五人目
結論から言うと、ヤマト国のチームは、
その試合に勝ってしまった。
チーム名、ラストサムライゲーミングは、
トップレーンにイーバイ選手、ジャングルに
ピーナット選手、ミッドにコウテイ選手、
ボットキャリーにユトリセダイ選手、そして
ボットサポートにウルフ選手。
相手はハングク国の優勝候補、ケーティー
テレコム。
初戦はまずサムライ側のポケットピックが
成功した。ヒーローたちには、必ずカウンタ
ーと呼ばれる苦手なヒーローが存在する。
プロの大会でのポケットピックとは、その
選手がそれまで見せたことのないピック
であるとか、プロの試合ではほとんど
ピックされないヒーローを選ぶ。
どれだけ強いチームでも、相手のチームの
構成が対策してきていないものだと、かなり
苦戦する。
もちろん実力差がかなりあれば、どれだけ
秘密兵器を出したところで勝てないが、各国
の実力差は以前よりかなり伯仲してきている。
特に決め手となった部分として、大会が始
まるまでの各地域のリーグでは、ミッドレー
ンで終盤に向けてスケールアウトするヒーロ
ーが主に使用されていた。
そこに、コウテイ選手が序盤から圧力をかけ
てレーンを押し込み、サイドレーンに影響を
及ぼすヒーローをピックしたのだ。
コウテイ選手が、それまでの経歴の中でそう
いった序盤から強いヒーローをピックし、
アグレッシブにプレイする、というのを見せ
たことが無かったのも影響した。
そうして初戦は秘密兵器の使用で終盤まで
押し切りサムライゲーミングが勝利。
2戦目はサムライ側が再び、初戦とは
異なるポケットピックを見せ、かつ序盤で
の奇襲を成功させる。
そのまま終盤まで押し切り、まさかの2連勝。
優勝候補がまさかの敗退か、と思われたが、
3戦目、4戦目と空き時間にポケットピック
を対策してきたテレコム側が圧勝する。
やはり優勝候補強し、という流れの中、5戦
目は両チームともオーソドックスなピックで
チーム構成が出そろう。
そして序盤の立ち上がり、テレコム側が5人
で固まって相手ジャングル内に侵入し、奇襲
を成功させる。その時点でほぼ大勢が決した
かに見えた。
しかし、そこからサムライゲーミングが
脅威の粘りを見せる。何度かの奇跡的幸運も
加わり、ゲームは最終盤までもつれ込む。
このゲーム、最終盤になるほど、序中盤で
ついていたチーム間の戦力差がなくなる。
レベルも最高値の18で止まり、装備も最大
数6個が揃ってくる。
その最後のチームファイトでいったい何が
起きたか。
お互いチームファイトにおけるイニシエート
を狙う、つまり相手を拘束する範囲攻撃など
を一番いいかたちで決めるために間合いを
取り合っている際、サムライゲーミングの
ボットキャリーが一瞬明らかに孤立した。
ケーティーテレコムのヒーローたちは、すか
さずクラウドコントロール、つまり相手
ヒーローを拘束する技を繰り出す。
拘束を解除するアイテムを使用して一瞬生き
延びたサムライ側ボットキャリーだが、瀕死
の状態で追い打ちをかけられる。
ラストサムライゲーミングのボットキャリー、
ユトリセダイ選手があやつるマークスマン、
コアトリクエは、そこで神懸った回避行動を
見せる。
時間にして数秒であるが、チームメイトが
戦闘に加わり、スキルをいったん使い切った
優勝候補側が、反転してきたコアトリクエ
含めたサムライ側に壊滅させられる。
その後、充分なデスタイムによりサムライ
ゲーミングが相手側本拠地を陥落させた。
大金星の興奮の中、選手のインタビュー
なども終わって観衆が退館する時間となった
とき、ある出来事があった。
ノブツナ・ヤマダと弟のノブヒデ、サラ・
レッドフィールド、コーネリアス・マクマホ
ン、ガリレオ・ムーア、ケノービ・ミントの
6人でスタジアムの1階ロビーに降りて来て、
いったん日本から3人と落ち合ってから解散
しようとしていたとき、ハイスクールの4人
が知り合いを見つけたようだ。
「あれ、うちの学校の生徒じゃない?」
まずコーネリアスが気づいた。
「ああ、確か3年のルファ・ブルダリッチだ」
ケノービが名前を思い出す。同時にガリレオ
が階段を降り切ってこちらに歩いてくる
ルファという生徒に声をかけた。
「へいルファ! 君は誰のファンなんだい?」
一瞬誰だっけ? という顔をするが、その
4人を見渡して同じ高校の生徒と気づき、
「私はケーティーのアナ選手を見に来たのよ」
ケーティーテレコムで活躍するミッドレーナ
ーの名前を挙げた。
そこでルファが何気にノブツナのほうを見た
時、お互い相手に見覚えがあったようだ。
「あれ? 確かこないだの……」
「ええ、覚えてるわ、空港のホテルで……」
今日は化粧が薄いが、まさか高校生だったと
は思わなかったノブツナ。
お互い驚きつつも高校生たちの会話が続く。
「もしかして君もこのゲームプレイするの?」
「ええ、少しね」
「じゃあ一度おれたちともやってみようぜ!」
「足を引っ張らなければいいけど。ちなみに
プレイヤー名はホワイトワルキューレよ」
「大丈夫、教えてあげるよ」
横で会話を聞いていたノブツナ、ふと思い
出した。先日、高校生4人とゲームをプレイ
した際、相手のミッドレーンのプレイヤー名
が、忘れもしない、そのホワイトワルキュー
レだ。
他の4人は気づいていないのだろうか、もし
本当に彼女がそうだとしたら、ランクは
サファイア4、ここにいるメンバーの中で、
最も高いことになる。
「まさか、こんな子がね……」
と呟くノブツナ。
すると、セツナ・ムナ、ミナ・ヤマダ、タツ
トラ・ウシジマの3人が階段を降りてきた。
と、そのちょうど後ろにいた夫婦がルファの
両親のようだ。なんとなくロビーの端で
大きなグループになった。
「じゃあそろそろ解散しましょうか」
ウシジマが言うと、ミナが何かに気づく。
「何、このひとたち知り合いなの?」
と、ミナがルファと両親のほうを見る。
「おお、確かにこの方々、我々が泊まるスイー
トの隣の部屋にいた方たちでは」
ウシジマが若干聞き捨てならないことを言っ
たような気もしたが、それぞれ挨拶を交わし
ながら解散することとなった。
オクラホマから来た6人は、ホテルをとって
いない。ここからはノブツナが運転して帰ら
なければならない。
その翌日のこと、今ではノブツナ、ノブヒ
デ、サラ、そしてダイアナ・デップの4人で
教会に通っている。
ノブツナとノブヒデはプロテスタントでは
ないが、礼拝に参加はできる。そろそろ礼拝
の様式にも慣れてきたころだ。
しかし、なにかノブヒデの様子がおかしい。
なんだかソワソワしている。
牧師による、神の寛容さについての講和が
終わったときだった。何か質問がないかと
聞かれ、ノブヒデが手を挙げた。
「あ、えっと、すみません、神の寛容性に関
して質問ですが……
あの、その、神は、土着の神々に対しては
どういった寛容さをお見せになるので
しょうか」
「それはいい質問だね」
礼拝堂内が少しざわつく。
ノブヒデが続ける。
「先日、私の生まれた国のネットワークサイト
で4位一体、という考え方があるのを知りま
た。つまり、土着の神々を取り込んで、融合
して、新たな宗教の在り方を探る、という
ものです」
「それは興味深い」
牧師が表面上穏やかに答える。
「例えば、ここがメキシコで、アステカの神々
と対面したとき、神は対立の姿勢を示すのか、
それとも友好を示すのか」
礼拝堂内がさらにざわついてきた。
この大陸のプロテスタントの教会は、同じ
人種が集まる傾向にある。白人や黒人、
あるいはアジア人などで、ここの教会は主に
メキシコ系の人が多かった。
それでノブヒデはアステカの例を出したの
だろう。牧師が答える。
「我々はカトリックと違い、柔軟で先進性も
持ち合わせている。そういう意味で、今頂い
た質問はたいへん興味深い」
といった回答をして、そのあと礼拝堂内で
人々がそこかしこで議論を開始した。




