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幸運に全振りした男の娘による異世界転生  作者: A-est
第1章「幸運に全振りした男の娘による異世界転生」
12/53

第11話「酔いと困惑」

値ごと→寝言に誤字を修正しました。


色々と修正しました。2020.3.14

ミルフィーユを口に入れた途端、パイとクリームが解けて、舌の上で溶けだす。ミルク風味の甘味がやってきて、口いっぱいに広がる。鼻腔を据えようとしても、今しがた飲み込んだはずのミルフィーユからミルク風味の匂いが漂ってきて、インパクトのあるケーキだとよくわかる。


日本とは違い不慣れな部分もあるこの世界でこの味に辿り着くまでにどれだけの研鑽を積んだのだろうか?一口食べてしまえば次が欲しくなる。右に座る美月みたいに頬張りたいと思う欲求を抑えて、慎ましく食べようと自制しつつ、二口目へと移行する。


だが、そんな思考を挟んで尚、気付けばケーキは無くなっており、フォークが皿とぶつかる音がして漸く現実に戻ってきた。


左を向けば二人も食べ終わってる様子。

目の前のグラスに入った飲み物で一息をつく。口に含んだ瞬間、これが紅茶だと知る。まるで、凛々しき女王様のお姿を拝見したときのような風格を思わせる香りと程良い砂糖の甘みが喉を潤す。


今までコンビニのスイーツを美味しいと思い食べていたのは何だったのだろうか?これに比べたらあんなものは児戯に等しい。先程まで食べていたミルフィーユの香りが口内に残ってるうちに余韻に浸る。


「どうです?スイーツの方は美味しかったですか?」


それに対して誰が返答するのかチラ見してたら、嶺華が興奮したように声を挙げた。


「素晴らしいですわ!この世界でこんな美味しいスイーツが食べられるなんて!!正直、粗暴な男が多いし、形だけのスイーツは沢山見てきましたわ。けれど、このスイーツはマスターオリジナルとしてきちんと完成された一品ですわ!!けれど、まだ何か足りない気もしますのよねぇ。」


「ははっ、ありがとうございます。このスイーツは美月さんにご意見を頂いて作り上げましたので、美月さんの好きな味となりますね。」


「うん!そうだよ〜!かげろーちゃんは相変わらず私の好みを把握してて安心したよ〜。そう!私が食べたかったのはこのスイーツ!!」


「なるほど、美月の好きな味と言われれば納得できるところもあるでござるな。拙者らには少々物足りない気もするでござるが美味であることは間違いないでござる。」


マスターが飲み終えたグラスと皿を回収する。


「かげろーちゃん!!他にケーキないの〜?」


「はいはい、そう言うと思ったよ。ところで、皆さんはお酒は飲めるんですか?」


「うむ、拙者らは酒を飲み明かすこともあったでござるから、何でもござれでござるよ。」


ちょっと待って!!僕は飲まないんだけど!?と言う前にマスターが奥へと入って行ったのを確認して、諦めた。


「おや、そう言えば、シズク殿は飲めるのでござるか?」


「飲んだことはありませんけど、頑張ってみます…。」


「うんうん、経験するのは良いことでござるよ。急性アルコール中毒になったら、毒消しポーションでも渡すでござる。」


いや、そこまで飲ませないで貰えますか?と思いつつも、諦めることにした。あとはマスターが僕の風貌を見て、きっちり軽めのものを持ってくることをお祈りしておこう。


「あっ!そうだ〜。よかったら〜フレンド交換しない〜?」


その美月の言葉にピクリと嶺華が反応するが、美月に何言っても無駄であるし、そもそもシズクを監視してることなど、バレたくもなかったので無言を突き通す。


「はい。構いませんよ。」


メニュー欄を開くと、既にフレンド申請が来ていた。絶対、返答する前に送ったのは間違いないが、わざわざ指摘するのも手間なので許可をしておく。なんだかんだ、この世界に来て初めてのフレンド三人なので少し嬉しい気持ちもあるが、裏切られたらどうしようと思う気持ちもあるので、顔にも口にも出さない。


そう言えば、ヴァル達とはまだフレンド交換していなかったが、暫くは一緒になるだろうからフレンド交換することも出てくるだろう。ただ、今のところはフレンドを作ってもメールを送りたいと思える相手は居ない。役に立つのは嶺華から報酬をもらうときくらいだろう。


ふとステータス見てみると、バフが掛かっていた。体力継続回復というのがついてて、6時間発動するらしい。あのミルフィーユを食べたことによるものなのは間違いないので、技力10の【料理人】を持っているのだろう。お手軽に習得できるので、1パーティに1つはあると嬉しい称号だ。だが、料理の腕が上手くなるわけではないので、そこは要練習注意だ。


ガチャ


「はい、こちらはチーズケーキです。」


目の前に置かれたカクテルを少し飲んでみる。お酒は飲んだことがないので、少し不安ではあったのだが、程良い甘みがあり、すんなりと飲めた。少しお腹の中が熱くなったような?


そこから僕の意識は途切れた。


「おや?シズク殿は酔い潰れたみたいでござるな。」


「あらあら、チーズケーキ食べた途端倒れるだなんて、本当に飲んだことなかったのね。」


「ん〜、体温まったし〜、かげろー!勝負しよ〜?」


「悪いけど、まだ開店中だから遠慮しとくよ。」


「え〜。じゃあ、嶺華〜!早く【妖精花の縄張り】に戻って、狩りがしたい!!」


「わかったわ。マスター?会計お願いします。」


「では、拙者はシズク殿を背負うとするでござる。よっ!意外と軽いでござるなぁ。」


「かげろ〜、今日は楽しかったよ〜。また今度来るね〜!」


「はいはい、いつでも来るといい。」


そう言って、4人は店から出る。辺りは光がなくとても暗い。空に浮かぶ月だけが4人を照らしていた。嶺華も少しばかり酔っている。あのカクテルは想像以上に度数が高かったらしい。そんな中、葉月だけは平気そうに見える。本来なら美月のように酔いたかったというのもあるが、今は監視対象が居るので気を張り詰めて居たのだ。だからこそ、酔うことはできずいつも通りである。


酔っている二人の足は軽やかで気付けば、【妖精花の縄張り】に帰ってきていた。


葉月は宝箱が置かれている四方の柱のところに体を預ける形でシズクをそっと置く。嶺華はほろ酔いのせいか少し楽しげにしながら宝箱が閉まるのを待っていた。そこで葉月は1つ気になることを思い出す。


「嶺華?」


「なにかしら?」


「1つ気になったでござるが、シズク殿が寝ているとき幸運って発動するでござるか?」


「…………するのかしら?そう言えばそうね。起きていることが条件なのかも調べなきゃね!もし無理そうなら仕方ないけど起こすしかないわね!」


「ね〜ね〜!狩りに行ってきても良い〜?」


「今日のこともあるでござるから、あまり遠くには行かないようにでござる。何かあれば即座に戻ってこれる位置で戦うでござるよ。」


「はぁ〜い!!じゃあ!行ってくるね!」


美月は一目散に森の中に突っ込んで行く。


「全く、美月は酔うと面倒でござるなぁ。」


「そうね。ここだからまだ一人で行かせられるけど、そうでなかったら、私達も付き添わないといけなくなるもの。とはいえ、さっきのあの()のこともあると、一人で行かせるのも少し不安ね。」


「そうでござるなぁ。」


沈黙が訪れる。葉月は周囲を警戒しながら、風の音を聞く。嶺華は検証に関してどうするか改めて考え直してる。そんな時間が通り過ぎると、シズクの呻き声が聞こえてきて、二人はシズクに視線を向ける。


「……ごめんなさい。……こんな……不完全な体で……ごめんなさい…。産まれてきて……ごめんなさい…。」


シズクの頬に涙が伝う。

それを見て、嶺華がそっとシズクの涙を指で拭う。


「これで演技だったら素晴らしい演者と言えるわね。」


「そうでござるなぁ。とはいえ、今のところは一般人としか言えないのも事実でござる。美月に何かあったときはクロと断じて良いでござるが、もしかしたら、情報収集のためだけに来ている可能性もあるでござる。これも全て憶測に過ぎないでござるから、判づらいでござるな。」


「もし、シズクの寝言が本物だとして、彼はいったい前世で何があったのかしらね。」


「そればかりは拙者らにはわからんでござる。少し窮屈な想いはしたでござるが、お金も生活も家庭環境も裕福であったのは間違いないでござる。満たされた者には満たされぬ者の気持ちなどわからないでござるよ。」


「そうね。考えても仕方ないわね。」


「うむ。」


タイミングが良いのか、無限の宝箱が光り、蓋が閉まる。嶺華は躊躇することなく開けると、そこには【生命の指輪】が置かれていた。


「これはただの生命の指輪ね。」


「ふむ、それは反応に困るでござるなぁ。粗悪ポーションよりは良いのは間違いないでござるが、果たして本当に幸運が働いてるのかまではわからないでござる。」


「そうねぇ。シズクには悪いけど、30分前には起こすことにするわ。」


「それで良かろう。シズク殿も夢見は悪いようでござるからなぁ。」


23時30分


嶺華が懐中時計をストレージに戻す。


「葉月、時間よ。」


葉月がシズクの肩を揺する。


「シズク殿〜、起きるでござるよ。シズク殿〜。」


何回か揺さぶられてシズクは目を開ける。

寝起きは悪いので、ボッーとしてるが、葉月の顔を見た瞬間、自分が酔い潰れていたことに気付く。まだ上手く頭は働かないが返事をする。


「おはようございます。ふわぁ〜。ここは…?」


「【妖精花の縄張り】でござるよ。」


周囲を見渡して漸く場所の認識をするが、美月がいないことに気付く。


「あれ?美月さんは?」


「美月は一人で狩りに行ったでござるよ。」


「それなら、僕も行こうかな…。」


ふらふらと立ち上がって、森へ入ろうとするところを葉月に止められる。


「これこれ、一人で森は危ないでござる。」


「あっ、そっかぁ〜。」


そう言って、もとの位置に体育座りする。

そんなシズクの言動を見て、嶺華と葉月は顔を見合わせて、苦笑いをする。


「シズクって、寝起きに弱いタイプかしら?」


「んー?そうかも。」


「ふふっ、いつもの敬語より、そっちの方が好きよ。」


「そぉ?」


「シズク殿、可愛いでござるなぁ。おっと、男子に可愛いは禁句でござったな。男子の言う可愛いと拙者らの使う可愛いは別物でござるが、理解されないのが悲しいでござるな。」


「ふふっ、僕可愛いんだぁ。ふふふ。」


「あらあら、シズクは嬉しいみたいよ?」


「そのようでござるな。変わった男子も居るもんでござる。」


暫く時間が過ぎると段々と目が冴えてくる。それと同時に自分の言動にも気付き、とてつもない羞恥に駆られる。あまりに恥ずかしくて顔を伏せる。


「おや?シズク殿、寝てはいけないでござるよ?」


「起きてます。」


「ふむ、いつもの敬語に戻ってしまったでござるか。」


間が良いお陰で宝箱が光る。


「さて、次は何かしら〜?」


宝箱を開けると、アイテムバッグが入ってた。

すかさず鑑定をすると、嶺華の手が止まる。


「どうしたでござるか?」


「こ…これ!超級のアイテムバッグよ!!」


「おぉ、それは凄いでござるなぁ。」


「今の最前線で使われてるアイテムバッグが出てくるなんて…。もう言葉が出てこないわ…。」


「シズク殿。良かったでござるな。」


正直、かなり嬉しい。

超級なら2000kg入るので、一々探索を打ちきって、戻る必要性がなくなる上に、回復の泉を入れておいても、溢れる心配が一切なくなる。ちなみに、回復の泉から作られたポーションは中級ポーション×4だった。そこそこ運が良いのだろう。


葉月から超級アイテムバッグと生命の指輪を貰う。初級バッグの中身を超級バッグに入れ直すのと、アイテムストレージの回復の泉と中級ポーションをバッグの中に移動させる。その代わり、上級ポーションと超級ポーションはアイテムストレージの方に入れておくことにする。


森の中から声が聴こえてくる。


「ただいま〜。運動になったし、楽しかったよ〜。」


どうやら、美月が帰ってきたらしい。

だが、足音は2つある。


「あとね〜。そこで出会った人と仲良くなったから〜、連れてきた〜。」


森の影で誰なのかわからない。

少しずつこちらへ近づいてきて、月の光によって晒されたのは…。


「はろ〜。いや、ぐっどもーにんぐね。シズクちゃん。こんばんは♪」

とある昔の一場面


「ねぇ、かげろー。私ね。ギルド全部抜けて、歌手になろうと思うんだけど、どうかな〜?」


「んー?いいんじゃないかな。俺もこのギルドは抜けて、店開こうかと思ってるしさ。」


「お〜。開店したら、私行くね!」


「はいはい、期待せず待ってるよ。」


「なにお〜!スイーツのためなら何処にでも行くよ〜!」


「あ、そうだ。アレス教団抜けるんならこの鍵やるよ。」


「へ?かげろーは抜けないんだったら〜、この鍵必要でしょ〜?」


「ふっ、こっちの派閥だとな。そこそこ出世したら、もう一個未登録の鍵が貰えるんだよ。」


「それ〜、No.3の私が聞いても良かったの〜?」


「なぁに。抜けるんだろ?なら、問題ないよ。それに、俺の店は鍵必須にするからな。」


「あ〜、それなら貰っておこうかな〜。」


「さてと!お互いに●ギルドの最後の仕事終わらせますか!」


「うん!そうだね〜!これ終わったら、お姉ちゃんのパーティに入る予定なんだぁ〜。」


「おぉ、なら、余計に今回の依頼も完遂しなきゃな。」


「ふふ、これからは毎日が楽しくなるかもな〜。」


「かもじゃない。楽しくするんだよ!」


「かげろーはいつも太陽みたいにメラメラしてるね!」


「な〜にいってんだ。俺のようなやつを陰キャって言うんだよ。」


「ふふ、羨ましいなぁ。」


ふと、目を覚ます。

外は朝日が登っていた。

相変わらずボサボサの髪で起き上がる。


「美月…。元気にしてるかなぁ。俺以外のやつと笑えるようになってると良いんだが…。」


今日も陽炎の店は開店する。

休日は陽炎の気分で決まるのだ。

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