林檎と兵法
フォローザマネー。
大学2年生になったリンゴ・ナナイシ
が最近好きな言葉だ。
政治や経済、歴史の中で、よくわからない
ことがあった場合、お金の動きを調べれば、
真実が見えてくる。
ヤマト国、シナノ県パインモト市にある、
国立大学の2年生。工学部、電子工学科に
通う。
将来は、カーボンナノチューブの研究をする
つもりでいるが、その研究を行っている
研究室はふたつある。
非常に優れた研究結果をたくさん出している
研究室と、そうでない研究室。今のところ、
成績からは、そうでない方に配属される確率
がほぼ100パーセントだ。
リンゴは、いわゆる理系女子だったが、
一般の理系女子と比べても、少し変わって
いるという自覚が自身にもあった。
そのもう一例だ。
サオサオの兵法、というのがある。
お金の流れを意識して歴史を見る、という
趣味以外で最近ハマっているものだ。
東暦200年ごろ活躍したウェイ国の丞相、
サオサオは自信家だったのだろう。
兵法書の冒頭、計篇からいきなり、この
兵法書を用いる者を採用すれば必ず勝ち、
用いない者を採用すれば必ず負ける、
と来る。
では、その勝ち方とはいかなるものか。
それは、兵法書の形篇という章にある。
簡単に言うと、負けない体勢を作り、
相手に勝てるようになったタイミングで
戦いを仕掛けて勝つ。
負けない体勢を作るのは、自分の努力で
可能である。相手に勝てるかどうかは、
相手次第である。だから、勝てる時機を
掴むことが大事、と説く。
勝てるタイミングでしか勝負しないから、
必勝だと言っているのだ。なので、勝利
というものは知るものであり、為すもの
ではないという。
その勝機を見出すためにどうするのか、
ということが兵法書の最後の羊かん篇に書か
れている。羊かんとは、ここでは食べ物の
ことではなく、スパイの隠喩だ。
相手のことを知るには、占いではなく、
過去の出来事からの類推でもなく、物理
方程式による予測でもない。
それ専用の人間、スパイを使うのだ。
相手の状態、というのは古典力学よりも
量子力学的扱い、つまり人の意思に依存
する。
予測が確率に依存してしまうのであれば、
人間でもって確実に確認したほうが早い。
そのスパイの種類もたくさんある。
そこに行って、生きて帰ってくる通常の
スパイに始まり、敵地の中に作るスパイ、
敵方のスパイを逆利用する、嘘の情報を
流すためのスパイ、などなど。
そして、それらスパイを雇うのに、金銭を
惜しんではいけないという。さらには、
トップとは、スパイよりも親密な者はおらず、
うまくいった場合の報酬もスパイより高い者
はいないことを理想とする。
トップとスパイは最も高い機密を共有し、
組織内のどの者よりも細かく打ち合わせする。
いざ戦うとなると、事前に相手のことを
全て細かく調べあげるのである。
それぐらい重要なものなのであるが、
リンゴが属するヤマト国の政府がどれだけ
スパイを重用しているかは、あまり期待
できなかった。
なぜなら、ヤマト国の首都は他国のスパイ
が入り放題になっていたからだ。
他にも重要なことがたくさん書いてある。
まずその冒頭、戦争というのは非常に
重大な出来事であり、間違うと国自体が
滅んでしまう危険性がある。
ゆえに十分な情報収集のうえで、事前に
しっかりと熟考されたうえで実施され
るべきだという。
また、戦争とは、騙し合いであり、実力が
あっても無いように見せ、軍がまだ接近
していないように勘違いさせ、囮を使い、
混乱させる。
あらゆる手段が可能であり、勝手に敵は
こういうことをしてこない、と思い込ま
ないことが大事、とサオサオは説く。
戦う前に、必ず定量的に戦力差を見る。
戦前にきちんと定量的にものごとを観察
できたものほど勝ち、数値化して判断
できない者は必ず負ける。
言われてみれば当たり前のこと、いや、
むしろ耳の痛いことであり、まあ、
間違ってはいない。コンピュータゲームの
プロは、瞬時に全てのダメージ計算を
行っているとも聞く。
具体的な戦術面ではどうか。
やはり、まずは戦わないで勝つことを良し
とする。なぜなら、たとえ勝ったとしても、
損害が大きければ、第三者に敗北する。
なので、まずは相手をまるごと手に入れる
ことから考える。その次に、相手とどうして
も戦う場合は、必ず数的有利を作る。
その上で、こちらは有利なかたち、相手は
不利なかたちにしておいて、戦闘を始める、
といった具合で、有利を作ることを兵法書
として徹底させている。
だから、本当に強い者は、まったく派手さ
を見せないで勝つ。例えるなら、寄り切りで
勝つ横綱相撲のようなものだ。
まとめると、勝つためには自分が横綱に
なるまで待つ、そして、相手が横綱レベル
でない時に勝負をかける。
では、世の中なぜそう行かないのか。
たとえば、部活動の試合などでは、本当に
どうしても負けたくないときは、試合に
出なければいいのである。
しかし、部活動の試合で負けても死ぬこと
は基本的に無いので、試合、という言葉
どおり、試せばいいのである。
しかし、戦争で負けるのに戦いを始めて
しまうケースがある。それは、たいてい
挑発されて嵌められているのだ。だから、
サオサオの兵法に則らないやり方となり、
サオサオの言う通りに敗れる。
他にも有名な言葉に、拙くてもいいから、
早くやれ、というのがある。遅いことなら
猫でもする、と同じ意味だ。
といったことを、まずどこで応用して
やろうかと考えた。そして、同じ学生仲間
とやる、麻雀と呼ばれる卓上競技において
実践した。
効果はてきめんで、時間がどうしても
短い場合を除いて、ほぼリンゴが完全勝利
する結果となった。
やったことはサオサオの兵法そのままだ。
まず、負けない形を作る。絶対安全牌を
常に持つ。相手が強いと感じた時は、基本的
にベタ降りする。つまり、すでに切れている
牌を捨てる。
自分が絶対に勝てそうなときだけ、勝負する。
リーチをかける。麻雀卓という戦場では、
何が起こるかわからない。どのようなツモ牌
の可能性も考慮する。
捨てられた牌と手牌から、確率を算出する。
最善のケースも、最悪のケースも考慮する。
なので、役は全て憶えておく。どんなに一色
で染まろうが、ダメな時はあっさり諦める。
もちろんこれで圧勝できるのは、ほかの仲間
がサオサオの兵法を知らないからだ。
もちろん彼らが勉強する素振りを見せれば、
その兵法は古すぎてもうダメらしい、という
嘘の情報を流す。賭け麻雀でなくても、
勝ちたい。
しかし、遊びには使っても、自分の人生に
おいて兵法を応用して本当に効果があるのか、
少し疑問のリンゴだった。
本書の内容は以上である。上記の内容が
全てだ。ご存知の方もいるかと思うが、
書籍というものは、その冒頭に作者の言い
たいことが全て詰まっている。
従って、これ以降は全て雑談となる。それも、
陰謀論をテーマとした雑談であるため、苦手
な方や心臓の弱い方は、ここで読むのを
止めることをお奨めする。