表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二十歳の贈り物  作者: 平和
前編
4/4

最後の晩餐

 入江さんと友達になった後、部屋の荷物の整理を簡単に済ませてくつろいでいたら、吉田さんに私の歓迎会をすると呼ばれて、食堂という名の広めのダイニングルームへ行くと、そこには想像を遥かに超える光景があった。

 大きいテーブルの上に、六人分のフランス料理のフルコースが並んでいたのだ。


「これ吉田さんが作ったんですか!?」


「いやいや、そんなわけないじゃないですか~。寮の食事は全部天恵さんが作ってくださってるんですよ~」


 全部!?一人で!?

 驚愕の答えに思わず入江さんを見てしまう。


「私、料理をするのが趣味なんです。フランス料理ですので一品ずつ提供するのが望ましいのでしょうが、私も皆さんと一緒にいただきたいですので……お口に合うかは分かりませんが、お好きなものから食べてください」


 魔力か?趣味は魔力で料理を召喚することなのか!?

 ただただ驚く私に、先程お世話になった美人女性が声をかけてきた。


「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私はここの学生寮の管理人をしている入江華澄(いりえかすみ)と申します。娘のこと、これからもよろしくお願いいたします」


「私は明日寺香春です。こちらこそよろしくお願いします……って、娘?」


「はい。天恵は私の娘です」


「ええええええ!?」


 大変失礼だとは思いつつも、私の中でその二人と親子という間柄が結び付かない。

 でも言われてみれば髪型や顔のパーツが似ているような気がしなくもないような……?


 見える人はどう思うのか、桜山さんに聞いてみる。


「入江さん親子を見てどう思う?」


「華澄さんには悪いけど、入江天恵の美しさは別格だ。比べるまでもないだろう」


 そんな彼の返答に、華澄さんが懐かしそうに語りだす。


「天恵が産まれたときは『鳶が鷹を産んだ』と、それはもう夫と二人で大喜びしました」


「お母さん!」


「ごめんなさい。ふふっ」


 ああ、できることなら私も魔界ではなくそちらの世界へ行きたい……

 そして吉田さんが驚きの連続に更なる追い討ちをかける。


「食事と風呂場の掃除は天恵さんが担当してますが、その他の寮のこと全般については管理人の奥様が担当してますので、分からないことがあったら奥様に聞いてくださいっ!」


 ……はい?


「あの~、吉田さんは寮母……なんですよね?」


「はいっ!正式には入江家の家政婦という契約で、旦那様に雇っていただいてますっ」


「…………」


 どうやら魔界の家政婦は、私がイメージしている一般的な家政婦とはかけ離れているようだ……


「あの……明日寺さんに提案させていただきたいことがあるのですが……」


「は、はい!なんでしょう?」


 入江さんに名指しで呼ばれて思わずビクッとなってしまう。


「もし差し支えありませんでしたら、お風呂場の清掃を当番制で担当してくださいませんか?」


「はい!喜んで!」


 迷わず即答する。

 寮に住まわせていただく以上、何もしないわけにはいかないと思ったからであって、決して脅されたからではない。


「ありがとうございます!私『寮生の当番』というものに憧れていたんです♪明日寺さんはご都合がよろしい曜日はありますか?」


 私の労働力を捧げる契約を結んだことで、心なしか入江さんの声が弾んでいる気がする。

 それはそれとして、都合のいい曜日かぁ……翌日が休みの土曜日がいいかな。あとはなるべく連続しないように配置したい。


「それじゃあ土曜日と……」


「分かりました!それでは土曜日以外は私が担当させていただきます♪」


「えっ?……それで、いいの?」


「はい♪」


 桜山さんの言葉を借りるなら、入江さんの言っていることはまさに女神の如しだ……

 というか、少しは吉田さんに掃除させてもバチは当たらないと思うのは、私だけなのだろうか?



「乾杯!」


 私の歓迎会が始まり、早速入江さんの手作りフランス料理を口にしたけれど、美味しそうな見た目をさらに超える美味しさだった。


 特に冷めてしまう前にいただくことにした牛肉のパイ包み焼きが美味しすぎて、これが私の最後の晩餐になってしまうのではないかと不安になってしまった。

 そもそもパイ包み焼きなんて作れる段階で、もはや趣味の領域を超えてしまっていると思う。


 最後の晩餐を腹に収める作業で夢中になってしまっている私に、名代さんが声をかけてくる。


「かわっぺ急いで食べ過ぎ~。そんなにあわてなくても料理は逃げないよ」


「だって冷めたら勿体ない……かわっぺ?」


香春(かわら)だからかわっぺ。いいニックネームでしょ~」


「そ、そうだね……」


 勇者ではない私に拒否権は無い。


「あと、あたしも名代さんって呼び方はよそよそしいから、名前かニックネームで呼んで!」


「それじゃあ……あいさん」


「まだちょっと硬い」


「では……あいちゃん」


「おっけ~。改めてよろしくね、かわっぺ!」


 そのとき別の方向から強烈な殺気を感じた。


「私も……名前で呼び合いたいです……」


「も、もちろん!……それじゃあ……天恵……様?」


 殺気がさらに強まる!


「ひっ!?……天恵……ちゃん」


 今度は殺気が和らいでくれた。


「はい♪私も香春ちゃんとお呼びしてもよろしいですか?」


「も、もちろん!」


 謎のニックネームを付けられずに済んだのは、拒否権が無い私にとって万々歳といえよう。

 そして桜山さんも、この流れに便乗してくる。


「俺のことは好きなように呼んでもらって構わないから、明日寺と呼ばせてもらっていいか?」


「わかった。それじゃあ桜山で」


 こうして引っ越し初日に同級生全員の名前の呼び方が決まった。



 あれだけ豪華に並んでいたフランス料理も綺麗に無くなり、私の歓迎会も幕を閉じようとしていた。

 ここまでしてもらって、お礼を言わないわけにはいかないだろう。


「天恵ちゃん、素敵な夕食を用意してくれてありがとう」


「いえいえ。お気に召してくださったのなら嬉しいです」


「皆さんも、今日は私のために素敵な歓迎会を」


「明日寺、何か勘違いしてないか?」


 ……えっ?


「まずディナーだが、これは入江の料理としては普段と変わりないぞ」


「はいぃ??」


「明日は中華にしようと思います。中華はちょっと自信がありますので、楽しみにしててください♪」


 ここでは毎日最後の晩餐が開かれるのか……というか、私が無我夢中で食べてた、このフランス料理が自信作じゃなかっただと!?


「ところで、これまで朝食はバイキングにしているのですが、香春ちゃんもそれでよろしいでょうか?」


 晩餐どころじゃなかった。


「そ・し・て!歓迎会はこれから始まるんだよ!」


 あいちゃんが高らかに宣言する。


「えっ?これからって何をするの?」


「それはもちろん……質問ターイム!!」


 置いてきぼりになっている私以外の全員が拍手をしている。


「それでは私は食器を片付けますから、あとで話の内容を聞かせてくださいね。吉田さん」


「その任務、承りましたっ!」


 こうして華澄さんがキッチンに移動し、吉田さんのテンションが上がったところで、真・歓迎会が幕を開いた。


「俺が質問したいことは一つだけだから、先に済ませてもいいか?」


「はい、どうぞ!」


 先陣を切った桜山に、司会役となったあいちゃんが許可を出す。もちろん私に回答する以外の選択肢は無い。


「明日寺は何故星印高校に来たんだ?俺たち三人は中学一年のときからここに進学することを決めていたし、場所が場所だけに三人で高校生活を迎えるものだと思っていた」


 私以外の三人はとっくに進路を決めていたから、私が四人目と呼ばれていたわけか。


「俺は明日寺がどこかであいか入江の情報を掴んだと予想し、この二人なら社長令嬢の入江のほうが有名だろうと思って、今日の行動に至った。だが明日寺は見える人ではなかった。おそらく明日寺にとっては魔界といっても過言ではないこの場所に、何故わざわざ来たのか不思議に思ってな」


 なるほど。桜山の疑問はよく分かった。

 そしてこの質問に対する答えは単純だ。


「私はここに来る前は首都圏にいたんだ」


 この一言で桜山が察した表情になる。


「ああ、田舎暮らしに憧れたパターンか」


「当然星印高校以外にも候補はあったんだけど、ここを選んだ決め手になったのは……」


 一息置いてから理由を口にする。


「試験が私の地元で面接するだけだったから……かな」


 桜山が今度はぽかんとした表情になる。


「私、数学だけは得意なんだけど、他の教科がてんでダメで……それに地元で受験できるのも後押しになったと思う」


「そうか……俺からの質問は以上だ……」


 桜山はなんとも言えない表情になりながらも、納得はしてくれたようだ。


「次は……私が質問してもよろしいですか?」


「はい、どうぞ!」


 おずおずと手を挙げる天恵ちゃんに、あいちゃんが許可を出す。引き続き私に選択肢は与えられない。


「香春ちゃんは……料理は好きですか?」


「いや、料理はあまり……ひっ!?……いずれ自分で料理をしなくてはならない日が来るだろうから、この機に練習したいと思いマス……」


「私でよろしければ、お手伝いさせてください……!」


「お手柔らかによろしくお願いシマス……」


「はい♪」


 質問に答えるだけだったはずが、新たな契約が結ばれてしまった……


「はいはーい!それじゃあ今度はあたしの番だね!」


 待ってましたとばかりに、あいちゃんが手を挙げる。私に選択肢が与えられることは無いのだろう。


「かわっぺは彼氏いる?」


「……いません」


「じゃあ過去にいたことは?」


「……記憶にございません……」


「そっかぁ……でも、かわっぺならきっといい人見つかるよ!」


 ここでどうやって見つけるというのだろう?

 私が虚しい気持ちに包まれたところで、質問攻めは終わらない。


「あの……次はまた私が質問してもよろしいでしょうか?」


「はい、どうぞ!……っと、うるうるは?」


「わたしは聞き専ですからっ」


「了解!ではあまっちどーぞ!」


「…………」


 こうして魔界に足を踏み入れた私は主賓(捕虜)となり、質問(尋問)が続いたのだった……

二十歳の贈り物(最後の晩餐)をお読みいただきありがとうございます。

次回は新学期が始まる予定です!

それでは今後もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ