第34話 来牙と絵梨の幼少期の思い出+金塊の眠る巨大迷路
~宮永絵梨のちょっと昔の話~
絵梨「これ、来牙君にあげるね、あたしからの気持ちだから……」
中学一年生の宮永絵梨は一つ年上の宮永来牙に対して、手作りのマフラーをプレゼントしていた。
来牙「上手に出来たもんだな、家庭科の成績は悪くないだけあるな」
絵梨「うん、五教科は全部苦手だからね」
料理や編み物は比較的無難に出来る絵梨は、体育ほどじゃないが、家庭科も出来る方でその特技を生かして、絵梨は寒い冬に使ってもらえるようにと手作りのマフラーをプレゼントしていた。
絵梨「これから寒くなるからね、あたしのマフラーで少しでも暖まってくれると嬉しいなってね」
来牙「二つあるみたいだけど、そっちはお前のか?」
絵梨が来牙に渡した黒いマフラーとは別に、絵梨の手元にも同じ黒いマフラーが残っていた。
絵梨「うん、これであたしと来牙君はお揃いだよ、ペアルックだね」
来牙「黒いマフラーなんてどこにでも売ってそうだけどな」
絵梨の手作りマフラーは黒一色なので、普通の衣服販売店にでも売っていそうなのだが、絵梨にとっては自分の手作りのマフラーを来牙とお揃いで身に付けていられることが嬉しくてたまらない様子だった。
絵梨「この二つのマフラーは一日置きで交換しながら使おうね、今日はあたしがこっちのマフラーを使ってるけど、明日は今、来牙君の使ってるマフラーを使うの、代わりにあたしが使ってるマフラーは明日は来牙君が使ってね」
来牙「また、なんでそんな一日交換でマフラーを使うんだ?」
絵梨が提案した一日置きでマフラーを交換し合う意味が来牙にとっては理解しがたいので、その意図を尋ねてみる。
絵梨「お互いの温もりを感じ合えるからだよ、これをやればお互いにペアルックなんだって実感できそうなんだもん」
来牙「そうかい」
昔からブラコンのお兄ちゃんっ子の絵梨が考えそうなことだと、来牙はそれで納得していた、今までにも、外食した際には来牙と同じメニューを頼んで置きながら、二人ともそれぞれ半分程食べたら、交換して相手の食べかけを食べるなどと言った、絵梨独自の相手の温もりを感じる方法に来牙は何度も付き合ってきたのだから。
絵梨「あたし達、これからもずっと、ずっと一緒だもんね?」
来牙「ま、当分はお前の相手をすることになるだろうな」
絵梨「ずっと、ずっと、ず~っと一緒だよ?」
今まで通り妹の相手をしばらく続けていくくらいだろうと考えている来牙と、兄と妹の関係をこれからも深めていきたいと固く決心した絵梨だった。
※迷路は、複雑に入り組んだ道を抜けて、目的地、ゴールまで辿り着くことを目指すゲーム、パズルのことである。
来牙「遂に完成したらしいな、例の超大型アクション迷路」
絵梨「知ってる、知ってる~。過去最大級の規模ですごい注目されてるんだよね~。なんでも営業時間外にはテレビ番組の企画にも使われることが決定してるって」
来牙と絵梨は新しく作られた大型迷路のニュースをネットで見て盛り上がっていた。
絵梨「来牙君、もうすぐオープンだし、初日は日曜日だから一緒に行こうよ~」
来牙「面白そうかもしれないな、そう言えば翔の奴も参加するらしいしな」
源三「な~にが迷路じゃ!」
が、そんな来牙と絵梨の会話に水を差すように源三がつまらなさそうに口を挟んでいた。
源三「迷路なんかで楽しめるのはガキかバカだけじゃろう!」
来牙と絵梨はバカが迷路で楽しめるのなら源三も楽しめるんだろうなと内心で思っていた。
来牙「にしても思い切ったことやるよな、先着でゴールした3名には金塊をプレゼントするなんてな」
源三「なにっ!?」
が、源三はその来牙の一言を聞いて耳を過敏に反応させていた。
絵梨「これ目当てで参加しようとしてる人も多いみたいだけど、正直宝くじで大当たり当てるのと同じくらいに確立低いよね~」
来牙「一攫千金を目指す連中か、そういうこと考える奴らってなりふり構わないからマナー守らずにほかの客を押しのけたりするんだよな~」
源三「二人とも何をしておるんじゃ?」
いきなりだった、源三が妙に真剣味のある声と表情で来牙と絵梨に声をかけていたのは。
源三「参加するのじゃ!こんな素晴らしい迷路に参加しないわけにはいかん!乗るしかないのじゃ、このビックウェーブに!!」
絵梨「お金大好きだね」
来牙「金の亡者だな」
こうして、源三は金塊を手に入れるために超大規模の迷路に挑戦することになったのだった。
☆
こうして、超巨大迷路オープン当日、宮永家の面々は楓以外の全員がその巨大迷路に参加するために訪れていた。参加希望者が殺到したために、オープンから1か月は抽選制であったが、見事に宮永家の面々は抽選に当たり、こうして金塊の眠る迷路に入れることになっていたのだった。
来牙「目の前で見てみるとすごい迫力だな」
絵梨「あの迷路の壁の高さってだいたい250センチ位なんだって、しかも天井があるからドローンとか上空から写真を撮る不正も出来ないんだね~」
来牙と絵梨は巨大な迷路を目の当たりにして、改めてその凄まじい規模に感心していた。おそらくこの迷路を作るのに相当な巨費を投じたことが想像できる。
来牙「この巨大迷路にはそれだけの収益が見込めるって事か……」
同時に来牙はそのあたりのコスパに関する事情を訝しんでいるが、そんな思考は目の前の自分の祖父を見て吹き飛ぶことになる。
源三「ふはははっ!!一攫千金じゃ!ついに金塊の眠るダンジョンにワシはやってきたのじゃ――――――!!」
大勢の客が来ている迷路を目の当たりにして源三は露骨なまでに醜い金銭欲を丸出しにしていた。まるでサバイバルでも始めるかのような探検家風の風貌の源三は周囲からのあきれた視線を集めていた。
鳥飼「げ、源三!テメェも来てやがったのかよ!」
源三「と、鳥飼じゃと!?」
が、そこで源三は見知った人物、鳥飼と出くわしたのだった。
源三「分かるぞ!どうせ貴様も金塊が目当てなんじゃろうがこの金の亡者め!」
鳥飼「金の亡者はオメェもだろうが!」
会うなり早々に源三と鳥飼は揉め始めていた。
源三「金塊はすべてワシのものじゃ!誰にも渡さんぞ―――――!!」
鳥飼「バカが!一人につき一個までのルールだろうが!」
来牙と絵梨は既にこの老人たちから距離を取って他人のふりをしていた。関わるとろくなことにならないと源三と長年一緒に暮らしている来牙と絵梨は本能で感じ取るのだった。
薮井「低能共に子の迷路を攻略できるわけがない、この迷路を制し、金塊を手に入れられるのは私のように優れた頭脳を持った者だけだからな!」
更になんと薮井まで参戦していたのであった!源三、鳥飼、薮井、金銭欲の塊の老人トリオはまたしても集結していたのであった!
源三「鳥飼!貴様なんかに金塊は渡さんぞ―――!!」
鳥飼「テメェみたいなバカに負けたら先祖代々までの恥になるだろうが――――!!」
薮井「私を無視するな―――――!!」
恰好を付けて登場した薮井であったが、あっさりと無視されて、涙を流しながら怒鳴る薮井だった。
源三「おお、薮井か~、何しておるんじゃ?ここはhomelessの炊き出しじゃないのじゃ」
薮井「この現場を見てだれが炊き出しと勘違いするか!そもそも貴様、なぜホームレスだけ英文なのだ!賢いふりをするな!」
鳥飼「警察呼んでやろうか?保護してくれる団体とかにもな」
薮井「そんなモノはいらん!私はこの迷路で金塊を手に入れて人生を変えるのだ―――――!!」
こうして、欲望渦巻く巨大迷路への挑戦者たちが集まるのであった!
続く!




