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幸運に全振りした男の娘による異世界転生  作者: A-est
第1章「幸運に全振りした男の娘による異世界転生」
10/53

第9話「援護と思惑」

修正しました。2020.3.14

剣を鞘から抜く。

筋力1の僕でも簡単に抜くことができた。相当軽めの武器なんだろうと思った矢先、剣身がなかった。


「え…?」


敵はすぐ目の前。思考停止などしている場合ではない。すぐさまバックステップをする。剣身がないからこそ軽かったのかと頷ける部分もあれど、抜く際に確かに鞘と剣身が擦れる音を聞いた。つまり、無いのではなく見えないのではないだろうか?


【ハニービー】の攻撃を躱しながら、虚を突く。

思い切り、下から斜め上に切り上げる。すると、間違いなく【ハニービー】に傷が付いた。それによって、見えないという仮説は確信へと変わる。


この特殊な片手剣も剣の長さがわからないというデメリットがあるとはいえ、確かに美月の戦闘スタイルには合った武器なのかもしれない。現在、美月が使用している【百花繚乱】が速度重視であるように、これは美月が前に使っていた武器なのではないだろうか?見えない剣身も自分が把握しているなら有効になる敵はいくつか居そうだ。


そこからは数分程度で【ハニービー】を一体倒すことができた。そこでどれくらい筋力補正が掛かってるのか計算したところ筋力10程度であることがわかる。仮に筋力+9だとすれば、確かに前線で扱うには物足りなさすぎる。


ただ、この片手剣を見たことがないので恐らくは筋力+9ではないのだろう。何らかの特殊効果によって、ダメージが上がってるのは間違いない。


残り1体となったところで、【アルラウネクイーン】に木ナイフを投げ始める。ここからは当たるまでは【ハニービー】の攻撃を避けるのみとする。一体程度なら余所見しながらでも問題ない。飛行系の虫は少々難しいが、できないこともなさそうだ。ゲームのときとは違って、実際に体を動かすことの大変さがよくわかる。


スタミナ配分にも気を付けなければ、息切れで敵の攻撃を受けてしまう。メニュー欄開きながらゲージを見るという手もあるが、他のことに注意を向けづらいというところからも、開くことはできない。今度、どれくらい動けばスタミナが完璧に減るのかをチェックしておかねばならないだろう。


距離が遠いというのもあり、10本目超えた辺りでやっと木ナイフを当てることに成功した。それを確認した美月が避けるだけの行動から一気に攻める姿勢を見せ始めたので、こちらも最後の一匹を倒すことにする。


しかし、ここで正面から【ハニービー】2体目がやってくる。

少し距離を置いて、避けることに専念しようと思ったら、背後からも聞こえ始めた。振り返ると更に2体の【ハニービー】が…。


流石に4体相手に倒せる気がしない。しかし、森の中に逃げ込めば、他の敵も誘うことになるかもしれない。逆方向には【アルラウネクイーン】が、ただ幸運なことに美月が【アルラウネクイーン】を倒し終わりこちらへ向かっている。


それが僕の油断となった。


正面にいた【ハニービー】2体が同時攻撃をしてくる。

気づいたときには既に目と鼻の先に【ハニービー】がいた。

死にはしないだろうが、ここで食らってそのまま後ろの2体で死んでしまうのか?と脳裏を横切る。


咄嗟に反応しようと体を動かす素振りは見せるが、明らかに【ハニービー】の方が速い。もう駄目だ。と思ったとき、森の中から異常な速さで何かが飛んでくる。


その二本のナイフは襲ってきた【ハニービー】を貫く。

その勢いのまま【ハニービー】が地面へと縫い付けられ、そのまま死亡する。その【ハニービー】を凝視して、その近くまで来ていた美月を見ると、美月はいつもの人懐っこい笑顔ではなく、獰猛な笑みに変わり、更に速度を上げる。


僕の後ろから来ていた【ハニービー】1匹を通り抜ける瞬間で切り捨て、そのままナイフが飛んできた森の中へと走り抜ける。あまりにも突然のことがありすぎて、脳の処理が追いつかないが、もう1匹残ってる以上、剣を強く握りしめ、最後の1匹と対峙する。


【ハニービー】が突進をかけてくる。それを大雑把に横に避ける。通り抜けざまに切りつけ、その反動のまま一回転し、【ハニービー】を正面に見る。質量が殆どないとはいえ、現実で初めて剣を扱うのだ。その剣筋は無様としか言いようがない。


尾の針を突き刺そうとしてくるので、しゃかんで躱し、通り過ぎたところで立ち上がってから背中を斬りつける。なんとか、躱してから攻撃に転じることができている。これもさっきの2体を相手にしてたときは攻撃のあとの隙が大きくて、無理やり転げることによって、避けていた。1体なら転げる必要もなく、【ハニービー】の攻撃自体が隙が大きいのでなんとかなるようだ。


その後は2撃加えたところで【ハニービー】がやっと倒された。筋力が一時的に増えてるお陰なのかそこまで疲れはない。もし、筋力1で振っていたなら、すぐに筋肉痛となっていたかもしれない。そこはこの世界でどういうふうになってるのか検証しない限りはわからないのが難点だ。周囲を見渡しながら警戒をして、数分。


森の中から誰かの足音が聞こえる。


「シズクちゃ〜ん?生きてるぅ〜?」


いつもの人懐っこい笑みを浮かべた美月が帰ってきたようだ。さっきのあの人が変わったような笑みはなんだったのだろうか?それに戦闘中は呼び捨てにしてきたり、少し話し方に違和感があったような?


「はい!生きてます!」


美月に振り回されて散々だったが、割となんとかなるものだ。【アルラウネクイーン】に一撃入れさせてくれたお陰でレベルが3上がっている。これでレベル11となり、持久力10になったので、筋力の方に1上げる。


「その剣は〜、この森出るまでなら使っててもいいよ〜。」


「ありがとうございます!」


「本当なら、初心者向けの性能だし〜あげたいんだけどね〜。1つしか持ってないから〜、あげられないの〜。ごめんね〜?」


「これって…なんて武器なんですか?」


「ん〜?確か〜【メジェド】だったかな〜。とある迷宮の宝箱で出てきたような〜?結構面白い性能してるから〜、私の愛剣の1つなの!」


メジェドと言えば、エジプトの不可視の神だったような?武器系統は神や伝説に纏わる名前がついてると大抵が神級なのだ。つまり、この剣は最低(・・)でも伝説級となる。使ってみた感じそこまで強いようには思えないのだが、その面白い性能とは一体何なのだろう?


「ん〜、それじゃあ、戻ろっか〜!良い運動にもなったし〜?眠気も冷めて来たし〜?それに〜ちょっと戻らないとやばいかも…。」


やばい?それはさっきの援護してきた謎のナイフのことだろうか?


「シズクちゃん!ほら!早くアルラウネクイーンの素材取りに行かなきゃ!!あとそこのナイフは取ってきてくれる〜?」


言われてすぐさま回収しに行った。

帰り道は行きのときより早めに歩き、こっちが木ナイフで攻撃する前にバッサバッサと切り捨てて行った。一応、素材を回収するときは立ち止まってくれたが、それ以外のときは僕が着いていけるギリギリの速度で嶺華達のとこに向かった。


嶺華達が宝箱の前で座ってる。


「あら?美月、もう良いのかしら?」


「ん〜、中ボス倒したし、運動にはなったかな〜。」


「美月、シズク殿を連れて中ボスに行ったでござるか!?」


「うん!そうだよ〜!」


「奥の方へ行くなと嶺華が言ってたでござろう?」


「うん!だから〜、ボスには挑んでないよ!」


「美月、そもそも嶺華がリーダーのパーティを組んでる時点でボスは出ないでござる。ボスを出すにはまだ一度も戦っていないシズク殿をリーダーにする必要があるでござるな。」


「えぇ〜!!そうなの〜!!」


「シズク殿申し訳ないでござる。見たところ傷ついてないみたいで安心したでござるよ。」


「あっ、そうだ!こっちに〜【サイコパス】来てなかった〜?」


その異名に嶺華が表情を変える。


「美月!どういうこと!?」


「さっきね〜?アルラウネクイーンと戦ってたとき〜、シズクがハニービーに囲まれてピンチになったの!そのとき、森からナイフが来て〜、ハニービーを2体即死させたの!」


「なるほど、そのナイフはあるのかしら?」


「はい、これ。」


嶺華がナイフを鑑定する。

その表情が曇る。


「これは確かに闇ギルドでよく使われてるタイプのものね。そこそこの価値とはいえ、こんな能力値で即死させ、使い捨てるのは幹部クラスでしょう。その中でこんな芸当ができるのは二人だけね。一人は異名として【サイコパス】を持つ者。もう一人は称号スキルとして【サイコパス】を持つ者。どちらかなのは間違いないわ。シズク!何か心当たりは……って、あるわけないわよね。」


視線を葉月に向ける。

何かを察したようで嶺華に近づく。小声で何かを話しているようだが、聞こえない。


「正直、シズクのことどう思う?」


「見た目だけなら来たばかりだと思えるでござるな。」


「私、【超鑑定】持ってないからステータス見えないのよねぇ。」


「有り得るとしたら、あの姿は偽装で実は闇ギルドに所属してるとかはどうでござるか?」


「いえ、それにしては援護されてるのが不自然なのよね。もしかすると、幹部とまでは行かずともそれなりに優遇される立場なのかしら?前世で繋がりがあったとか…。」


「今の所、シズク殿には不自然なところはござらん。シズク殿と出会ったときはどういう出会い方したでござるか?」


「確か……あっ。ぶつかって、シズクが転けたところで、手を差し伸べたら指輪を発見し、それで連れてきたのよ。」


「嶺華の特性を知った上での行動としたら大したものでござるが、それにしてはこちらと深く関わろうとしないでござるな。」


「今のところは監視をするくらいしか手がないわね。私としてもこの検証は続けておきたいし…。」


「では、現状維持で良いでござるか?」


「そうね。葉月はシズクを見張ってて。」


「承知したでござる。」


二人が離れる。

どうやら話し合いとやらは終わったらしい。

いったい何を話していたのかは気になるが、気にしても仕方ない。あ、そうだ。この剣返さなきゃ。


「美月さん。この剣ありがとうございます。」


「いいよ〜。全然だいじょーぶ!たまには外に出しておかないとね〜!」


そう言って、美月は剣を受け取り、そのアイテムをメニューのアイテム欄の方に仕舞う。特に何もせずとも念じるだけでアイテム欄に収納されるのだ。


「そうそう、さっき開いたときに宝箱の中に白い紙が入ってたのよ。」


「そうでござったな。鑑定しても紙としか出ないのがまた不思議でござるよ。」


「それで、シズク…。ちょっと見てみてくれないかしら?念の為、全員が確認しておくべきだと思うの。」


嶺華が葉月に渡し、葉月が僕に手渡してくる。

確かに何も書かれてない真っ白な紙だ。これはいったい?と思いつつ、裏返してみると…。


『拝啓。はいは〜い!皆大好き時空神だお〜!シズクは元気にしてるかな?クウちゃんはバリバリの元気さ!ところで〜、幸運極振りして幸運なシズクちゃん(笑)流石に即死んだら一秒くらいは悲しくなるから手助けすることにしたよ!そう!修練の指輪5連続はボクの仕業さ!伝説級5つもゲットできるなんて幸運だね〜。あれ〜?ステータス上昇系じゃないからどちらにしろ最弱に変わりはない〜?勿論!期待させたところで突き落とすためだよ!でも、良かったね!何十回か死ぬ思いするだけで君も最強だ!というわけで、時空神に感謝するといいよ〜。なんたって!皆大好きクウちゃんだからね!じゃあ〜、頑張ってね〜。バイバ〜イ!』


ぐしゃ!


つい、握りしめてしまった。そんな僕の姿を見て、嶺華が当然聞いてくる?


「何が書いてあったの?」


「いえ、よくよく見てみたのですが、何も見えませんでした。」


「ふぅ〜ん。」


明らかに疑っているが、こんなこと言えるわけがない。道理で確率的に相応のものが出始めたわけだ。ちょっと、メニュー欄開いてスキルポイントを見てみる。54ポイント貯まっている。ので、幸運20【宝箱確率上昇】に10ポイントつぎ込む。次に現れた幸運40【宝箱罠回避】に10ポイントつぎ込む。その次の幸運60【宝箱確率上昇2】に勿論10ポイントつぎ込む。そして、最後の幸運80【宝箱確率上昇3】に10ポイントつぎ込み完成。これで、無限の宝箱であろうとかなりの確率上昇に至る。その代わりに40ポイント失われ、残り14ポイントとなってしまったが、十分替えは効くし、先行投資だと思えば良いだろう。


「さて!お待ちかねの宝箱よ!」


今日で5回目の宝箱の時間となる。

無限の宝箱が光り、次の瞬間には閉じている。

嶺華はにやにやと楽しそうにしながら、宝箱をゆっくりと開ける。それを葉月と僕で囲い込みながら背中を見つめる。美月だけは宝箱の横にいる。


中を開けるとそこにはポーションが置かれていた。

とある洞窟の中


「ふんふんふんふ〜ん♪」


「おっ、【サイコパス】どうした。今日は機嫌良いじゃねぇか。」


「おい、頼むっすよぉ。兄貴ぃ。俺をその名前で呼ばないでくださいっす?」


「あぁ、まだあのこと吹っ切れてないのか。」


「ちっ、あの野郎。幾ら闇ギルドでトップやってからってよぉ。称号スキル【サイコパス】持ってねぇくせによくも【サイコパス】なんて異名持ちやがったなぁ…。」


「あんまりあの人のこと悪く言うなよ。」


「だってよぉ?超鑑定で表示される称号は大抵はそいつの持つ最大の称号スキルのはずじゃないですかぁ。あいつの称号は【★ダーインスレイブ】って聞いたぜ。【サイコパス】の名を持つに相応しくねぇよ!!俺こそが【サイコパス】に相応しいんだ!」


「あー、それでか。なるほどなぁ。」


「そうっすよ!」


「1つ勘違いしてるみたいだから言っとくぞ。」


「なんすか?」


「【★ダーインスレイブ】はな。【サイコパス】の派生称号だ。というより、【★ダーインスレイブ】は星マークが入ってるんだが、星マークが付いてる称号は二種類ある。1つは隠し称号だ。もう1つは最上級称号と呼ばれてる。つまりな。人殺しに特化した称号の最上級を唯一持ってる人なんだぜ。」


「なっ………。」


「これでもまだあの人に相応しくないとか言えんのか?それにな。あの人になんで称号欄を【サイコパス】にしてないか聞いたことがあるんだ。なんて答えたと思う?」


「わかんねぇっす。」


「これは予想なんだが、星マークのついた称号を手にすると、称号欄に選べるのは星マークのみになるってさ。本人も星マークの称号は1つしか持ってないから、予想にしかなんねぇのだとさ。」


「それなら!余計に【サイコパス】の名を捨てればいいじゃないっすか!」


「それはだめだ。【サイコパス】と呼ばれるのはこの闇ギルドにおいて、誉れだからだ。お前のことを【サイコパス】と呼ぶのもその称号スキルを持ってるだけじゃない。その強さを評価してんだ。だからよ。あの人から奪い取ろうなんてせずによ。親しい奴らから呼ばれるくらいで我慢しとけよ。」


「うぅ…わかりましたよ。我慢するっす。」


「それでいい。まだ死にたくはないだろう?」


「え……?」

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