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遺伝子分布論ZERO  作者: 黒龍院如水
不思議
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13/80

魔都

  摩天楼。

 

  ヤマト国の首都、ムサシの中心部、西の

 玄関口と言えるニュージューク。初めて

 訪れた際も、今も、まず目が行くのはその

 高層ビル群ではなく、人の多さだ。

 

 リンゴ・ナナイシとコウ・サナミが、駅の

 改札を出て、目的地へ向かう。もうそこは

 2度ほど訪ねたことがあるので、道も

 だいたい分かって来た。

 

 兄の、ジュン・ナナイシの住むアパートだ。

 

 歩くと30分ほどの道だが、デパートなどに

 寄り道して、けっきょく着いたのは駅を出て

 から1時間ほど経ってからだった。

 

 最寄りの地下鉄駅などもあるのだが、地上で

 色々と見ながら歩きたい気分だった。

 

  アパートの呼び鈴を押すと、すぐ返事が

 あり、ドアが開く。

 

「お、まいど」

 リラックスした格好の短髪の男が出てきた。

 ジュンだ。

 

「さっそくメシの材料買いに行きますか」

 もう夕方前だったので、荷物を置いて3人で

 近くのスーパーへ歩いて向かう。

 

 ジュンのアパートで夕食の際は、だいたい

 鍋料理だ。昆布ダシの水炊きをポン酢で食べ

 ることにした。ジュンは一人で自炊もするの

 で、食材を買うのに手慣れている。

 

 といっても、実はあまり買うものはない。

 実家からかなりの食糧を送ってくるからだ。

 足りないものだけ買っていく。

 

 そして、アパートに戻る。

 

  一人暮らしにしては広い間取りだが、

 築年数がかなり経っていることもあり、都心

 とはいえ安い家賃の二間。キッチンも充分

 自炊が出来る広さだ。

 

 去年はビッグザマウンテンのメンバーで来た

 が、5人で鍋を囲んでも問題ない広さなのだ。

 畳の部屋にローテーブルを置いて、簡易の

 ガスコンロに土鍋を置く。

 

 部屋は比較的片付いており、小説を書くため

 のノートパソコンと、本棚に少しの書籍。

 衣類なども収納にまとめられている。

 

 ふだんから来客が多いのだ。

 

 学生のサークル仲間が訪ねてくるのだが、

 ジュンの実家から送られてくる食材が多い

 ため、それを料理して一緒に食べる、という

 ケースが多いようだ。

 

  夜の6時前になって、鍋と酒盛りが開始

 された。リンゴとコウの、特急で来る際に

 していた話題の続きだ。酒の缶も開ける。

 

 頃合いで鍋の蓋を開けると、豆腐、白菜、

 シイタケ、人参、大根、シラタキ、豚と

 鶏肉などが湯気をたてている。

 

「ああ、その話? これから詳細設定考えよ

 うとしてる作品のひとつかな」

 ハルノブがテンカイになる話だ。

 

「テーマはねえ、どういう構想で天下を統一

 しようとしたか、ということ」とジュン。

 

「アツモリとトウキチ、そしてモトヤスは

 それぞれ違った方向性の天下統一を目ざして

 いたってことでしょ?」とリンゴ。

 

「アツモリとトウキチについてはかなり同じ

 ような方向性だったと見てるけどね」

 とジュンが答えるのだが、

「あのー、そこに関してだけど」とコウが意見

 を言いたそうだ。

 

「アツモリは、資本主義目ざしてたんじゃない

 かって最近思ってる」

「え、何それ?」

 

 ジュンがノートパソコンを引っ張り出して

 何か調べ出す。

 

「まあ確かに、これまではアツモリは皇帝を

 目ざしてた、って説が多くて、自分もそれで

 行くしかないかなあ、って思ってたところ

 やねんけど」

 ジュンはムサシに出てきてなぜか西の地方の

 喋り方が身に付いていた。

 

「資本主義の発端っていつなんの?」の問いに、

「まだ定説が無いみたいなんですけど、自分は

 ルネッサンスだと思ってます。教会が利子を

 認めたのもその時期、複式簿記が発明された

 のもその時期」

 

「そうすると、時期的には合ってくるね」

 オンラインの情報を検索しながら、コウ君、

 その設定、激アツやね、と付け加える。

 

  お昼に遅めの弁当を二人で3つ食べたにも

 関わらず、リンゴとコウの食欲は旺盛だった。

 といっても酒を飲みながらなので、一気に

 たくさんおなかに入る感じではない。

 

 部屋では窓を閉めて空調を効かせ、扇風機も

 回っている。都心とはいえ緑も多いのか、

 虫の音なども聞こえてくる。

 

「東暦1600年に、天下分け目の合戦が

 あったやろ」

 ジュンがこれから書こうとしている小説の

 内容について話している。

 

 合戦にあたって、モトヤスが、わざと息子の

 ヒデタダ率いるミカワ軍団本体を遅らせる

 ことで、万一のケースに備えた、という説が

 あるが、実際の備えはそれだけではなかった。

 

 第2の備えが、もともとトウキチの家臣だっ

 たヨシタカだ。ヨシタカは、合戦に合わせて

 西のはて、ナインステイツで挙兵し、あっと

 言う間に西の地方を席捲する勢いを持つ。

 

 そこに、テンカイ扮したハルノブが、年齢は

 ちょうど80に達していたが、力を貸して

 いた、というのだ。

 

 さらに、第3の備えが、リクゼン国の

 マサムネ。

 

 けっきょく、モトヤスは、ハルノブとも協議

 のうえ、決戦でモトヤスが万一敗れ、かつ

 相手側の強敵が残った場合、ヒデタダでは

 なく、マサムネを立てて後継とする方針で

 いたようだ。

 

 決着が着いてすでに強敵が残っていなければ、

 マサムネがヒデタダを補佐する。しかし、

 ヒデタダの手に負える状況でない時は、

 マサムネが立つ。

 

「そこに、思想的つながりがあったんとちゃう

 か、っていうアイデアなんや」

「というと?」 

 

「ラオツ思想やね」

 

 例えば、ハルノブはブッダ教を意識して、

 信玄という法名を付け、ヨシタカは基督教

 に入信して如水、つまりジョセフと号した

 わけであるが、

 

 二人ともサオサオの兵法の実践者であり、

 サオサオの兵法の根底に流れるラオツ思想

 を隠し持っていた、というのだ。

 

 その想いが、玄、という字や水という字に

 現れていると……。

 

「つまり、投機的タイプの陣営と、堅実的

 タイプの陣営に別れて争っていた、と捉えて

 いるわけ」

 すでに鍋は完食されてつまみのスナック菓子

 をつまんでいる。

 

「なんでそこまで堅実派が頑張ったか、それは、

 トウキチが太閤の大早計をやらかした、と

 いうのも少しはあるけど、天下を盗みたい、

 という芽を潰して戦国時代に後戻りしない

 ようにした」

 

 下剋上で一攫千金を狙うアブナイ連中が

 多すぎて、投機的な雰囲気では平静を長期間

 たもつのは不可能と考えた、というわけだ。

 

 なので、その後のオオサカの陣では、

 ハルノブの愛弟子であったユキムラが

 オオサカ城に入ることで、そういった不満

 分子を一か所に集めることに成功している。

 

 そういう意味では、ユキムラも備えのひとつ

 と言える。

 

  そこに、来訪者が二人。

 大柄でスキンヘッドのケイスケと、小柄で

 痩せて長髪のシュンペイだ。まいど、と

 挨拶して入ってくる。

 

 鍋の昆布を交換して、まだ充分残っている

 具材を放り込む。二人はジュンのサークル

 仲間だ。何の話をしていたのか簡単に

 説明する。

 

「夏場にえらいあっつい話してまんなあ」

 シュンペイが食いつく。

 

 でもね、とジュンが続ける。

「遺伝子分布論的には、投機派と堅実派、どっ

 ちが優れているとか、良いとか悪いとかは

 あんまないんだわ」

 

「タイミングというか、こういう状況では

 こっちのやり方を選択する、ほんで、

 そういうのが好きな人が遂行していく」

 いつの間にか夜の9時をまわっている。

 

「ほんで、このコウ君が、アツモリが実は

 資本主義やろうとしてた、っていうネタを

 持って来たんだわ」

 

「へー、それはぶっ飛んでまんなあ、楽市楽座

 じゃあぜんぜん満足せんかったんや」

 シュンペイも感心している。

 

 コウは昼間の移動で疲れたのか、もう眠

 そうだ。

 

「僕らね、ふだんは未来のことについて色々

 考えて活動してるんやけど、未来のことを

 考えようとすると、現代のこと、そして過去

 のことも凄く面白くなってくるんですわ」

 ケイスケがリンゴに活動について説明して

 いる。

 

 まだまだ夜は続きそうだ。

 

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