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遺伝子分布論ZERO  作者: 黒龍院如水
不思議
11/80

虚空のオーケストラ

  彼らのコミュニケーションもアグレッシブ

 さが加速し出した。

 

「おれ、人脈を作るためにムサシのカフェバー

 に月一で通ってるんだあ」

「つまり学生のうちからグランドデザインを

 描いて、シナジーを生み出そうってことね」

 

「やっぱりワシントン連邦でサクセスすること

 が本当の意味で人生の成功だと思うんだよね。

 そうそう、留学か駐在してみたい」

 

「そのジャストアイデアなんだけどさ、スキー

 ムがきちんとコミットされればブラッシュア

 ップされていくと思うんだよね」

 

「マストなスキルだけじゃなくて、バッファを

 持たせたいの。そうすることで、オーガナイ

 ゼーションにプロフィットをもたらす

 リソースになれると思うの」

 

「ビジョンの違いでリスペクトが変わってくる。

 ペンディングしているイシューに拘ること

 なく、ソリューションにプライオリティを

 与えていきたいんだ」

 

「やっぱり年収は二人で一千万は最低超えて

 いないと結婚する価値ないよね。友達も

 セレクトしていかないと」

 

「エクスキューズミーみんな、バスルームに

 ゴーしてくるのでビーライトバックだよ!」

 もはや英語で喋ってくれないか、と感じ出し

 たとき、タイムアップのようだ。

 

「レン君、アジェンダの次のアイテムは?」

 ツバサのクエスチョンに、

「ネクストはエンプティオーケストラが

 プランだけど、クライアントからコンセン

 サスをゲットできるかい?」

 

「オッケー、アクセスしてみる」

 ツバサがサジェストすると、ゲスト達は

 エビバディがジョインするようだ。

 

  時間は19時を少しまわったところで、

 カラオーケストラの店も予約無しですぐに

 入れた。

 

 8人が入れる部屋に通される。

 

 早速レンが入力端末に曲を入れていく。

 そして、順に一人一曲を入れていくルールの

 ようだ。早速曲が始まる。

 

 席順も、さきほどの居酒屋でのものと同じに

 なった。テツヤは端に座る。

 

 盛り上げ用の楽器も回ってくる。

 タンバリン、マラカス、鈴、カスタネット、

 小さなドラム、トライアングル、小さい鉄琴、

 おもちゃのラッパ、

 

 そのうちのカスタネットが回ってくる。

 ツバサが、素人が毛の生えた程度の腕で

 ドラムを叩き、女子が盛り上がる。

 

「すごーい、かっこいいね!」

「おれ、最近練習してるんだ。ビートに心を

 奪われた、って感じかな!」

 

 しかし、レンの歌う曲がうるさくてあまり

 会話が聞こえない。

 

 間奏に入り、拍手が起きる。超うまいねー、

 という言葉が出るのだが、テツヤが思うに、

 歌い方にクセがありすぎる。

 

 一言で説明すると難しいのだが、何というか、

 男性がモテたいと思ってやる歌い方、といえ

 ばいいだろうか、極度に鼻にかかったような。

 

 レンの曲が終わり、

「どんどん盛り上がっていこー!」

 とツバサが叫ぶ。

 

 曲を入れた順に、女性幹事のアカリ、双子に

 見えるカエデとサクラ、遊び人風のツバサ、

 幸薄そうなタエ、陰気なタクヤ、そして

 テツヤの順に歌うことになりそうだが、

 

 アカリはヤマト国のメジャーな曲を、出来る

 だけ可愛く見えるように歌っている。今

 気づいたのだが、歌う合間、アカリの口元は

 極端なダックマウスだ。

 

 いや、双子に見えるカエデとサクラもそうだ。

 意識してやっているのだろうか。

 

 そして、それが終わるとカエデとサクラが

 英語の歌を歌い出した。

 

「すげえ!」

「最高!」

 

 という声は聞こえるのだが、特段うまいと

 いうほどでもない。だが、二人は英語の歌詞

 で歌う自分たちに酔っているように見える

 のは、酒のせいだけではあるまい。

 

 そして、タエがアニメソングを歌い出した

 のだが、この中では一番マシに聴こえる。

 曲もメジャーな歌手が歌うものだ。

 しかし、

 

「がんばれー!」

「もっと声張っていこうぜ!」

 

 声量さえあればうまい、と勘違いする素人は

 たくさんいる。それよりは、リズムや音程を

 意識したほうがいい気がするのだが。

 

 タエは、その曲が少し昔のアニメソングという

 こともあり、何度も歌い込んでいるのだろう、

 曲に対する慣れを感じる。

 

 次のタクヤは、もう歌う前からオドオド

 していたが、明らかに声も出てなければ

 音程も取れていない。

 

 しかし、特別にトレーニングを積んで

 いなければそんなもんだ。テツヤは昔の

 自分を思い出す。

 

「ドンマイ!ドンマイ!」

 ツバサがなぜか凄く嬉しそうだ。

 

  テツヤの順が回って来た。

 ここのカラオーケストラ店は、比較的良い

 機械を入れていて、テツヤたちがふだん

 歌うようなマイナーなヤマト国、そして

 ワシントン連邦のバンド曲もあったのだが、

 

 雰囲気からしてメジャー以外の曲を歌える

 感じではない。なので、比較的好きでかつ

 誰でも知っていそうな、インディゴソウルズ

 の「気が狂いそう」という曲を選んだ。

 

 歌い出すと、最初皆少しあっけにとられた

 様子だった。明らかに声量から音程から

 リズムの取り方まで、客観的に見てテツヤが

 一番うまいようなのだが、うまいという

 言葉は出てこない。

 

 おかしいな、ビッグザマウンテンのメンツで

 歌えば盛り上がるんだけど、と思いつつ歌い

 切る。

 

 その後、また同じ順で歌っていくのだが、

 ツバサがやたらと酒を勧めてくる。歌う時

 はあまり飲みたくないのだが、雰囲気を

 壊せないので飲むしかない。そうすると、

 あまりまともに歌えなくなってくる。

 

「よーし、どんどん最新の、意識高い曲を

 入れていこうぜ!」

 

 ビッグザマウンテンのメンツでカラ

 オーケストラに行く場合や、実際のバンドで

 演奏する場合と比較してしまい、なにか

 悲しい気分になってくる自分の心を必死に

 否定するテツヤ。

 

 なんとかカスタネットを操るのだが、眠気

 さえ感じだした。しかし、なんとか時間も

 経過し、最終曲に近づく。

 

 最後は、意識高そうな英語の曲を、立ち上

 がって皆で踊りながら歌う感じになった。

 自然と体が動き出す曲というのはもちろん

 あるのだが、コレジャナイ。

 

 しかし、その数分をなんとか乗り切る。

 曲が終わり、なぜかどっと疲れが出てきた。

 

  会計を終え、店の前でしばらく談笑する。

 そして、解散となった。

 

 初めての合同コンパニーは、テツヤが事前に

 に想像していたのとは、かなり違ったかたち

 で終了してしまった。家に帰りつくと、夜の

 10時にもなっていない。

 

「しかし、

 おれはついにコンパニーに参加できる

 男になれたんだ」

 心に言い聞かせつつ、帰りに買ってきた

 コップ焼酎をぐびぐび飲んだ。

 

 

  この話には後日譚がある。

 その土日、コンパニーをあらためて研究して、

 テツヤは連絡先を聞くことを忘れていたこと

 に気づいた。

 

 しかし、なんとツバサ経由でタエが連絡先

 を伝えてきたのだ。さっそく連絡をとり、

 時間のある時に夕食を食べることになった。

 

 正直なところ、少し可哀そうな気がして、

 タエと付き合ってあげてもいいかな、という

 気分になっていたのだ。

 

 そして、3回目の食事で、告白する。

 いや、なぜかそういう雰囲気になってしまっ

 た、と言えばよいか。

 

 その結果、テツヤはフラれた。

 

 実は、すでにタエとタクヤが付き合っている

 というのだ。色々と心に混乱を抱えながらも

 日常に戻ろうとするテツヤ。

 

 それほど好きというわけでもなかった女に

 フラれ、そしてなぜかそこそこに大きな

 ダメージを心に受ける。

 

 何だ、これは?

 

 そのテツヤにとって、ビッグザマウンテンの、

 古巣というほどでもないが、居心地の良さが

 身に染みた。

 

 この一連の顛末、いったい何なのか。

 

 おれは、

 おれはいったい何をやっているのか。

 

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