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社会科見学?

 以前にも述べたことではあるが、学院とは高等教育を受けるための場であり、同時に最高学府でもある。

 即ち、学院の卒業と同時に働くのはほぼ確定している、ということだ。


 しかし一口に働くとは言ったところで、その先の進路は様々である。

 特に魔導士ともなれば大抵のところから引っ張りだこであり、だがそのせいもあってか、実際に働くとなった際にどうするか迷ってしまうというのは珍しい話ではないのだ。


 そういった理由のため、学院ではある時期になると社会科見学のようなものが催されている。

 見学可能な場所を学院が幾つか見繕い、その中で本人が希望する場所を見に行く、というわけだ。

 勿論この日ばかりは、外出禁止などと言われることもない。


 とはいえ実際のところは、本人の資質に合わせた場所を、という名目で学院側がほぼ強制的に見学先を決めてしまうことが多く、実質的には学院側の売り込みに近いのが現状である。

 まあ良い条件で働けることも多く、それもまた得られるコネの一つだということもあって、それを忌避する者はほとんどいないのだが――


「……物事には限度ってものがあると思うんだよね」

「いい加減諦めたら? そもそも嫌なら参加しなければよかったじゃないの」

「それはそうなんだけど、嫌だから参加しないっていうのも、なんか違う気がするんだよね。何処となく負けた気がするし、僕の望む学院生活とも違うしさ」

「負けた気がするって……オメエは一体何と戦ってるんです?」

「そもそもその理由では、同情することも出来ませんわよ? それで嘆いたところで、自業自得だと言われるだけですわ」

「まあそうなんだけどさー」


 だが何故よりにもよってここなのか。

 確かにここにも魔導士は必要というか、むしろ必須ではあるだろうが――


「うむ、よくぞ来たな! 今日は妾が案内する故、安心するがいいぞ!」

「そして何故彼女がここに居るんですかねぇ……」

「む? 妾が自分の家に居ることに、何の不思議もなかろう?」


 そう言って不思議そうに首を傾げる姿に、アランは溜息を吐き出した。

 どうやら本気で言っているらしい。


 まあ確かに、事実だけを見れば王女が王城に居るだけなので、それが当然ではあるのだが。


 そう、アラン達が見学に来た先とは、王城なのであった。

 しかも何故かレティシアが案内役という意味不明っぷりである。

 さすがにこれを素直に受け入れろというのは無理があるだろう。


「そもそも、騎士学院の方も基本的には外出禁止だったはずだけど? そっちの見学の日はもっと後のはずだし」

「ふんっ、あんな決まりで妾を縛れると思ったか!」

「本当に縛れないから性質が悪いんだよなぁ……」


 何せ単純に権力的な問題で、あそこには彼女の行動に口を出せる者が存在しない。

 そもそも騎士見習いや元騎士達に王女の行動を制止しろというのが、無理な話なのだ。


 勿論彼女自身は、権力を笠に着てるつもりはないだろう。

 だが結果的にそうなってしまえば、違いはない。


 というか、そういう時のために、唯一の例外としてのお目付け役が居るはずなのだが――


「えーと……ご愁傷様だとは思うんですけど、今回は姫様のわがままだけが原因というわけではないんです。というよりも、半分以上の責任は王城側にあるといいますか。そもそも今回の要請は、王城側から来たものなんですから」

「え、王城側から……?」

「はい。以前から学院の方へは、王城にある研究所から見学に来てもらえるよう要請をしていたらしいのですが、今日に限って皆さん色々と予定が入ってしまい、案内出来る人がいなくなってしまったんです。ですが、さすがに場所が場所ですから、知らない人をそのために雇うわけにもいかず……」

「レティシアに連絡がいった、と」

「はい」

「ふむ……」


 なるほど確かにそれならば、レティシアに問題はない。

 むしろ手伝っている立場なので、褒められるべきですらあるだろう。


「……なのに褒める気が起きないのは、やっぱり普段の行いのせいなんだろうなぁ」

「む……何を言う。妾は普段から、何一つとして恥ずべきことなどしていないぞ!」

「うん、そうだね。駄目なのはそういうところだね」

「な、何故だ!?」


 と、そんな漫才じみたことを繰り広げながらも、先ほどの話について考える。

 相手の都合が悪いならば、見学先を変えるなり、日付を変えるなりすればいいだろうに……割と融通が利かないものだ。


「いえ、学院からはそういった連絡があったそうですが、こっちの一方的な都合で学院に迷惑をかけるわけには、ということだったみたいです」

「迷惑、ねえ……これはこれで迷惑被ってる気がするんだけどなぁ」

「うん? 妾のことならば、迷惑などと思ってはいないぞ? むしろ話を聞いて、なんと面白そうなことか、と思ったぐらいだからな!」

「うん、知ってた」


 というか、迷惑受けてるのはアラン達の方である。


「……毎回思うのだけれど、アランはよく彼女にあんな態度が取れるわよね」

「そうですわね……正直わたくしは未だに多少気後れしてしまいますわ。魔導士とはいえ、さすがに家のことを考えないわけにはいかないわけですし」

「サラはそもそも対等に話すのすら難しいですよ……そもそも家とかあんま関係ねえ気がするです」


 後方で何やら小さく話し合っている声が聞こえてきたが、それには肩をすくめた。


 別にアランだって、最初からこうだったわけではないのだ。

 最初の頃はちゃんと敬っていたし。


 だが色々と巻き込まれ、こうやって接し続けていけば、敬意だって磨耗し消えていく。

 ある意味ではレティシアの自業自得なのだ。


 まあ本人はそもそもそんなことは気にしないだろうが。


「ま、こうなっちゃった以上はもう仕方ないし、素直に案内されるとしますかね」

「うむ、素直に案内されるがいい! 今日は父上達もいないことだしな!」

「あれ、忙しいって、そもそも城にいないんだ?」

「はい。なので城の留守を預かるという意味でも、今日は姫様以外なかったんです」

「なるほど……ということは、近衛とかもいないのか。ふむ……」

「というか、何故今クラリスに聞いたのだ!? 案内役は妾だぞ!?」

「案内役であって、解説役じゃないしなぁ……」


 そんな風にグダグダになりながらも、一先ず城門の奥へと向かっていった。





 改めて説明するようなことではないかもしれないが、今回アラン達が見学に来たのは、王城に併設されている研究所だ。

 勿論魔導士関係のものであり、その性質上一度城門を通ってからしか行けないようになっている。

 文字通りの意味で、城の中に研究所があるのだ。


 そういった場所であるため、そこに通う魔導士も当然のように相応の立場が求められる。

 要するに、能力の高さとは別のものも要求されるということであり――


「うーむ……どう考えても場違い感が酷いなぁ……」


 かつて別のところでも呟いたような言葉と共に、溜息を吐き出した。


「あら、そんなことないわよ? そう思ったからこそ、私達はあなた達を招待したわけだしね」

「そう言ってもらえるのは光栄だけど、これは結局主観の問題だしね」


 真横からの言葉に肩をすくめながら、周囲を見回す。

 当然のようにそこは既に研究所の中だが、何というか、雰囲気そのものは思ったほどのものではなかった。

 むしろ規模で言うならば、ニナ達の居たあそこの方が大きかったような気もする。


 まあただどちらにしろクリストフのところと比べれば雲泥の差だし、場違い感を覚えることに違いはない。

 さらに視線を巡らせながら、再度溜息を吐き出した。


「そもそも、何で僕が相応しいとか思ったんだか」

「あら、むしろ思わない方がどうかしていると思うわよ? 家柄は申し分なく、王立魔導学院で総合成績一位。欲しがらない方が、どうかしてるんじゃない?」

「うーん……そういう言い方をされると相応しいような気もしてくるから不思議だなぁ」


 確かに客観的に見てみれば、今回呼ばれた四人は、四大公爵家の人間が三人に、総合成績では上位三人が含まれている。

 サラは家柄はともかくとして、引き篭もりを解消した結果、凄い勢いで順位を上げている、ということを考えれば注目株だろう。


 ただ、サラに関してだけはここに呼ぶ理由としては弱いような気もしたが、それはアランの考えることではない。

 それに最近では何となく四人で居ることも増えていたし、四人だからここに来たという面もあるにはある。

 それがよかったのかどうかは、また別の話ではあるが。


 ちなみにここに入った時は四人一緒だったのだが、今はそれぞれ別になり、各自一人ずつの案内役が付いている。

 まあそれぞれ専門分野が違うし、当然のことではあるだろう。

 今回は遊びに来たわけではなく、あくまでも研究所の見学に来たのだから。


 ただし、一人だけ気になることをしているのがいるが。

 具体的に言うと、ここまで案内役として付いてきたはずの人物である。


「ところで、あれはいいの?」

「お姫様のこと? まあ立場が立場だし、それにここにはよく遊びに来てたから問題ないわよ? それに途中からは本気で興味を持ってくれたのか、勉強に来てるって感じだったし、皆面白がって色々と教えてたしね」

「なんか妙に色々なこと知ってるとは思ったけど、原因はここだったか……」


 今も楽しそうに研究員からの話を聞いている姿に、溜息を漏らす。

 まあ権力者に実情を知ってもらうというのは研究をする上でも大事なことだとは思うが……どうにもどっちもそんなことを考えていないように見えるのは何故だろうか。


「さて、それじゃあ説明を続けるわよ? あと数ヵ月後には、あなたの働く場所にもなるかもしれないんだから」

「だからその予定はないって、さっきから言ってるはずなんだけどなぁ……」

「それは、今のところは、でしょう? いつ気が変わるかもしれないんだし、ちゃんと営業はしておかないとね?」


 そう言って片目を閉じてみせる研究員に、アランは四度溜息を吐いてみせた後で、肩をすくめた。

 先ほどからこうやって、断られても勧誘を続けるのだから、いい根性をしていると思う。


 まあ、分かった上で説明してくれるというのならば、問題はないだろう。

 アランもここに関して、興味はあるのだ。

 ならば有り難く聞かせてもらうだけだと、研究員の言葉に耳を傾けるのであった。

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