第14話「ミハイロvs葉月」
嶺華の着いてくるのは〜を着いてくるのなら〜に直しました。
ミハイロの貴様如き弱者でのところを弱者がに直しました。
誤字報告ありがとうございます。
物語上、誤字に見えてニュアンスの問題で使用してる表現や言葉の使い方もありますので、修正が入らなかったところは大抵そういう理由がございます。
ミハイロの口調を修正しました。2020.3.15
「シズク。今日はこの後何処に行く?」
食べ終わった食器を横長のテーブルに置いて、嶺華のところに行こうとしたときにミハイロに声を掛けられる。
「このあと、知り合いの検証を手伝いに行くんです。」
「そうか。なら、俺も行こう。初日くらいならお前に付き合うとしよう。」
どうやら、着いてくる気満々ならしい。
断る理由もなかったので了承して、嶺華達のいるホテルまで向かう。道中で【妖精花の縄張り】で検証を行うことは伝えておいた。内容に関しては嶺華達次第だろう。ホテルの入り口に着いたところでミハイロが話しかけてくる。
「俺はここで待つ。」
誰かは伝えてなかったのだが、ホテルの中まで着いていくのは初見ならば失礼だと思ったのだろうか?もし、そうならタダの戦闘狂バカではなく、知的である可能性も浮上する。
そのまま部屋まで行き、扉をノックする。
「シズクです。」
扉が開き、葉月が迎えてくれる。
「おお、よく来たでござるな。もう少しだけ待つでござる。」
そう言って、扉は閉まる。
中の様子葉伺えないが、数分経つと改めて扉が開かれる。
いつものメンバーが揃ったようだ。
美月に関しては少し髪が跳ねてるところからも寝起きであるようにも見える。普段の立ち振舞から嶺華と葉月が先に起きて、なかなか起きずに我侭を言う美月の姿が思い浮かぶ。
「待たせたわね。それじゃあ、行きましょうか。」
そのまま下へと続く階段へと歩き出したところでシズクは友達?のことを伝える。
「あの、勝手に友達が着いてきちゃったんですけど、大丈夫ですか?」
「え……?その…友達は貴方の幸運について、知ってるの?」
「知りません。ですけど、今回の検証は別に興味を示さないと思いますよ?」
軽く見た限りじゃ、どうやってもミハイロが興味を示すとは思えないが、意外と情報収集は徹底してるタイプならこの予想も大外れだ。
「そう…。それなら、会ってみてから決めるわ。」
そう言って、玄関まで無言で歩き、外に出ると。
ミハイロが嶺華の前に立っていた。
「貴方は…【無限の魔刀】…!なんでこんなところに…!」
葉月が嶺華の前に出て、その手に短剣を握る。美月はにこにこと笑っていて、そもそもミハイロを見ていない。どこか違うところを見てるので何か面白いものでも発見したのだろうか?そんな嶺華の問いに答える。
「俺はシズクの友だ。用事があると聞き、着いていくことにしただけだ。」
「へぇ、戦闘にしか興味なく、人や魔物の区別を付けず、常に強者を殺すことに全てを賭けた貴方が友達ね。面白い冗談だわ。」
「フ、賢者よ。貴様如き弱者が俺を理解しようなどとは…レベルが足りんのではないのか?」
「これ以上の挑発は敵対行動と見做すでござるよ?」
「ほう?弱者が吠える。高々、【ドッペルゲンガー】如きを手にしたからと言って、そのような名を持つとは少々驕りが過ぎるのではないか?」
葉月が短剣を振るう。ミハイロの背後に影でできたもう一人の葉月が出てきて、同じく短剣を振るってくる。目の前の葉月の一撃は左手によって手首を掴まれ、止められる。後ろの影は振り返ることなく、鞘を抜かずに右手で刀を抜き取り、そのまま手首を捻って、受け流す。
「ほら、見てみろ。不意打ちの【ドッペルゲンガー】を使ってなお、一撃も入らん。全く、つまらんな。」
なんとか葉月は腕を動かそうとするが、1ミリも動かない。間違いなく筋力は相手の方が上だ。葉月は諦めて短剣をアイテムストレージに仕舞うとミハイロは手を離す。
【ドッペルゲンガー】もMPの続く限りは存在できるが、ミハイロ以外にも気をつけなければいけないことがあるので、解除する。ミハイロは確かに危険な男だ。だが、この男はどのギルドにも属さず、どのギルドにも手を貸さない。だからこそ、信じられる。実際に自分達のことを弱者と言った時点で興味はないのだろう。危害を加えられる心配はないのだが、どうしても嶺華を思う気持ちと自分の努力を踏み躙られたような言動が気に食わなかったのだ。
「ふん。この中でまともなのはそこの歌姫とシズクくらいか。いや、シズクには期待してる分、分があるか…。」
「わかったわ。着いてくるのなら好きにしなさい。ただ私達には干渉しないでちょうだい。」
嘲るように鼻で笑う。
「もとよりそのつもりだ。歌姫もお前たちの中ではまともな方であって、自身の研ぐべき刃を忘れた古き狼になど、興味は湧かん。」
嶺華は溜息をつくが、そんなことはミハイロにはどうだっていい。シズクの横を歩く。ちなみに、葉月は嶺華によって無理やり横を歩かされている。嶺華達と僕の間に美月が居る。美月はたまに察しの良いときがある。
「シズク。先程の忍者の放った一撃は見えたか?」
「そもそも、後ろを歩いてましたので、嶺華さんの背中しか見えませんでした。」
「そうか…。今度、寸止めで実践してやろう。あそこの忍者みたいに【ドッペルゲンガー】を使う相手は初心者には対処しづらいからな。」
確かにゲーム時代でも【ドッペルゲンガー】はかなり有効なスキルだった。それはゲームのときのように全体を見渡すことができず、後ろが見えないことによって、かなり強化されている。そして、その発言によりミハイロは僕と戦えることを本気で期待していると同時に、例え友になったことにより戦えなくとも強者であることに固執しているのがわかる。
「他にも俺とならば、即死するような迷宮でもギリギリを見極めて対処することができる。最速で強くなりたいなら俺を頼れ。」
「はい。」
今の所は頼るつもりは毛頭ないが、このまま友の関係を続けていけるのならほぼないに等しいとはいえ少し考慮の余地はある。というか、そもそも勝手に友達と自称してるだけなんだよね。まぁ、話しづらい相手でもないし、裏表なさそうな感じとか好感は持てるんだけど、挑発的な言動は目につく。
というか、一緒にいて喧嘩を売っていけばキリがないし、こっちにまで被害が遭いそうだ。その点は勘弁してほしいものだ。
既に日がかなり落ちている。もうすぐで夕方なのだろうか。あいにく、時計を持ってないので時間がわからない。まだこの世界に来て2日目なのだ。色んなことがありすぎて、1週間くらい経ったような錯覚も覚える。
【妖精花の縄張り】の無限の宝箱の前に着く。
そこで初めて何をするのか興味を持ったらしく、話しかけてくる。
「シズク。こんなゴミしか出ない箱で何をする気だ?良いものを狙うならもっとランクの高いところでないと不可能ではないか?」
「実は僕の転生時のステ振りで幸運に全て振ってしまったんです。」
「フ…恐怖を味わう狂者か故も知らぬ蛮勇か。シズク。お前はどちらだ?」
「ステ振りが一度切りとは知らなくて…。」
恥ずかしさのあまり顔を背ける。
「はははは!そうか。だが、面白みがあって良い。俺は只管、極限の中で戦いに明け暮れる故に、生命力は最低限しか振ってない。だが、シズクはより極限の中で何を見出すか楽しみだ。やはり、俺の見立ては間違っていなかった。」
生命力を最低限と言うからには相当低いのだろう。タダの戦闘狂かと思いきや、ミハイロはどこか壊れているのかもしれない。その点は僕と一緒だ。僕もいつか人斬りになってしまうのだろうか?絶望の中で僕がどう変化するかなんて僕にはまだわからない。なるようになれとしか言いようはないのだろう。
「つまり、幸運が100であるから、このゴミ箱も宝石箱になるかもしれんということか?」
「はい。実際に伝説級や超級の装備品などは出ました。」
「その5つの指輪のことか。あの食堂で鑑定したときは少し驚いたぞ。まだ迷宮に潜ってもいなさそうなシズクが、そのような指輪を持つことに興味が湧いた。」
「もしかして、それで僕に?」
「いや、違う。先程も言ったが、シズクのその目に惹かれた。」
また目だ。
僕の目がそんなに周りと違うのだろうか?目つきというわけでもないのだろう。気になりはするが、今、聞くべきではないと思った。だから、触れずにおいておくことにした。
「さて、そろそろ16時よ。今日最初の宝箱は何かしら。」
徹底的にミハイロは居ないものとして扱い、楽しもうとしてる。葉月はずっとこちらの方角を見ている。こちらを見ながら、出口のある包も監視しているのだろうか?
宝箱が光に包まれる。
そうして閉じた宝箱をゆっくりと開ける。その中身によっては僕の運命が決まるかもしれない。少なくとも残り半分の報酬金が受け取れない可能性は高い。
超級【神秘の指輪+7】ポーションの回復量を40%上げる。
例 上級ポーション 5割回復→50%×1.4=70%
嶺華は鑑定内容を見て、肩を震わす。
「………凄い……凄い…!凄いわ!!」
「神秘の指輪でござるか?幾つプラスが付いてるでござる?」
「これ!+7よ!!今の前線でも+6が最大なのに!!もしかしたら!1日最初の5回までは幸運が最大ってのもありうるわ!!これは流石にスキルなんかじゃ、手に入らないと思うもの!!」
なんて、嶺華が興奮してるときに、ミハイロが鼻で笑う。
「どうしたんです?」
「シズク。あそこの賢者だとか名乗る馬鹿女の間違いを訂正しておこう。あいつらの居るところはここより高レベルのプレイヤーが集まってるに過ぎん。本当の前線は俺含めた3人しかいない。【光輝の女神】ディーヴィドと【傀儡の魔王】アルミニウスだ。」
そのどちらか片方の名前に嶺華と葉月がピクリと僕が気付かないレベルで反応する。
「あそこの馬鹿女達はな。前線と呼ばれてるところにいる弱者の中では強い方だ。だがな。俺達3人は既にゲーム時代の最高ランクの迷宮で攻略をしている。言わば、ラスボスのところだ。」
ラスボスのところ?それって、倒したらクリアなので帰れますってパターンにはならないのだろうか?
「あそこの馬鹿女達も最後の迷宮に行けなくもないくらいのレベルではある。なら、何故最後の迷宮に俺含めて3人しか居ないかわかるか?」
つまり、嶺華達は本来は最後の迷宮にも行けるのだが、何かしらの事情があって行けてないということだ。予想外の敵が発生したから?少し弱いか。だとすると、その中間に新たなボスが配置されてる…とか?それなら3人しか抜けてないのはおかしいかもしれない。
これは僕を試すための質問なのだろうか?
だとするなら、答えがどこかにあるはずだ。よく考えてみろ。
指を唇に当てて必死に考える僕の姿を見て、ミハイロは微笑する。
「フ、来たばかりのシズクにわかるはずがなかろう。」
「はい?」
てっきり答えがあるのかと思ったら、からかわれただけのようだ。こんなこともできるんだと感心する。ただの戦闘狂バカではなく、友達として楽しませようとしてるのかもしれない。
「まずディーヴィドには何の問題もない。男性っぽい名前を使ってるし、取っ付きにくい女ではあったが、俺よりは遥かにまともな人間だと感じた。だがな。アルミニウス。あいつは闇そのものだ。そして、アルミニウス一人のせいで前線では数百人のプレイヤーが停滞している。」
たった一人によって、数百人が?
いったい何故?どうやって?いくら闇そのものだと表現しても一人でできることには限りがある。信じられない話だ。
「そう、全ては【傀儡の魔王】によるスキルのせいだ。」
前世のある1ページ
「よぉ、ミハイロ。女共のとこにでも遊びに行かねぇか?」
「いや、遠慮しておこう。」
「なんだよ。最近は個室に閉じこもって何してんだ?」
「ゲームだ。」
「ははは!ゲームって!あの、お前が!?」
「なんだ。そんなにおかしいか?」
「おいおい、俺達軍人の中で只管、肉体を虐め抜き、模擬戦では大暴れ、戦争では殺戮者とまで言われてるお前がゲームとか!はははは!」
「ふ、確かにな。そう言われてみればそうかもしれん。だがな、ゲームというのもなかなか面白いぞ。特にこの『オンリーワン・ワールド』は唯一の最強を目指せる。」
「へぇ~、俺は女共のケツを追ってる方が性に合うぜ!」
「ふ、また給料減らされないようにな。」
「おうよ…。流石に胸を揉んだのは不味かったぜぇ…。女共から愛のある拳も沢山頂いちまったしよぉ。」
「あのときは流石に笑いを堪えられなかったぞ。同僚が女大尉の胸を揉んで、女共によって骨が折れて病院送りとか、お前は最大級の馬鹿だな。」
「あれは俺も反省してるよぉ…。ケツを追っかける程度で我慢するぜ!」
「次は尻を揉んで病院送りか?やめてくれよ。これ以上、泥をまた塗るようなら今度は俺が潰す。」
「はっ!ミハイロ大佐!!」
「ふ、都合のいいときだけ大佐呼ばわりか。」
「ははははは!すまんすまん。ふくくくくく、ミハイロ。すまんって。頼むから脇はやめてくれ。」