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見知った調査隊

 迷宮というのは、基本的に国に属しているものである。

 あくまでも所有権は国が有しており、ギルドはその管理権限を委託されているに過ぎないのだ。

 故に新しい迷宮を発見したとなれば、その調査のために国から人が派遣されるのも当然のことなのである。

 その迷宮を封印する事が半ば決まっていようとも、だ。


 というか、確かにギルド長は迷宮を封印処理することに決めたものの、未だそれは確定したわけではない。

 迷宮の探索を続けていく最中に何か封印が必須な状況になったか、そういった類のものが見つかった、とかいうのであればともかく、今回は未だ最初の調査すらも行なわれてはいないからだ。

 そのため、その調査次第では処置が覆ることも有り得るのである。

 

 まあ実際は、状況を考えればそうはならないだろうが。

 何せ本来であれば、調査のための人員は十人程度は必要であるのに対し、今回送ってくるのは二人のみなのだ。

 そのことからも、送られた情報を向こうが正確に理解しており、今回のはあくまでも念のための調査でしかないということが分かる。


 ただ、さすがにその二人だけを迷宮に送るわけにもいかないため、その護衛と案内をするための冒険者が必要だ。

 そして今回のは半ば封印することが確定している迷宮であることを考えれば、あまり多くの人に知らせるべきではない。

 アラン達が昨日に引き続きその迷宮に赴くこととなったのは、そうした理由からであった。


 ちなみに昨日連絡したのに今日になってもう調査をする人が来ているのは、わざわざそのために転送用の魔導具を使用したためであるらしい。

 その急ぎようだけを見ても、今回見つかった迷宮がどういったものであるのかを、向こうがきちんと把握できているというのが分かる。


 とはいえそういったこともあり、アラン達は今回来る人達が具体的にどんな人達であるのかは知らなかった。

 調査担当が一人、その護衛担当が一人、ということぐらいは聞いてはいたのだが――


「まさか両方とも知り合いが来るとは思ってもみなかったなぁ……」

「それはこっちの台詞だがな。まさかこんなことで君の名を聞くことになるとは……まあ、正直あまり意外ではなかったというのが本音ではあるが」

「……ん、同感」

「いやいや、そんな馬鹿な。意外だった、で正しいと思うよ?」

「はー、やっぱりアランさんってそういう人だったんすね」

「ほら風評被害がー」

「やっぱり、と言われている時点で既に手遅れな気がするのだけれど?」

「そんなことないって。ねえ、君もそう思わない?」

「え? え、っと……その……」


 話を振った少女が俯いてしまったことに、むぅと、アランは唸る。

 かなり絶妙な話題の振り方だと思ったのだが、どうやら失敗してしまったらしい。

 当たり前でしょ、とでも言いたげな視線をリーズから向けられるも、そちらは当然のようにスルーしておいた。


 まあ、ともあれ、そういうことでやってきた調査隊とは、ベアトリスとニナだったのである。

 何故その二人だったのかといえば、ベアトリスは単純な戦闘能力から、ニナはその知識から、直接国から頼まれることとなったらしい。


 ベアトリスはともかく、ニナは割と意外であったのだが、ニナは魔法だけではなく、迷宮などに関してもそれなりに詳しいということだ。

 勤めている場所のことを考えれば、さすがと言うべきなのだろう。


 尚、この話をされた時に、誰が関わっているのか、ということも話されたらしい。

 そのため、ベアトリスの代わりに母であるミレイユが行きたいと駄々をこねたらしいが、護衛どころか迷宮が破壊されかねない、とのことで却下されたそうである。

 さもありなん。


 ともあれ、そうして今回迷宮に行くことになったのは、その二人に、アラン達三人。

 そこにサラとラウル……最後に、先ほどの少女が加わって、合計八人と割と大所帯での移動となった。


 ちなみに少女が加わった理由は、単純により安全性を高めるためだ。

 人見知りをする性格らしいが、ラウルの知り合いであり、ラウルと同じく上級の冒険者。

 しかも、彼女は数少ない魔導士の冒険者であるというのだから、余程のことがなければどうにかなるだろう。


 まあそのせいでパーティーの魔導士比率が酷いことになっているし、結局前衛はラウルとサラの二人のみであるのだが、これはラウルの考案である。

 あの迷宮の構造から考えたと言い、それを聞かされた少女が妥当だと判断していたので、問題はないのだろう。

 アラン達などより余程冒険者として経験を積んでいる彼らがそう言うのだ。

 それに従わない理由はなかった。


 尚、一応元迷宮の入り口まではギルドの敷地内ということで、今回もそこまでの案内役が付いたのだが、今回はギルド長直々の案内であった。

 今回は正式な調査だから、ということなのだろう。

 もっともそれで何が変わるというわけでもなく、元迷宮の部分では今回は魔物に襲われるということすらなかった。


 まあおそらくは、それまで出てきていた魔物というのは、新しく見つかった迷宮から溢れてきた魔物だったということなのだろう。

 ラウルから話を聞いたところ、両者の魔物は一致したということなので、ほぼ間違いがない。

 そしてそれならば、昨日アラン達があの階層に居た魔物は一通り掃討したので溢れてくる事がなかったと、説明も付く。


 ただその場合の問題は、隠されていただろう魔法陣から、どうやって壁を壊すことなく魔物が出て来る事が出来たのか、ということだが――


「ふーむ……どうやら昨日俺達が推測した通りみたいっすね」

「昨日壊したはずなのに、見事に元の壁に戻ってやがるですね……」

「迷宮の自動修復機能、ですか……正直あまり信じていなかったのですけれど、実際に見てしまえば信じるしかないですわね」


 シャルロットが口にしたように、迷宮には自動修復機能というものが存在している。

 これは文字通りの意味であり、迷宮ではその構造物が破損した場合、自動的にそれが修復されるのだ。

 地面を破壊することで迷宮を進む事が出来ないのは、主にこのせいである。


 もっとも、本来のそれは一瞬で修復されるものだ。

 少なくとも昨日アラン達が戻ってくるまでは壊れたままであったことを考えれば、これに対しそのままの機能が働いているということはないだろう。


 とはいえそもそもここの迷宮は、既に稼動していないのだ。

 根本的にその機能が働いていることがおかしく……となれば、それが働いているのはここの迷宮が原因ではないということになる。

 つまり。


「ふむ……あまり私も迷宮に詳しいわけではないのだが……こういうことは、有り得るのか? 実際の迷宮から離れているにも関わらず、その迷宮の一部だということが」

「……ん。……何とも言えない?」

「というと?」

「……そもそも、迷宮はわからないことだらけ」

「なるほど……だからこれも有り得ないとは言い切れない。いや、実際に起こっている以上は、そうだと考えるのが無難か」

「……ん」


 転送されたことを考えれば、あの迷宮はここから離れた場所にあると考えるのが普通である。

 なのにこれもあの迷宮の一部と考えていいのか、という疑問はあるが……まあしかしこれは、ニナの言った通りだ。

 分からないことだらけなのだから、分かるのは目の前で起こったことだけである。


 それにこれならば、魔物が溢れてきたのにここが壁のままであったことも、説明が付くのだ。

 だから、今はそれで納得しておく以外になかった。


「ま、とりあえずそういうのを考えるのはそっちに任せるとして、先に行くとしようか。サラ、よろしく」

「了解です」


 頷いた直後、振り抜かれた拳によってそれは粉々に砕かれ、その向こうから現れたのは、昨日も目にした魔法陣である。

 それを見た二人は、ほぅと、感心したように頷いた。


「なるほど確かに魔法陣だな……まさか迷宮にこんな仕掛けがあるとは」

「……罠を筆頭として、迷宮に仕掛けがあるのは珍しくない、けど……こんなのは聞いたこともない」

「やっぱりこれって珍しいのね」

「まあ、ありふれてたらとっくに見つかってただろうしね。って、サラ、どうかした?」


 そこでサラに声をかけたのは、壁を壊した直後、床の魔法陣を見ながら何やら眉を潜めていたからだ。

 何かが気になるが、何が気になるのかは分からない。

 そんな様子であった。


「いえ、大したことじゃねえんですが……今ふと思い出したですが、魔法陣でどっかに移動する仕掛けってのを、どっかで聞いた事がある気がするんですよ」

「転移の魔法や、魔法陣ではなく、ですの?」

「んー、それだったらそうだと分かると思うですが……まあ、それが分かったからどうってこともねえですし、今はこっちに集中するです」


 確かに、今回は直接戦闘に参加出来ない人員が二人もいる。

 それを考えれば、昨日よりも集中しておく必要はあるだろう。

 魔法陣を前にして、アラン達は気を引き締め直した。


 ちなみに戦闘参加出来ないのは、ニナと少女の二人だ。

 ニナは攻撃系の魔法は使えないらしく、少女の方は完全なバッファー兼デバッファー――味方への補助魔法と敵への妨害魔法を得意とするタイプであるらしい。


 一見すると地味ではあるものの、彼女がいるのといないのとでは戦力に大幅な違いが出るとラウルが言っていたし、実際それで上級にまで上がっているのだ。

 十分期待出来るだろう。


 ともあれ。

 そうしてアラン達は、一路新しい迷宮へと向かった。








「ふむ……なるほど確かに、構造自体は普通の迷宮と変わらんな」


 ベアトリスがふとそんな言葉を漏らしたのは、迷宮に到着し、周囲を眺めながらしばらく歩いていた時のことであった。

 皆の視線が自然とそちらへと向くが、代表するようにアランが口を開く。


「そう言えるってことは、ベアトリスは他の迷宮に行った事があるの?」

「一応両方共に、な。冒険者としてではないが、あそこは割と訓練にも向いているんだ」

「へー、そういえば、冒険者以外の人がたまに迷宮に入るっていう噂は聞いた事があるっすけど、実際訓練とかで使われたりするんすね。その割には、遭遇したことがないっすけど」

「さすがにこっちの都合で冒険者の邪魔をするわけにはいかないからな。時期や頃合を見計らってやっているから、そのせいだろう」

「意外と冒険者のこと考えるんですねえ。正直建前は置いておいて、実際のところはもっと扱い悪いと思ってたです」

「……この国は、色々特殊。それを言ったら、元々魔導士も扱いは悪いはず」

「ですわね。ですから魔導士の間では、冒険者の扱いというのはそれほど悪くありませんのよ? ……まあ、他の方々に関しては、人それぞれですけれど」

「魔導士のやることは直接目に見える分分かりやすいけれど、冒険者はそうではないことも多いものね。人の意識を変えるのは難しい、ということかしら」


 何やら話が小難しいことになってきてしまったが、それというのも全体的に暇だからかもしれない。

 昨日と比べてさえ、明らかに魔物との遭遇率が減っているのだ。


 まあ、溢れるほどであったということを考えれば、むしろ昨日の方が多く、こちらが適正なのかもしれない。

 しかし出てくる魔物が大したことがないということもあり、どうしても、暇という言葉が頭に浮かんでしまうのである。

 もっともそれは、アランの出番がないというのも、無関係ではないだろうが。


 ちなみに隊列としては、前衛にラウルとサラ、中衛に少女とベアトリスとニナ、後衛が残りということになっている。

 暇な理由は単純で、その中のラウル達だけでほとんど片がついてしまうからだ。


 昨日も割とその傾向があったものの、今日はさらに酷い。

 何せ今までに五回戦闘があったが、そのうちアランの出番があったのは一度きりだったのだ。

 しかもそれは正直アランが何もしなくとも問題はなかっただろうという状況だったので、実質ほぼ二人だけで完封していたと言える。


 ……いや、正確に言うならば、三人か。

 ラウルとニナと、それに少女である。


 ラウルの言ったことは本当であり、彼女のバッファー及びデバッファーぶりは凄かった。

 ラウル達の動きは昨日と比べると雲泥の差であったし、敵の動きも明らかに鈍くなっていたのだ。

 それを見ていたアランが、なるほどこういうのもありだなとつい思ってしまったほどである。


 ただそんな少女であるが、アランが一度だけ攻撃をした時に妙に驚いていたのだが……もしかして攻撃魔法が珍しかったりしたのだろうか。

 まあ、少女は使えないようであるし、冒険者に魔導士は少ないと聞いている。

 最近見ていなかったからとか、そんなことだったのかもしれない。

 ともあれ。


「まあ、暇だということは、それだけしっかり調査ができるということなのだから、こちらとしては悪いことではないのだがな」

「……ん、同感。それに……ここは色々と、興味深い」

「やっぱ他の迷宮と違うの?」

「まあ普通の迷宮は宝箱とか出ないっすからね……」


 今回も宝箱の出は好調で、五回戦闘があった中で四回ほど出た。

 割と出やすいということなのかもしれないが、考えてみればそこ以外からは素材等がまったく取れないのだ。

 それを考えれば、当たり前なのかもしれない。


「……いや、そう考えちゃうのは、さすがに少しゲーム的思考過ぎるかな?」

「何か言ったです?」

「いや……ここの迷宮は、本当にどうしてこんなことになってるんだろうな、とね」


 ついゲーム的に考えてしまったが、ここまでそうだとそれも仕方ないのではないかと思ってしまう。

 ただ、迷宮の全てがそうならばまだしも、ここだけがそうなっているというのは、何かしら理由があるのだろうとは思うが――


「宝箱が出る、魔物の死体が消える、開けたら宝箱も消える……確かに訳の分からないことばかりだな」

「アランのそれに放り込んでみても、駄目だったものね」


 そう、試しに消える前にアランが魔法で異空間にそれらを放り込んでみたこともあるのだが、気が付いたら消えてしまっていたのだ。

 異空間というだけであって、そこは一応時間的にも切り離されているはずなのだが、それでも消えてしまうあたり、本当に意味が分からない。


「その分、彼女は楽しそうですけれどね」

「……ん、調べ甲斐がある」


 基本表情が乏しいはずのニナが、明らかに目を輝かせているあたり、確かにやり応えは感じていそうである。

 まあ、考えるのはアラン達の役目ではないし……楽しそうで何より、と言ったところだろうか。


「ところで、とりあえず一通り回ってみるつもりだけど、その後はどうする?」

「ふむ……確か、上層に行くための階段も、下層に行くための階段も、どちらも見つかったのだったか」


 そう、昨日の探索で、その双方が見つかっていた。

 即ち、ここが途中の階層であることが明確になった、ということである。


 ついでに言うならば、おそらく上に向かっていけば、本来の入り口を探すことが出来るだろう。

 逆に下に向かっていけば、エリアボスと遭遇出来る可能性があった。


 どうしてそうなっているのかは相変わらず不明だが、迷宮は基本下に降りるごとに魔物が強力になっていく傾向がある。

 そして一定階層ごとに、極端に強力な魔物が出現することがあり、それがエリアボスと呼ばれているものだ。


 それは強力な分剥ぎ取れる素材も希少であり、ならばこの迷宮では、ということである。

 それもまた宝箱を落とすのであれば、中に入っているものも相応のものである可能性があるだろう。


 まあそこら辺は、まだ魔物の強さと宝箱の中身の相関性がはっきりとしていないので、何とも言えないところではあるのだが。


「私としては、出来れば上に向かい、入り口の場所を確認したいところだが……あくまでも私は護衛役だからな。方針を決めるのは彼女だ」

「……ん。……んー、上で、問題ない?」

「いいの?」

「……ん、実際、入り口の確認は必要。余裕があれば、その後で、下」

「……了解」


 その言葉に、苦笑を浮かべながら頷く。

 ここまで興味津々なのである。

 可能ならば全て見てみたいと思っているだろうことは、聞くまでもなく分かることだ。


「じゃあとりあえずそういう方針で」


 皆が頷くのを確認してから、さらに先へと進んでいくのであった。

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