第15話「傀儡の魔王」
ミハイロの口調修正しました。2020.3.16
「そう、全ては【傀儡の魔王】によるスキルのせいだ。」
【傀儡の魔王】というスキルがあるのだろうか?いや、今までもそういう名前は本人ではなく誰かしらがつけたとされる。つまり、傀儡と魔王それぞれのスキルが存在することとなる。
「【傀儡の魔王】の使うスキルは確認されてる限り、【指揮者】と【魔王】と呼ばれる称号スキルだ。」
どちらもゲームのときはなかったスキルだ。
この世界を作ったであろう時空神ならば、意地の悪さで作りかねないとは思うが、本当にこんなスキル作るのだろうか?という疑問が不思議と湧いてくる。
「【指揮者】はどうやら最大100人まで操れるスキルらしい。だが、それだけなら前線の者でも対処できる。そのスキルを凶悪足ら占めてるのは【魔王】というスキル。原因不明のステータス異常によって操りやすくする。俺はとあるスキルによって防いだ。ディーヴィドは知らん。あのなりからして俺のスキルと同じものを持ってるようには思えん。予想はできるがな。」
どんなスキルなのかとても気になるが、聞いても答えてくれるのだろうか?少し悩みはしたが、今までも答えてくれたのだから、気にせず聞いてみることにした。
「その防いだスキルってなんですか?」
こちらを見たあと、微笑を浮かべた。
「フ、お前ならいつか手に入る。そうだな…。基準としては賢者は入手不可能だ。忍者ならもしかしたら手に入るだろう。歌姫は素質あるのではないか?」
ますますよくわからなくなった。
1つわかるのはステータス以外の条件が存在しそうだ。
そこで1つ気になったことがある。
「あの、どうして【指揮者】の操れる人数がわかるんですか?」
「あぁ、最初から話さねばわからんか。あくまで、聞いた話だとな。最初は数人がその地に行ったらしい。そのあと会う約束があったとかなんとかで現れなかったそうだ。フレンドからメールを飛ばしても返事がつかない。不審に思った【諜報員】スキル持ちのやつが見に行ったとき、そこで【傀儡の魔王】は初めて発見された。」
先程から嶺華達の会話が止まっている。
「【傀儡の魔王】の側には帰ってこなかった数人の仲間が居た。明らかに様子がおかしい。しかも、一人は椅子にされてたそうだ。その情報を持ち帰り、調べたところ【人形遣い】派生の【操り師】か【医者】派生の【催眠術士】ではないかという情報が挙がった。」
あ、美月が「狩りに行っても良い〜?」と聞いて、そのまま森へと入って行った。
「だが、【催眠術士】では戦闘中は不可能というのがわかり、【操り師】であると断定される。そこで精神干渉の妨害系を装備したメンバーが行った。誰しもそれで終わると思っていた。だが、一週間過ぎても帰ってこない。その時点で推定脅威度はかなり上昇し、前線の殆どのメンバーが知っていたことにより、複数の【諜報員】達がバラバラで調査に行くと、【諜報員】達もついには一人残らず帰っては来なかった。」
葉月が珍しく下を向いている。いつもなら出口の方の道を見ているのに…。
「そうして、大々的に討伐をするメンバーが選ばれることとなる。1ヶ月の時間を掛けて、全員が複数の精神干渉妨害の指輪を装備して、その上で100人集まった。【傀儡の魔王】のレベルがわからない以上、上から順番に人を殺す覚悟のある者のみで編成された。誰しもが、やっと次のランクの街へ行けると思っていた。だが、たった一人帰ってきた100人とは別の【諜報員】が告げたのだ。一斉に100人が操られたと。それに恐怖した彼らは次の街へと行くことはできず、のうのうと怠惰を貪っていたわけだ。」
話を聞いて【傀儡の魔王】の異常性がわかる。話を聞く限り、【傀儡の魔王】の戦闘力はわからない。だが、椅子にするようなやつだから、人間を盾にしてもおかしくない。現在はどれだけのレベルを積み重ねてるのかわからないのだ。
「だがな。そんな中で俺は次の街へと入った。そこには数人の女性を侍らせた金髪の男性が居た。そいつが【傀儡の魔王】だと確信し立ち向かった。操れないと気付いた彼は俺に女を差し向けたが、全員殺すとそいつは鎌を持って襲い掛かってきた。激怒しているのかと思えば、至って冷静であいつとの戦いは中々に楽しめた。そこから一週間戦い続けたところで、そいつは鎌を仕舞い去った。」
「え?どうして、去ったんですか?」
「貴方とやるのは楽しいが、これ以上は単にどちらが餓死するかになるから、ここでやめておきます。お互いに強くなってからまたやりましょう。それまでは不可侵ということでお願いします。だそうだ。」
なんか妙に爽やかなイケメンが思い浮かぶ話し方だ。本当に100人を操る外道なのか?女を侍らせていることからも外道なんだろうけど、その言葉遣いからはそんな印象は思い浮かばない。
「ふん。どうせ、そいつが【傀儡の魔王】なのかと疑問になっているだろう?あいつで間違いない。去っていくときに新しい女がやってきて、腰に手を回していたが、明らかに正常な様子ではなかった。それにあいつの目は狂気とかそういう生温いものではない。街で会うときも背後から襲ってくることも監視してくることもなかったが、俺が居ると言うのに外で全裸でいるやつがまともだと思うか?」
うわぁ…。それは確かにまともな思考はしていない。
ある意味、優男という仮面を被っているだけなのかもしれない。
「だがな。俺達が進む道というのはある意味あいつと似ている。方向性が違っただけの話だ。」
「達?」
優しい笑みをしてるのか馬鹿にしてるのかいまいち判断しづらい笑みで鼻で笑われる。
「俺とシズクのことだ。俺もシズクもアルミニウスも似た目をしている。だが、似てはいるが、俺達は全員違うものをその目に宿している。シズクは俺と同じ場所にまで辿り着いたとき、どのような姿となっているのか楽しみだ。その頃には俺はアルミニウスと同じとこに立つだろうから、どうなるかはわからん。」
心底楽しそうに微笑を浮かべている。
いつもの冷たい目ではないミハイロらしさを残した温かな目だ。
こういうのを目で表すというのかもしれない。
「これだけは覚えておけ。自分の信念を忘れるな。スキル如きに喰われるな。喰われたらアルミニウスみたいになるぞ。あいつは【魔王】の資格を手に入れる前から狂い始めていたという情報がある。だがな、俺は資格を手に入れる一歩手前でなお、正気を保っている。己の信念は誰かに左右されてはならん。突き通す覚悟がない者には【傀儡の魔王】の呪縛からは逃げられん。」
不思議とその言葉が心にするりと入ってくる。
「負の感情など捨てろ。己の感情に振り回されるな。己が持つものなのだから支配しろ。さすれば、より強くなる。圧倒的強者を前にしても体はいつも通り動かせる。どんな状況でも冷静に対応できる。例え、仲間に裏切られても即座に殺せる。全ては己の信念を突き通してこそだ。」
とても凄いと思う。
そんなふうに要られるのは、ミハイロなりに厳しい世界を渡り歩いてきたからこその賜物だろう。だが、これだけは呑めない。
「すみません。情を捨てるのも恐怖を捨てるのも難しそうです。」
そんな僕の言葉に一瞬無表情になったあと、優しい笑みに変わる。
「フ。謝るな。シズクはそれでいい。信念など己の歩んできた道によって変わる。もし、俺の言葉に賛成していたならば、その程度の信念しか持てない者として切り捨てていた。シズクはシズクなりの信念をシズクなりに突き通せばいい。その先を俺は見たい。」
今、物騒なことが聞こえた気がするが、不器用なだけで割と優しい人なのかもしれない。人を殺してる時点で優しいもなにもないと思う人もいるかもしれないが、僕はミハイロの中に優しさを見出した。誰がなんと言おうと彼は優しい。
仮に友達待遇だとしても、それがミハイロらしさなのであろう。ならば、僕も僕らしさを胸張って応えようと思う。
けど、信念とはいったいなんなのだろう?
「はい!」
「やはり、シズクを友にして正解であった。俺の目は腐ってないようだ。」
すると、突然無表情となり、振り返る。
次の瞬間、忽然と消えた。
「え?」
何を言ってるのかわからないかもしれないが、振り返りつつ鞘に手を伸ばした瞬間、本当に消えたのだ。先程まで話していたミハイロは何処にもいない。
嶺華や葉月も見ていたので、嶺華はすぐさま立ち、警戒する。葉月もドッペルゲンガーを使い影を森へと走らせる。こういうとき解除すれば戻ってくるのがとても助かる。その手には短剣と恐らくはMP回復ポーションが握られている。
森に入って数分も経たないうちに葉月が声を挙げる。
「見つけたでござる!【無限の魔刀】は現在謎の女と交戦してるようでござるな。」
それなら、安心だ。
ミハイロはまだ生きてるらしい。
この世界では何があるのかわからないから、転移でもされたのかと勘繰ってしまった。何かを忘れてるような気もするが、無事ならそれでいい。
「ふむ。終わったようでござるな。終始、【無限の魔刀】が圧倒してたでござるよ。女は短剣と魔法を使ってたでござるから、この辺に居る者ではござらんな。見た目からして暗殺者と思われるでござる。」
「誰かしら?というより、美月は大丈夫なのかしら?私達の中で一番強いとはいえ、少し心配ね。」
「まぁ、美月ならなんとかなるでござろう。美月の持つスキル的にも拙者らが向かっては寧ろ邪魔をするだけでござる。美月はソロでのみ、本領を発揮するタイプでござるからなぁ。」
「そうね。もし、戦闘中なら私達の姿を見せることによって、集中力が途切れるかもしれないわ。それは得策ではない…のよね。」
「うむ。拙者らは信じて待つしかないでござるよ。」
森の中でガサガサと聞こえてくると共に真っ黒い女を引き摺るミハイロの姿が見える。
「ミハイロさん!」
ミハイロが微笑を浮かべる。
「シズク。さんづけはやめろ。ミハイロで良い。俺達は友だろう?」
「ミハイロ、すみません。」
「それがシズクならば仕方ないかもしれんが、謝る必要などない。友になって1日目だ。そういうすれ違いもあろう。」
「ちょっと〜!乙女になんてことするのかしら!離しなさいよ〜!」
全身真っ黒の暗殺者専用装備をつけている女が騒ぐ。
そのときシズクは少し疑問になった。
あれ?この声どこかで聞いたことあるような?
ミハイロが片手で持ち上げ、女の片腕を握り、背中に回す。完璧に拘束をした上で、正面を向かせると…。
「あれ?レディさん…。何やってるんですか?」
「あっ。シズクちゃ〜ん。助けて〜!この怖いお兄さんがいじめてくるの〜!」
まさかのレディであった。
パラレルミニストーリー2
カランコロン
ガイル「いらっしゃい」
ヘイル「ご注文はお決まりですか?」
シズク「あ、コーヒーのミルクと砂糖ありで。」
ミハイロ「俺はブラックだ。」
ヘイル「おおおお!普通にコーヒー頼んでくれる人だ!」
シズク「?」
ミハイロ「珈琲屋で珈琲を頼まん馬鹿がいるのか。」
ヘイル「そうなんですよ〜。コーヒー飲めもしない上にブランデー頼んできたんですよ?」
シズク「えっと…そのお客さん何しに来たんですかね?」
ミハイロ「ふ、もしそんなやつが目の前にいたなら、俺なら間違いなく精神科を勧める。いや、連れて行く。」
ヘイル「あ〜、そうすればよかったですね。」
シズク「いや、賛成しないで下さいよ。」
ヘイル「でも、結構体格良くて躰が大きい人なんです。」
ミハイロ「俺は軍人だ。体の仕組みもわかる。体の大きさなど些細な問題だ。」
ヘイル「おおおお!!それじゃあ、来たときにはお願いします!」
ミハイロ「ふ、任せておけ。」
カランコロン
ガイル「いらっしゃい。」
ヘイル「あっ!あの男です!」
ガタン
ヴァル「ん?何だお前?どうしたんだ?」
シュッ
ヴァル「ぐふっ…」
ヘイル「凄い!!一瞬で意識を刈り取った!!」
シズク「いやいや、これ犯罪なんじゃ?」
ミハイロ「シズク。折角の休日にすまんな。こいつを精神病院まで連れて行ってくる。」
ヘイル「お願いします!!」
カランコロンカランコロン
シズク「どこからツッコめば…。」