4話
可哀想だと感じた私は彼の分のお菓子も買っています。そして、店の外に出た今、猛烈に感謝されております。
「ありがとよ! 感謝してもしたりない!」
「いえ、大丈夫ですので」
ここで良いお菓子を買うためにたくさんお金を貯めてきていたのです。二個買って尽きてしまうほど少なくありません。
私が顔を上げるように願うと、彼はニカッと笑い、何故か自己紹介をしてくださいました。
「俺ん名前はガルフっつーんだ。よろしくな!」
「ガルフさん、ですね……! 私はアンジュと申します。よろしくお願いしますね……!」
私は少し未だ怖いな……とも感じながら、握手しようと手を伸ばします。怖がっているとわかると傷ついてしまうと思うので、なるべく震えないようにしていますが、大丈夫でしょうか。
三秒待っても握り返されないので怖がりつつも彼の顔を見ると、何故かキョトンとしていました。
でも、私が見ていたことでハッと我に返ると、先程のように裂けてしまいそうなほどの笑顔で握り返してくださいます。
ちょっと、痛いんですけど……悪気はないんでしょうね。
「ガルフさん、ヒルデさん」
「なんだ?」
「何でしょう?」
「お菓子の話をしましょうよ。私、お菓子大好きなんです」
それから、私たちはそれぞれの家に着くまでにお二方とお菓子談義を続けていました。お二方はどちらも家はそれほど遠くないそうなのですが、お菓子談義が盛り上がってしまったせいか……
……その数倍の時間、六時間は歩いていましたね。六時間後、特に家が近かったヒルデさんと別れると……私はガルフさんと共に街の通りを歩いていました。慣れたのでもう怖くないです。
「……ふふっ、そうなんです。よくわかりましたね!」
「ははっ、そうだろう。見ていればわかる。お前はそういう奴だと見ていて思っ……」
……?
話をしながら歩いていたのですが、その途中で唐突に動きを止めてしまいました。何かを思い出されたのでしょうか。
すぐに視線の先にある何かにより足を止めていると気づいた私は彼と同じところを見ます。
そして、そこに私がよく知る人間がこちらを待ち伏せているということに気づきました。
レティシエ……私の、妹だった人。
「アンジュ……後ろに下がっていろ」
「え……」
「俺らを待ち伏せている女がいるだろ。あいつ、俺らを殺す気でいやがるぞ」
「なんで、でしょう……?」
私は転生して見た目も声も全く違う人物になっているので、前世を知って襲ってきたとは思えません。
レティシエ……あなたは通り魔にでもなってしまったというの?
目を凝らすと、レティシエはこちらを睨みつけています。でも、武器は持っておりません。
確かに殺気のようなものは少し感じ取れましたが、あれではこちらを殺すことなどできないのでは……
「わからん。でも、このまま歩くと俺らは殺されるぞ」
「え、でも……武器とか持ってるようには見えませんが……えっと……ドレスに隠し持っているということですか? でも、持っていたところでどうにかなるものでしょうか?」
「どうにかなるものじゃないだろうな。あの女一人なら」
「それはどういう……?」
私が尋ねると、ガルフさんは私の頭に手を置き、ガシガシと乱雑に揺らしました。
励ましたつもりなのだと思いますが、少々痛いです。
「……あの女が雇ったと思しき暗殺者みてぇな奴らがたくさんいる。女の近くだけじゃない。既に俺たちのことを囲んでやがるんだ。下手に動けば、殺されちまうぞ」
「何人ほどでしょう?」
「正確な数はわからないが、数十人。こう見えても俺は騎士なんだが、非番でな。剣などは持ち合わせていない。数十人の暗殺者に一斉に攻撃されたら対処できる気がしねぇ」
……!? 騎士の方だったんですか。だから、殺気にいち早く気づいたんでしょうか。凄い方だったのですね……!
……ってそれより、どうすべきかですよね。折角転生して幸せな生活を送っていたというのに、もう一度命を落としてしまいたくはありません。これまでの生活が無駄になってしまいますし、バージルさん……お父さんも悲しませてしまうことになります。
それに、また記憶を保持したまま転生できる保証はありません。死なないように精一杯抗わないといけませんよね……!
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