再会
準決勝は大ホールで2試合同時に行われる。
1試合場あたり7試合を終えてもう午後4時
近く。
大ホールでパソコン部顧問のマルコ・カステ
ラと合流し、控えスペースで素早く作戦を
練る。
「テキサスブリトーズは強い。今日の試合は
全て混戦構成で、相手がどんな構成で来よう
がカウンターを当てようが全て打ち破って
来ている」
マルコが少し興奮ぎみに話す。手にはあい
かわらずこのゲームの攻略本だ。
「ウーム……」
と悩むノブヒデに対し、
「ここは負けてもいいからこっちも混戦構成
でやってみたい。ここまで来たなら自分たち
がどれぐらいなのか試したいんだ」
というガリレオ・ムーアの言葉に他の4人も
同意の表情で頷く、
「しかし……、カウンターを当てられる可能性
も無きにしもあらずで……」
「でも準決勝で決勝を控えて特に変わった
ピックを見せることもないかもしれないね」
「よし、わかった、ここは君たちを信じよう」
「うちのボットキャリーは最高だよ、絶対集団
戦でポジショニングを間違わない、そして
ダメージを出し切ってくれる」
そのコーネリアス・マクマホンの言葉で
決まった。
バンピックが相手の先攻で始まる。
やはり、混戦構成向けのヒーローを選択して
きた。なのでこちらも予定どおり混戦向けの
ヒーローをピックしていく。
そして試合開始。
テキサスブリトーズの特徴は、攻撃的である
こと。混戦構成自体は、後半へスケールして
いくヒーローが主体となるため、ふつうは
序盤から静かな立ち上がりとなる。
しかし、このテキサスブリトーズは序盤から
積極的に攻める。しかも、けして無理な攻め
方ではない。
テキサスブリトーズがまず有利をとり、そし
てイニシャルダイアモンドプロジェクトが
それを取り返す、という攻防が続く。
そして中盤。
強力なバフ、つまり一時的に各種能力を
アップしてくれる中立大型モンスターの
ドラゴン周りで集団戦が起きた。
そこでイニシャルダイアモンドプロジェクト
はミッドボットのキャリー二人が落とされる
が、相手を3人倒して微差で勝利し、
そしてドラゴンを倒す。
さらにそのあと、今度はドラゴンとはマップ
反対側に位置する、巨大ゴーレム、タイター
ン。これもタワーシージ、つまり攻城のため
の大きなバフをくれる。
ここで再度の集団戦。
トップのガリレオが綺麗にクラウドコントロ
ールを決め、4人生き残って勝利、ゴーレム
バフも得てタワーを全てのレーン、2段まで
折り切った。
勢いに乗るイニシャルダイアモンドプロジェ
クト。
しかし終盤前、今度はタンクヒーローの
クラウドコントロールをうまく使用して
イニシャルダイアモンドプロジェクトを分断
したテキサスブリトーズが5人生き残り、
中央3段目のバラックタワーとバラックの
破壊に成功。
ミッドレーンで強化ミニオンが発生し、
テキサスブリトーズがかなり有利に。
しかしその後3分の猛攻を耐え忍んだ
イニシャルダイアモンドプロジェクト。
バラックが再生して強化ミニオンが止む。
しかしその状況で、イニシャルダイアモンド
プロジェクトのメンバーは苦境を楽しんでい
るかのようだ。
「次はだれがコールする?」
「そろそろ私がやるわ、見ちゃいられない」
「じゃあ、ホワイトワルキューレに全て任せる
か!」
「ひとりで5人相手させる気じゃないよね?」
終盤間際の再発生した巨大ゴーレム前、
ルファ・ブルダリッチのメイジヒーローが、
絶妙な範囲クラウドコントロールを決める、
そこに、他のメンバーが順々に、拘束スキル
を決めていく。
プロでも簡単にはいかない、クラウドコン
トロールチェーンが決まり、相手チームは
壊滅した。
悠々と5人で本陣を攻める。
試合後に相手チームのコーチと握手。
「ポケットピックを見せられないかヒヤヒヤ
したよ」
相手チームのメインコーチは、30台後半
の女性だ。
「私たちの不運は、決勝用に秘密兵器を用意
していたことと、あなたたち用に用意して
いなかったことよ」
うちのチームに混戦構成で正面からやりあっ
て勝てるのはプロのチームぐらいだと思って
たわ、と言い残して去っていった。
イニシャルダイアモンドプロジェクトの実力
自体もさることながら、やはりマイナー州
から勝ち上がってきていることで、マーク
されていない、というのが大きいのだろう。
それに、ノブツナには思い当たるフシがある。
確かに、イニシャルダイアモンドプロジェク
トのゲーム内でのチームランキングはそれ
ほど高くないのだ。
しかし、個人ランキングでは平均しても今大
会中かなり高い。おそらく、他のチームは
そこにほとんど気づいていないのではないか。
決勝戦までに少し時間が与えられている
ので、すぐに作戦会議だ。
勝ち上がってきたのは、やはり予想どおり、
ロサンゼルスナチョス。ここまで、準決勝
までを重視していたので、試合模様を
チームの誰も見ていない。
データは得られているので、それを元に
検討を開始する。
しかし、そこは非常にわかり易かった。
今日の試合は全て、アサシンを主体とした
エンゲージ構成で勝ってきている。
あとは、決勝で何を出してくるか。どう
予想するか。
「あえてこちらもアサシン主体のエンゲージ
構成でいくとかどう?」
「エンゲージ構成も練習したけど、さすがに
決勝で出すレベルには達してないわ。しかも
アサシンが得意な相手に五分で戦える自信は
ないし」
答えたのはルファ。
「じゃあポーク構成当てられる覚悟で混戦
構成で臨むか。というよりポーク当てられた
らこちらもポーク見せたほうがいいか……」
「向こうは他のチーム構成は今日一度も見せて
いないからね。ここで出してくるのはあまり
考えられないけど……」
しかし、お互い得意構成を出せば、こちらが
カウンターになっている。それにも関わらず、
この不安感はなんだろうか。
試合会場の準備が整い、メンバーが入って
いく。
異変があったのは決勝戦前に行われる選手
紹介、相手チームの紹介が終わったあとぐら
いからだ。
イニシャルダイアモンドプロジェクトの選手
紹介が始まったが、特にサラとコーネリアス
の顔色が悪い。緊張、というわけでもない。
さっきまで元気だったのに。
しかし、状況を確かめる暇もなく、バンピッ
クフェーズが始まる。相手のバンは、なぜか
サポートに集中している。
オーバーパワーなヒーローをバンせずに、
混戦構成で使用する耐久力の高いサポート
ヒーローをターゲットバンだ。
そこで急いでまだ選択できるサポートをピッ
クすることも考えたが、
「大丈夫、みんなのピックを優先してくれて
いいよ」
コーネリアスの言葉に他のメンバーも合意。
「ブルーライトニング、このラストピック、
僕に任せてほしい」
「わかった」
コーネリアスは青白い顔をしながらも、強い
口調で言い切る。
けっきょく、他のメンバーは混戦構成向けの
強いヒーローをピック出来たが、耐久力の
高いサポートは残っていない。
そして、
コーネリアスがピックしたのは、神仙族の
ヒーラー、セラフィム。非常に特殊なヒーロ
ーで、序盤非常に弱い近接型だが、レベル
アップで遠隔攻撃が使用できるようになる。
ノブヒデが大丈夫か? と声を掛けるが、
すでに試合に集中しているのか、絶対諦め
ない、と何度も繰り返すコーネリアス。
控えスペースに戻って来たノブヒデが、
急に思い出したような声を出す。
「そうだよ! クリムゾンホース、相手チーム
のあのジャングラー」
クリムゾンホースというのはノブヒデのゲー
ム内の名だ。
そう言われて、相手チームの左から二つ目の
席に座る選手を見る。
「いつか、イエロースネイクが話していただろ、
転校していった奴、一見まともに見えるけど
……」
ケノービの家に基礎体力トレーニングを教え
るために訪問したとき、その話を聞いたのだ。
ある人物からいじめを受けていた件。特に
酷かったのがサラとコーネリアス。
その男、
端正な顔立ち、スタイルもよく、異性を引き
付ける笑顔、まあどこにでもいるハンサム
ガイにしか見えないが……。
しかし、イニシャルダイアモンドプロジェク
トのメンバーが座る席の方を見るときに、
時おりヘビのような表情を浮かべて笑うよう
にも見える。
思い込みなのか、それとも。
「あいつに似た表情の男を見たことがある。
しかも、このホテルでだ……」
と、ノブヒデ。
ほほう、それは初耳。……だったかな?
ガリレオとケノービそしてルファも、ボット
の二人を気遣うかのように目配せしている
のが見える。
「大丈夫だ、彼らに任せよう」
自分自身に言い聞かせるかのようにノブヒデ。




