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遺伝子分布論ZERO  作者: 黒龍院如水
不思議
7/80

妄想キャンプ

  それぞれ午前中でバイトや習い事を終わら

 せ、駅に集まってくる。土曜日昼の12時前。

 

 駅前には、すでに青いスポーツ・ユーティリ

 ティ・ビークルが止まっている。7人乗り

 のタイプだ。運転席にサングラスをかけた

 太目の女性が座る。

 

 ワシントン連邦製、ジェップ社のグランド・

 アパッチの最新モデルだ。ミナ・ヤマダは、

 庶民の前で言える値段ではないと言う。運転

 に慣れるまでは頑丈な車に乗った方がいい

 という父の奨めだ。

 

 最初にやって来たのはテツヤ・ミマタ。

 気づいてバックドアを開ける。そこに荷物

 を入れて、左側の助手席に乗ってくる。

 ワシントン連邦製であっても、ヤマト国

 仕様の右ハンドルだ。

 

 ミナがサングラスを上げてこちらを見たので、

「あの二人はもう歩いてくるよ」と告げる。

 テツヤは登山用の服装だ。さすがに夏山でも

 半袖だけで行くのは自殺行為だ。

 

 リンゴ・ナナイシとコウ・サナミが近づいて

 来たのを見て、ミナが一度閉じたバックドア

 をもう一度リモートで開ける。

 

 7人乗りの3列目を倒しているので、荷物を

 置くスペースは充分にある。そして、リンゴ

 がウキウキで乗ってくる。

 

 まずはセンリュウ荘バス乗り場まで一時間半。

 4人で高めのテンションで車をスタートさせ

 るのだが、ものの数分で2列目の二人が

 寝てしまう。

 

「ナビは寝るなよ」とミナから言われ、必死に

 耐えるテツヤ。しかし、シートの角度が

 もはや起きているためのそれではない。

 

  センリュウ荘に着いて、3人を起こす。

 そこから、14時半発のバスに乗る。バスは、

 1時間弱で峠のキャンプ場まで連れて行って

 くれる。

 

 バスが到着し、4人でウキウキで乗る。高め

 のテンションでバスもスタートするが、もの

 の数分で4人とも眠りに着く。峠は終点

 なので、寝過ごすことはない。

 

 他の客が降りる音でミナが目を覚まし、他の

 3人を起こす。途中で色々と景観が見られる

 所があり、バス内でもアナウンスされるの

 だが、4人とももちろん全く覚えていない。

 

 バス停を降りて荷物を担ぐ。古い造りの

 山荘がある。そこから歩いて5分ほどの距離

 にキャンプ場があるので、そこを目ざす。

 明らかに下界と空気が違う。小雨だ。

 

 ミナとリンゴとコウは色は違うが新しめの

 バックパック。コウのはリンゴが買って

 あげたもの。テツヤは、少し型の古い大き目

 のリュックサック。よく年配の登山者が

 懐かしそうに眺めていく。

 

 キャンプ場には十いくつかのテントが見える。

 近くには幅数メートルの川が流れる。下流の

 ほうの開けた場所まで行く。

 

「よし、いいかみんな、ここを、キャンプ地と

 する!」テツヤが、いったん天を指した指を、

 地に向ける。

 

 去年のシーズン終わりごろから同じテントを

 使っているので慣れており、ミナの担いで

 きた大きなバックパックから取り出した

 テントを20分そこらで設営する。

 

 ツールームタイプの6人用なので、荷物など

 も中に入れることができる。折り畳みの

 チェアなども取り出し、いったん落ち着く。

 

「じゃあとりあえず」

 と言ってテツヤが缶ビールを取り出す。

 

「お、待ってました」と残りの3人が手を出す。

 乾杯して一口飲んでから、

「あれ、ところで君たち、誕生日いつだっけ?」

 完全に二十歳を越えているミナが問いかける。

 

  18時、日の入りまではまだ時間がある

 のだが、山間部でかなり暗い。ヒグラシの

 ちょうど鳴き始める季節なのか、最盛期ほど

 ではないが聴こえてくる。

 

 ミナが即席ラーメンを作っており、ちょうど

 テツヤが起きてくる。缶ビールで落ち着いた

 あとにテント内ですぐ寝てしまったのだ。

 学生はよく眠る。

 

 ソーセージを輪切りにし、キャベツを千切っ

 て入れる。そこに卵を落とす。卵は貴重だ。

 黒コショウをつけて出来上がり。

 

 出来上がったコッフェルをテツヤに渡す。

 そして次のに取り掛かる。

 

 さっきポリタンクに水を汲んできたので、

 そこからコッフェルに水を入れ、燃料缶の

 上のコンロに置いて火を点ける。

 

「山で食うインスタントはホントに旨いな」

 テツヤが食べながら呟く。

 

 ふたつ目が出来上がるころにコウが起きて

 くる。そして、コッフェルを手渡され、

 テツヤと一字一句同じ言葉をつぶやく。

 

 その後リンゴが起きてきて、全く同じこと

 が繰り返され、ミナが自分の分を作るの

 だが、これは当然自分用に塩加減なども

 なされることから間違いなく旨いため、

 同じ句を呟かざるを得ない。

 

 そのうえ、アンチョビの缶詰めやら塩辛の

 瓶詰まであるのだ。そして、焼酎のパック

 を取り出す。

 

「そういえばさあ、去年、コマ岳の時、

 テツヤ潰れてなかったっけ? たしか山頂

 アタック出来ずに寝てたよね?」

 

「うっ。あ、あの時は、あれだ、バイトの

 動員で日本中移動して疲れが溜まってた

 んだよ」

 

 ラーメンを食べ終わったリンゴが焼酎を

 コップにつぐ。

「あー、山で飲む酒はホント旨い。ていうか

 さあ、やっぱこのテント快適だねえ」

 

 テツヤのために話題を変えてあげようとする

 リンゴだったが、あることを思い出して、

「そういやビッグザマウンテンの初期のころ

 って、えらい古いテント使ってたよね」

 

「ぎくぅっ!」

 という音が聞こえてきそうなほどに

 挙動不審になるテツヤ。

 

「ああ、テツヤがどっかから借りてきたやつな」

 ミナも思い出す。

 

「そういうこともあったなあ」

 とテツヤが必死に遠い目をするが、去年の

 話だ。

 

「底面と天幕が別れているやつだろ、なんか

 年配の人たちが喜んで近寄って来てたよね。

 ちょっと臭かったし。隙間から虫入って

 くるし」

 今時なあ、とミナが畳みかけるが、

 

「あ、でもそれをミナが親に話したから、この

 テント買ってもらえたんだよね?」

 コウのフォローでなんとか窮地を脱する

 ことができそうだ。コウに親指を立てる

 テツヤ。

 

 

  午後8時も回って、皆テントの中で寝袋

 に収まっている。翌日は4時起床の5時

 出発なのだ。

 

 灯りを消すと、かえって想像力の世界が

 広がり出す。

 

「おれは高校のころからイーエックスエスだよ」

「うん、まあわかる。おれはディープストライ

 クだけど」

 コウとテツヤが話しているのは、アニメの

 ロボットのどれに乗って現実から去って

 行きたいか、という非建設的な話だ。

 

 リンゴとミナも、もちろんどのロボットの

 話をしているのか、理解している。

 

「でもおれなあ、やっぱ最近は、異世界に

 行きたい」

「うん、切々と感じる」

 

「やっぱ剣と魔法の世界だよなあ。おれ、むっ

 きむきのウォリアーになりたい」

「うん、切々と望む。おれの場合ガンナー

 だけど」

 

「ガンナーはギリギリだな。ギリギリあり。

 ほんとギリギリセーフ」

「おれ、長身でイケメンのガンナーで、でも

 何かこう、負のオーラを背負っているという

 か、薄幸というか」とコウが呟くと、

 

「薄幸のガンナーか。弾当たらなそうだな」

 

 横でニヤニヤしながら聞いていたリンゴと

 ミナだが、そこで思わず吹き出してしまう。

 

 笑いを誤魔化すために、ミナが会話に加わり、

「私は魔法使いのエルフだな」

 

「エルフはデ、太目は無理だろ。長身で痩せ型

 が相場だよ」

「いやいや、絶対太目もいるって。魔法使い

 でも体格あるほうが絶対強いし」

 

「それだと殴ったほうが早いんじゃないか」

「あ、リンゴはどうなの? なりたいのあった

 よね?」コウが割って入る。

 

「うーん、ファンタジーでありなのかどうか

 だけど、エンジニアでパーティ参加したい

 かな。なんか変な道具いっぱい作んの」

 

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