第18話「検証の終わりと別れ」
木ナイフを避けつつ投げる練習という謎の文章を修正しました。
誤字報告ありがとうございます。
誤字修正しました。2020.3.16
「あのお店大丈夫なんですか?」
お店から出たあと、全員の合計金額が本来14万くらいだったのにも関わらず、6万くらいしか払っていないので、主に赤字で大丈夫なのか心配になって聞いてしまう。
「フ。問題ない。」
「そうですか。」
何が問題ないのかはわからないが、考えられるとしたら全体の客がどちらに賭けて、どちらが勝てばどのくらいの差額が生まれるかを計算して、何らかの手段であの仮面二人に伝えた可能性はある。僕らの会計だけを見るならば赤字だが、全体的に見ると黒字であるならば問題はないだろう。
実際のところ、シズクの予想は合ってる。その上でもう一つ理由があり、ミハイロは創設当初からの客で、その中でよりお金を使った者はVIP会員になる。VIP会員の隠し特典の1つで集団で来店したときは必ず勝たせてくれるよう手配してくれるのだ。故に今回は裏でウェイター達が他のお客さんにさり気なく負ける方に賭けさせるよう誘導していたりする。
今回は少し遠かったのもあり、【妖精花の縄張り】に着いたのは8時手前だった。なんとか次の宝箱も確保できたので、嶺華は一安心と共に溜息をついた。2日間、少なくとも僕達が宝箱を開けようとしてるときに限って、誰も来ていない。確率の低さから開けに来ようと思う者は確かに少ないだろうが、一人も現れないのは不自然だ。これも僕の幸運によるものなのだろうか。
夜8時の3回目の宝箱の中身は超級ポーションだった。
今のところはかなりの幸運と言えよう。既に嶺華も葉月もシズクに向けてた疑念は解けている。完全に信用してるわけではないが、限りなく白に近いグレー程度には思っている。こればかりは嶺華達も苦労をしてきたので、簡単に解けることはなく、仕方のないことだ。
次の宝箱までの時間は次の検証に使うことにした。
手軽な石を確保してきて、それを鏡の指輪を装備して、念の為美月の【硬化の歌】でダメージカットもして、万全を整える。
一番筋力の弱い嶺華が軽めに投げることにより痛みは皆無だ。当たった感覚はするのだがそこまでだ。8回目当てたとき、石が投げられたときの軌道を遡るように反射される。だが、10回目までにその一回しか反射されることはなかった。
その検証により、試行錯誤の回数が足りないと判断して、あと90回試すことになった。段々、力加減忘れたのか少し痛いときもあったのだが、なんとか100回やり終えた。
途中からそれを見ていたものは誰しもが目を釘付けにされたし、痛くされたのもその途中経過を見ていたからこそ、加減を間違えたとも言えよう。ちなみに、僕が「痛っ…」と言ったときに背後から嶺華達に向けられたミハイロの殺気はかなりキツかった。
【鏡の指輪+5】は30%で攻撃を反射するのだが、僕が身につけることによって、約8割反射しました。この結果には嶺華も歓喜して、喜んで30万渡してきた。これで合計40万ちょいを持ってることになるのだが、この街だと間違いなく大金だ。というより、二日目にして40万を手にすることが難しい。不可能ではなくとも、死が隣り合わせのこの世界で徹夜で迷宮に籠もる者など居ないだろう。この金額は徹夜で籠もった場合に手に入る額というわけだ。
なんだかんだ、4回目の宝箱の時間がやってきて開けてみると、【生命の指輪】が出てきたことによって、議論が交わされる。ここに来て、このランクのものが出るのはおかしいとの話だが、少し感覚が麻痺してるらしい。そもそもここの宝箱から指輪系統が出てくる時点でラッキーなのだ。【生命の指輪】のプラス無しとはいえ、十分おかしな話なのだ。そんなことには気付かず、色んな説を唱えてるのだが面倒になったので、ミハイロと美月と共にレベル上げをしに行くことにした。
【ハニービー】ではなかなかレベルが上がらなくなったので、いきなり【アルラウネクイーン】へと赴くこととなった。今回も美月によるバフを掛けてもらうが、美月は雑魚の掃除をしていて、僕とミハイロで【アルラウネクイーン】へと近づく。最初は攻撃を避ける練習をすることとなり、最初にある程度のお手本を見せてもらいその後は一人でひたすら避けた。スタミナ管理が難しくて、何度か切らしてしまったときはミハイロが攻撃を受け流してくれるお陰で無傷だ。
ある程度、慣れてきたら木ナイフを投げつつ避ける練習となった。投げた木ナイフで飛んでったものはミハイロが取りに行ってくれるので実質無限に投げれる。それでも所詮は材質が木なのでボロボロになったやつはいくつか捨てることとなった。
それをきっちり一時間やり終えると、ミハイロが2撃で沈めたのを見て、圧倒的力量差を感じることとなる。幾ら序盤とはいえ、中ボスを2撃で沈めるのは相当な筋力が必要である。あの美月でさえ、5回は斬ってたような気がする。ミハイロの強さに惹かれると同時に対抗心も燃える。僕もいつかはその強さを手に入れたいものだ。
ちなみに、【アルラウネクイーン】1体と雑魚敵複数体でレベルは1上がっていた。勿論、筋力に振っておく。ないとは思うが、スキル取得一覧を開いてみると2つのスキルが取得できるらしい。
幸運100【★進化】???
幸運100【★再臨】???
どちらもゲーム時代に見たことない称号スキルだ。試しに2つとも取ってみる。取ってみたのだがどうやらある程度のレベルを上げないとスキルが完全に取得できないタイプのものらしい。称号スキルはレベル10が最大値なので、【★進化】に10振ってみるが、何も表示されない。それどころか、続きの11が振れる。試しに20まで振るが何も表示されない。30まで振ったところでやっとレベル最大値となり、表示されるも文章の意味がよくわからず、疑問を浮かべてしまう。
【★進化】Lv.30 環境適応力の上昇。
【★進化】がレベル30で取得できたことからも、【★再臨】も30である可能性は高いので、今は諦めることとする。
そのあと朝の10時までに初級の【レザーアーマー+5】と初級の【ショートソード+3】に上級ポーション×3と【生命の指輪】が手に入った。その間もレベ上げを続けて3も上がったのは僥倖だ。強い援護が二人も居てのレベル上げは安心する。
これにて嶺華の検証は終わりを迎えることとする。
「シズク。2日間ありがとう。お陰で楽しかったわ。それじゃあ、最後の報酬渡すわね。」
そう言って、メニュー欄を操作しているのだから、その指が止まる。
「シズク。この称号は?」
「昨夜取ってみました。」
「この称号の効果を教えてもらえないかしら!!」
さっきまでお別れムードだったのに、嶺華は興奮し出して、そんなムードとか何処かへ消えた。葉月も苦笑いしてる。
「勿論!報酬金は払うわ!未知の称号スキルなんだから…えぇと……50万でどうかしら!」
「え…あ、はい。」
「それじゃあ、早速教えてちょうだい!!あっ、先にお金は渡しておくわ。」
そう言って、60万送られてきた。
「さぁ!そのスキルの効果は!?」
「正直、僕自身効果の意味を理解できてないんですけど、環境適応力の上昇だそうです。」
「進化……環境適応力……ブツブツ…。」
嶺華は突然、思考の渦に呑み飲まれたかのように没頭する。そんな嶺華を見て、葉月がシズク達に声を掛ける。
「シズク殿。この2日間お疲れでござる。また何処かで会えると良いでござるな。最後はこんな別れとなってしまったでござるが、いつでもメールを飛ばすでござるよ。」
「シズクちゃん!ミハイロちゃん!待ったね〜!!」
そんな二人に軽く頭を下げたあと宿屋へと帰ることとする。ミハイロは特に何も言わず僕の横を歩いている。なんだかんだこの世界に来て、初めての女の子達との会話は嶺華達であった。前世でも話したくとも話せなかったというのもあり、女の子と話したことはあまりない。
だからこそ、僕にしてみれば新鮮でとても良い経験だったと思う。けれど、上手く話せなかったことで、少し距離ができてしまったかもしれない。その点は少し悔やんでいる。
それらを引っ括めて少し長く居すぎたのかもしれない。何故なら、僕の心はこんなにも寂しいと呟いてるのだから。今生の別れではない。けれど、次に会えるのは何時になるのだろうか?そのときまで覚えていてくれるのだろうか?そのときまで僕は覚えているのだろうか?
そんな不安が付き纏う。
けれど、僕が振り返ることはない。この世界で生き抜くためには力が必要だ。それを手にするまでは前に進むのみだ。
「結局、シズク殿は白でござったと見て良いでござるのか?」
葉月はふと疑問を口にする。
「お姉ちゃんは人を疑い過ぎだよ〜。あんなにも可愛いシズクちゃんが〜私達の〜敵なわけないじゃ〜ん。ねぇ?嶺華?」
「はっ!そういうことね!シズク!進化の効果は!」
「嶺華?シズク殿ならもう帰ったでござるよ?」
「そんな…。頑張って考えたのに…。それにあの子の称号スキルは予想が正しければ、かなり面白いスキルだと思うわ。」
「ふむ、どのような効果でござるか?」
「それはね…。……。」
「シズク。今日はこのまま休むか?それともヴァルとやらと合流するか?」
「眠いから休みます。」
ミハイロから見てもよくわかるように軽くふらついてる。それを見て、ミハイロは溜息をつくと共にシズクをお姫様抱っこする。
「宿まで運んでやるから少し休め。」
「ありがとう。ミハイロ…。」
ミハイロの胸に顔を埋めて、目を瞑る。ミハイロの体臭が匂ってくるが、男臭さというのはあまり感じない。なんとなく頼りになるお父さんのような匂いがする気がする。父の体臭など知らないから予想でしかないのだが、甘えたくなるような匂いだ。
目を閉じて、顔を埋めてきたシズクが眠ったことを確認すると共に、溜息をつき、宿屋へと戻る。シズクを見て、密かに娘の面影を寄せていたのだ。娘は元気にしているだろうか?娘はどのくらい成長したのだろうか?子供や嫁の顔まで思い出せば、それこそキリがなくなるくらいの想いが溢れてくる。
それらをすべてシャットアウトして歩く。シズクは友であって、息子や娘などではない。自分の心にそう言い聞かせる。
宿屋に到着するとシズクを起こし、なんとか部屋に戻ってもらった。ミハイロ本人はそこまで疲れていないのだが、最低でも数時間は眠ることにする。
扉に鍵を掛けて、そのままベッドに横になる。片手には鞘を持っており、いつでも臨戦態勢に入れるようにしておく。そのまま瞼をそっと閉じた。
嶺華「あ〜、私達の出番もこれで終わりね〜。」
葉月「そうでござるなぁ。今の所一番出演したのは拙者らでござるが、これからどんどんと抜かれてゆくのでござろうなぁ。」
美月「ん〜?そうなの〜?」
葉月「美月は良いでござるな。なんか陽炎とか言う人とのエピソードがあって。これからも出てくる感は漂うでござるよ。」
美月「仕方ないよ〜!私は〜皆のアイドルだもん!!」
嶺華「それなら、私も皆の賢者だから!これからも出演できるわね!」
葉月「まぁ、拙者は面倒臭そうでござるから、これでよいでござるよ。」
???「ったく、舞台裏だからって何辛気臭いこと言ってんだ?」
嶺華「貴方は!まさか!」
???「はい。そこまでだ。俺とお前らとの関係性は秘密だろう?まだ作中に出てきてないからな!」
葉月「ふむ、次のサブキャラはそなたでござったか。」
???「とは言っても、いきなりすぐ出てくるわけじゃないけどな。それにお前らみたいに堂々と出るわけでもない。要所要所で見掛けるくらいじゃないのか?」
嶺華「なるほど。私達よりも悲しい立ち位置ってわけね!」
???「あぁ?何言ってんだ?俺はなぁ!」
葉月「はい。そこまででござる。ネタバレはだめでござるよ。」
???「ぐっ…。とにかくだ!次は俺の出番だから楽しみにしとけよ!」