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金融崩壊

  国際資本と国家勢力というものがある。

 

 資本主義経済システムが生まれて初めて

 存在が意識されるもの、かもしれない。

 明文化されていない組織、あるいは派閥。

 

 そのふたつは、元々ひとつであった。あるい

 は、ある時期まで、車の両輪のように、

 同じ方向へ進んでいた。

 

 その方向性が、どのようなタイミングで

 別れてしまったのだろうか。

 

 まずそのひとつ分岐点として考えられるのが、

 その国が、世界の中で最も高い地位に付いた

 時点、ではないだろうか。

 

 もちろん、その方向性の違いは、その時に

 すぐに顕現するわけではない。方向性の僅か

 な違いが生じ、それが徐々に大きくなる。

 

 他国へ侵攻し、あるいは圧力をかけ、その国

 を民主化する。市場開放させる。まさに、

 最高位に位置する国だけに許された行為だ。

 

 そう、その時点までは、国際資本と国家勢力

 はまさに車の両輪だ。お互いの求めるものが

 そこにある。

 

 しかし、最も大きな変化が表に現れるのは、

 その最高位に近づく別の国が現れた時点だ

 ろうか。

 

 つまり、国際資本とは、どの国家が最高位に

 就こうが、関係ないのだ。利益が出るのなら、

 どの国が最も栄えても良い。

 

 それに対し、国家勢力とは、その国が最高位

 でなければならない。別の言い方をすると、

 その国が最高位であるという条件が必須と

 なる人、あるいは集団で構成される。

 

  それらが道を異としたときの、双方の

 特徴が面白い。なぜなら、それは双方とも

 一見矛盾を含むかのように見えるからだ。

 

 例えば、国際資本側が政権を握った場合、

 政策などはどちらかというと国内回帰になっ

 ていく。国内産業重視となる。

 

 逆に国家勢力は、国外に投資家の目を向け

 させる。国外の利益を国内に還元させる。

 

 軍事の面でいくと、国際資本は国内防衛の

 ための正規軍と親和性が高くなり、逆に

 国家勢力は海外派兵部隊と関係が深まる。

 

 国際資本は他国に対し表面的に強硬姿勢を

 取るし、国家勢力は隠然と他国の支配体制

 を強める。

 

 なぜそうなるか、という理由は簡単だ。

 

 国際資本は、その国が世界の中で最高位で

 ある必要がない。だから、最高位を保つ

 ために必要なシステムは、必ずしも維持

 する必要が無い。

 

 逆に、国家勢力は覇権を維持するために、

 あらゆるものをキープしないといけない。

 

 国内産業を重視すれば、利益の回収率が

 下がり経済規模がどうしても小さくなるため、

 海外に投資しつつその儲けをその国の経済

 規模としてカウントする、つまり国内総生産

 を大きく見せないといけない。

 

 国際資本からしたら、資本主義が進んだある

 タイミングで、もうその国が世界一の経済国

 である必要がなくなるのだ。別の国が一位に

 なったほうがより利益が上がるタイミング

 が来る。

 

 しかし、国家勢力からすると、その国が世界

 一位から転落することで、ほぼ全てを失う。

 変化する器用さ、移る器用さを持った者は、

 どこかのタイミングで国際資本に転向する。

 

 最後は、お互いの利益が相反することになり、

 そしてそこに、相克が生まれる。

 

  ルファ・ブルダリッチとサラ・レッドフィ

 ールドが、ルファの実家、といっても地下の

 ゲームルームではなく、2階のルファの

 部屋にいる。

 

 ルファのパソコンの前で、二人とも椅子に

 座り、画面を見ている。今日は、ゲームの話

 ではない。

 

 完全なオフシーズン、というわけではないが、

 少し他のことに集中する期間を設けている。

 

「ほら、これがゴールド価格の遷移。4月から

 見ると、ほぼ倍ね」

 ルファが説明している。

 

「これまでは、株価が下がるとどちらかと

 いうとドルは上がる傾向だったけど……」

 

「この5月からの異変で、株価もドルも大幅に

 下がってきていると……」

 サラが受け答える。

 

「これまでは、ゴールド価格が上がりそうに

 なると、実体の怪しい先物売りでゴールド

 価格を必死に下げていた」

 

「でも、それももう追いつかないと?」

「そうね、もう先物証券発行のためのタング

 ステンの準備すらも追いつかない状況に

 なってしまったんじゃないかしら」

 ルファの言葉にうなづくサラ。なにげに

 タングステンというとんでもない単語。

 

「そう、あなたももう気づいているかもしれな

 い。国際資本はもう、売りに転じた。ドル

 も株も」

 

 これも見て、とルファ。

「これは、ジャンク債の価格と金利のチャート。

 価格は下がり、金利は急上昇。これが意味す

 るところがわかるかしら」

 

 債券が売れていない、とサラ。

「そう、そしてその傾向が、ジャンク債に留ま

 らず上位の債券に波及している。このジャン

 ク債、中身は住宅のサブプライムローンだけ

 でなく、近年は乗用車の購入費用も増えて

 いる」

 

「住宅や乗用車がローンで買えなくなる、

 というのもインパクトが大きいけど、それ

 以上に、このサブプライムローンで資金を

 調達している産業が大打撃を受ける」

 

「それが、前に言っていたシェールガス?」

「代表的なのがそれね」

 一息置いた感じで、タンブラーに入った

 コーヒーを飲むルファ。

 

 サラも、紙製のコップに飲み口のある蓋の

 付いたものでコーヒーを飲む。

 

「エチオピアから仕入れた豆を浅煎りした

 ものよ」

 なんかコーヒーぽくない、優しい味ね、

 とサラ。

 

「ここまでは、一般でオンラインなどでも

 手に入る情報。昼からは、もう少し込み

 入った話になるよ」

 

  昼はルファの運転する車で近所の

 ベーグル屋へ行き、それぞれ好きなサンド

 ウィッチを買ってきた。

 

 サンドウィッチは、好きなことをやりながら

 でも食事ができるように開発されたフードだ。

 

「ここに、面白いデータがあるわ。いえ、

 面白い、なんて言っちゃうと不謹慎かも、

 フフッ」

 

 それは、地域ごとに国民の幸福度をあらわす

 チャートで、しかも、ある地域では幸福度が

 極端に低下し、暴動の恐れがあることを

 示していた。

 

「似たような状況が、他の国でも発生している」

 今度は国ごとのチャートを表示させる。

 例えば、ヤマト国なども危険水域に達して

 いるように見える。

 

「特に、ワシントン連邦と経済的に結びつきが

 強い国ほど、連邦の市場の状況に引っ張られ

 ているように見える」

 なるほど、とうなずくサラ。

 

 逆に、ここ最近で、関税障壁などを設ける

 などにより、ワシントン連邦との経済的関係

 が悪化した国ほど、影響が少ないように

 見える。

 

「でもこれ、幸福度ってどう数値化している

 んだろう?」

 サラが当然の質問を口にする。

 

「ウィスパラーに代表される、内容が公開され

 ているソーシャルネットワークサービスの

 情報をビッグデータとして解析してる、

 ってところかしら」

 

「もちろん最近研究が開始された手法だから、

 どの時点で何が起こる、という精度までは

 まだまだこれからでしょう」

 

 そうね、それはしょうがない、でも、と

 サラが続ける。

「やっぱり気になるのは、これらの状況のあと

 来るものが何なのか……」

 

「社会主義革命」

 ルファの即答に、思わず、あなたは真剣?

 と聞き返すサラ。

 

「もちろんよ、ただし、広義の社会主義革命が

 起きる、という話だけど」

 

 つまりこうだ。

 社会主義革命とは、何も暴力革命だけでは

 ない。選挙によって、そういった政党が

 政権に就くことも広義の社会主義革命。

 

 さらには、政権が変わらなくても、国民から

 の圧力により経済格差が縮まる方向へ政策が

 取られれば、それは広義の社会主義革命だ、

 というのだ。

 

 じゃあこれから、大統領が弾劾されて交替

 するの?、というサラの問いに、

 

「もっと大掛かりなことになりそうよ。

 まず、連邦準備銀行が、破綻する。そして、

 国そのものの形も見直される。具体的には、

 国を大きく4つに分割する。もちろん、

 分割するのは狙いがあるからよ」

 

 サラにとっても、この国の誰にとっても、

 驚きの話だ。

 

  ルファがサラに対して話したいことも

 たくさんあったのだが、聞きたい話も

 たくさんあるのだ。

 

「4分割したうえで、パシフィック連合に

 加盟し、そしてその先に見えるのは、ツナ

 やヒデの言う様な天下三分の計、そして

 軌道昇降機構想。もう、国際資本もそちら

 へ目を向けている」

 

 でもサラ、あなたの持つ構想は、さらに

 その先を見ているかもしれない。

 というルファに、

 

「そうね、自分が今最も気にしているのは、

 人類がそれぞれの土地で、どう暮らすか。

 宇宙進出の話も素晴らしけど、同時に、

 地上の暮らしも変わっていく」

 

 サラが話し始める。

 

「北米原住民は、この大陸中央においては

 定住せずに移動テントで暮らしていた、と

 いうことをヒントに、人々の暮らし、

 そして都市構想そのものを見直してみたい、

 デザインしてみたい」

 

 何かが大きく変わろうとしている今が、

 何かを見直していく大きなチャンス。

 

「例えばそれは、キャンピングカーのような

 ものを使うことかもしれないし、もっと

 発想を変えて、地下都市の様なものなの

 かもしれない」

 

 あるいは、もっと未来、空飛ぶ住居で

 暮らしてもよいかもしれない。

 といったあたりでさすがに発想が飛びすぎ

 たと、二人で微笑む。

 

「ツナやヒデたちからも他の地域の暮らしを

 聞いて、そういった暮らしを自分で見に行っ

 て、応用することも考えたい。例えば、今の

 車中心の都市から、鉄道の大幅な利用を考え

 てもいいのではないか」

 

 それは、アジア諸国のやり方をそのまま取り

 入れるのではなく、欧米的な思考も混ぜ合わ

 せ、そして新しいテクノロジーも踏まえた

 うえで、何か新しいもの、状況を生み出せる。

 

 そうサラは信じていた。

 

 もう既に何度もどん底を経験してきたから

 だろうか、国がこれから破滅的な状況を

 迎えそうなこの時に、

 

 確かな希望が見えていた。

 

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