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10/20

10:今明かされる衝撃の事実

2021/08/03 更新(1/2)

「イルゼさん……だったわね? 貴方があの噂の妖精なのかしら?」


 私が困惑していると、ユリアティーネ皇女殿下がにっこりと笑みを浮かべながら詰め寄ってきた。先程とはちょっと違う笑顔だ、どことなく圧力を感じる。


「え、えっと……妖精かどうかは知りませんが、確かに私は三年前まで魔導技術局で務めさせて頂いておりましたが……?」

「なるほど、なるほど」


 うんうん、と頷いてからユリアティーネ皇女殿下は、ぱちん、と指を鳴らした。

 フリッツさんが満面の笑みで私の肩に手を置き、いつの間にか他の魔導師団の人たちまで私を取り囲んでいる。

 おや……? これは一体……?


「イルゼ・ティールさん。改めて、助力に駆けつけてくれた貴方には感謝を。ですが――貴方には国家機密漏洩の疑いがかけられています。悪いようには扱いませんので、私と共に来てくれますね?」

「はい……? 国家機密……漏洩の疑い……?」

「詳しい話を致しますので、まずは移動しましょうか。フリッツ! 丁重に連行して差し上げるのよ!」

「と、言う訳だ。いや、なに。悪いようにはしないから安心して捕まっておきな。本当に指名手配されたくないだろ?」

「えぇぇえええーーーー!?」


 人助けをしてたら、まさか犯罪者として捕まえられるなんて有り得るんですか!? 私が一体何をしたというのー!?



   * * *



「――何も本当に罪に問おうという話ではないの。逃がさないために脅したのは認めますけどね」


 ユリアティーネ皇女殿下たちと一緒に森を抜けた私は、ふかふかの座席がついた魔導自走車に乗せられていた。

 私の隣にはフリッツさんがいて、最初は世を儚みながら車に乗ることになったんだけど、なんかお茶が出されたり、お菓子まで出されて待遇が容疑者のものではなかった。

 疑問に首を傾げていると、ユリアティーネ皇女殿下が少し苦笑を浮かべてから言った。


「イルゼさん、貴方は本当に三年前まで魔導技術局に務めていたのよね?」

「はい。ゲルルフ様に紹介して頂き、十三年ほど……」

「十三年!?」

「嘘だろ……マジものの妖精じゃねぇか……」

「十三年前って、私はまだ赤ん坊ですわよ……」


 私が働いていた年数を伝えると、ユリアティーネ皇女殿下とフリッツさんが驚愕に目を見開いていた。いや、あの、出来れば妖精って呼ばないで……。


「……イルゼさん、その反応から貴方は自覚してないと思うのですが、貴方は魔導技術局の一員であった事実は〝存在しません〟」

「……はい?」

「魔導技術局の局員は皇家も目に通す人事に審査を受けなければなりません。なので局員の数やその出自、それらは把握されて然るべきなのです。そこにイルゼ・ティールの名前はありません。少なくとも私が一度、確認した際には間違いなくありませんでした」

「……えっ? じゃあ、私は一体……」

「あくまで清掃員とか下働きの雇用なら人事に審査を通す必要はない。ある意味、抜け道って言えば抜け道ではあるんだけどな……」

「ですが、本来は貴方が関わってはいけない仕事までも貴方が引き受けていた可能性があります。ですから国家機密漏洩の疑いがかけられている、という方便を使いましたの。実際、貴方が本当にその情報を得ていたら罪は真実のものとなりますが」

「私、魔導技術局の局員じゃなかったんですか!?」


 あまりの真実に私は態度を取り繕うことも出来ずに叫ぶしか出来なかった。えぇ? じゃあ、私の十三年とは一体……?


「まさか、そんな状態で十三年も働かせてたって言うのかよ」

「イルゼさんを退職させたということは、本当に触れては不味い機密にまでは触らせてはいないでしょうが……どうして貴方、退職が出来ましたの?」

「……もう身体が限界で、仕事の穴を空けたくないから止めさせて欲しいと伝えました。休日返上しなければ仕事が間に合わなくて……」

「……それ、いつからですの? いつから休日もなく働いてました?」

「……ほぼ最初から……?」


 ユリアティーネ皇女殿下が満面の笑みを浮かべて、フリッツさんが鬼のような形相を浮かべた。それなのに纏っている雰囲気がまったく同じで、私は震えてしまう。

 二人は互いに目を合わせて、無言で会話していた。私には「これアウト?」「アウトです」みたいにやり取りしてるように見えるけど……。


「それでよく辞めるのが許されましたわね。それこそ貴方がいなくなったら成り立たなくなるのでは?」

「……所詮、私は消耗品だから、壊れたなら使い物にならないって……」

「――はァ? ……ふぅー、フリッツ! 今すぐに魔導技術局に火を放ちに参りましょう!」

「自分の皇城に火をつける皇女がいますか、落ち着いてくださいよ」


 遂に淑女の仮面すらも投げ捨てて、ユリアティーネ皇女殿下が怒りを露わにしている。フリッツさんは鬼みたいな形相から笑顔に戻っていたけれど、もう凄みのある笑顔にしか見えない。

 なんだか、ここまで怒って貰えると救われたような気持ちになるな、と暢気にもそう思ってしまった。


「十三年、十三年ですよ!? あの男、この逸材を独占して使い潰そうとした挙げ句、その上で捨てたの!? 馬鹿なのでは!? 国家の損失なのでは!?」

「はははは。いやぁ、これは思ってたよりも数倍酷かったですわ」

「許せん……許せんですわ……!」

「あ、あの……」

「あぁ、すいません。置いてけぼりにしてしまいましたね、イルゼさん」

「いえ……あの、もしかしてお二人とも、ゲルルフ様がお嫌いで……?」

「死ねば良いと思ってますわ」

「不幸な目に遭って消えてくれませんかねぇ、とは」


 あっ、めちゃくちゃゲルルフ様が嫌いなんだな、この人たち。


「あの男、魔導技術局の局長になってから横暴が過ぎるのですわ! しかし、成果を上げている以上、否とも言えませんし……ここ十年の発展は彼の手腕だと言われていましたしね」

「新作の魔導機は開発出来るし、整備や修理だって完璧に施してくれてたしな。それはありがたいと思ってるが、魔導技術局の支えがなければ魔導師団も成果を上げられますまい? なんて言われたらなぁ。良い仕事はしてても、あそこまで下に見られちゃな……」

「ひぇ……」


 凄い恨みを買ってるなぁ、ゲルルフ様。いや、もう私とは何も関係のない人だから、どうなろうと知った事ではないけど……。


「……あの、ところでイルゼさん。もしかして貴方、魔導機の新作にも関わったことが?」

「いえ、流石にそこまでは。同じアイディアには辿り着けたんですけど、私が考えることは誰でも考えられるって言われまして」

「……おいおい」

「まさか、横取り……? あの男、極刑にすべきでは……? 三年前からの魔導技術局の質の低下も、絶対イルゼさんがいなくなった影響よね……?」


 ユリアティーネ皇女殿下がぶつぶつと何か呟きながら唸っている。その様子が怖くて視線を逸らすと、また鬼みたいな形相で、それなのに笑みを浮かべているフリッツさんを見てしまう。

 もう目を閉じたい。むしろ馬車から降りたい。森に、森に帰して……迷子になってもいいから……。


「――イルゼさん!」

「は、はい」

「私は決めました! イルゼさん、私には貴方が必要なのです!」

「ひぇ」


 唐突に手を両手で握られ、熱烈な告白をされてしまう。そもそも、どうして必要とされているのかわからず、勢いに押されることしか出来ない。


「貴方にはどうか、我がグロストラウム魔導師団の技術顧問になって頂きたいのです!」

「……技術顧問、ですか?」


 クリア村のリナちゃんへ。なんだかお姉ちゃん、とっても凄いことに巻き込まれそうになってる気がするよ。

 

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