥ずかしさで顔を赤く染め、一方のエイドリアンとフリージアは愚弄された怒りで顔を赤くしていた。

 

「クソ……この僕が……っ!」


 特にエイドリアンの怒りはひどいものらしく、ギリギリと歯軋りのような音を立てて歯を食いしばっている。

 

 ──しかし次の瞬間、エイドリアンは暗い笑みを浮かべた。


 それに気付かず、エイドリアンを嘲笑うことをやめない客人たちに向かい、左手を構えた。


「燃えちまえ……何もかも……焼き尽くせ」


 そう呟く。するとエイドリアンの手のひらが真っ赤に燃え始めた。それを見てユリシーズとライオネルは血相を変えた。


「炎魔術……だと!?」

「た、退避ッ!」


 しかし間に合わない。

 ライオネルと騎士たち、それから広間から出ようとして列を成している客人たち目掛けて、巨大な炎が津波のように押し寄せた。

 人々の悲鳴、怒号、泣き声。

 一瞬にして、広間は地獄のような有り様になっていた。


 たまたま炎が向いていない位置にいたヴァイオレットは無事だった。しかし、その惨状を目にしてしまったことで一度目の世界を思い出していた。気分が悪くなり、その場に崩れるように座り込んだ。嫌な汗が背中を流れる。


「や、やり直しをしなきゃ……」


 そう思うが、さっきフリージアにやり返すために魔力を使ってしまっていた。やり直しを望んでも、脳裏に浮かぶ文字は掻き消えるだけだった。


「どうして!」


 ヴァイオレットは拳を床に叩きつけた。

 こんなことになるのなら、赤ワインくらい黙ってかけられておけばよかった。そう悔やんでも後の祭りだ。


「パロウ殿、消火を!」

「もうやっている」


 ユリシーズはライオネルに促されなくとも動いていた。幸いなのはこの場にユリシーズがいたことだった。彼も炎の直撃を喰らっていたはずだが、完全に無傷だ。

 ユリシーズは呪文を呟き、両手を構える。一瞬で燃え広がったエイドリアンの炎は、同様に一瞬で消えた。しかし、その場には物の焼け焦げる匂いがうずまいている。


 広間は大混乱だった。

 我先にと逃げ出そうとする人々、その場に倒れ、泣き喚く人々。特に騎士たちやライオネルは炎の直線状におり、モロに炎を喰らっていた。生きているが、ひどい火傷を負っている者もいて、まともに動けそうにないようだ。

 

 そんな混乱の中、エイドリアンはフリージアを連れて逃げようとしていた。


「さあ、今のうちに逃げよう、フリージア!」


 エイドリアンはフリージアの手首を掴んで走り出した。


「ははは、いい気味だ! おら、焼かれたくなければ道を開けろぉ!」

 

 客人たちは恐れを成して道を開ける。エイドリアンは前を塞ぐ人を蹴り飛ばして進もうとしていた。


「くっ……ここまでされて……逃すわけには……」


 火傷を押さえ、呻くライオネルにユリシーズは頷いてみせた。


「わかっている。逃がしはしない」


 ユリシーズは光る魔法陣を出して、エイドリアンの前に飛ばし、進路を妨害する。前だけでなく、横、そして背後と次々に出現させ、あっという間にエイドリアンは魔法陣に囲まれていた。


「な、なんだよこれ、くそッ!」


 エイドリアンは魔法陣を叩くが、弾かれるだけで消すことは出来ない。エイドリアンとフリージアは完全に逃げ場を失って顔色をなくしていた。


「癒しを──」


 エイドリアンを逃さないようにした後は、結界で広間全てを包み込む。眩い緑色の光が広がった。広間全体に治癒魔術をかけたのだ。


「う、動けるぞ……これなら!」

「パロウ筆頭魔術師、ありがとうございます!」


 ライオネルたちはまだ火傷を残しながらも起き上がった。

 ひどい火傷で動けなかった騎士も全員ではないにしろ、最低限は動けるくらいに治癒されたようだ。

 彼らは起き上がり、エイドリアンたちを囲んだ。もうエイドリアンに逃げ場はどこにもなくなっていた。


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