第16話 クリスマスイブの日は皆に幸福が訪れる?
12月24日!クリスマスイブの日であった!日が暮れる頃には町中の至る所でクリスマス仕様のイルミネーションが点灯し、家族連れやカップルなどが聖夜のイブを満喫するのである。
彼氏「ほ~ら、俺の彼女にクリスマスプレゼント~!」
彼女「ああ、可愛いクマのぬいぐるみ、これ欲しかったんだ~」
彼氏「へへへ、家の手伝いしまくってお小遣い溜めた甲斐があったってもんだ」
彼女「それじゃあ、私からは人生初めての彼氏にこちらの手編みのマフラーをプレゼントしちゃいます!」
彼氏「おお~、お前家庭科の裁縫とか全然ダメだったのにどうしたんだよ?」
彼女「うん、どうしてもプレゼントに渡したくて練習したの!」
初々しい中学生くらいのカップルがお互いに付き合ってはじめてのクリスマスでプレゼントを交換し合っていた。そして、互いを見つめ合うカップルはそのまま口と口を近づけて……
源三「いや~、今年のクリスマスも苦しみますじゃな~!!」
彼女「きゃ――――――!!」
そこにいきなり源三が割り込んで、大声で寒い冬が更に寒くなるオヤジギャグをお見舞いするのだった。
彼氏「だ、誰だ!?」
源三「ワシの娘が世話になっておる用じゃのぉ~」
彼氏「む、娘!?孫娘じゃなくって!?」
いきなり精巧な顔つきに変化して彼女の父親を偽る源三に彼氏は困惑する。
彼女「ち、違うからねこんなお爺さん!父親でもお爺ちゃんでもないし!」
源三「このように、年頃の娘は自分の父親を赤の他人扱いするのが定番じゃ、分かったかこの虫けら小僧が!」
彼氏「は、はい!?」
当然彼女は否定するが源三の勢いに彼氏は押されつつあった。
源三「娘よ、門限の8時を忘れるでないぞ」
彼女「誰が娘よ誰が!」
源三は今年のクリスマスも幸せそうなカップルたちを妬みこのような嫌がらせ行為に精を出していたのだった。68歳の源三にとってロマンスなクリスマスなどは無縁で今日も昼過ぎから競馬に熱を出していたが結果は大敗。むしゃくしゃしている源三は例年以上にカップルに対する嫌がらせに燃えていたのである。
彼氏「ケーキの美味い店予約取ったんだ」
源三「今年のクリスマスも苦しみますじゃなー―――――――!!」
源三の嫌がらせは留まる事を知らないのである。
☆
源三「絵梨よぉ~、ワシと楽しいイブを過ごすのじゃ~」
しかし源三にもまだ希望はあった。それは目に入れても痛くない可愛らしい孫娘の絵梨とのクリスマスである。源三は絵梨にクリスマスを存分に楽しませてもらおうとダッシュで帰宅して絵梨の名前を呼ぶ。
楓「絵梨なら少し前に来牙と出かけましたよ」
源三「……ほげ?」
が、源三の僅かな希望はあっけなく砕かれるのであった。
楓「二人きりでイブを楽しみたいんですって。幾つになってもあの二人はまるでカップルみたいな兄妹よね~、それと私も今日はお友達とケーキ屋さんでパーティーだから行くわね~」
そして、妻の楓も友達との付き合いを優先して出かけて行く。気が付けばひとり家に取り残された源三であった。
源三「ええい!ボケがぁ――――――――!!何がクリスマスじゃボケ!」
源三は怒りから一人きりで怒声をあげていた。
源三「クリスマスの意味知っとるのか奴らは!?キリストの誕生日を祝う日じゃろうが!なのにキリスト教徒ですらない連中が何を浮かれとるんじゃ!サンタのコスプレした連中がなにをクリスマスセールで儲けようとしておるんじゃ!どいつもこいつもクリスマスに踊らされておる愚か者どもめ―――――!!」
イブの日を過ごす相手がおらず、競馬で大負けした男68歳にサンタクロースは訪れないのであった。
ピンポーン
源三「なんじゃこんなときに!?」
苛立っている最中に玄関のチャイムが鳴って源三は最悪の気分のまま扉を強く開けるのだった。
サンタG「メリークリスマス!」
源三「ほ、ほげ、ほふぇ?」
が、源三の怒りは一瞬で静まった。源三が扉を開けると中から現れたのはミニスカートでサンタクロースのコスプレをした20歳前後の美女だった!
サンタG「私、愛でたいめでたいイブの日にクリスマスのプレゼントをお配りしてま~す」
源三「おぉ――――――!!このワシにも!このワシにも!イブは訪れたのじゃ―――――――!!」
源三はさっきまでクリスマスに対して苦しみますなどと言っていたのから一転して、クリスマスイブの出会いに感謝して号泣していた。
サンタG「ふふ、サンタクロースは万人に対して平等にクリスマスに幸せをお届けするのがお仕事ですからね」
源三「そ~か、そ~か~、クリスマスは皆ハッピーじゃの~」
サンタガールの満面のスマイルに源三は顔をだらしなく歪ませて鼻の下を伸ばしていた。今の源三は浮かれまくっており思考力は0と化していた!
サンタG「と言うわけでお爺様にとって取って置きのプレゼントをご用意いたしました~」
源三「そーか、そ~か、それは楽しみじゃの~」
もはや源三にとってイブの日に見目麗しいサンタガールが来たこと自体が幸福なプレゼントであった。
サンタG「じゃじゃ~ん!数百年前に匠と呼ばれた職人が最後に作った壺です~!」
源三「そ~か、そ~か、それは素晴らしいの~」
源三は芸術品に全く興味が無いのだが、思考力が0になっており、サンタガールが来ているだけでどうでも良い状態である。そもそも、そも壺が本当に数百年も前の業物なのかどうかも怪しいのである。
サンタG「こちらの壺を何とたったの10万円でプレゼントしちゃいま~す。イブの夜にあなたにハッピーな贈り物で~す」
源三「そ~か、そ~か、それはお得じゃの~」
プレゼントではなく単なる商売であった!しかし、思考力が0とかした源三はそれにすら気が付かず、好意的にプレゼントとして受け取っていた。
源三「待っておくれ、今から口座から金を下ろしてくるのじゃ~」
サンタG「はい、こちらでお待ちしておりま~す」
源三は浮かれまくっただらしない表情のままカードを持ってコンビニに直行した。そこですんなりと口座から10万円を引き落として家に猛スピードで帰宅する。
源三「この10万円でプレゼントを貰うのじゃ~!」
サンタG「はいどうぞ~、サンタからのクリスマスプレゼントで~す」
源三は訳の分からない壺をクリスマスプレゼントと称されて10万円で買わされたのであった。
☆
源三「いや~、今年のイブは最高じゃったのぉ~」
源三は10万円で買った壺を眺めながらニヤニヤとだらしない笑みを浮かべたままであった。
源三「見目麗しいサンタガールがやってくるし、しかもそのサンタガールからこんなプレゼントを10万円で貰えるし、文句なしじゃわい!」
未だに怪しい壺を10万円で買わされたことに気が付かない源三は今年のクリスマスイブは最高と信じて疑わなかった。
ユーにゃん「うにゃ~……」
そんな壺をユーにゃんは訝しむ様に睨んでいた。
源三「黒猫が近づく出ないわ!この壺は猫如きが触れていい代物ではない!サンタガールがワシにくれたプレゼントしてくれたんじゃぞ!」
理不尽にユーにゃんに威嚇する源三であった。
楓「ただいま戻りましたよ~」
そこに老人達との軽いクリスマス会を終えた楓が戻ってきていた。
源三「おお、婆さんや、結構早かったな~」
楓「ええ、クリスマスを食べてプレゼントを交換するくらいでしたからね……って何ですかお爺さん機嫌良さそうに?と言うかなんですかその壺は?」
クリスマスシーズンは基本不機嫌なはずの源三がだらしなく歪んだ笑みを浮かべていたのだった。しかも、妙なうさん臭さを放っている壺を眺めながらである。
源三「これか?これはの、サンタガールからのクリスマスプレゼントじゃよ」
楓「サンタガール……?その壺がプレゼント?」
意味不明な事を口にし始める源三を見て楓はついに源三が認知症になったのではないかと危篤する。
源三「いや~、イブの日は誰にでも平等に幸福が舞い降りるんじゃな~」
楓「待ってくださいお爺さん!ちょっと失礼しますよ!」
嫌な予感を感じた楓はクレジットカードを持って近くのコンビニに向かったのだった、そこで楓は預金残高を見て数日前に確認した自分の記憶から丁度10万円が減っている事に気がついたのであった。
☆
楓「お爺さん!勝手に口座からお金を下したでしょ!10万円も!」
源三「ふぉふぉふぉ、そう慌てる出ないぞ婆さんよ、これはプレゼントの為じゃからな」
楓「プレゼントの為の10万円って……」
楓は源三が幸せそうに眺めている壺を見て、その壺に使ったのだと察したのである。
源三「10万円払ってサンタガールからのプレゼントを貰ったのじゃ、なんでも数百年前に匠と呼ばれた職人の作品らしいのじゃ~」
楓「…………」
話を聞いた楓は、源三が一人で家にいる最中にサンタのコスプレをした若い娘が訪ねて来て、源三は浮かれポンチと化し、まんまと怪しい壺を10万円で売りつけられてしまったのだと悟った。
楓「お爺さん」
源三「ほげ?」
楓は熱く熱したフライパンを持って源三に近づく。
楓「その胡散臭い壺を返品してお金を返すまでは……」
そこまで言いかけてから楓はフライパンを両手に持ちながら大きく振りかぶる。
楓「家に一歩たりとも入れませんからね――――――――!!」
源三「な、なんじゃとぉ―――――――!?」
こうして源三は家から閉め出されてしまったのであった。
☆
源三「婆さんは一体どうしたのじゃ~?折角のサンタガールからのプレゼントを返して来いとは?」
源三は未だに自分が騙されたとは思っておらず楓の言ったことをまるで理解していなかった。
源三「だって……これはあのサンタガールがワシの事を想ってプレゼントしてくれた宝物じゃぞ!ワシはこれを持ってもう一度あのサンタガールに会いに行くのじゃ!」
源三は勝手に目的を変更して勝手な夢を見るのである。
鳥飼「お、源三じゃねぇか!!」
源三「ほげ、鳥飼か?今はワシはお主に構っておる暇はない!今からワシはサンタガールに……?」
偶然出会った鳥飼に対して源三は無関心であったが、スグに鳥飼が気になるものを持っている事に気が付いた。
源三「そ、それはぁ―――――!!」
鳥飼「おお!やっぱり俺の壺と同じじゃねぇか!」
何と源三と鳥飼はお互いに全く同じ壺を持っていたのである!
源三「な、なんでお主がそれを持っておる!?それはワシがサンタガールからクリスマスプレゼントとして10万円でもらった匠の一品じゃぞ!お主如きが持っておるわけがないじゃろうが―――――!!」
鳥飼「こっちだって同じなんだよ!一時間くらい前に俺の家にピチピチギャルのサンタが来て10万円でプレゼントしてくれたんだよ!同じのを源三が持ってるってどういう事だコラァ――――――――!!」
源三と鳥飼はとりあえず争った、どちらが本物のサンタガールからのプレゼントでどちらが本物の壺なのかと、そして争いの末源三と鳥飼はお互いに同じ結論に辿り着いたのであった!
源三&鳥飼「「だ、騙されたぁ―――――――!!」」
源三と鳥飼は初めて気が付いたのであった、イブの日に自分たちの幸せの象徴として現れたサンタガールの目的はどうでもいい壺を高ねで売りつける為の詐欺師に過ぎなかったことに!
続く!




