第七話 「人喰い」
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ノックをすると、返事が返ってきました。木製の扉を開き、ゆっくりと覗き込む赤ずきん。
ベッドの布団が大人一人分ふくらんでおり、他に人影はありませんでした。安堵して、足を踏み入れます。ベッドのそばまで近づくと、おばあさんが顔を出し、身を起こしました。
「おお、赤ずきん。遠いところをよく来てくれたね。おばあさん、とっても嬉しいわ」
言って、にっこりと笑うおばあさん。
「あぁ、そうそう、おなかが空いているでしょう? となりの部屋のテーブルにごちそうを用意しておいたから、たくさん食べなさい」
赤ずきんは、促されるままとなりの部屋へ向かいました。とは言え、ここは小さな小屋の中。となりの部屋とは名ばかりで、扉はなく、ただ、薄い木の板でできた粗末な仕切りがあるだけです。となりの部屋は、小さな丸いテーブル一つでほとんど埋まってしまっています。
それでも、赤ずきんは、テーブルの上に所狭しと置かれたごちそうに目を奪われました。気の緩んだおなかが、思い出したように空腹を訴えてきます。
手を合わせるのももどかしく、赤ずきんは、並べられたごちそうに飛びつきました。と言ってもほとんどが肉で、野菜や果物、魚などはほとんど使われておらず、控え目に言ってもひどくバランスの偏ったものでしたが、赤ずきんは気にも留めません。すぐとなりで聞こえた舌舐めずりにも、気がつきませんでした。
文字どおり無我夢中で食べ続け、しばらくしたのち、満腹になった赤ずきんはようやく手を止めました。ごちそうはまだ半分ほど残っていましたが、ふくらんだおなかにはこれ以上入りそうにありませんでした。
赤ずきんがベッドまで戻ると、おばあさんの毛糸で編まれた丸い帽子から、大きな耳が飛び出していました。赤ずきんは、不思議に思ってたずねます。
「えぇ? 何だって? ……私の耳が大きい?」
耳に手を当てて聞き返すような素振りが、どこかわざとらしく映りました。
「それはね、お前の可愛い声を聞くためだよ」
呟くおばあさんの目が、大きなまばたきをしました。
「何、私の目が大きいって? 怖がることはないよ。お前の可愛らしい姿を、よく見るためさ」
視線を感じたのか、聞いていないのに答えると、おばあさんはやけに大きな手で赤ずきんの頭をなでました。首をかしげる赤ずきん。
「なんだい、今度は。……私の手が大きい? そうだよ。大きくなくては、お前を抱いてあげる事が出来ないものね」
にっこりと笑うおばあさんの口が、大きく広がりました。その奥から、鋭い牙がのぞいています。
「まだ何かあるのかい。……私の口が大きいって? それはね、赤ずきん――――」
そこまで言って、口ごもるおばあさん。
「――――お前を食べるためさぁ!!」
ふとんをがばりとめくりあげると、突然飛びかかってきました。