第8話「お馬鹿な美月ちゃん」
矛盾点修正しました。2020.3.14
「それじゃあ、今度はパーティを組んでない私が開けるわ。」
嶺華が宝箱に手を掛ける。
特に臆することもなく、一気に開ける。
その中にあったのは【修練の指輪】であった。
流石に嶺華ももう驚かない。
やっぱりと思うところもあったからだ。ただ、4度目の修練の指輪となると、もしかして、この宝箱からは修練の指輪しか出ないのでは?という疑問も湧いてくる。だからこそ、確かめる必要性があるのだ。
「これで4つ目ね。2連続で出たのはいくつか仮説が立てられるけど、今考えても仕方ないわ。」
嶺華は直接シズクに渡す。
左手に指輪を嵌める。かれこれ4つ目となり、レベルアップを2回するだけで称号スキルが最大値となる。ザックリ考えるなら殆どの称号スキルが入手できることとなる。
「またもや、修練の指輪でござったか。中々に面白いでござるな。」
「えぇ、そうね。今度はシズクをパーティに入れてから葉月が開けてみて。色んなパターンを試すべきよ。」
そのあと3回目は葉月が開けた。
すると、出てくるのはやはり修練の指輪。それにより、パーティの有無は関係ないのと開ける人間は誰でも良いことに気付いた。本当ならば、関係のないパーティに開けてもらい中身を確認するパターンも試したいが、その為に伝説級を渡すのは勿体ないと判断し、そのパターンは諦めることとする。
そして、4回目の宝箱の時間となった。
「ふむ、そろそろでござるな。」
パターンを試す必要もなくなり、嶺華が開ける役になった。ここまで連続5回が同じ指輪というのもあり、恐らくは次も修練の指輪であろうとは思われるのだが、検証は最後までやってこそ意味がある。
それにシズクとの話し合いで修練の指輪が出た場合は嶺華のパーティとトレードすることが決まっているので、出てしまっても問題はない。トレードするかどうかは金額やアイテム次第だが…。幸運50上げるのはしんどい上にステータス的な問題でも辛いところはあるが、幸運を上げるメリットを考えると効率的にアイテムが手に入り、スキルポイントに関してはすぐ補填ができることを考えたら2つくらいなら欲しいところだ。
そういった理由もあり、期待をしつつ宝箱を開けると。
【粗悪ポーション】
ぱっと見ではわからなかったので、鑑定をしてみる。
粗悪ポーションだとわかったことにより、嶺華は少し考える。そんな後ろ姿を見ていた葉月が不思議に思い声を掛ける。
「どうしたでござるか?修練の指輪ではなかったでござるか?」
声を掛けられ、思考を中断し、返事をする。
「えぇ、粗悪ポーションが出たわ。」
「む?ここに来て相応のものが出たでござるか。幸運が発動してるならハズレだとしてももう少し良いものが出てもおかしくないでござるが…。」
「確率はともかく可能性としてありえないわけじゃないけど、修練の指輪が5回連続で出たのは偶然だったと考えることは可能よ。それか一日の回数制限があるのも考えられるわ。」
「何はともあれ、あと6回開けてみてから考えるのがいいでござるな。」
「ふぁぁ……。む〜、暇ぁ〜。ボイトレも終わっちゃったし、狩りに行っても良い〜?」
美月が我慢の限界に達したようで駄々を捏ね始める。
それを見た嶺華と葉月は苦笑を浮かべながら顔を見合わせる。
「それじゃあ、シズクと一緒に狩りにでも行ってきたらどうかしら?」
「ホント!?行ってもいいの〜?」
「ただし、シズク殿を守るでござるよ。シズク殿が攻撃できるタイミングを作るのも大切でござる。」
「そうね。中級ポーションなら腐るほどあるし、シズクにも使ってあげなさい。でも、シズク良いのかしら?修練の指輪が出てから狩りに行っても良いのだけれど…?」
それは確かに懸念すべきことだが、正直言ってこれ以上修練の指輪を手に入れても然程恩恵は受けられないだろう。それよりステータス補助系や状態異常に関する指輪が欲しい。それにトレードをするのは決定してる。勿論、提示できる金額で納得しないならしなくても構わないと言われてるが、嶺華の太っ腹な報酬金の数々を見ている限り心配することもない。
仮に明らかなボッタクリだとしても、オークションで売る手間のことを考えると多少なりとも知り合いとのトレードをした方が安全だ。
よって、修練の指輪が手に入ってももう必要はない。
「いえ、少しでもレベルを上げておきたいので行ってきます。」
「そう。つまり、修練の指輪が出た場合は必ずトレードをしてくれると思ってもいいのね?」
「はい。」
「そう、なら行ってらっしゃい。美月!ちゃんとシズクのことを考えて奥の方は行かないようにしなさい!」
「はぁ〜い!わかった〜!」
そう言って、美月は満面の笑顔でシズクの手を握って森の中に入っていく。シズクは突然握られたことに驚きつつ、急いで着いていく。
「ね〜、シズクちゃん〜?何狩ろっかぁ〜?」
「なんでもいいです。」
「ん〜、それじゃあ、中ボス行ってみる〜?」
中ボスとはボスとは違い一定時間が立つと復活する魔物のことである。その辺の敵とは違いかなり強めではあるが、ボス程強いわけでもない。ただ、決まった位置にいるとはいえ、周りの魔物も寄ってくる可能性があるため、ボス並みの難易度になる。そういう意味では厄介な敵ではあるのだが、ボス部屋に複数の魔物が現れることもあるので、疑似ボス戦として練習相手になるのも確かだ。
ただ、今の僕のステータスでは到底叶わない。間違いなく死ねる。
「ええっと、あの〜、さっき嶺華さんが奥の方にはって言ってましたよね?」
普段全く喋らない故に、本題に入るのに少し間を開けてしまったが、こっちとしてはわざわざ死にに行きたくもないので、止めようとするが…。
「大丈夫だよ〜!奥ってのはボスのことだよ!きっと!」
あ、駄目なやつだ。
お馬鹿キャラというのはこういうのを言うんだろうと今確信した。けれど、話を聞いてた限り、美月も頭は良いはずだ。なら、何故?
「でも、中ボスはやめませんか?」
「大丈夫!大丈夫〜!私が守ってあげるから〜!」
「あ…はい。」
今更、帰るのも難しいし、諦めることにした。
まぁ、なんとかなるでしょ!と思うことにする。
道中、最初はハニービーが出てくるが、途中からはアルラウネが出てき始めた。この頃から木ナイフも当たるようになり、レベルも1上がり、全て持久力に振った。
アルラウネは地面に固定されており、木ナイフで当てるのは容易だ。ただ、近付くと蔓で攻撃してくるので接近戦は難しい。難しいのだが、何のスキルも使わず、美月は突撃をする。
その手には片手剣の【百花繚乱】が握られている。
片手剣【百花繚乱】超級 条件→筋力100 技力50
・筋力+20 ・速度上昇 ・スキル速度上昇 ・スタミナ回復速度上昇
武器スキル【百花繚乱】凄まじい速度で連撃を行う。このスキル使用中のスタミナ減少値1/10にする。
速度重視の武器で速度に関しては右に出る武器が存在しないほどのものだ。剣身は紅色で輝いており、握りから鍔にかけて3本の炎のような装飾が巻き付くようになっている。剣としては面白い形状に見えるかもしれないが、超級以降の武器はどれもこれも面白い形をしているので、【百花繚乱】は比較的装飾が控えめの方だ。これも、速度を重視させたからこその形状とも言えよう。
美月に向かった蔓を【百花繚乱】で斬り落とす。アルラウネは必死になって美月の接近を止めようとするが、悉くを一瞬の剣捌きで落とす。剣の間合いに入ると一斉に蔓を延ばすが、迷い無くその首を横の一閃で断ち切る。
美月は何でもないように剣を収め、こちらに近付いてくる。
「はぁ〜い。終わったよ〜。ほらほら!アルラウネの素材持っていきなよ〜。」
美月はまだ【剣舞】スキルどころか【剣士】スキルすら使っていないのに、その鮮やかな無駄のない剣筋はそのまま彼女の実力を表していた。かくいう僕も少し見惚れた。
そんな思考を打ちきって、【アルラウネの蔓】と【アルラウネの花弁】を収納していく。正直、そんなに美味しいわけでもない。レアドロップの【アルラウネの蜜】ならまだ使い道もあるのだが、この程度では小銭稼ぎ程度だろう。
美月のお陰で道中は苦もなく進み、レベルも更に2上がっていた。勿論、持久力に全振りだ。
そして、更に進むと突然美月が止まった。
「そろそろ中ボスだね〜。流石に〜シズクちゃんが心配だからぁ〜バフ掛けておくね〜。」
心配なら最初から中ボスに挑ませるなと思ったのだが、言っても無駄なので何も言わない。
「【豪腕の歌】【硬化の歌】【疾風の歌】【迅雷の歌】」
次々と小声で歌を歌う。
【豪腕の歌】攻撃力上昇。
【硬化の歌】ダメージカット率上昇。
【疾風の歌】スタミナ回復速度上昇。
【迅雷の歌】速度上昇。雷属性付与。
「はいは〜い。これで準備OKだね!じゃあ、行っくよ〜!」
メニュー欄を開き、体力バーの下のとこを見ると、それぞれ効果継続時間3時間となっていた。継続時間は【歌姫】のスキルレベルによって、上昇する。3時間はそのままレベル最大値を意味する。
美月がずいずいと先に進み、その後を追う。
暫く進むと開けた場所に躍り出る。真ん中には大きな蕾が地面から突き出ている。美月は気にすることもなく近付くと、蕾が次第に咲いていく。中から出てきたのは上半身裸で緑色の肌をした女性。私達を発見した彼女は妖艶に嗤う。
そう彼女こそ【妖精花の縄張り】の中ボス。【アルラウネクイーン】だ。
片腕を持ち上げ、誘ってくる。
そんな【アルラウネクイーン】にいきなり速度を上げて、近づく。すると、【アルラウネクイーン】は笑みが一層深くなったと思いきや、美月の真下から蔓が突き上げる。しかし、そこにはもう美月はおらず、更に距離を詰める。それを見て、特に焦る様子もなく、【アルラウネクイーン】の背後から花の咲いた蔓が2本地面から突き出て、花の中から胞子弾が射撃される。
それを最低限の動きで避けつつ肉薄する。そんな様子を見ていたのだが、【アルラウネクイーン】の近くからこちらにハニービーが二匹飛んでくる。明らかにこちらに向かっていることからも、木ナイフで応戦する。
だが、所詮は木ナイフ。特に気にすることもなく近付かれる。シズクはこういう事態に陥るのをわかっていて、持久力に全振りしたのだ。レベルは8。持久力はやっと8になった。武器を扱うのなら最低限15は欲しいところだが、今は木ナイフくらいで手ぶらだ。ならば、避けるだけなら節約しつつ逃げるだけで賄える。
あとは投げた木ナイフを回収していれば、ミリ単位でもダメージを与え続けることが可能だ。
「シズク〜。そっち忙しいのはわかるんだけどさ〜。一回で良いから、こいつにも木ナイフ当ててくれな〜い?」
言いたいことはわかる。経験値が美味しいんでしょ?でも、こっちは命がけなんですけど、と文句を言いたい。そんな僕の言い分に察してくれたのか美月がため息のあと呟いた。
「仕方ないなぁ〜。」
どうやって、こっちを見ているのかわからないが、僕の足元に向けて一本の剣が飛んできた。それを即座に掴み、鞘から抜き去る。筋力が1なので、まともに使うことはできないし、スタミナの減り方も異常になるが、そこは機を見て頑張ろうと思っていたのだが、何の違和感もなくスルリと抜ける。
握りの部分と鍔から相当のものだと思うのだが、その剣身はなかった…。
「え…?」
とある森の中
「よう…来るのが遅れちまったなぁ。」
「………。」
「そう言うなよ。会いにきてやっただけ、感謝しろよ。」
「………。」
「ここには相変わらずレディのやつは来てないのか?」
「………。」
「まぁ、あいつは昔からお前にだけは素直じゃなかったもんな。」
「…………。」
「最近は……いや、いつも通り人を殺しては酒を飲んで、その繰り返しだな。」
「………。」
「そう怒んなっての!」
「………。」
「まぁ、なんだ。いつの間にか【サイコパス】なんて異名もついちまったしよ。今更、足なんて洗えるかっての。」
「…………。」
「相変わらず手厳しいことで。」
「…………。」
「まぁ、なんだ。またお前とレディの店でヴァルと一緒に飲み明かしたいなぁ。お前もそう思うだろ?」
「…………。」
「そうそう、レディに久し振りに会ってみたら、悪態つきやがって…。ったくよぉ。もう少し可愛げのある女だったのに。」
「…………。」
「はは。悪い悪い。横取りしようってわけじゃないぞ。あいつがレズビアンなのは知ってっからよ。それに俺はノーマルだ。」
「…………。」
「レディのやつ、どうせお前に会いに来てないんだろ?寂しくねぇか?」
「…………。」
「そうだな。今度はレディを絶対に連れてくるから楽しみにしとけよ!そんでもって、ヴァルの野郎も首根っこひっ捕まえて、酒パーティしようや!」
「…………。」
「ん?少し長居しちまったようだな。次は来月くらいには来れるかな。」
「…………。」
「ほんと、ごめんって!ちょっと、忙しいんだよ!だから、許してくれ……な?」
「…………。」
「それじゃあ、俺はもう行くわ。またな。」
「…………。」
「………………。」