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9/20

09:二十代後半なのに妖精って呼ばれるのは辛い

2021/08/02 更新(2/2)

 胸を張って得意げに笑みを浮かべているユリアティーネと名乗った少女に、私はどんな顔を浮かべればいいのかわからず愛想笑いを浮かべてしまう。

 そうしていると魔導師団の一人がこちらに近寄ってきた。金髪の遊び人じみた軽薄なお兄さんで、魔導師団の制服を着ていても何故かその印象が離れない。


「ユリア様。この人、呆気取られてるじゃないですか。なんで威張ってるんです?」

「お黙り、フリッツ! 私は自分よりも目線の高い者には媚びないと決めているのですわ! 何せ立派な淑女ですので!」

「はいはい。小さくて可愛らしいですよ、淑女様」

「ムキィー! 人の話を聞いていますの!? 私より目線が高い奴は身長が縮んでしまえばいいのだわ!!」


 ぽかぽかとフリッツと呼ばれた青年を叩きながら、ぷんすかと怒ってみせるユリアティーネ皇女殿下。本当に皇女殿下なんだ、と意識が遠くなりそうになる。


「改めて、助力感謝致します。私はフリッツ・レビナーと申します。貴方のお名前をお伺いしても?」

「私はイルゼ・ティールと申します。まさか皇女殿下とは思わず、無礼な振る舞いをしてしまいました。大変申し訳ございません」

「いやいや! 謝ることなんてないっすよ! むしろこっちが助かりました。貴方のように優秀な魔導師に助けられて、ホッとしていたところです」


 そこでフリッツさんはホッとしたように笑みを浮かべる。気を張っていたんだろうな、と思うとお疲れ様です、という気持ちが湧き上がる。


「……あれ? お姉さん、どこかで見たことがあるような……?」


 ふと、私の顔を見てフリッツさんが顎に手を当てて不思議そうに首を傾げた。私はフリッツさんに見覚えがないので、首を傾げてしまう。多分、他人のそら似じゃないかな。

 そう思っていると、今度はユリアティーネ皇女殿下が迫ってきた。


「イルゼさんと仰るのですね! 大変見事な腕前でございましたわ! それに! その未知の魔導機!」


 ユリアティーネ皇女殿下は目をキラキラさせて、私の手の中にあるアンタレス・ロッドを見つめた。今にも飛びついてきそうな勢いに、私は一歩後ろに下がってしまう。


「このような魔導機は初めて見ましたわ! 射撃と魔剣の形態を切り替える複合型! なのにこんなにも小型化されているなんて! 一体どこの名工がお作りしたのかお伺いしても!?」

「えっ、あ、あの……それは……」

「それは私も気になるので、ちょっと職人をご紹介して頂けませんかね。決して悪いようにはしないので」


 ぐいぐいと迫ってくるユリアティーネ皇女殿下に困惑していると、フリッツさんまで私の逃げ道を塞ぐように微妙に背後を押さえようとしてる。

 どさくさに紛れて逃げようと思ったけれど、これは逃げられなさそうだと判断して、私は溜息を吐いた。


「……申し訳ございませんが、ご紹介しても皇女殿下様のご期待には添えないかと。こちらの魔導機は欠陥品でございますので」

「欠陥品、ですか?」

「お持ちになって頂ければわかるかと」


 口で言うよりわかりやすいだろうと思って、私はアンタレス・ロッドをユリアティーネ皇女殿下に手渡した。

 アンタレス・ロッドを受け取ったユリアティーネ皇女殿下は訝しげな表情をしていたけれど、すぐに驚きの表情へと変わってしまった。


「……これは」

「ユリア様、どうしたんですか?」

「貴方、本当にこのような魔導機をあのように扱えると? ……成る程、確かに私にとって、こちらの魔導機は欠陥品だというのは確かのようですね」

「どういう事です?」

「この魔導機は、外装こそ見覚えのない新しいものですが……中身は〝旧式魔導(アンティーク)〟ですね?」


 真剣な表情のまま、ユリアティーネ皇女殿下は私に確認を取った。それに私は頷く。するとフリッツさんもまた、驚きの表情を浮かべた。

 私の魔導機は、今普及されている魔導機よりも前に使われていた前時代の内部構造で構成されている。

 〝旧式魔導(アンティーク)〟、つまりは骨董品として見られるものだ。歴史的資料の価値でもなければ解体され、捨てられてしまうような〝粗大ゴミ〟である。


「〝旧式魔導〟って、自動で動く魔道具にしか向いてないなんて言われる骨董品の旧式モデルじゃないですか? えっ、でも、あの動きは現行モデルのものと比べたって性能が良いぐらいですよ!?」

「でも間違いないわ。コアに魔力を通して確信したの、この魔導機はコアが魔力を吸い上げる際に属性の選別を行うフィルターを組み込んでいないのでしょう? これは風属性の魔導機のように動いていたけれど、風属性の魔導機ではないわ」

「……少し触れただけで、よくそこまでわかりますね」

「魔導師にとって、魔導機は剣であり杖であり半身も同然。その仕組みも正しく知るのが、魔導師としての常識ではなくて?」

「いや、ユリア様は割とただの魔導機オタク……」

「フリッツ! 何か言いまして?」

「何でもございません!」

「……こほん。ともあれ、現行モデルの魔導機は魔導の行使を助けるために内部構造が細かくなっています。これは発明された当時は革命とも呼ばれる偉業でして、属性ごとの魔導が使いやすいようにコアが魔力を吸収する際、特定の属性だけを透過するフィルターや、魔導の発動を手助けする回路も属性ごとのセッティングをされるようになったのです。対して、旧式魔導の魔導機は属性選別のフィルターがついておらず、使用者への負担も大きければ補充した魔力量に対して増幅効果が薄く、稼働時間が短いのです。それは魔力の属性を選別せずに使っているため、特定属性の魔導を発動させるのに効率が悪くなっているからと言われていますね」


 凄い早口で言ってるけど、うん、なんとか聞き取れるってレベルの早口だったね……。


「えぇと……確かにそうですね。旧式魔導はその分、とても頑丈なので、出力だけなら現行モデルを上回れるのが利点ですけど」

「フィルターなどの内部部品のせいで、現行モデルの耐久力は旧式魔導に劣るのは構造上仕方ないとは知っていましたが……いえ、そもそも貴方はどうやってこの魔導機を操っているのですか?」


 訝しげな表情を浮かべて、ユリアティーネ皇女殿下が問いかけてくる。

 私はどうしたものかと思ったけれど、これで何か隠しているとあらぬ疑いをかけられても困るので素直に話すことにした。


「私は自力で魔導を発動出来ない体質なのです。なので、この専用の魔導機でなければ魔導を扱えぬのです」

「……なんですって? もしや、貴方……魔導に嫌われた体質であると?」

「あーーーーーーっ!!」


 ユリアティーネ様が目を見開きながら呟くと、フリッツさんが何故か驚きと納得の声を上げて私に指を指した。突然の大声と指さしに私は後退ってしまう。


「思い出した! お姉さん、魔導技術局の〝妖精〟だろう!?」

「……はい?」

「まぁ!? まさか、この方が、あの!?」

「どこかで見た顔だと思ったら、間違いない! いや、間違いないよな!?」

「え、えっと……妖精ってなんですか?」


 まったく心当たりのない妖精呼びに、私は頭の上に疑問符を無数に浮かべてしまう。困惑する私にフリッツさんが説明してくれた。


「今から三年前の話だ。当時、魔導技術局にはすごい仕事が出来る女性局員がいたんだ。しかし、そいつは正式に職員に登録されている訳でもなくて、その正体は謎に包まれていた。わかっているのは、そいつが他の人の仕事まで肩代わりしたり、属性が合わないと苦労する魔導機の魔力補充も一夜の内に済ませていたという噂があった。それがまるで働き者の妖精みたいだってつけられた渾名が〝妖精〟だ」


 ……え、本当にそれ、私の話だったりするの? 私、裏では妖精って呼ばれてたの?

 当時で二十五歳、今となっては二十八歳の私を妖精? 冗談がキツすぎませんかね? 私は引き攣ったような笑みを浮かべることしか出来なかった。

 どうして、そんな事になってるのよ!?


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