第4話「幸運はいつまで続くのか?」
【修練の指輪】をヴァルから手渡されたとき胸が高鳴った。僕はこれで最強に近付けるのだと。元トッププレイヤーとして、過去に見たことのない指輪を手に入れたのはあまりにも嬉しい。しかし、それを彼らに見せることはない。極力、感情は見せないようにしてる。それも家族とばかり接してきたせいか、人が怖いという一面もあるからだ。
この世界では前世のような社会であったり、人間関係だったり、様々な縛りはない。だから、いつかは僕だって彼氏を作るとは思う。けれど、その前にまずこの恐怖を乗り越えないといけないし、この絶望的なステータスも乗り越えないといけない。でなければ、近い将来僕は死ぬ。
この世界においてあらゆる技能はステータスに依存してる。商人になるのも、歌手になるのも、小説家になるのも全てステータスによるものが大きい。勿論、中にはそれ抜きでもできる職業はある。けれど、ステータスに依存した職業には勝てない。それだけの差があるのだ。
しかし、この幸運スキルを使えば生き残る可能性が上昇するかもしれない。実際に超低確率の宝箱から1万分の1くらいの確率の指輪が出てきた。これもきっと僕のスキルによるものだと思われる。幸運さえあれば生き残れるのでは?と思う。
けど、前世でもできた職業についたところで僕の心は晴れない。それにこの街は大きいがそこまで娯楽はない。元NPCの店が大半を埋めてるからだ。時空神によって、初期ステータスボーナスを99も貰えたからこそ、この街でも店を開ける人が圧倒的に多いだけであって、元々はそこまでのボーナスはなかった。40ポイントというのが本来のボーナスポイントだ。
ただ、あの意地の悪い時空神にしては珍しくポイントを2倍以上貰えたのも、この世界での死が本物であるからだろう。もしかしたら、絶望する人を増やさず攻略をしていってほしいという願いがあるのかもしれない。というか、間違いなくそれが理由な気がしてきた。なんとなくの直感ではあるが。
ヴァル一行はそのまま森へと入っていく。木々が乱雑に生えており、奥まで見通すことはできない。しかも、色んな花が地面であったり、木に咲いている。空には普通の鳥も飛んでいて、食料の面でも充実してる。特にここは他の迷宮とは違って食料が豊富にあるので、ギルドの依頼により来ている探索者も多い。
ギルドの依頼は先に受けるものと後から受けるものの2パターンがある。先に受けるものは依頼者が居るので依頼の紙を先に渡され、重複で誰かが受けることがないのに対して、後者はギルドからの依頼である。ギルドからの依頼は形だけで、増えすぎて迷宮の外に魔物が出ないように間引きをして欲しいという名目と迷宮の難易度を保って欲しいというものだ。あとは単純にギルドの欲する素材を売って欲しいものを依頼掲示板に載せることもある。つまり、人数制限はなく、素材を手に入れたら、そのままギルドで売却することができる。掲示板に載っているものは高価買い取りで、載っていないものはある程度安く買い叩かれる。ただこちらは期限が存在しないので気軽に持っていくことができるのだ。
よって、ヴァル達は基本的に攻略を中心としていて、後者の依頼書の中から当てはまるものがあれば、ラッキー程度に考えてる。その素材を欲しがってる人に直接売ったり、オークションに出す場合もあるが、オークションは全てメニュー一覧から行えるため、かなり上のランク素材も出てくる。こんなところで手に入るものなど、大した価値はなく、一覧でも下の方に表示されるし、買い取るものも少ない。
ちなみに、僕の持つ修練の指輪なら、大体1000万Gで売れることだろう。最も前世のゲームのときに限った話だが、この世界ではこの指輪はどれくらい認識されてるのだろうか?レベルを上げてしまったものでも間違いなくチート級に強いのは間違いない。
「む〜。」
どうやら、ヘイルはなんだかんだ納得しきれてない様子で、下唇を突き出して、唸ってる。そんなヘイルをガイルが慰める。
「まぁ、そんなに気にするな。」
「ガイルの言うとおりだ。どうせ金が沢山手に入ったところで、この街で買えるもんなんて、レパートリーが少ない。それにな。レア度の高い武器や防具使っても、要求ステータスもあれば、楽に倒しすぎて油断することもあり得る。高いポーションも効果が無駄になるし、何も良いことだけじゃねぇよ。」
「それでもなぁ。今日来たばかりの人に奪われて納得しろって方が無理だよ。」
そんなヘイルに一応、シズクが謝る。
「ごめんなさい。」
ヘイルがシズクの申し訳なさそうな顔を見て慌てた。
「いやいや、気にしないで下さい!うちのリーダーが決めたことなんですから、従いますよ。」
認めるとは言わないが、無理やり奪おうなんて気はさらさらないし、少し凝りがあるだけでそこまで気にしてるわけではない。確かに今のシズクを放っておけないのはヘイルも一緒だ。なんだかんだ、優しいヴァルと長く付き合ってるだけのことはあり、基本的に三人とも優しいのだ。死ぬかもしれないやつを放っておくほど薄情者ではない。
「そうですか。すみません。」
「気にしなくて良いですって!僕もまだ大学生ですので、大人になりきれず来ちゃったもんですから。僕よりヴァルやガイルの方が大人だったってことですよ!」
慌ててシズクを傷つけないようになんとか弁明しようとしてるヘイルが二人にとっては面白いのだが、当の本人はかなり慌ててる様子。だが、ここで上手く人付き合いをやっていかなければならないのはシズクもわかりきってるので少し笑みを浮かべて茶を濁す。
「さぁて、今日も1日狩りまくるぞー!!」
ヴァルが空気を入れ替えるためにも掛け声で指揮を高める。ガイルは特に反応はないが、ヘイルは先程のことを誤魔化すようにおーっ!と片腕を上げている。
そこに【ハニービー】が3体出現する。頭3個分くらいの大きさの【ハニービー】は一斉に襲い掛かってくる。真っ先に気付いたガイルがそのうちの1体に切りかかる。ヴァルも即座に前に出て、盾を構える。そんな隙にシズクは木製投げナイフを投擲する。しかし、外してしまう。
飛行している相手にしかも、人生で初めて投げるものが当たるわけがない。そこそこ大きいので狙いやすいかと思いきやそうでもないらしい。
ヘイルが魔法の準備をする。
何かしらの詠唱をしているが、上手く聞き取れない。
詠唱は短かったらしく、魔法を放つ。
「【石の魔礫】!」
ハニービーの羽を貫き、下に落ちる。そのハニービーを放置して、残り2体に的を絞る。その間にガイルはハニービーを一刀両断してしまいヴァルに怒られる。
「おい!ガイル!シズクにレベル上げさせるために羽を狙えよ!」
「あ、あぁ、すまない。忘れてた。」
面目なさそうにしているところをヘイルが2回目の魔法を放つ。
「【石の魔礫】!!」
羽を直撃して最後のハニービーも下へと落ちる。そこまでした上でガイルは周辺を警戒しつつ、ヴァルがシズクにこちらへ来るよう誘う。
「こいつらの体にナイフを突き刺せ。それで経験値が入る。」
投げてしまったナイフを取りに行き、ハニービー2体に突き刺すとヴァルがトドメを刺す。その瞬間、シズクのレベルが1上がった。しかも、修練の指輪の効果でスキルポイントが2なのだが、かなり嬉しい。
ハニービーからドロップする。
【蜂蜜】食材系 レア
【蜂の針】素材系
【蜂の殻】素材系
この方法なら少し時間はかかるものの、木のナイフがなくなることはないし、確実にレベル上げができるので、ある意味最善かもしれない。
「よし!今日はハニービーを中心にパターンにはめて、今のようにシズクにダメージを与えさせるぞ!」
「うむ」
「はい!」
どうやら、ヘイルも戦闘を挾んだことにより、調子が戻ってきたようだ。
「それで、この辺で狩るから宝箱が復活するタイミングでもう一度開けに行くぞ!今日は俺達のレベル上げにはならんだろうから、宝箱から良いものが出てくるのに賭けて行くことにする!」
「それにいつもよりドロップ率も良さそうですね。いきなりレアドロップとは…。」
「だな。」
この頃からガイルはわからないが、ヘイルはシズクの幸運に対して少し期待をし始めてた。
2時間後
「あんまり美味しくねぇな…。」
「うん、これじゃあいつもと変わんないよ!」
「シズクの幸運は発動条件でもあんのかな?だとしたら、納得できる。」
「かもしれんな。」
あれから、僕の上がったレベルは5まで。スキルポイントは初期ポイントと合わせても18Pだ。はっきり言って修練の指輪のお陰で異常だ。1つの称号スキルのレベル最大値は10だ。つまり、レベル5上げるたび、1つの称号スキルがカンストする。攻撃スキルや防御スキルなどそういう類は基本的には称号スキルのレベルに応じて貰える。他の人より2倍多く貰える時点で、条件の優しいスキルは簡単に手に入ってしまうということだ。
これで攻撃、防御、補助、回復と揃えてしまえば、ソロでも可能になるだろう。その頃にはその全てをこなせる程度にはステータスも上がってるだろうし、プレイスキルさえあれば、与えるダメージが少なくともいつかは倒せる。最も、この世界に関してはそう上手くは行かないとは思う。幾ら知っている世界とはいえ、ゲームと同じかは別問題だからだ。
「おお!おい!見てみろよ!宝箱また俺達が一番乗りだぜ!」
「はぁ〜、やっとシズクの幸運発動したんですかね。僕、期待してたからクタクタですよ。」
宝箱の前に行く。
さっきと違うのはヘイルが期待の眼差しで開けようとしてるところだ。そんなヘイルをガイルが後ろで苦笑しながら見ていた。
「では、行きますよ!」
宝箱を開けるとそこにあったのは……。
修練の指輪 伝説級 装備条件:幸運50以上
レベルアップ時のスキルポイント+1
「「「…………………。」」」
「これ……鑑定しなくともさっきのやつだよな?」
「僕もそう見えるよ。」
「じゃあ、シズクに渡すか。」
「いやいやいやいや!今度こそ売ろうよ!」
「よし!シズクに渡すで決定だ!ガイルもシズクに渡すと言ってるんだし、多数決だ!」
信じられないと言った顔でヴァルを見つめるヘイル。
「なんだ?ヘイルまだ気付いてないのか?」
「え?もしかして、幸運スキルの秘密が?」
首を横に振る。
「この指輪はな。正直、条件を満たした上でレベルの低いシズクが持つことで伝説級すら超える装備品になれるってことだ。」
ヘイルは一瞬何を言ってるんだろうという顔をするものの、思案顔になり、1分程度考えたかくらいで気付く。
「もしかして!レベルに対して明らかに多いスキルが手に入るってこと!?」
「まぁ、当然っちゃ当然の話なんだがな?シズクはまだ一人で戦えるようなステータスじゃない。最低限30くらいまで上げたとするぞ。今のままなら、初期ポイント含めて68ポイントだ。だが、ここでこの指輪を渡せば?」
間髪入れず、既にその意味を理解していたガイルが答える。
「97ポイントだ。異常だ。」
「97!!?っ……!!!」
あまりに驚きすぎて声が出ない。
ヴァルもその答えを計算したからこそ清々しい笑みを浮かべる。
「つまりだ。ステータスは低いから独り立ちはできなくとも、それだけのスキルが取得できるのなら、俺達はボスに行ける!これにはな。シズクにも良いことがある。」
「僕ですか?」
本当はその意味などわかるが、敢えて黙っておこう。
というか、いちいち空気を読まず喋るようなことはしない。暫くは仲良くやっていくつもりだからだ。
「あぁ、比較的楽に倒せる上に経験値たんまりだぜ!シズクのレベル上げにも貢献してくれるんじゃないかなってな。」
「わかりましたよ。確かにシズクが持ってる方が僕達の為になりそうですね。」
「てことだ。んじゃ、あと一時間くらい狩りをしたら帰るぞ!」
僕は心の中で微かな不安に溢れていた。
幸運の称号スキルを全てコンプリートした僕だからこそ、この異常性に気付くことができた。
「すみません。ヴァルさん。僕はここで帰ります。」
「あ〜、流石に初日から2時間はキツかったか?」
勝手に良い方向へ勘違いをしてくれたようだ。
「そうなんです。ですから、ここからだと魔物が居ないルートがありますし、僕だけ先に帰りますね。」
「それじゃあ、お昼どきになったら、俺達が泊まってる暴食牛亭に来てくれや。その名の通り暴力的なまでの牛ステーキが出てくる頭おかしな宿屋だ。転生者がやってる店でな。美味しいぞぉ。」
「そうなんですね。ありがとうございます。」
そう言って、背を向け1人出口へと歩く。
そんな後ろ姿を見たヴァルが独りごちる。
「ったく、初日じゃあ、まだ仲良くはなれねぇか。」
「そうだね。僕やガイルさんがあまり話していないってのもあるだろうけど、それにしてもシズクが喋ったところほぼ見たことがないね。」
「うむ。彼女も俺達と同じように前世で苦労したんだろ。」
「いつか、俺達があいつの支えになってやれたらいいんだがなぁ。」
「ふふっ、ヴァル〜。それは性別的な意味で無理でしょ。」
「いやいや!友達って意味でな!」
ヴァルがあたふためく。
「友達ってよりも、父親を意識してたみたいだけど?」
「ゔっ……。」
ヴァル達はそんなことを話しながら森へと戻って行った。今度は深いところまで行く為に…。
遅くなってすみません。
ちょっと面白い小説見つけ……まぁ、そんなことより、今回もどうでしたか?ちょいちょい、謎を作ってみたり、それぞれのキャラの過去に触れてみたりとしてみました!
正直、物語としてはまだ分岐路に立ってないというか、本編に入ってないというか、そんな感じなので!
では、次は……
「はいは〜い!作者さんそこまでですよ〜!?」
「ええ、そうね。私達については何も語らざるべきよ。情報は金よ!金でできてるの!」
「そ・れ・にぃ〜!秘密にしておいて、驚かせちゃうのがぁ〜。一番じゃない!」
「何故?」
「勿論!目立つ為だよ〜!」
「じゃあ、次回予告をするわね。次回は謎の美少女賢者と」
「謎の美少女歌姫がご登場〜!!是非とも見てね〜!」