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23 フリージア②

 ここまで露骨だと、フリージアがヴァイオレットの神経を逆撫でして、衆人環視の中でわざと怒らせようとしているのはヴァイオレットにもわかっている。


 一度目はここで怒って水をかけたら婚約破棄される羽目になった。エイドリアンとフリージアの作戦に嵌められてしまったのだ。エイドリアンとの婚約を続行したい気持ちはまったくないが、彼らに二度もしてやられるのは真っ平ごめんだ。


「……おかしい。予知と違う……どうして」


 フリージアは俯いてボソッと呟く。


「……え? 貴方の加護ってもしかして」

「う、うるさいわねっ! なんなのよ、もうっ!」


 フリージアは図星をつかれたのか、苛立ったように親指の爪を噛む。庇護欲をそそる美少女の化けの皮が剥がれてきたではないか。


「もーまじで最悪。消えて!」


 フリージアはヴァイオレットを睨む。そして手にしたグラスの中身をヴァイオレット目掛けて浴びせてきた。


 バシャッと液体がヴァイオレットのドレスにかかる。色からして赤ワインだ。やり直し前の世界でフリージアに水をかけたヴァイオレットが、やり直したら逆に赤ワインをかけられてしまうとは笑い話にもならない。


「あはは、いい気味ー。これでいいわよね。私が先に水かけられたってことにしーようっと」


 赤く染まったドレスに呆然としていたヴァイオレットはフリージアの追い打ちにカッとなった。


 やり返したい。黙っていいようにされるなんて。

 

 大体、フリージアはヴァイオレットの名前を騙ってモニカを危険に晒し、お腹の子の命を奪おうとしたのだ。許される所業ではない。そしてヴァイオレットには寝込んだ数日分で溜まった魔力がある。


「──やり直すわ」


『やり直しますか?』のコマンドが出る前に、ヴァイオレットは強く決心をした。

 

 ヒューバードがエイドリアンとフリージアを告発する準備をしているとモニカから聞いている。それまで大人しくしていようと思っていたが、どうしても許せそうにない。せめて、ほんのちょこっとでも痛い目に合わせてやりたい。

 そう思いながらヴァイオレットはやり直しの光に包まれた。


 ハッと目を開くと、フリージアが爪を噛んでいるところだった。ちょうど、赤ワインをかけられる直前である。


「もーまじで最悪。消えて!」


 そう言いながら、赤ワインの入ったグラスを傾け、こちらにかけようとしてくるフリージア。

 しかし既に一度かけられているため、タイミングは把握している。

 ヴァイオレットは、フリージアが赤ワインをかけてこようとするタイミングでヒラリと避けた。

 赤ワインはバシャッと床に落ちて広がる。


「えっ!?」


 フリージアがヴァイオレットの避けっぷりに、驚愕したように目を見開く。

 しかし次の瞬間、自分が床に零したワインに足を滑らせていた。


「ちょ……や、きゃあーっ!」


 フリージアはワタワタしながら、飲み物が置いてある台に突っ込んだ。


 ガシャーンと激しい音がする。幾つものグラスを薙ぎ倒し、その中身を被ったフリージア。ピンク色のドレスどころか、彼女の甘そうな色をしたストロベリーブロンドまで赤ワインやオレンジジュースでまだらに染まっている。


「や、やだあーっ! なによっ! なんでこんなことになるわけぇっ!?」


 フリージアはゆっくり立ち上がると髪からオレンジの雫がポタポタ垂れる。その滑稽さにヴァイオレットは思わず吹き出した。

 

 フリージアは不愉快そうに目を細めた。

 

「……やってくれたじゃない」


 下から睨め付けるようにヴァイオレットを見つめるその瞳はギラギラしている。

 何かしてくるのかと思い、ヴァイオレットは身構えていた。


 しかしフリージアは顔を覆い、わあっと泣き伏した。


「ヴァイオレットさん、ひどいですぅ! いきなり突き飛ばすなんてぇ!」


 周囲にしっかり聞こえる声量でそう言う。

 小刻みに肩を震わせ、本当に泣いているように見える。しかし、そうではないのはヴァイオレットにはわかり切っていた。

 

 しかもそれはヴァイオレットだけのことではない。周囲だってそうだ。


「……ねえ、今のって、その子が勝手に転んだように見えなかった?」

「そうよね。その前にワインを掛けようとして失敗していたもの。自分が零したワインで足を滑らせただけじゃない?」

「まあちょっと可哀想だけど、自業自得だよなぁ」

「いやいや、可愛い顔して性格が最悪!」


 彼女が期待したような展開にはならず、そんなヒソヒソ声だけが聞こえてくる。

 

 そもそもここは広間の端。人は少ないとはいえ、周囲にはチラホラ談笑している客人たちがいた。

 それに飲み物係の給仕だっているのだ。遠巻きにしていても、彼らがヴァイオレットたちに注意を払っていることに気付いていた。

 

 周囲の反応が好意的ではないと悟ったフリージアは、もはや泣きまねというより、怒りにワナワナと肩を震わせていた。


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