転生のち竜
ーこれは剣と魔法の世界を旅する、勇者の物語ー
…であって欲しい。
菊池タクトは、そこそこ勉強が出来て、そこそこのなんでも出来て、絶望的に運動ができない、アニメやゲームが大好物な平凡な高校生である。
が、一つだけ、特別な点をあげるとするならば、不登校だということぐらいだ…
今までの割と順調な人生。それは中学の時、ただ先生と合わなかった、そんな理由でポッキリと折れてしまった。トラウマになっていた。学校に行くと出てくるのは、頭痛、目眩、吐き気、腹痛、言葉に出すとこんなにも酷い。
自分の人生の先に見えるのはあまりある漆黒、そこからどうしても逃げたかった俺はゲームやアニメの世界へと逃げ込んだ。ほかのことを考えないように没頭した。そして中学を卒業し、自分の学校が一貫校だったことが幸いし今は何とか高校生だ。
学校が変わったら学校に行けるようになるわけもなく。今に到る…
「もう、寝るか…」
スマホを確認する。深夜の四時、今となっては普通の時間だ。さぁ光の住民たちが起き上がる前に、夢の世界に待避しよう。闇の時間は終わりだ。かっこよく行っているが、ただの昼夜逆転である。
悲しい事実は睡魔に包まれ消えていく…
…数時間が経ち意識が覚醒する。目覚ましなんてかけてない、十分に回復が行われた時、睡魔は過ぎ去っていた。ソクっと起き上がり、枕元のスマホに手を伸ばすが、
「あれぇ?スマホはぁ?てか暗っ…ん?あれ?まだ朝じゃないんかな?珍しっ……寝よ…」
再び倒れてきた頭を受け止めたのは、枕ではなく岩肌だった。
「痛ったぁ!え?ちょっ…!?へ?」
事態の異変に気づき当たりを確認するが、真っ暗闇の中肌をひりつかせるほどの冷えた風と、氷かと思うほど冷えた岩肌だけだ。
「って、寒っ…!?いや、冷たっ!?なになになに、この状況…」
本当に理解が追いつかない状況だ、だが、アニメオタクとして、この状況ひとつの選択肢が音の速さで浮かんできた。
「え?転、生…して、る?…いや、でもこの岩の冷たさに、肌で風も感じられる……まじで?……よっしゃァァァアアア!」
浅はか、実に浅はかな思考だが、それは事実であり真実、
そう、タクトはー転生ーしたのである。
「まじかよ!?そんな事ある?やっば…」
それを祝福するかのように朝日が顔を見せる。朝日がその全身を露わにすると同時にカーテンが開かれたかのように目の前の景色が解放されていく。
「…」
あまりの絶景に言葉が出なかった…どうやら俺は今、山の上にいるようだ。下に見下ろすのは村のような場所に緑の自然、大きな湖、まさにThe異世界っと言うような景色だった…
…数分後、考えることよりこの絶景を楽しんでいた脳がようやく、自分の働きを思い出した。
「…っで、ここはどこなんだ?見たところ、洞窟のいりぐ…ち……」
現状確認のため後ろを振り向くと、巨大な洞窟が広がっており、その中央には絶大な威圧感を振りまく巨大なドラゴンが佇んでいた…
「へ…?」
自分の洞窟に現れた謎の生物、その生物が振り向き自分の存在に気づいた…攻撃する。
「ガア゛ッ!?」
ドラゴンはその腕で俺の体を弾き飛ばす。
洞窟の壁に打ち付けられた俺の体はバキバキと悲鳴をあげる。
「ア゛…ア゛グ…」
悲鳴なんてあげることも出来ない…これ以上痛みを広げまいと呼吸をも惜しんでいる。奥歯が震えそれが全身に伝わる。
あまりに脆く一撃で動かなくなった俺をドラゴンは静かに見つめる。そのまま何を思ったかその巨大な手で俺の体をガシリと掴み、顔を近づけ巨大を目で観察する。
「なん…だよ……」
痛みがどんどん遠のいていくと共に、自分の 死 が1歩また1歩と近づいている音が聞こえる…
「クソ…」
やっと転生した。そう思った途端、後ろにドラゴンが待機してて、死亡。全く神様に中指を立てたくなるような状況だな。まじで……
ずっとドラゴンはこちらを眺めている。
「なんだよ…そんなに俺が珍しいか…?それなら俺の死体を巣にコレクションでもしとくか?……それなら、俺はお前の鱗を天国に持っていくとするかなぁ!?」
最後の力を振り絞りドラゴンの手に噛み付いた。
急な攻撃に驚いたのかドラゴンは俺の体を壁に向かって投げつけた。
宙を舞う俺の口には小さな鱗が1枚。これがホントの冥土の土産だな…
そうしてまた、壁に打ち付けられる。
(ごくっ…)
その衝撃で冥土の土産は俺の喉を通り抜けた。冥土の土産の土産は腹の中ってわけだ…
次の瞬間どこからともなく声が聞こえた。
「エクストラアルス 竜の因子 を獲得しました。」
その声とともに目の前には、青く光る画面?のようなものが表示された。
「アルス?なんだ…これ?って…えっ!?」
自分の状態の変化に気がついた。
全身を支配していた痛みが消え去り、全く言うことを聞かなかった手足を動かくことが出来る。
逃げられる!?
脳がその選択肢に気づいた時既に、体が朝日に向かって走り出していた。後ろを振り向くことなく朝日に向かって思いっきりジャンプした。
驚くほど長い浮遊感はここが山の上に位置することを思い出させた。
「え?うわぁーっ!?」
…山の斜面を転がり落ちる。
「…痛ったぁ…って、ドラゴンはっ…追って来てないな…逃げきれた…」
方の力が抜けた。目の前には世界を区切っているかのごとく巨大な山がそびえ立っていた。
次の瞬間、耳を刺す竜の咆哮が轟いた。