6話
「あ、最後に一つだけ」
ガルフさんはある程度進んだ後で、こちらを振り返ってそのようなことを仰りました。
「ええと、何用で……?」
私が首を傾げていると、ガルフさんは遠くから……
「俺は善人じゃない」
意味がわからず、私は困惑します。
「だから、誰だって助けるわけじゃないんだ」
これ、もしかして何か始まってしまうのでしょうか。私、ここで立ったままでいるべきでしょうか。
「え、えっと……つまり……?」
「恋愛感情を抱いているとまで言うつもりはない。だけど、友達や同僚の騎士よりは遥かに強い好意をお前に抱いてる」
好意を……
好意……その言葉を意識して、私は恥ずかしくなる。
今日は本当に頬が紅潮してばかりです……
「……戯言だ! もう会えなくなるかもしれないし、これだけは言っておきたかったんだ! もう忘れてもいいぜ」
彼はそう言うと、今度こそ振り向かず帰っていくのでした。
「……ハッキリ好きだと言っておくべきだったか? いや、そんなことしたらあいつは」
ボソボソと何かを仰っていたので少し気になったのですが、多分独り言だと思いますので気にしないでおきます。
恥ずかしいことを非常にたくさん言う日、言われる日でした。私も早く帰らねば……などと思った時にヒルデさんがいることに気づきます。前方じゃなくて後方。私についてきていたみたいです。
「ヒルデさんも何かあるんでしょうか?」
「ははっ、そうです。さっき、ガルフさんに言われてしまいましたけど、僕もあなたに対して恋愛感情ではないにしても友達に向ける者よりは強い好意をあなたに持っています」
想像はできていました……が、想像できていてもそのような台詞を恥ずかしいと思わないはずがありません。
「あ、あの……!」
私が自身の頬を両手で押さえて悶えていると、ヒルデさんが何故か大きめの声でモジモジとしながら話しかけてきました。
「えっと……正直に言いますと、僕はあなたのことが好きです」
「……あ、やはりそうなんですね。でも、私は無能で何もできなくて……あなたやガルフさんに何も……」
「いえ、僕も……多分ガルフさんもこの気持ちに応えてほしいとは思ってません。ただの戯言だと思っていただいて結構です」
「戯言だなどと……」
「はは、戯言と思っていいのならなんでわざわざ言ったんだって感じですよね。言った後に思いました」
それから、しばしの沈黙……彼は私の顔を見つめ、私も彼の顔を見つめていました。
「……すみません、見惚れてしまって。では、もう用はないのでこれで失礼します。
そう仰ると、ガルフさんと同様に……しかし、彼とは違い、そよ風のようにご自宅の方へ向かっていかれました。
私も帰らないと……
バージルさん……いえ、お父さんを心配させたくないので。
「……ああ、本当にお腹が空きました」
今日はどんな献立にしましょう。明日も楽しく……幸せに生活するためには、栄養モリモリの料理が相応しい。
ガルフさんとヒルデさんからの衝撃の告白により、紅潮した頬を隠しながら、私は道を駆けました。
いい出会いだったと思います。前世のせいで、私って今まではお父さんしか真に大切に思えなかった気がするんですよ。でも、今なら……もっと色々な人物に心を開ける……そんな気がする。
また彼らと出会いたい。彼らのお陰で自分は少しでも変われたから。
「いい日でした……」
……もうすぐ、日が沈みますね。
この話で一応完結です。書きたくなったら続きを書くかもです。
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