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第9話 争いの果てにラッキーの決意と10年後の来牙とラッキー

前回のあらすじ


源三と院長はどういうわけか天才赤ちゃんのラッキーの奪い合いから一転して院長が盗撮した女子更衣室の盗撮写真の奪い合いをしていたのだった。しか~し!そんな奪い合いをしていたらその写真集が病院内で散らばってしまい女医やナースたちの目に見られてしまった!院長はもとより、源三までもが女医とナースたちに袋叩きにされたのだった!





女医「それでは、この男達をお願いします」

警官「はい、盗撮の容疑者たちですね」

女医は警察を呼んで源三と院長を連行してもらうところであった。

院長「き、貴様!わ、私にこのような狼藉を働いてただで済むと思っているのか――――!」

源三「な~にがタダで済むと思っているのか―――じゃ!タダで済まんのは貴様じゃボケェ――――――!!」

院長「貴様が私を笑うなー――!貴様だってこれから絞られるんだ!」

源三「そ、そうじゃった!待て待て!ワシは違うぞ!ワシはこやつの悪事を暴こうとしていただけなんじゃ!!」

警官「はいはい、話は署で聞きますから、良いから車に乗りなさい!」

警官は騒ぐ院長と源三を一蹴して二人を無理矢理パトカーに乗せたのであった。

院長「私の野望が!私の未来が!私の栄光がぁ―――――――!!」

木霊す院長の悲しみの雄叫び、一方でその頃、ラッキーが保護されていた部屋での出来事があった。





来牙「ほら、これなのか?」

ラッキー「ありがと~、お兄ちゃん。ラッキーは高い所にある本が取れないからね~」

厳重と言う割には騒動であっさりとガラ空きとなったラッキーを隠していた部屋には源三と院長がいなくなった後に来牙がすんなり入る事が出来てしまっていた。

来牙「これって、英語なのか?これが読めるって本当に天才赤ちゃんだったんだな……」

ラッキー「この本はロシア語だよ、昨日覚えたの~」

来牙「そうか、天才は凄いな~」

目の前で起きている非現実的な存在を7歳の来牙はなるべく気にしない事で乗り切ったのであった。

ラッキー「ところでところで、お兄ちゃんはラッキーを連れていかないの?」

来牙「なんで俺がお前を連れて行かなくちゃならないんだよ?」

ラッキー「だってだって~、ラッキーを見た人たちは皆ラッキーをどこか自分だけの場所に連れて行こうとするんだよ。さっきの院長先生はラッキーを病院内で隔離しながら育てて自分のために尽くすように教育する気だったんだよ~、その為になら出産直後のラッキーのママも暗殺するつもりだって言ってたしね~」

ラッキーはあっけらかんとした様子で物騒な裏の話を始めていた。

ラッキー「ラッキーの出産に立ち会った看護師や他のお医者さんたちもどうにかしてラッキーを利用できないかって考えてたしね、院長に暗殺されてたかもしれないママだって昨日言ってたんだよ、『天才の子の子ならきっと世界を動かせるくらいの地位になって私を満足させてくれる』ってね~、子供を産んだばかりの母親の発言と思えないでしょ~」

来牙「どいつもこいつも目の前の天才が自分の為に使えないか企んでるんだな」

まさに大金を前にした人間が人が変わってしまうのと同じなのかもしれないと来牙は子供ながら思っていた。

ラッキー「ラッキーの8歳のお兄ちゃんですら言葉をしゃべるラッキーを見てね、コイツが妹ならきっと僕は大人になったら天才の兄として色々と得が出来るなんて言ってるしね~、大人だけじゃなくって子供だってラッキーを利用したがるんだよ~」

ニコニコとした笑顔で身内から利用されようとしていることを理解して話し続けるラッキー。

ラッキー「お兄ちゃんのお爺さんなんて病院に入り込んでまでラッキーの事誘拐しようとしてたしね~、あのお爺さんはむしろ逆に面白かったよ~」

来牙「ホント、嫌な思いさせたな……」

ラッキー「うん、だからお兄ちゃんはどうなのかなって思ったの。お兄ちゃんは言葉を離す赤ん坊を見てその頭脳を何か自分の為に利用したいって思わないのかな~って?」

来牙「別に」

ラッキー「ほえ?」

が、そんなラッキーの問いかけに対して来牙は『別に』と答えて済ませていた。

来牙「俺はそもそもそんなの関係ないしな、ここに来たのだって爺さんに無理やり連れてこられただけだし、俺はお前を誘拐したいなんて思わないからな」

ラッキー「ほえほえ?お兄ちゃんはラッキーをつれていかないの?」

天才のラッキーにとってそれは生まれて初めて予想だにせぬ事だった。

来牙「だから俺はお前を連れて行ったりしないって、赤ん坊何てそもそも俺に育てられないしな、て言うか爺さんと同じレベルにまで堕ちたくないんだよ」

そう言いながら来牙はロシア語の本を読んでいたラッキーの頭を軽く撫でる。

ラッキー「ふみゅ~……お兄ちゃんみたいな人もいるんだね。だけど残念だけどお兄ちゃんとはしばらくお別れなの、ラッキーは自分を守るためにアメリカに亡命します」

来牙「赤ん坊が一人でどうやってだよ?」

ラッキー「お兄ちゃん、人に見つからないようにラッキーを第2産婦人科室に連れて行って欲しいの、ラッキーがさっきまでいた場所なの~」

来牙「また難しい注文だな……」

と言いつつも、来牙はラッキーが周囲に見えないように布で覆った状態で抱きかかえて言われた場所に運び出したのだった。

ラッキー「ここにね、昨日ラッキーが完成させた超小型音速飛行機があるの」

来牙「どうやれば病院でそんなの作れるんだよ……」

ラッキー「病院だから色んな危機があるからそこから色々と拝借させてもらいました、ちゃんとマニュアルも呼んだからバッチリ作れたよ~」

まさに超天才が為せるワザであった。ラッキーが自信ありげに床にある小さなボタンを押すと、これまたどうやって作ったのか床が開いてその中から小さな円盤状のUFOの様な乗り物が出てきていた。

来牙「そっか、UFOの正体は宇宙人じゃなくって天才が作った乗り物なんだな……」

ラッキー「えへへ~、ちょっと世の中を騒がせるのも悪くないと思ったからね~、取り敢えずこれでアメリカに亡命して取り合えずハーバード大学に飛び級で入学しようと思うの」

来牙「ハーバード大学?」

それは世界でも最高峰の大学であったが、小学一年生の来牙は知らなかった。

ラッキー「ほとぼりが冷めたらまた日本に戻ってお兄ちゃんに会いに行くからね、そしたらまた一緒に遊ぼうね~」

来牙「お前の遊びって俺に理解できるのかな……」

不安を感じる来牙をよそにラッキーはUFOに乗り込む。するとUFOはすぐに宙に浮いて、ただに見せかけなどではない、天才が作った本物の飛行機として使える事を証明する。

ラッキー「それじゃ~ね、お兄ちゃん!またいつか会おうね~!」

ラッキーを乗せたUFOは音も経てないまま超音速で病院の窓を破ってあっと言う間に見えなくなるまで遠くに飛び去って行ったのだった。

来牙「これって現実だったのかな?」

来牙がほんの一時を共にした超天才赤ちゃんのラッキー。その後、病院からラッキーが抜け出したことによって天才赤ちゃんの存在は院長が話題と注目を集める為にでっち上げた嘘ではないかとの疑惑が広がった、ラッキーがアメリカに亡命したことは公にならなかったために院長は盗撮の件も含めて断罪され完全に失脚し、それ以後医者として活動する事は全くなくなり行方を眩ませたのだった。



~宮永来牙の視点~



それから10年が経過した、10年前に騒がれた天才赤ちゃんの噂はあっと言う間に風化し、今となっては話題にもならずに単なる都市伝説と化していた。だけど、俺は知っている。あの天才的な頭脳を持ち、周囲から利用されるのを回避するためにアメリカに渡った赤ちゃんの存在を俺は確かにあの時会っていたのだから。と言うか今も……

ラッキー「お兄ちゃ~ん。約束通りたくさんたくさん遊ぼうね~」

今も俺の目の前にいたりする。

来牙「本当に日本に戻ってたんだな……」

ラッキー「うん、アメリカでやりたいことはもうやり尽しちゃったからね、これからはこの日本のこの借家を活動拠点に面白おかしい研究をしていきたいと思います」

今、ラッキーが住んでいるのは一階建ての小さな借家の様だった。誰もこの安っぽいボロ借家に10年前の天才赤ちゃんが成長して暮らしているとは思わないだろう。

ラッキー「お兄ちゃん遊ぼう遊ぼう~」

来牙「分かった分かった、久々の再会だもんな」

俺は10年前の約束通り、ラッキーを利用しようなどとは思わない。

ラッキー「地下にね凄いお風呂作ったの!泡ぶろにできるから一緒には入ろ入ろ!凄く気持ち良いよ~」

来牙「そうか凄く気持ち良いんだな……」

俺はこれからもラッキーの天才的な頭脳は利用しない、それは間違いないのだった。

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