太陽の双子
翌日、朝日と陽和はまたいつも通り雪花と晃と話していた。
「昨日のあれ、どうなったの?」
「俺達が倒した」
雪花は信じられないというような顔をした。
「えっ、そうなの?」
「ふ〜ん、そうなんだ…」
晃はそう言って十秒後、こんな事を言った。
「で、何の話だったっけ?」
三人は思わずため息をつき、同時に言い放った。
「「「昨日目の前に怪が現れた時の話だよ!!!」」」
晃は何の気にも留めなかった。
「あっ、そうだっけ?」
「そうだよ晃君!昔の事は結構覚えてるのに、昨日の事は忘れたの?」
「そういうもんじゃない?」
晃は常日頃何も考えずに過ごしているようだが、どういう訳かの昔の出来事は覚えているらしく、突然呟く事がある。
「晃にとってはそうなんだろうな」
「まぁ、そうだな」
朝日は次に雪花の方を見た。
「雪花…、昨日の化物、怪って言うんだけどさ…、どうやら雪花はあれに狙われてるんだってさ」
「えっ…?」
雪花は戸惑った。
「まぁ、なんかあったら俺に任せとけよ」
陽和はため息をついた。
「任せとけって、昨日のあれは本当にたまたまだったんじゃ…」
「それでも、力がないよりはマシだろう?」
「何の話してるの?」
二人に不審がられた朝日と陽和は首を振って苦笑いをした。
家に帰ると、昴が中に入っていた。
「よっ、二人とも」
昴は昨日とは違い、朱色のパーカーに茶色のズボンを穿いている。
「冥府の王がこんな事していいのやら…」
「まぁ、二人に話しておきたい事があってな」
昴は二人を座らせ、姿勢を正した。
「俺、この前獄炎の輩って言っただろう?」
「うん、あれは結局何なの?」
「俺は冥王になってから前の冥王である月輪と同じように鬼界の封印をした。ところが、月輪は鬼界を完全には封じきれてなかったんだよ。そのせいで、怪、特に鬼と呼ばれるものの力が強くなってな。俺が斃したのもあるが、残った奴が現世や冥界、神界で暴れてるって訳だよ。俺はそいつらを獄炎の輩と呼んで冥府を使って取り締まりをしてるんだが、あいつらは俺の下僕である冥府神霊並みかそれ以上に強い。並みの死神じゃ相手する事すら出来ない。」
「そんな事があったのか…」
「怪どもは俺が冥王になってから魂を奪う事を諦めたらしい、その代わり、新たなものを狙うようになった。六水晶やその元になる霊晶石だ。あいつらはそれを使って神化の力を得たいらしい。」
六水晶とは、力を宿した水晶の事だ。霊や霊力を持った霊水晶、冥王の力を宿した冥水晶、妖や妖気を持った妖水晶、怪や鬼などの力を持った魔水晶、無から有を生じる事の出来る有水晶、全てを無に返せる無水晶とある。魔水晶はまだ良いんだ。もともとあいつらの力だからな、ただ…、それ以外の力を持ってしまうと俺達にとって脅威になる。朝日、陽和、お前らの大切な友達の雪花には霊晶石が埋められてる。恐らく、昔何かが命を助ける為か、呪いから免れる為に埋め込んだんだろうな。ところが、そのせいで危険な目に遭っている。いつかはそれを取り出さないといけない。ただ、今の状態じゃ無理だ。」
「どうしてですか?」
「今の雪花は、霊晶石に頼ってる状態だからさ…、一応俺も協力するし、母さんや爺さんも力を貸してくれるみたいだが、何かあった時は…、お前に任せたぞ」
昴は二人の形に手を置いた。
「父さん…、分かったよ!」
「私達に任せてね!」
「そうか…、頼りにしてるよ」
昴はそう言って、去ってしまった。
「やっぱり俺達がなんとかしないといけないんだな」
「二人だけじゃないから大丈夫だよ!でも…、そういえばお父さんの方の親族ってあんまりあった事ないなぁ…」
「そういえば、そうだよな」
二人は生まれたばかりの写真を見た。そこには見知ってる人とそうでない人も居る。二人は、その人達にいつか会えるのではないかと楽しみにしていた。
「そういえば…、父さんには陰陽師の力と死神の力を持ってるんだよな?ひょっとして…、父さんの両親、つまりはお祖父さんとお祖母さんがそうって事じゃないか?」
「なるほど…」
二人は、そんな事をずっと考えていた。
翌日、二人は雪花から目を離さないようにしていると、晃が晃がこんな事を言ってきた。
「ねぇ、今日社会のテストあったね?」
「そういえばそうだったな…、って晃覚えてたのかよ」
「まあね」
見た目も中身も晃は常人には理解出来ないものだった。藍鉄色の服を常に着ており、髪の毛や目は黒みがかかった黄土色をしている。
晃の頭の仕組みや構造は誰にも分からないだろう、三人はいつも晃に頭を悩ませていた。
「字は汚い、先生の話を聞かない、それに忘れ物も多い!お前テストの日にちだけ覚えて、実際テストは大丈夫なのかよ?!」
「僕は僕が良いって思った事をやってるだけなんだ、口出ししないでくれない?」
珍しく晃から強い一言を言われたので、三人は黙ってしまった。
それから十秒後、晃はこう呟いた。
「あれ?僕何か言ったっけ?みんななんで黙ってるの?」
呆れた朝日は、晃を揺さぶった。
「晃!お前さっき鋭い本音言っただろ?!何で忘れるんだよ!」
「や、やめて朝日君…」
「ったくもう…」
学校に着くと、早速一時間目から社会のテストがあり、放課後には帰ってきた。
「あ〜、もうちょい勉強しとけば良かった…」
「姉ちゃん不調だな、俺の方が良かったけどな!」
「朝日に負けるなんて…屈辱的」
雪花は点数こそは見せてくれなかったが、様子を見ると、良かったそうだ。
「で、晃はどうだったんだ?」
「あんまり頑張ってないけどね」
そう言って、躊躇いもなく見せた答案用紙には…、百点の文字と特大の花丸があった。それに思わず朝日は、自分の回答用紙を筒状にして、晃を叩いた。
「お前全然良いじゃないかよ!」
「やっ、やめてよ!」
「お前その頭の良さもっと使えないのかよ!」
「僕は誰にも指図されなくないんだ、頭の使い方は自分で決めさせてよ」
晃はぴしゃりとそう言って、十秒後、こんな事を言った。
「で、僕は何を喋ったんだっけ?」
「ああもう!」
朝日は、晃の背中を掴んで引き摺ると、陽和にランドセルを持たせて、雪花と一緒に学校を出た。
それからの帰り道、晃はさっきの事なんかすっかり忘れている。
「お前…、ずっとこんな感じじゃないか、大丈夫なのかよ…」
「僕は僕が好きなように生きてるだけさ」
家が近づいてきた晃はそのまま帰った。
「やれやれ…、まぁ、それが晃なんだろうけどな」
三人がまた歩き出したその時、燃えたトカゲのような怪が目の前に現れた。
「獄炎の輩!」
陽和はポケットから御札を取り出すと、怪にかざした。「『雨風輪舞』!」
すると、陽和の周囲は雨風が強くなり、怪を遠ざけた。
「姉ちゃん、ありがとな『冥道裂斬』!」
そして、朝日の鎌で怪はあっという間に浄化されていった。
「やった!」
ところが、突然周りの気温が急激に上がり、二人は滝のような汗をかいた。
「なんだろう…、時期にしては早すぎるような…」
すると、目の前に青色の身体に銅色の角を生やした鬼が現れた。
「ハハッ!俺の名は紺碧!獄炎の輩の一角の鬼族なり!」
「コイツ、本物の鬼かよ…」
雪花は震えだした。
「大丈夫、私達がなんとかするからね」
「うん…」
「なんとか出来るものならな!『酷暑症』!」
すると、気温は更に上がり、雪花は倒れた。
「うっ…」
「雪花ちゃん!『氷風輪舞』!」
陽和は氷を降らして雪花の体温を下げようとしたが、暑さで解けてしまう。
「くっ…『五行•「陰」』!」
朝日は黒い炎で紺碧と戦うが、あまり効いていない。
「『砂風輪舞』!」
陽和も応戦するが…、温度はむしろ上がる一方だ。
「『海没災』!」
そして紺碧が繰り出した水流で二人は流されてしまった。
「あいつ…、強いな…」
「『地神の鉈』!」
その時、紺碧の身体を鉈が貫いた。
「えっ…?」
目の前には、地神を模した赤茶色の仮面に、茶色のローブを纏い、手には巨大は鉈を持った人物が立っていた。
「お前は…、荒れ地の死神か…」
紺碧はその人に近付こうとしたが、一歩踏み出した瞬間、地面が爆発した。
「えっ?!」
「俺の能力である『地雷』…、これは霊地雷、霊や妖、怪にしか効かない。お前の能力は『日射』、日差しをコントロール出来る能力、だったっけな?」
死神は鉈をもう一度振り回した。
「『霊石の鉈』!君、今のうちだ!」
朝日は呼び掛けに答えると、鎌を振り上げた。
「『日輪円舞』!」
そして、紺碧は倒れた。
「やった!」
「よく頑張ったな!」
すると、紫色の鬼が現れ、紺碧の身体を回収し、力を吸収した。
「これで、お前もお払い箱だな?」
「お前…、仲間に何やってんだ?」
紫色の鬼は振り向いた。
「俺は至極、は?俺より弱いあいつが仲間な訳ないだろ?」
至極は嘲笑っていた。
「まぁ、今はお前らと戦う気はない、ただ…、いつかは必ずお前らを倒す」
そして、何処かへ行ってしまった。
「なんだよ…」
死神は仮面を外して三人を見た。
「あっ、ありがとうございます…」
「自己紹介が遅れたな、俺の名前はフィクマ、砂の力を司る荒れ地の死神さ」
フィクマは、二人の傷だらけの身体を見た。
「『荒れ地の花』」
すると、二人は一気に回復した。
「普段は荒れ地で人の魂を導いたり、行き倒れた人を助けたりしてるんだ、久々にある人に会おうとしたらこの有様で…」
「そうだったんですか…」
「君達、名前は?」
「あっ、俺は風見朝日です」
「私は風見陽和です」
「私は神野雪花です」
「風見…?もしかして、風見の陰陽師か、昴様の息子さんと娘さんか?」
「はい、そうですが…」
するとフィクマは優しい目をした。
「君たちの曾祖父さんには世話になったんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ、智さんが生きてる人を助ける事を教えてくれたんだ、『人を助けるの事もまた、死神の役目』だって、俺は行き倒れてる人を冥界に送る事しか考えていなかった。だけど、今にも死にそうな人を助けるのも、死んだ人を安心させるのも大事な事だって、気づかせてくれたんだ。だから、そのお礼に会いに行こうとしたんだけど…、居ないな、冥界に行ってみるか」
「あっ…」
「君たちもいつか会えるといいな、それじゃあまたな」
「ありがとうございました!」
フィクマはそう言って去ってしまった。
雪花は何か何だか分からずポカンとしていた。
「ごめんな、俺達の話ばっかりで…」
「ううん、全然良いんだよ」
三人は再び帰路についた。
一方、冥界では獄炎の輩の一員である虫襖の攻撃にシェイル、シオナ、ウォルがやられていた。
「なんだ、お前らこんなもんか?」
「うっ…」
ただ一人、神化した真莉奈だけが立ち上がり、向かっていた。
「真莉奈、無理すんな」
「分かってるよ!」
桜弥は立ち上がると死神達を避難させた。すると、フィクマが現れ、虫襖を向かって行った。
「行くな!」
「『怪蟲召喚』!」
すると怪蟲の大群が現れ、フィクマは一瞬にしてやられてしまった。
「『月食斬』!」
真莉奈は怪蟲を退けると、虫襖に斬りかかった。
「『霊蟲の触手』!」
虫襖は触手を伸ばし、それを受け止める。
「やっぱり神化した死神は違うな!」
「『神力の狂弾』!」
真莉奈は怪蟲を殲滅させ、蟲襖にも当てた。
「それでも俺を倒す事は出来ない!」
「それはどうかな?」
すると、昴が目の前に現れ、触手を一瞬にして斬った。
「昴、お前!」
昴は炎を足を纏い、空を飛んだ。
「みんな、離れとけよ?『火神円舞』!」
すると周囲は炎に包まれ、虫襖は燃えていった。
「くっ…、お前!」
虫襖が死んでも炎は消えなかった。真莉奈や、他の死神達は避難していたが、桜弥は一人取り残されていた。この炎はどういう方法を使っても消える事はない。
「そうか…、あの時と同じか…俺はお前に殺されるんだ…」
昴はずっと空中に浮いていたが、桜弥を見つけるとすぐ様炎の中に飛び込み、救い上げた。
「昴!お前、俺を殺すんじゃなかったのか?!」
「俺は華玄とは違うんだよ」
昴は自分の上着を桜弥に着せると、そのまま真莉奈のところへ向かった。
「母さん、父さんを連れてきたよ」
「あっ、ありがとう…」
桜弥はすぐに真莉奈の方へ向かった。
「昴、どうして俺を…」
「俺だって成長したさ、あの時の事は俺も悔いている…。困ってる父親を助けるのは息子として当たり前だろ?」
昴はそう言って笑っていた。