第44話 老人たちの裁判員裁判
ここは宮永家、宮永兄妹は学校行っているのでこの家にいるのは宮永楓ただ一人だけである。
楓「はぁ……一人だとこの家も静かに感じるねぇ……」
楓は普段は騒がしい(主に源三のせいで)家で久々に静かに過ごしていた。
楓「それにしても、これはどうしようかねぇ……」
宮永楓が握っている一枚の紙、楓はこれを見て不安げに溜息を付いていた。
楓「お爺さんが陪審員なんて大丈夫なのかねぇ……」
それは楓の夫の宮永源三に対する陪審員として出廷する様に要請する紙である。
楓「あの人が裁判所に行くってのは、なんだかあの人が被告人になるって感じがするんだよねぇ……」
楓は机でお茶を啜りながらこれからどうするか考え続けていた。
☆
源三「ついに来たのじゃレッツ裁判!」
宮永源三は一人で裁判所に足を運んでいた、今日は自らの陪審員デビューと言うことで彼は張り切り。
男性「ええと、陪審員の方はこちらですが……」
源三「はいはい!ワシじゃよワシ!陪審員第一号じゃ!」
男性「……陪審員の方……ですか?」
案内役をしていた男性は源三の格好をしてその男が陪審員であることをすぐには信用できなかった。何を勘違いしてか、源三は19世紀のイギリスの判事の様な髪型を態々整えて、灰色のスーツと言うアンバランスな姿であった。
源三「見て分からんか!?どう見ても陪審員じゃ!この通り出廷要請書も届いておるのじゃ!」
男性「ああ、確かに陪審員の方ですね」
源三が出廷要請書を見せたことで男性もようやく目の前の奇妙な19世紀イギリス判事の様な姿の男が陪審員だと理解した、正確にはそう思わざるを得なくなったのだろうが。
源三「全く、失礼なやつじゃ」
男性「失礼しました……ええと次の方……陪審員の方ですか?」
勘十郎「当然だぞい!吾輩のこの格好を見て陪審員以外の何物に見えるぞい!」
源三「って、クズ親父ではないか!」
なんと源三のすぐ後ろにいたのは源三の父の勘十郎であった。
しかも何故か彼も源三と同じような髪型と服装で。
勘十郎「ば、バカ息子め!貴様ココで何をしておるぞい!」
源三「この格好を見て分からんか?陪審員に決まっておるじゃろうが!」
案内役の男性は内心でその格好じゃ分からないだろと思っていた。
源三「お主こそまるで陪審員になったような格好で何様のつもりじゃ!?ここは年寄りが遊びに来る場所ではないじゃろうが!」
勘十郎「何を言うぞい!吾輩こそが陪審員の長として呼ばれたのだぞい!」
男性「あの……陪審員に上下関係はありませんので……」
案内役の男性が二人の喧嘩の間に入って丁寧に説明するがもはや二人はそんな事はお構いなしである。
源三「相変らず偏屈な爺め!この決着は裁判で付けてやるのじゃ!」
勘十郎「望むところだぞい!実力の違いと言うものを思い知るが良いのだぞい!」
男性「いや、陪審員同士が対決する場でもありませんので……」
こうして、二人の雌雄を分ける裁判が今から始まろうとしていた!
☆
裁判長「これより開廷致します」
源三「いよいよじゃな」
勘十郎「貴様には負けんぞい!」
いよいよ裁判が始まっていた、裁判長の開廷宣言と同時に全体に緊張した雰囲気が漂う中、この二人だけは個人的な戦いに火花を散らし合っていた、ちなみにこの親子以外にも今回は5人の陪審員が呼ばれているのだが、既にこの二人だけが傍聴人たちからも奇異の目で見られている。
裁判長「それでは、被告人は前に」
裁判長の命令で被告人と呼ばれた女性は警察官に付き添われた状態で、被告人席に立たされる。ちなみにその被告人と言うのは意外に若く、スタイル抜群の女性なので。
源三&勘十郎「「裁判サイコォ――――――――――――――ッ!!」」
早速二人の陪審員を跳ね上がらせることになっていた。
裁判長「陪審員はお静かに!」
スグに裁判長が始まって早々に陪審員を注意すると言う異例の事態に陥っていた。
源三「ふぉふぉふぉ、あの胸結構良いのう」
勘十郎「決めたぞい!吾輩はあの美女を全力で守るのだぞい!」
源三「そうじゃな、だけどそれはワシがやるからお主は大人しくしておれ」
勘十郎「黙れ未熟者め、貴様には120年早いぞい!」
早くも二人の裁判員が被告人に肩入れを始めようとする中、裁判長が被告人の罪状を読み上げる。
裁判長「罪状、被告人は●月☓日に知人宅に押し入って、盗まれた金を取り返すと言う名目で刃物を突き付けて脅して、現金30万円を奪い取った容疑で間違いないですね?」
被告人「……知りません」
裁判長の読み上げた罪状に対して被告人の女性は目を合せないまま小さな声でそれを否定する。
検察「裁判長、被告人の犯行を見たと言う証人を連れてきました、こちらの方です」
被告人の否定に対抗する様に検察は早々に被告人の犯行を目撃したとされる証人を呼び出していた。
その証人は50歳位であろうやや小太りの中年女性であり、
源三「引っ込めメタボババァが!貴様などお呼びではないのじゃ!」
勘十郎「お主はあれだぞい!自分と違って若くてスタイル抜群の美女に嫉妬しているんだぞい!」
陪審員が証人に対して野次を飛ばすと言う全体未聞の事態になっていた。
裁判長「陪審員は静粛に!」
証人はいきなり自分に対して野次を飛ばす源三と勘十郎に対して不快感を感じたが、ここまで来た以上は、すでに引けないと改めて自分に言い聞かせて、証言台に立つ。
証人「わ、私は、確かに彼女が被害者の家から鞄を持って慌てて出て行く姿を見たのです!」
検察「彼女はどんな鞄を持っていましたか?」
証人「茶色の手提げ鞄でした!」
証人の発言を聞き終えた検察官は裁判長に顔を向けて、大きな声でこう言う。
検察「裁判長!今証人の言った茶色い手提げ鞄と言うのは被告人が逮捕時に所持していた鞄と全く同じ特徴です!これは被告人の犯行を裏付ける上で非常に重大な――――」
源三「異議あり!」
検察官が話している途中であるにも拘らず、一介の陪審員が異議を唱えていた。
裁判長「陪審員は静粛に!」
源三「何故じゃ!」
その台詞は弁護士がいう事だと他の陪審員と傍聴人は呆れながら源三を見ていた。
検察官「説明を続けます、これは被告人の犯行を裏付ける上で非常に重大な証言であると私は確信しています!」
勘十郎「異議あ――――」
裁判長「静粛に!」
勘十郎「最後まで言わせんか!」
勘十郎の意義は即座に却下されていた。
弁護士「異議あり!」
裁判長「弁護人の異議を聞きます」
源三&勘十郎「「不平等じゃ(ぞい)!」」
自分達が守ろうとしている被告人の弁護士の異議が認められたこと自体に源三と勘十郎は異議を唱えていた。
弁護士「証人は彼女が茶色い手提げ鞄を持って被害者宅から走り去るのを見たと証言していますが、被告人はそもそも事件当日に被害者宅に出入りした事実自体確認されていません、証人が目撃した人物は被告人とは全くの別人である可能性は無いでしょうか?」
弁護士が証人の証言に誤りがあることを示唆したことにより、傍聴人や陪審員たちの目が証人に一斉に向けられていた。
源三「そうじゃそうじゃ!目に変なフィルターがあるから下らん見間違えをしたのじゃろうが!」
勘十郎「これは冤罪だぞい!証人の不用意な発言が被告人のやってもいない罪をまるで事実であるかのように思わせる検察の思惑だぞい!」
検察「何だとキサマ!」
弁護士の意見に同調するかのように源三と勘十郎は囃し立て、特に勘十郎の発言は検察の腐敗を示唆する発言でもある為、検察官から強い反発を招いていた。
裁判長「陪審員二人!これが最後の警告です、静粛に!検察も静粛に」
検察「……失礼しました」
源三「つーんだ」
勘十郎「つーんだ」
裁判長が熱くなる三人を静まらせて、裁判を続行する。
☆
弁護士「これを見て下さい、これは被告人の携帯電話ですが事件当日の犯行時刻に知人とメールのやり取りをしています」
裁判は続行し弁護士は被告人の無罪を証明する為に新たな証拠である携帯を提示していた。
裁判長「弁護人はメールの内容を読み上げてください、被告人も構いませんか?」
被告人「……どうぞ」
弁護士「読み上げます『今からそっちに行って良い?最近あたし達やってないよね?あたしそろそろ欲求不満でこのままだと他の男逆ナンして発散しちゃうかも~』これは被告人が知人の男性に送ったメールです、これに対し……」
源三「おのれ!憎たらしい男じゃ!こんな美女の身体を手に入れながらまるで他のも相手がおるかのように最近やってないじゃと!?」
勘十郎「けしからんぞい!やらないなら吾輩に寄こせと言ってやるぞい!」
弁護士が被告人が知人男性に送ったメールを読むことによって、事件性の有無にかかわらず源三と勘十郎の怒りに火を付けていた。
弁護士「続きを読み上げます!これに対して知人の男性からもちゃんと二分後に返信が来ています!内容はこうです!『悪かったよ、今から俺の方からそっちに行くから少し待ってな、溜まった分しっかりと解消させてやるからさ』と送り返されています」
そのメールは被告人の無罪を証明するのに強い効力を発揮するだろうと陪審員や傍聴人たちは強い関心を寄せていた。
源三「その男をここに呼ぶのじゃ!奴を被告人席に座らせて、死罪か無罪かを即刻決めるのじゃ!」
勘十郎「吾輩がそいつを断罪するぞい!もはや陪審員など生温いわい!吾輩はこれより断罪人になるのだぞい!」
裁判長「陪審員二人に対して退廷を命じます」
ガシッ
源三&勘十郎「「ほげ?」」
痺れを切らした裁判長の退廷命令を受けて、警察官たちが源三と勘十郎の肩を掴んでいた。
源三「な、何をするのじゃ!ワシらはここでこの戦いから退くわけにはいかんのじゃ!」
勘十郎「全く持ってその通りだぞい!美女を誑かす野郎を吾輩の手で始末するまではここから去るわけにはいかんのだぞい!」
裁判長「それでは裁判を続けます」
源三&勘十郎「「話しを聞けぇ―――――――――――ッ!!」」
~それから数時間後~
源三「全く失礼な裁判長じゃ!」
勘十郎「裁判など二度と御免じゃ!二度といかんぞい!」
来牙「もう二度と呼ばれないと思うがな」
二人は宮永家に戻って、裁判所での不満をぶちまけているのだった。




