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面接

  状況は急激に変化しようとしていたが、

 それでも大きな混乱に繋がらなかったのは、

 旧通貨であるドルがしばらく使用できること

 が通達されていたから、かもしれない。

 

 だが段階的に、超巨大ソーシャルネットワー

 クサービスを提供する企業、フェイクブリッ

 クス社が作り出した新しい通貨、リーブラに、

 ドルが置き換えられることになっていた。

 

 一方、ヤマト国出身で駐在先のゲルマン国

 から研修という名目でオクラホマ州に来て

 いたノブツナ・ヤマダ、

 

 同じくヤマト国出身でノブツナの弟、ゾング

 ヤン共和国の企業から研修目的で来ていた

 ノブヒデ、二人の日常生活も大きく変わろう

 としていた。

 

 6月末の大統領宣言の後、7月に入って、

 オクラホマ州政府は、民間人対象で義勇軍の

 募集を開始したのだ。それに対し、ノブヒデ

 が応募しようと言い出した。

 

 そこかしこ、とまでは言わないが、町中に

 貼り紙が出され、オンラインのサイトでも

 内容を確認できた。

 

 それに、ダイアナ・デップに電話で問い合わ

 せてもらい、応募資格などを確認してもらっ

 た。どうやら、市民権が無くても、住所など

 がはっきりしていれば義勇軍に参加すること

 は可能なようだ。

 

  奇妙だったのは、電話問い合わせの時に、

 ファーストパーソンシューティングと呼ばれ

 るゲームの経験と、ゲーム名およびプレイヤ

 -ネームを聞かれたことだ。

 

 その後、すぐ日時を指定され、数日後に早速

 その指定されたホテルの会議室へ向かう。

 

 平日の晴れた早朝だった。

 

 時間少し前に到着すると、自分たちの前にも

 若くてごついのが一人待っていて、軽く挨拶

 する。

 

 会場の部屋から面接を終えた一人が出てくる

 と、その男が入れ替わりに入っていった。

 

 数分後、その男が出てきて、また会おう、と

 挨拶して去っていく。

 

 部屋に入ると、面接者が座る椅子が3つ、

 そのうちふたつにノブツナとノブヒデが座る。

 対面には長テーブルに男が3人。

 

 中央には、30台後半と思われる、おそらく

 事務方なのだろう、あまり軍人らしくない

 男が一人。

 

 その右横には、これはいかにも軍人らしい、

 短髪の若い白人が一人。左横には、初老の

 男性が椅子にふんぞり返って座っている。

 

 面接は、中央の男性が名前や住所を確認

 してくる、という簡単なところからスター

 トし、フルタイムで参加できることを伝え、

 明日から訓練に参加してほしいと言って

 きた。

 

 どうやら、その場で採用が決まったらしい。

 

 最後にその初老の男が口を開いた。

「おまえたちは、どこから来た何者だ?」

 

「ヤマト国から、忍者の末裔」

 ノブヒデが咄嗟に答える。

 

「はっ、面白い冗談だ。だが、君たちの成績

 は見た。期待している」

 初老の男性は最後には白い歯を見せた。

 

  部屋を出ると、痩せて長身長髪の、年齢は

 30台前後の男性が待っていた。お互い目で

 挨拶する。

 

 そして、そのホテルを後にした。

 

 そんな感じで、義勇軍応募の面接はすんなり

 いってしまったわけだが、実際のところノブ

 ツナも前の晩あまり眠れなかった。

 

 義勇軍、というのがどこまでどういった任務

 をこなさなければならないかはこれから

 わかっていくことになるのだろうが、

 

 それでも、軍と呼ばれるものに所属する、と

 いうことは、そういうことだ。

 

 死ぬかもしれない。

 

 そういったプレッシャーが、例えばノブヒデ

 にとってもゼロではないだろう。しかし、

 そういう提案に対して結局合意してしまう

 あたり、自分も普通の人間ではないな、

 と思ってしまう。

 

 集中力を高めるほど、ゾクゾクする感覚が

 出てきてしまう。いや、間違いなく恐怖感が

 大半なのだが。

 

 覚悟を決めてしまうと出てくる感覚。

 

 いずれにしても、そういった覚悟を決めても

 良いような状況ではあった。

 

 おそらく一時的ではあろうが、ヤマト国へ

 帰る渡航手段がほとんど無い状況だった。

 何か特別なツテでもあれば、テキサス州

 ヒューストンにある総領事館に逃げ込んで、

 空路なり陸路なり海路なりで逃げられる

 のかもしれない。

 

 しかし、そうった手段は、例えば家族連れで

 来ている駐在者などを優先させればよい。

 

 ノブツナにしても、ノブヒデにしても、別に

 勇敢、というわけでもない。状況が悪ければ、

 いつだって逃げる。面倒なことは嫌いだ。

 

 しかし、今回は、何かを感じる。

 

 面倒事を避ける以上の、何かを感じるのだ。

 それは、面接のときの、初老の男の目の中に、

 あるいは、義勇軍募集の、デザイン的にも

 あまりあか抜けていないポスターにも。

 

  翌日から、過酷な訓練が開始された。

 オクラホマシティ、ダウンタウン中心部に

 あるオフィスに集合し、そこの更衣室で

 着替えて業者の格好になる。

 

 軍の若いスタッフが一人いて、簡単な説明を

 受ける。色々と聞きたいこともあったが、

 質問しても困りそうなことが目に見えたので

 やめて、言われたとおりにする。

 

 そして、暑い中、重い荷物を抱えて、

 歩き回る。特殊な通信機を使用しながらだ。

 ひたすら、通信しながら目標地点とルートを

 定め、そこに歩いて向かう。

 

 メンバーは4人。

 

 ノブツナとノブヒデ、そして、面接のときに

 見た二人だ。

 

 ザリア・メシコフ。

 身長はノブヒデより少し低い170センチ

 少し。しかし、体はごつい。短髪で若い男性

 かと思っていたが、実は女性で既婚、軍属

 経験あり。

 

 マキシム・ベナーク。

 身長は180センチ弱あるノブツナより

 明らかに高く、190センチ前後ありそうだ。

 長髪でしっかりしたアゴ、口数は少ない。

 ひどく痩せて見えるのは、この州が全連邦で

 も肥満が多いためだろう。

 

 お昼を挟んで、もう二人。計6人となった。

 そして、またひたすら暑い中を、重い荷物を

 担いで、通信部の指示に従って歩き回る。

 

 ジョルジョ・ドミニチ。

 ノブツナとほぼ同じ身長だが、体格がいい。

 口ひげを生やしており、その見た目から経験

 者に見えるが、まだ若く軍の経験はない。

 

 アントナン・ジャッケ。

 マキシムよりも背の高い黒人。彼も口ひげを

 生やし、見た目軍人ぽいのだが、軍経験は

 なく、どうやらこの中で一番大きいが一番

 若いようだ。ジョルジョとは既知の仲。

 

 街中を業者の格好で歩きながら、色々と

 話すことができた。

 

 どうやら彼らも、ファーストパーソンシュー

 ティングゲームの成績上位者だったらしい。

 そして、どうもザリアが30歳で一番年長

 のようなので、自然と彼女がチームのリーダ

 -となりそうだった。

 

  そういうことを数日、オクラホマシティ内

 のエリアを変えて行ったのち、ある朝、ミー

 ティングルームで説明があった。

 

 義勇軍の面接があったホテルの、少し大きめ

 のホールに長テーブルとイスが置かれ、

 数十人が集まっている。

 

 が、机の配置などから、招かれた側は合計

 36人であることがすぐわかった。

 6人を1チームとして、6つのグループが

 集まっていたからだ。

 

 ミーティング開始時刻まであと数分あるので、

 ざっと周りを見渡すが、義勇軍とはいえ、

 正規軍ではないとはいえ、あまりに雑多な

 人間が集まっているように感じる。

 

 長髪、モヒカン、特徴的な髪型やヒゲの、

 いかにも軍人、というより傭兵、といった

 面持ちの6人、というチームはまだいい。

 

 明らかに中学生と思われる年齢の男の子、

 そして、太ったただのおばさんにしか見え

 ない女性、少し背の高いただの老人にしか

 見えない男性のいる6人グループ。

 

 全員分厚い眼鏡を掛けていて勉強は出来そう

 な若い男女6人のグループ。

 

 などなど、年齢、性別、体格もバラバラな

 グループが6チーム集まっているのだが、

 どういった説明がこのあと行われるのか。

 

 そこに、二人入ってきた。

 

 いずれも面接の時にいた、初老の男性と、

 背が低く若くて太目の白人の二人だ。

 

 初老の男性が話し出す。

「諸君、義勇軍に参加してくれてありがとう。

 私が、ヒュー・ウェア元帥だ。

 細かい作戦の内容については、ここにいる

 参謀から説明がある」

 

「諸君らは、義勇軍特殊部隊という扱いでは

 あるがフィニッシャーとして我が軍に迎え

 られた。期待している。以上!」

 

 元帥、参謀、という言葉も気になったが、

 フィニッシャーとはどういう意味か。

 この混成部隊に勝敗を決めることを期待

 しているという意味だろうか。

 

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