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遺伝子分布論ZERO  作者: 黒龍院如水
不思議
16/80

コルヒトビト

  ミナ・ヤマダの実家にある車庫が、ほぼ

 スタジオになっていた。6人で入ってくる。

 

「おお!」

 入ってまずドラムセットが目に入ってきて、

 テツヤ・ミマタが声をあげる。

 

「つ、ついにおれの……」

「おい、おれの、じゃないぞ」

 ミナが言うように、買ってあげたわけでは

 ない。しかし、かなり自由に使えるのは

 確かだ。リンゴ・ナナイシとコウ・サナミ

 にとっても、完成後を見るのは初めてだ。

 

「おお!」

「ウシジマ、どうした?」

 セツナ・ムナが、驚きの声をあげる執事の

 タツトラ・ウシジマのところに駆け寄る。

 

「いえ、一般家庭にこのようなスピーカーが、

 この音響ミキサーも、おお! アンプは

 このメーカーですか!」

 

「どうでしょう? 気に入っていただけ

 そうでしょうか」

 ミナの祖父トシゾウと父のシンジが入って

 きた。

 

「いやー、一般家庭でそろえる設備としては

 もう申し分ないのですが」

 こっちのほうは大丈夫だったんですか、と

 人差し指と親指で輪っかを作るウシジマ。

 

「いや、もちろん家族には内緒ですが、私の

 生命保険を解約して……」

 と答えるトシゾウ。ミナには聞かれても

 いい話のようだ。

 

「孫がこの趣味を始めてから、私も息子も

 色々と勉強したのですが、人間、知って

 しまうと色々とほしくなるもので……。

 どうしても最高級のものに近づけたくなる」

「ええ、まあわかります」

 

「ただ、まだ電源だとか電源ケーブルだとか、

 そういう領域には行ってませんよ」

「ええ、ええ、わかりますよ。凝りだすと、

 キリがないですからねえ、この分野は」

 

「まあでもばあちゃんとかも買ってからここ

 来て自己流でドラム叩いたりしてるし」

 少なくとも無駄にはならなそう、とミナも

 付け足す。

 

  そこから、リンゴの電気ベースとテツヤ

 のドラムでリズム帯の練習が始まった。

 2泊3日、住み込みで新曲5曲の練習をやる

 のだ。ウシジマも音の確認をする。

 

 ドラムとベースの音は、バンドの要だ。なの

 で、バンドの演奏は、ベース奏者とドラムス

 奏者がまず意識を合わせるところから始まる。

 

 部屋の隅ではミナとコウとセツナがソファに

 座って談笑する。空調もあって快適だ。

 車庫の改造費用も含めていったいいくら

 かかっているのか。

 

「ウシジマさんって、趣味で公衆伝達機器に

 詳しくなったのかな?」

「いや、彼は元々ライブハウスで用心棒をやっ

 てたんだよ」

 セツナも少し打ち解けてきたようだ。

 

「少し小さなライブハウスだったから、用心棒

 やりながら色々機器を触る機会もあったん

 だって。んで、元々そういうのに興味が

 あったから、自分でもかなり勉強したとか」

 

 セツナとウシジマもそこで知り合ったらしい。

 

「でもさあ、なんでビッグザマウンテンに

 入りたいと思ったの?」

「うーん、いい質問だね」

 一言では答えにくそうだが、

 

「おれ、実は、庶民の文化にあこがれている

 んだ」

 

 最近は、電脳網によりそういった文化を映像

 で見ることができる、いい時代になった。

 と、セツナは語る。それに対してコウは、

 

「まあおれは、好きで貧乏やってたわけじゃ

 ないし、選んでそうなったわけでもないけど、

 もし金持ちに生まれていても、同じような道

 を選択したかもしれない」

 

「ところでコウ君さあ」とミナが割って入る。

 

「セツナ君はビッグザマウンテンに入る、って

 わけじゃなくて、バンド自体も生まれ変わる

 んだよ。なんせボーカルが変わるんだから」

「え、そうなの?」

 とコウは聞いてなかったようだ。

 

「明日リンゴが発表するらしいけど新バンド名」

「え、それインペリアルシャウトでしょ」

 と言ってしまってから、気づいて慌てるコウ。

 

 聴こえていないはずだが、何か空気を察して、

 リズム合わせしながらもこっちを睨んでいる

 リンゴ。

 

「ご、ごめん、……聞かなかったことにして」

 自分たちのバンド名になるとは思っていなか

 ったようだが、何かカッコいいバンド名を

 考えるようにリンゴに言われていたようだ。

 

  ビッグザマウンテンの曲は、リンゴが主に

 作曲していた。作詞は、各メンバーでやって

 いた。新しいバンドになっても、やり方は

 同じなので、セツナが作詞したものが加わる、

 というイメージだ。

 

 作曲の手法も、その都度様々なのだが、

 基本的にフリーのデスクトップミュージック

 を利用している。

 

 フリーのデスクトップミュージックが行える

 ソフトウェアは複数あるのだが、どれも

 無償部分と有償部分に分かれており、作曲を

 行うために必要な音源は無償のものでも

 充分カバーされている。

 

 各楽器の音源をコンピュータ上で視覚的に

 並べていき、曲を作るのだ。

 

 リンゴはそれを、物心ついたころから触って

 いる。両親が、経営している工場が忙しい

 割に実入りも少ない時に、子どもに与える

 ために見つけ出したものだ。

 

 コンピュータに接続するタイプの鍵盤も

 安くで存在したので、買い足した。

 

 なるべく長時間、なるべく長期間、大人が

 いなくても遊んでくれる玩具、そういう

 狙いが見事に当たった。リンゴと、そして

 兄のジュンは、いつまでもそれで遊んだ。

 

  いったん曲を作ると、それをオンライン上

 で共有する。共有化されたファイルは標準的

 な規格の形式になっており、どの作曲ソフト

 ウェアでも開いて聴くことができる。

 

 なので、今回の新曲も、2か月も前から

 メンバーに配布して、それぞれが自分の

 パートを練習して来ている。

 

 それに加えて、オンラインチャットなるもの

 も利用している。例えば、今回のリズム帯

 の音合わせにしても、事前に音声チャットで

 数時間ほど行っているのだ。

 

 もちろん、現場で音合わせする場合の数割

 程度のことしかできないが、好きな時間に

 場所を選ばないし、現場での作業もスムーズ

 に入れる。

 

 つまり、数十年前のそういった作曲作業から、

 コンピュータとネットワークがやり方を

 全く変えてしまった。

 

 そして、そういったことはあらゆる分野で

 起こっている。

 

  リズム帯の音合わせが終わって、メンバー

 を集めるリンゴ。

 

「やるよー!」

 楽器の配置は、すでに本番を想定したもの

 になっている。

 

「ほらそこ二人! エフェクタにかじりつか

 ない!」

 コウはメインギター、セツナはギターボー

 カルということで、お互い演奏するギター

 だけでなく、音色を変えるエフェクタにも

 興味が湧いてしまう。

 

 コウは、単体エフェクタを2種持っており、

 それを小さめのエフェクターケースに入れ

 ているのだが、

 

 セツナはマルチエフェクターと呼ばれる、

 一台でほとんどのエフェクトタイプを

 カバーするもので、しかも最上位機種の

 ようだ。どうしても気になる。

 

 一方ベースギターを演奏するリンゴの方は、

 エフェクタは使わず、イコライザのみを

 使用する。

 

 ベースのほうもジャズベースのパッシブ

 タイプ、つまりネックが少し細くなって

 おり、かつ音量の増幅器を内蔵しない

 タイプだ。

 

 それを、イコライザの設定がカマボコ、

 つまり音の周波数の中帯域を増強させた

 設定が好きなのであるが、そこは曲に

 よって調整が必要な場合がある。

 

 特に、今回はボーカルがミナからセツナに

 替わり、ミナがキーボードを担当することに

 なったため、音同士が被るような帯域では、

 エフェクタによって音を絞ることも必要に

 なってくる。

 

 練習によって、その辺も徐々に見極めて

 いくのだ。

 

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