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4/10

【4】

「お待ちしておりました、シャルロット様」

「お初にお目にかかります、カマル王」


 ロアエでシャルロットを待っていた夫となる人は、予想通りというか何と言うか、同僚のイラストレーターの好みドンピシャなキャラデザの少年だった。彼女が担当したとすれば、この少年王はまあまあ優秀で平穏な治世を敷く予定のキャラクターであろう。何せ彼女、グロは描けない。ふうっわふわっなきゃわいいショタ担当なのだ。そしてセオリー通りなら腹黒設定を企画に盛られているんだろう。

 そしてそこまで思い浮かべてシャルロットは気づいた。自分、今度は展開次第では離婚騒動が起きるんじゃなかろうか。離婚で済めば御の字で、うっかりしてると病死か毒殺フラグ乱立しているんでは無いだろうか。だって、夫たる彼は攻略対象ってことでしょう?今度こそシャルロットは当て馬悪役令嬢ポジションというやつでは?


 内心大混乱を起こしつつ、はじめましての挨拶を続けていれば、少年王はあどけなさの残る顔で、シャルロットの手の甲に口付けを落とした。


「あなたに唯一の愛を誓います」

「あら、ありがとう存じますわ」


 今回政略結婚において、力関係はシャルロットの方が上となる。ロアエは無抵抗で帝国の属国になるため、ロアエのハレム文化は撤廃となり、この少年王は若干10歳の身の上で6つ年上のシャルロットしか嫁を娶らない宣言をすることになってしまった。帝国の法であっても、数人の側妃は認められているが、今回は王権の回復が大前提にある。ロアエの王族の滅亡は何がどうなったのか詳しくは聞いていないが、もうこの国に残されているのは目の前の妾腹の王子だけなので、血が薄まることは歓迎されない。

 ショタが射程外だろうがなんだろうが、シャルロットはこの少年と子をなすためにここへきた。性癖がアレだが、年齢関係的にはグラシャラボラスとの方がまだ抵抗は少なかったのを惜しく思う。この年の少年に愛を誓われても、ときめく以前に「イエス、ロリショタノータッチ!」の標語しかシャルロットには浮かばない。


「カマル王の歓迎は受け取らせていただきましたわ。私と貴方様との関係が今後どのような変遷を迎えるかはわかりませんが、可能な限り良好であれるよう、心から努めて参りたいと思っております」

「……愛は誓ってはくださらないのですね」

「愛は誓うものではなく育むものでしてよ、カマル王。空々しい誓いに縋るより、私は本音を伝えれる関係を好みます。私が胸を張って愛を誓えるようになれるよう、お互い頑張りましょうね、カマル王」

「……貴女は噂以上に素直な方なのですね、シャルロット様」

「お嫌いですか?」

「いいえ、とても魅力的に思います。……長旅、お疲れでしょう。湯を用意しております。まずはゆっくりお体をおやすめください」


 にこりと愛らしく笑った少年は侍女に後宮の案内を任せ、公務へと戻っていった。

 家族を失ったばかりだろうに年上のババアを嫁に貰って気を使わねばならぬとか、シャルロットには同情しかない。乱立する死亡フラグの何もかもが、もう仕方がないか、とあきらめがつく程度に少年王はシャルロットの庇護欲をそそった。年上のはずのグラシャラボラスに対してさえ、我が子を見るような気持ちだったのだ。10歳の少年はもはや孫である。


 そんな初対面を経て1年。

 シャルロットは王城の一角で、カマル王とルアビオン帝国からの楽師と言う名目のゲームヒロイン(たぶん)と忠犬騎士おそらくを介抱していた。侍女も医者も軒並み倒れたので、原因は転移陣から漏れ出たグラシャラボラスの魔力による可能性が高い。シャルロットは一応王家の血が入っているので、グラシャラボラス本人から直接喰らわない限りは酔うことも無いが、基本的に悪魔の魔力は人を酩酊させる効能がある。ルアビオン帝国の2人に取り付けられた数々のグッズから考えられるに、相当グラシャラボラスは怒りを溜め込んでいるようだ。極大魔力を使用する転移陣の起動のため、一時的とは言え装備していた魔力過多状態だったグッズへの意識が外れてしまったために、グッズ製作者たるグラシャラボラスの魔力が暴走を起こし、高濃度の悪魔の魔力だまりをつくってしまったようだ。

 耐性があるのが残念ながらシャルロットだけな事態のため、王妃ではあるものの一人暴走している道具類をひとつづつ検分し、魔力を奪い取り稼働を止めて片付けて行く。

 半分ほどをなんとか片付けたあたりで、一番初めに気を取り戻したのはゲームヒロインと思しきピンクブロンドの美姫だった。


「もうしわけありません……」

「仕方ありませんよ、大丈夫ですか?もうしばらく横になさっててもよろしくてよ」

「いえ、そう言うわけには……貴女様はもしや、ロアエ王妃様では……?」

「よくお分かりになりましたね?私貴女にお会いしたことありましたかしら?えーと……」

「アネッサ・サンティレールと申します、シャルロット・ロアエ王妃様。はっ!私ったらなんてことを!!今お手伝いをっ……!?」

「落ち着きなさって。グラシャラボラス様の魔力は酩酊作用がございますから。慣れでなんとかできるような代物でもありません。たぶんこれ、あの方から私かロアエ王に向けた些細な嫌がらせでしょうし」

「嫌がらせっ!?」

「ああそうそう、飴ちゃん舐められます?べっこう飴しかありませんけど」


 驚いて身を起こそうとしたアネッサを制し、シャルロットは柳瀬真由美時代からの習慣でポケットに入れていた飴玉を取り出して手渡した。


「あめ、ちゃん……関西人みたい……」

「あら、アネッサさんは関東人ですの?」


 関西人、と言う懐かしい日本語を思い出し、シャルロットは手を止めてアネッサを振り返った。

 驚愕に見開かれた桃色の瞳には、わかりやすく「感激」の2文字が浮かんでいるようにすら見える。


「あれ!?え、シャルロット様、日本人ですか……!?」

「あらこの程度のかま掛けで引っかかるとはガチですね?ええ、私前世は柳瀬真由美と申します。乙女ゲーム等のイケメン男子専門のイラストレーターをしておりました。貴女は?」

「岡嶋智子です、乙女ゲームのバックミュージック制作などを仕事にしておりました……え、スピード解決!?」

「何が解決するんですの?」

「この世界メディアドラグーン社の乙女ゲーム“幻想の白亜城”に酷似していると思いませんか!?」

「ああなんかそんな名前だったような……数名のキャラデザとカットを担当しただけで未プレイですのであまり確証は持てませんが」

「私もバックミュージック制作しただけ未プレイですので、自信は全くありませんが!!情報のすり合わせしませんか!?」

「あ、やっぱりこのゲーム結構死亡フラグやばい系でしたか?」

「私、葬儀曲66種類作りました」

「何考えているんでしょうねあの会社。そう言えば私、バッドエンド用に5種ほど攻略対象の死体を描いたような」

「ヒロイン用葬儀曲は24種類あります」

「あれ本当に乙女ゲームとして発売したんでしょうか……そうですね、早急にすり合わせが必要に思います。お疲れとは思いますが、この惨状が片付いたら、空いている客室でお茶会をいたしましょう」

「ああ良かった……!!これで生き延びれるかもしれない……!!」


 滂沱の涙を流すアネッサにシャルロットは慄いた。そんなに過酷な展開が多いのだろうか、乙女ゲームなのに。

 そこでシャルロットは元婚約者であるグラシャラボラスの設定を思い出した。殺戮者タグのある攻略者がいるんだから、そりゃあ死亡フラグぐらい乱立するものだろう。

 この一年、ぽやぽや少年王とほのぼのおままごと生活を送っていたので忘れていたが、確かにグラシャラボラスの側は殺伐感が凄かった。

 今でも受け答えを間違えたら即首を跳ね飛ばしてきそうな感じの男だったのも骨の髄まで覚えている。魔力の具合から考えるに相当お元気ではあるようだが、できればこのままフェードアウトし続けていきたい感満載だ。ゲームヒロインには合掌を贈るしか無い。

 しかし岡嶋さんも未プレイなので、不確定要素だらけではある。果たしてトゥルーエンドまでの道筋は見つかるだろうか。


「誰も死なないルートがあるといいですね、グラシャラボラス様」


 悪魔の血がもたらす殺戮衝動と戦い続けているであろう、元婚約者の不機嫌な顔を思い浮かべながらシャルロットは1人呟いた。とりあえず愛で1年抑え切ったらハッピーエンド、の草案の走り書きを信じたい。誰の愛かはわからないのがミソだが。


 暴走中の最後の一つ、忠犬騎士の腰についているグラシャラボラス謹製護衛器具を止めたシャルロットは特大のため息をついた。これからきっと忙しくなるに違いない。


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