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第五話 「身売り」


           *


 息を切らし、ぬかるんだ道を歩いていた赤ずきんは、道の先が馬車でふさがれているのに気がつきました。そのそばにいた二人組の男が赤ずきんに気づき、近づいてきました。嫌な予感が頭を()ぎり、赤ずきんは足を止めました。とはいえ、引き返す気にはなれません。迷っている間にも、男たちとの距離はどんどん縮まっていきます。二人の顔に見覚えはありませんでしたが、悪い予感はいっそう強くなっていきます。

「やあ。赤ずきんっていうのは、君かい?」

 わきの(しげ)みに隠れようとしていた赤ずきんの肩を、ひょろ長い長身の男が掴みます。振り向くと、それは二人組のうちの一人でした。となりの大柄な背の低い男が、優しげな笑みを浮かべながら歩み寄ってきました。

「……可哀そうにねぇ。まだ、自分がどういう状況なのかわかっていないようだ」

 強まる大粒の雨の中、遠くの空が(またた)き、(とどろ)く雷鳴とともに、男たちの顔に暗い陰影(いんえい)を落としました。

「お前は売られたんだよ、赤ずきん」

 ひょろ長い男が目を細めてにやにやと笑います。

「君のお母さんに、十分な金は払ったよ。嘘なんかじゃない、正式な取引さ」

 背の低い大柄の男が、にこやかに語りながら赤ずきんの前に回り込んできました。

「一生、私の元で奴隷として働いてもらうよ。これから君は、死ぬより辛い仕事をするんだ」

「そう。お前の息が止まるその時まで、ずーっとね」

 高笑いする二人の声が、頭の中で幾重(いくえ)にも連なって駆け回り、赤ずきんはめまいに似た感覚に襲われました。


 お花畑で開いたきんちゃく袋――――中には小石がつめられていて、お弁当などどこにもありませんでした。今なら、そのわけが手に取るようにわかります。

 ――――赤ずきんのお母さんは、はなからお見舞いに行かせる気などなかったのです。

 赤ずきんを、人目に付かない深い森の中へ行かせることさえできれば、それだけで良かったのです。もう一生、帰ってくることはないのですから。そして、

「……おっと、忘れるところだった。お前、ブドウ酒を持たされてるんだったな?」

 一緒に持たされたブドウ酒も、当然、お見舞いの品などではありませんでした。


 ――――すべては口実。見せかけだったのです。

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