第九話 「母親の殺意」
『――――そのカゴの中には……』
「いや……」
震えようと、
『……お見舞い用のブドウ酒と、』
「……やっ!」
おびえようと、
『……お弁当を入れたきんちゃく袋と、』
「……いやっ!」
頭を抱えようと、
『……オノが入っています』
「いや!!」
痛むほど響く言葉から、逃げ出すことはできません。
『――――早く、あのババアを殺しておいで』
「――――いぃやぁぁーーーーーーーーーーーーーーーぁぁっっ!!」
助けを求め伸ばされた腕を振り払い、赤ずきんは赤い光沢を帯びたオノを渾身の力で振り下ろしました。ごすっ、とカボチャが割れるような音がして、飛び散った生暖かい液体が両手を濡らします。どろりとしたそれは手の甲を伝ってそでの隙間に入り込み、蛇のようにからみついてきました。
真っ青になった赤ずきんは、再びオノを振り下ろしました。
何度も何度も、振り下ろしました。
どろりとした赤黒い液体は、そのたびにまたまとわりつき、奥へ奥へと侵食してきます。
赤ずきんは、もっともっと振り下ろして、割れたカボチャをこなごなにしました。そのうちに青ざめた肌は赤く染まり、やがて真っ赤になりました。からみつく蛇ももういません。しびれたようにぼんやりとした熱が、腕全体に広がっていました。
それでも、赤ずきんは止まりません。こなごなになったカボチャをぐちゃぐちゃにして、オノの刃が床に届いても、赤ずきんは、その手を止めませんでした。
振り下ろすたび、どろどろになった手のひらに、不思議な感触が広がるのです。赤ずきんはやみつきになってしまいました。やめられなくなってしまいました。