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目覚めは高熱と共に

 新藤彰がふと目を覚ました時、最初に感じたのは異様なほどの気だるさと、頭痛であった。

 さらにはぼやけた視界と、朦朧とする意識。

 風邪を引いたのだという結論に至るのに、大した時間は必要としなかった。


 まあそのすぐ後に思ったのが、まずい会社に連絡しないと、というあたりがどうしようもないが、今更である。

 それに今は寝込んでる暇なんてないし……と、そこまで考えたところで、思い出した。


(「ああ、いや、そっか……あのプロジェクトはもうマスター迎えたんだっけか」)


 そもそも、そうでなければ今の時期まともに寝られるはずがない。

 会社から帰れるはずがない、とも言うが。


 まあそれは置いとくとして……ただ、改めて思い返してみると、寝た記憶がない。

 確か――


(「ふらふらになりながらも何とか帰宅して……寝不足からの変なテンションのまま、久しぶりにゲームでもしようかと起動して……?」)


 そこで記憶が途切れている。


 そのことに焦りを感じなかったのは、単純に慣れているからだ。

 まあ多分、そのまま寝落ちでもしたのだろう。

 或いは、ゲームやりたさに見た夢だった可能性もあるが、少なくともマスターアップを迎えたのは夢ではないはずだ。

 ならば問題はなかった。


 それでも問題があるとすれば、この様子では今日一日は何も出来ないだろうということだが、今日は土曜だし、代休ということで月曜も休みにしてもらっている。

 三日もあれば、幾ら何でもある程度回復するだろう。


 そもそもこうしてマスター明けに熱を出すのも、初めてではない。

 今回はいつもより酷そうだが……まあ、ここ二ヶ月ほどずっとデスマーチ状態だったのだ。

 いつも以上に体調を崩すのは、むしろ当然である。

 全然誇れることではないが。


 ともあれ、それらの経験からいけば、とりあえず今出来ることは、ひたすらに寝て汗を流すことである。

 水分補給と栄養補給も欠かしてはいけないが、ちょっとこのだるさでは出来そうにない。

 一眠りして、それから、といったところか。

 何にせよ、それほど焦ったりする必要はないだろう。


 それにしても――


(「こんな時までこんなものを見ちゃうんだから、職業病は怖いってところかな……?」)


 そんなことを思いながら、ぼやけた視界に意識を向けると、そこには見慣れたような、見慣れないような文字が並んでいた。

 自身の商売道具、プログラムのコードだ。

 既に一区切りは付いた上で、弱ってる状態だというのにこんなものを幻視してしまうのだから、本当にプログラマーというのはどうしようもないものである。


 いやまあ、仕事だからというよりは、単純にプログラミングが好きだからな気もするが。

 そうでなければ、あんなブラックな会社、とうに辞めているに違いない。

 別に転職したくないというわけではないが。


(「うーん……しかしこのコード酷いなぁ……」)


 朦朧としながらもそれは分かるというか、朦朧とした頭でも分かるぐらいそれは酷い、というべきだろうか。

 何せパッと見ただけでも分かるぐらいに、無駄なコードばかりなのだ。

 プログラムを組むのが下手とか、そういうレベルではない。

 明確に無駄と分かる処理が散在しているそれは、行数を稼ぐ以外の目的が見い出せず、それ以外の意図があるのなら是非聞いてみたいものであった。


(「本当に、何を考えてこんなの組んだんだろうなぁ……」)


 まあそんなことを言ったところで、見覚えがない以上は自分の頭が勝手に作ったのだろうが。


 というか、何を考えているんだと言えば、そのすぐ傍に浮かんでいるものも意味が分からない。

 それは所謂魔法陣などと呼ばれるような文様であり、それがコードに絡まるようにして、そこにあったのだ。


 云わば、現実と夢のコラボレーションとでも言ったところか。

 一見してどころか、ジッと眺めてみたところで意味は分からないままだ。

 我が頭ながら、一体何を考えているのやら。

 果たしてそれは熱のせいなのか、デスマーチで酷いコードを見続けたせいなのか……或いは――


(「ま、どうでもいいことか……」)


 何をどう考えたところで、意味などがあるはずもない。

 それが分かっていてもついコードを見て、改善策などを考えてしまうあたりは、やはり職業病なのかもしれないが。


 だが熱があるような状態で、頭を使うような真似をすればどうなるかなどは、考えるまでもないことだ。

 頭痛がさらに酷くなり、耳鳴りまでし始める。

 どころか――


(「なんか幻聴まで聞こえてきたし……これ以上悪化する前に寝た方がよさそうかな……」)


 歌声のようにも聞こえるそれを、聞くともなしに聞きながら、目を閉じる。

 熱に浮かされた頭は、すぐさま眠気を運び、そのまま彰の意識を夢の中へと誘うのであった。

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